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1節 力と運動

 

◆力の三要素

中学校で,力を図に表すには,力の大きさに比例した長さの矢印で表すことや,力がはたらいている点を作用点ということを学んでいるが,力の作用線は学んでいない。

力に関しては中学校で学んだことの理解が十分でない生徒も多いが,いろいろな場面で力のつり合いを考えたり,さまざまな状況に適応していく中で理解が深まっていくという側面もある。よって,導入段階では中学校で学んだことを復習しながら,重要な点を一つひとつ確認していくことが大切である。

@物体を変形させたり,支えたり,動きを変えるはたらきを力という。

A力には,筋肉による力,重力,摩擦力,静電気の力,磁石の力などがある。

B力はN(ニュートン)を単位として測る(中学校ではNしか学ばず,kgwは学ばない)

C力は矢印の長さと向きで図示し,力のはたらいている点を作用点という。

D物体に2つの力がはたらいても動かないとき,2力はつり合っているという。この2力は,同一直線上にあり,逆向きで大きさが等しい。

なお,作用・反作用の法則は中学校では学んでいない。

 

◆教科書における力の図示の方法

理科総合Aでは発展扱いになるが,運動方程式を正しく使うには,物体にはたらく力を正しく図示することが必要である。教科書での力の図示の仕方について説明しておきたい。

質点の力学では,物体にはたらく力はすべて1 (重心を選んだと考えるとよい)を作用点とする力の矢印で表すのが本来である。しかし,それではその力がどういう力かが一目ではわかりにくい。そのため,中学校でもしていたような,力を及ぼす相手がわかるような描き方をする。高校では,2物体間の作用・反作用を考慮し,2物体それぞれの運動方程式をたてるということがある。このとき,一対の作用・反作用の作用点を同じ点にすると,どちらの力がどちらの物体にはたらく力かがわかりにくい。これを明確にするため,2物体の接触面を少し離して描くことにした。こうして,作用点を向かい合うようにそれぞれの物体の中に描くことによって,どちらの物体にはたらく力かが一目でわかる。また,どの2力が作用・反作用の関係にあるかが一目でわかる。

 

 

 

作用・反作用の法則

この法則については,次の点に留意しながら,生徒の実状に応じて指導をされたい。

1)力はそもそも2つの物体間の相互作用である。たとえば2物体AB間で及ぼし合うものである。その力の大きさをfとすると,このことを,「AからBに大きさfの力がはたらき,同時に,BからAに同じ大きさの力がはたらく」といい換えることができる。は同じ大きさで向きが逆であるから,である。この2力を作用・反作用という。

2)作用・反作用には因果の関係は考えられないから,2力のどちらを作用とし,反作用とするかの区別はできないが,便宜上,区別する場合がある。

例:机上におかれた物体が机を押すと,反作用として机の垂直抗力が物体にはたらく。

3)この法則は物体が静止してつり合っているときだけでなく,一方が他方を押しながら動いているときでも,また,互いに引き合って近づきつつあるときでも成り立つ。

 

 

なお,作用・反作用の法則を簡単,明瞭に表す実験は多くない。よく見かける上図のものは,2力のつり合いとの区別が難しいので,例として挙げることは慎重に行いたい。これを作用・反作用とみなすためには,相手の「ばねはかり」に引かれている「ばねはかり」という物体を考えることになる。これは,ばねはかりは物体なのかそれとも力の大きさを測る道具なのか,さらに自分が相手を引く力(弾性力)を測るのか,それとも相手が自分を引く力を測るのか,という混乱の原因となる。生徒の実状にもよるが,初歩の段階ではばねはかりは力の大きさを測る道具であるということに徹したほうがよい。もちろん,十分に慣れた段階では,正しく作用・反作用であることを説明できる。

 

作用・反作用と力のつり合い

はたらいている力が作用・反作用の関係にある2力なのか,それとも力のつり合いの関係にある2力なのかの判定は,生徒の理解がなかなか進まないところである。「何から何にはたらく力」,「何から何が受ける力」,「何が何を押す(引く)力」というように力を表す練習をした上で,「AからBにはたらく力」と「BからAにはたらく力」は作用・反作用の関係にあり,つり合いはある1つの物体にはたらくいくつかの力の間の関係であることを指導するとよい。

 

◆速度と速度ベクトル

物体が直線上を運動する場合には,速度の向きは,運動方向のいずれかの向きを正として正負の符号で区別される。この場合,いずれの向きを「正の向き」とするかは任意であるが,この点に戸惑いを感じる生徒もいる。また,生徒が「速さ」と「速度」の違いを正しく認識できるよう,指導者としても用語の使い分けに注意したい。

理科総合Aでは基本的に一直線上の運動のみを扱うことから,教科書でも速度をベクトルとして扱う記述は最小限にとどめてある。

 

速さ

速さを表す方法には,『距離/時間』と定義する以外に『時間/距離』という考え方もあることは意外と認識されていない。100m競走では10sで走る者が12sで走る者より速い。これらの2つの速さの表し方のうち,物理では時間的変化という観点から前者を用いて体系化しているのである。かなり高度な課題となるが,後者による体系の可能性を考えさせてみてはどうだろうか。

 

平均の速度と瞬間の速度

ここでは,平均の速度の式が,数学で学ぶ2点を通る直線の傾きの式であることを強調することが大切である。そうすることによって,「x-tグラフの接線の傾きが速度である。」ことが直感される。平均の速度というある時間の間の(2つの時刻の間の)量から,ある時刻の(1つの時刻の)速度という質的発展に際しては生徒に認識を促す必要がある。数学で微分を学んでいれば,

時刻t1の瞬間の速度 

 

というように,時間を微小にとった極限で定義される量というように理解できるが,この時点ではおそらく微分をまだ学んでいないであろう。瞬間の速度というのは,電車や車のスピードメーターのある時刻での指示値のことというような納得しやすい例を挙げていくのも1つの方法である。

また,「接線」という用語も厳密にいえば微分を未習の生徒には,円の接線しか定義されていない。このように,生徒の数学での進度に配慮することが必要である。

 

平均の速さ

「平均の速さ」という用語は中学校理科で定義されたが,高校物理での変位,速度,速さの定義を考慮すると,「平均の速さ」という用語は定義に混乱が起こりかねない。典型的な例は,ある点から動きだした物体がある時間の後にその点に戻ったというときである。この間の変位は0であるから平均の速度は0である。しかし,もちろん瞬間の速度の大きさ(瞬間の速さ)の平均は0ではない。中学校理科での定義と同じ意味で使うためには,「平均の速さ」とは「平均の〔速度の大きさ〕」であり,「〔平均の速度〕の大きさ」ではないことを確認しておかなければならない。

 

◆等速直線運動

中学校理科の物体の運動についての学習では,記録テープを何打点毎かに切ったものを並べて,速さと時間の関係を得ていることが多く,時間的変化という概念が十分に形成されていないことがある。よって,生徒の実状を見ながら,等速直線運動のxtグラフ,vtグラフについて,十分習熟できるよう指導することが望まれる。

また,距離,変位,位置という量が混同して使われることによって,生徒が理解に苦しむことがある。指導の際にも配慮されたい。

 

◆慣性の法則と運動方程式

アリストテレスは,力を加えて動かすという運動は,物が落ちるという物体の本性に逆らう運動であり,強制された運動であると考えた。したがって,この強制運動をさせるには物体に力を作用し続けていなければならないと考えた。慣性の法則が発見されて400年が過ぎても,物体の運動についてこのような考えがもたれ続けている。たとえ物理学で慣性の法則を学んでも,しばらくするとこの考えに戻ってしまう。幼い頃から,力という言葉を,forceの意味だけでなく,powerenergymomentumabilityなどが混然一体となったニュアンスをもつ言葉として使い慣れているためであろう。ましてや,これまで使っていたkgwという単位でならまだしも,Nという単位で表された量には全く現実感がもてないのであろう。

現状をこのように認識し,何度も何度も執拗に力という量の理解を求めていく必要がある。印象深い実験をすることも大切で,慣性の法則ではエアレール,だるま落としなどを見せることは効果的である。

 

◆慣性の法則の意義

近代物理学の基礎となったニュートンの運動に関する3つの法則のうち,第1法則は,すでにガリレイやデカルトによって発見されていた。しかし,彼らは,ニュートンほどしっかりした力の観念を与えていなかった。

ところで,これらの三法則のうち,第1法則は,第2法則で加速度が0の特殊な場合であるという考え方をよく聞くが,これはむしろ誤った考え方であり,第1法則の重要な意味を見落としているというべきであろう。第1法則で,力がはたらかないという言葉があるが,自然界には万有引力その他の作用があり,力が全くはたらかない物体などあり得ない。したがって,この第1法則は,思考実験の結果なのであって,ニュートンがこれを第1法則に掲げたのは,慣性の法則が成り立つような座標系においては,第2法則および第3法則はいつでも適用できると考えたからである。

このように,第1法則は,ニュートンの運動の法則が成り立つために,特別な基準となる座標系が必要であるということを述べている。この基準となる座標系を慣性系といい,そこでニュートンの運動の法則がなりたつ。

以上のように,第1法則は,ニュートンの運動法則について考察するとき,つねに念頭に置かなければならない基準となるものについて述べたものである。ただ,生徒の実状によっては,以上のことをことさら理解させようとしなくてもよいであろう。

なお,地上は近似的にこのような慣性の法則の成り立つ系と考えてよい。

参考文献:原島 鮮「続・物理教育覚書」(裳華房)

 

◆力の単位

中学校では,力の大きさはばねはかりではかり,その単位はN(ニュートン)であると学習しているが,単位Nについての定義は一切学んでいない。物体をばねはかりにつるすと伸びることから,物体に重力がはたらいていることを示し,100gの物体にはたらく重力の大きさが約1Nであるとしている。従来,中学校では物体にはたらく重力の大きさを力の単位として用い,kgwなどの単位を用いていたが,現行の学習指導要領でこの点が変更されていることには注意が必要である。

また,中学校で単位Nを使うようになっても,「力とは,ばねはかりを伸ばすはたらきであり,その大きさは物体にはたらく重力を参考にはかられる」という扱いは従来とほぼ同様である。

 

 

 








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