トップ新編理科総合A 改訂版1部 物質と人間生活>第2章 物質の利用>第2節 生物のつくる物質

2節 生物のつくる物質

 

代謝(同化と異化)

生体内で営まれている物質の変化で,物質代謝ともいう。この変化は,様々な酵素反応が組み合わさった複雑な化学反応である。代謝はエネルギーの変化を伴うので,この面から考えると次の2つに大別できる。

(1)自由エネルギーの増大する変化(同化)……光合成等。体外から摂取した物質によって,生体の構成成分の合成を行う反応。

(2)自由エネルギーの減少する変化(異化)……呼吸,発酵等。体物質の分解によってエネルギーを発生させる反応。

 

エネルギー代謝

生命現象に伴うエネルギーの出入りと変換のことで,物質代謝のエネルギーの面からの表現である。エネルギー代謝には,次のようなものがある。

(1)光エネルギー  →化学エネルギー …緑色植物による光合成に伴う変化

(2)化学エネルギー →機械エネルギー …筋肉,繊毛,アメーバ等の運動,細胞

                   分裂等に伴う変化

(3)化学エネルギー →化学エネルギー …生体物質が他の生体物質に変化

(4)化学エネルギー →熱エネルギー ……呼吸,発酵に伴う変化

(5)化学エネルギー →光エネルギー ……生物発光

(6)化学エネルギー →電気エネルギー …生物の電気現象

しかし,生物は熱エネルギーを,化学エネルギーや機械エネルギーに変えて利用することはできない。同化の反応では多くは,生体が利用できる自由エネルギーが増加するのでエネルギー吸収反応であり,異化の反応では利用できる自由エネルギーが減少するのでエネルギー発生反応である。

 

ATP

ATP(アデノシン三リン酸adenosine tri-phosphate)は,アデニンという塩基,五炭糖のリボース,それにリン酸が3つ結合したものである。アデニンとリボースの化合物はアデノシンとよばれ,これにリン酸が1つ結合したものがアデノシン一リン酸(AMP,アデニル酸)である。アデニル酸は,RNA4種のヌクレオチドのうちの1つである。リン酸が2つ結合したものは,アデノシン二リン酸(ADP)とよばれている。

ATPは,筋肉(ウサギ)1kgから3gとれる白い粉末だが,動物だけでなく,植物や微生物の細胞にも見い出され,エネルギー発生過程のあるところには必ず存在する物質である。

 

ATPとエネルギー

ATPの化学塩基の発表は古いが(ローマン,1929),生体内でのエネルギーの受け渡し物質として注目されるようになったのは,第2次大戦中にリップマンによって唱えられてからである。リップマンはATPの末端および第2のリン酸結合の部分にエネルギーが蓄えられるという高エネルギーリン酸結合の概念を導き出した。即ち,ATPATPアーゼによって分解されるとADPとなり,無機リン酸とエネルギーを遊離する。このエネルギーを熱量で表すと,25℃,常圧でATP lmolについて42kJだが,そのうち生体内エネルギーとして利用されるのは33kJである。

 

ATPの働き

細胞には,エネルギーを生成する機能とエネルギーを要求する機能がある。後者が生物によってなされる仕事であり,これは基本的に3つに分けられる。

化学的仕事(成長,増殖) 細胞の主要な構成成分であるタンパク質や核酸,脂質,多糖類のような高分子化合物は,絶え間なく,単に生物の成長期だけでなく重量の変化のない成熟期においても,低分子化合物から合成(生合成)されている。

物質の輸送と濃縮の仕事(浸透圧的仕事) 細胞はK+イオンやグルコース等,必要な物質を外界から取り入れ,その濃度を外界よりも高くすることができる。また,細胞内よりも濃度の高いところへ不要物を排出することもできる。このように濃度勾配に逆らう分子の移動を「能動輸送」という。また,神経細胞や筋肉細胞の興奮や伝達の仕事もここに含まれる。

機械的仕事 骨格筋の収縮,繊毛,鞭毛の運動等

この3つの仕事で,連続的な幾つかの段階によってエネルギーの大部分は,熱エネルギーとして失われていく。

 

光合成は地球上の全ての生命活動を支える

地球上の生物が営む運動・成長・生殖等の全ての生命活動のエネルギーは太陽の光エネルギーに依存しており,その光エネルギーを生物が利用できる有機物中の化学エネルギーへと変換できるのは緑色植物と光合成細菌だけである。細菌の中には太陽の光エネルギーに依存せずに,無機物を酸化する際に生じる化学エネルギーによって,有機物を合成できる化学合成細菌もあるが,地球全体の有機物生産の大部分は緑色植物によって行われている。

光合成によって大気中や水中の二酸化炭素が有機物に同化され,この有機物が緑色植物自身の構成成分となるだけでなく,呼吸の基質として使われたり,動物に食物として摂取されて動物体の構成成分となったり呼吸の基質として使われる。呼吸に使われた有機物は最終的には二酸化炭素として排出される。また,これらの動物や植物の遺体や排出物は,土壌中の細菌や菌類によって分解され,再び二酸化炭素として排出される。そして,それらの二酸化炭素を緑色植物が吸収して再び光合成に利用することで,炭素は自然界を循環しているのである。

 

葉緑体

色素体の一種である葉緑体は,直径510μm,厚さ23μm程の楕円体で,高等植物では1つの細胞に10〜数100個含まれている。しかし,原核生物である藍藻類は葉緑体をもたず,原始的な紅藻類では1個の球状の葉緑体が見られるだけである。その他の藻類では,らせん状(アオミドロ)・板状(ヒザオリ)・星状(ホシミドロ)・半球状(コンテリクラマゴケ)等大きな葉緑体を1〜数個含んでいる。

多くの高等植物では,葉緑体は内外2枚の膜で包まれ,内部構造としては内膜系(ラメラ構造,チラコイド)・プラスト顆粒とこれらを取り囲んでいる液状空間であるストロマ(基質)で構成されている。

内膜系の微細構造の基本となっているのがチラコイド(扁平な袋状の構造)で,チラコイドが積み重なったグラナチラコイドと,それらを連絡する膜系で,ストロマに直接に接するストロマチラコイドとに分化している。葉緑体成分は70%が水だが,水を除いた固形成分のうち,60%はタンパク質で30%が脂質である。また,クロロフィルやカロテノイド等の色素が7%を占めている。

それ以外に葉緑体は独自のDNAやタンパク質合成系をもち,独自に分裂して増殖する。葉緑体は細胞外へ取り出しても光合成を行う等,ある程度の自律性をもっているが,完全な機能を発揮するには核の遺伝情報にも依存している。

 

細胞の成分とタンパク質

タンパク質は,生物の主要な構成物質で,固形物のほぼ半分を占める。細胞の成分で最も多いのは水で70%である。固形物にはタンパク質の他,細胞膜の成分の脂質,エネルギー源の炭水化物,代謝に必要な無機イオン,遺伝に関わる核酸等がある。

細胞の成分の分析は,細菌の大腸菌で詳細に行われている。純粋な細胞として容易に集めることができるからである。大腸菌では3000種類のタンパク質が存在する。また,哺乳類の細胞では10万種類ある。

 

大腸菌の構成物質(J.D.ワトソン:遺伝子の

分子生物学(2),化学同人(1970)より)

構成物質

重量

()

平均分子量

種類数

細胞当たりの数

70

18

1

4×1010

無機イオン

1

40

20

2.5×108

炭水化物**

3

150

200

2×108

脂質**

2

750

50

2.5×107

アミノ酸**

0.4

120

100

3×107

ヌクレオチド**

0.4

300

200

1.2×107

その他の低分子

0.2

150

200

1.5×107

タンパク質

15

4×104

3000

106

核酸

 

 

 

 

DNA

1

2.5×109

1

2

RNA

6

5×105

1000

105

NaKMg2Ca2Fe2ClPO43SO42

**前駆物質を含む

 

タンパク質の用語の由来

1838年,オランダのゲラルドス・ムルダーは血清のアルブミン,卵白のアルブミン,血液のフィブリン等の元素分析をして,C40H62N10O12という組成が単位であるという結論に達し,これをプロテイン(protein)とよんだ。プロテインとはギリシア語のプロティオス(もっとも大切なの意味)からとったものである。動物の栄養にとって根源的に大切な物質だからである。

のちになって,ムルダーの分析は間違いとわかったが,プロテインの用語は英語,フランス語等にそのまま残った。ドイツ語ではアイワイス(卵白)とよばれ,その漢字訳蛋白質はそのまま日本語となった。

タンパク質が物質として一定の構造をもっていることはフレデリック・サンガーによるインスリンのアミノ酸配列の決定によって確立された(1955)

 

アミノ酸

タンパク質は20種類のアミノ酸からなっている。天然には120種類以上のアミノ酸が存存するが,タンパク質をつくるのには20種類に限られている。この理由については生命の起源に遡り,判っていない。

ハイドロキシプロリン,メチルヒスチジン等がタンパク質に見られるが,これらはタンパク質がつくられた後-OH-CH3等が付加されたものである。

 

アミノ酸は炭素化合物で,アミノ基-NH2とカルボキシル基-COOHをもつ。唯一の例外はプロリンでアミノ基の代わりにイミノ基-NH-がある。中心の炭素(α炭素原子,Cα)にはカルボキシル基,アミノ基,水素原子の他,アミノ酸の種類によって異なる側鎖(R)が結合している。

アミノ酸の構造

 

アミノ酸は中性の水溶液でイオン化して,アミノ基は正,カルボキシル基は負に荷電する。その為,アミノ酸は両性電解質とよばれる。

アミノ酸の側鎖によって様々な性質がみられる。

(1) 水になじまない(疎水性)-CH3等。AlaValLeuIle

(2) マイナス電荷をもつ(親水性)-COO-AspGlu

(3) プラス電荷をもつ(親水性)-NH+ArgLys

(4) 親水性だが電荷をもたない。Ser ThrGlyTyr

(5) S-S結合をつくる。Cys

 

ペプチド結合

1つのアミノ酸のアミノ基と他のアミノ酸のカルボキシル基との間の結合(-CO-NH-)をペプチド結合という。ペプチド結合をつくっているアミノ酸はアミノ酸残基とよばれる。ペプチド結合は6 mol/L塩酸存在下で110℃,24時間熱すると分解される。タンパク分解酵素は体温,中性pHで分解するが,アミノ酸に特異性がある。ペプチド結合で線状につながったアミノ酸群をペプチドという。

 

タンパク質

タンパク質は,多数のアミノ酸がペプチド結合で重合したもので,ポリペプチドともよばれる。最小のタンパク質はアミノ酸51個が重合した膵臓ホルモンのインスリンである。多くのタンパク質は100400個のアミノ酸からなっているが1000個以上からなるものもある。各アミノ酸の配列順序は一定であり,この配列をタンパク質の一次構造という。これはタンパク質の最も基本的な性質である。第一番目の遊離アミノ基をもつアミノ酸をN末端アミノ酸,終りのカルボキシル基をもつアミノ酸をC末端アミノ酸という。タンパク質はN末端からC末端に向けて合成される。

タンパク質の多くは,同一タンパク質,あるいは他のタンパク質と結合して複合体を形成する。複合体の個々の構成要素をサブユニットといい,100種類ものタンパク質が複合体を形成して初めて機能する例もある。サブユニットはいつも決まったサブユニットと結合しているわけではなく,多くの種類のタンパク質と様々な複合体をつくることができる。複合体をつくり,構成するメンバー(サブユニット)を変えることで,多様な役割を果たすことができるのである。

 

タンパク質の形と大きさ

タンパク質

働き・所在

分子量

構成

アミノ酸

の数

ポリペプチド鎖

の数

インスリン

膵臓のホルモン

 5733

   51

2

リボヌクレアーゼ

膵臓のRNA分解酵素

12640

   124

1

リゾチーム

細菌の細胞壁を

分解する酵素

13930

   129

1

ミオグロビン

筋肉の

酸素結合タンパク質

16890

   153

1

キモトリプシン

膵臓の消化酵素

 21600

228

1

アクチン

筋肉の収縮性タンパク質

 41785

 374  

1

ヘモグロビン

赤血球の

酸素結合タンパク質

 64500

574

4

アルブミン

血清中のタンパク質

 68500

 〜550  

1

ミオシン

筋肉の収縮性タンパク質

480000

4000

6

ミオシンのH

ミオシンの主要成分

200000

1670

1

ホスホリラーゼ

筋肉の解糖系の酵素

495000

4100

4

 

タンパク質の立体構造

疎水性のアミノ酸が連なっている部分は,水の中では,水を避けタンパク質分子の内側に入り込む。一方,親水性のアミノ酸の割合が多い部分は,周囲の水と接するようにタンパク質分子の表面に位置する。アミノ酸の電荷はタンパク質の立体構造に大きく影響する。正電荷をもつアミノ酸と負電荷をもつアミノ酸は引き合い,同じ電荷をもつアミノ酸は反発し合う。タンパク質の機能はpHに依存するのはpHはアミノ酸の電離度に大きな影響を受けるからである。各アミノ酸の電離度が変化すれば,タンパク質の立体構造も変化する。

タンパク質の立体構造の形成には,ペプチド結合間に生じる水素結合も重要な役割を果たす。側鎖が比較的小さく極性をもたないアミノ酸が連続している箇所では,それぞれのペプチド結合のN原子と,そこから4番目のアミノ酸のカルボニル基との間で分子内水素結合ができる。その結果,右巻きに1回転3.6アミノ酸のピッチでらせん構造が形成される。同一らせん分子内で水素結合ができるので,比較的しっかりしたらせん状(スプリング様)の構造になる。これをα-へリックスという。

ポリペプチド鎖の間で,アミノ基とカルボニル基との間に水素結合が生じてできるプリーツ状の構造をβ-シートという。β-シートは,タンパク質構造の核として機能する場合が多く,球状タンパク質の中央部によく見られる。大規模な平行β-シートは,絹糸のフィブリンや毛髪のケラチン等がある。β-シートはどれも安定な波状構造をとる。

タンパク質は1本のポリペプチド鎖だが,分子の認識や結合,触媒等,幾つかの機能単位に分けることができる。この機能単位をドメインという。タンパク質とタンパク質の結合,タンパク質による塩基配列の認識と結合等の機能は,構造が安定なα-へリックスやβ-シート部分が担っている。一定の立体構造をとらない部分をランダムコイルという。

システインは分子内の他のシステインとジスルフィド-S-S-結合により分子内架橋をつくる。どのシステインとも架橋できるわけではなく,タンパク質が安定な立体構造をとった後,近くに来る特定のシステインと結合し,立体構造を更に安定化させる働きがある。

 

 

タンパク質の立体構造と白濁

タンパク質は多くの疎水性アミノ酸を含んでおり,本来は水に対して不溶性である。例えば,熱を加えてタンパク質を変性させると白く不溶性になる。タンパク質(蛋白質)の白の由来である。生体内では,タンパク質は疎水性部分を内側,親水性部分を外側にして水分子と安定な水素結合をして溶けている。熱を加えると熱運動エネルギーによりタンパク質の立体構造が乱され,疎水性部分がタンパク質表面に露出し,水分子と安定な水素結合ができなくなる。同時に,疎水性部分でタンパク質同士が結合して,大きな塊をつくり沈殿する。これがタンパク質の熱変性による白濁と凝固である。

タンパク質の立体構造の形成には,正または負の電荷をもつアミノ酸の電荷による反発力や引力が関わっており,塩濃度はこれらの静電力に影響を与える。卵白を真水に懸濁すると白く濁る。白くなったのは本来のタンパク質分子の立体構造がとれなくなった(変性した)からである。一方,体液と同程度の濃度の塩水に懸濁すると白濁しない。しかし,塩濃度を更に高めると逆に白濁する。生理的なイオン濃度で,タンパク質分子は機能する立体構造をとっているのである。

 

タンパク質の種類数

タンパク質が20種類のアミノ酸100個からできているとすると,重複を許した種類数は20100になり,これは10130に相当する莫大な数である。1兆は1012に過ぎないことを思い出して欲しい。

しかし,タンパク質の種類は哺乳類では10万であり,理論的にできるタンパク質の種類数に比べ,はるかに少ない。安定的な立体構造をとるアミノ酸配列は少なく,実際に存在するドメインの種類は100種類と推定されている。ドメインの中の1つのアミノ酸を変えてしまうと,全く機能しなくなるタンパク質が多い。進化の選択圧の中で,立体構造が定まらず一定の機能を果たさないドメインは消滅したと考えられる。

 

シャペロン

アミノ酸多数からなるペプチドはその側鎖の化学的性質によって自然に折り畳まれてα-へリックスやβ-シート構造を組み立て(二次構造),全体としての立体構造(三次構造)をつくり上げる。ところが,安定した立体構造を完成させるのに補助役を必要とする場合が見出された。例えばアクチンやチューブリン(微小管タンパク質)ではリボソームでつくられた後,介添役がないと三次構造をつくれない。この補助役は貴婦人の介添役の意味からシャペロンとよばれる。ミトコンドリアや小胞体の膜を通過する際にタンパク質はほどけるが,後で復元するのにシャペロンを必要とする。シャペロンはATPを分解しながら作用する。シャペロンは数十個のタンパク質の集合体をつくっていることが多く,その集合体はシャペロニンといわれる。

 

プリオン

プリオンとは感染性タンパク質(proteinaceous infectious particle)の略称である。クールー病(ニューギニア原住民)やクロイツェル・ヤコブ病のように長年月かかって脳細胞が萎縮して海綿状になる病気の原因は不明であった。ヒツジで同様な病気(スクレイピー)が知られており,その骨を餌として食べたウシの発病(狂牛病)が社会的問題となった。

アメリカのカリフォルニア大学医学部教授スタンレー・プルシナーはスクレイピーの原因がアミノ酸208個からなるPrPSCによることをつきとめた(1985)。ところが健康なヒツジにも同じタンパク質(PrPC)が存在していることが判ったが,その立体構造はα-へリックスが多く,スクレイピーのβ-シートとは違っていた。PrPSCPrPCに結合して,立体構造をPrPSCに変化させ,PrPSCは互いに集合して繊維状となり,神経細胞を死滅させると考えられている。プルシナーは1997年度のノーベル医学生理学賞を受賞した。

 

タンパク質の機能

タンパク質は文字通り,生物を特徴づける物質である。各生物ごとに異なったタンパク質がそれぞれの生物の形と働きを可能としている。したがって,タンパク質の機能は多種多様である。タンパク質は大きく分けて,生体の構造を形づくるもの,生体内の化学反応に関わるもの,情報を認識したり伝達したりするものがある。

構造形成タンパク質 ヒトの体内でもっとも多量に含まれているタンパク質はコラーゲンである。コラーゲンは分子量30万の繊維状タンパク質で,3本のサブユニットがらせん状にねじれた長さ300nmの細長い形をしている。繊維細胞によって細胞外に分泌されて多数集合してコラーゲン繊維をつくり,皮膚を支えたり,内臓を覆う。また骨細胞から分泌されたコラーゲン繊維の網目は,水酸化カルシウム・リン酸カルシウムを沈着して骨をつくる。

細胞膜はリン脂質と様々なタンパク質が50%ずつからなる。タンパク質のあるものは細胞膜下のスペクトリン(分子量43)の網目構造と結合して細胞膜の裏打ちをする。

細胞内には,ミクロフィラメントと微小管があって細胞運動にあずかる共に細胞の形を保ったり変えるのに働く。また,中間径フィラメントは,核と細胞膜間をつないで細胞の形を維持する。ミトコンドリア,核,葉緑体等細胞小器官を形づくるタンパク質が知られている。

 

 

生体内化学反応タンパク質 細胞内の多くの化学反応を円滑に進行させる酵素はタンパク質である。その種類は3000種類にのぼる。ミトコンドリアや葉緑体で電子伝達にあずかる色素(シトクロム等)の多くはタンパク質である。

赤血球内にあって酸素の運搬をするヘモグロビンもタンパク質である。細胞外に分泌され血液中に存在するアルブミンは脂質等を運搬する。免疫に関わる抗体もタンパク質である。

情報認識伝達タンパク質 遺伝子の発現を調節する転写因子,細胞の外からの情報を受け取る受容体,その情報を核に伝えるシグナル伝達因子もタンパク質である。

 

酵素

酵素は,触媒の働きをもつタンパク質を含んだ巨大で複雑な有機分子(複合タンパク質,ホロ酵素)である。酵素は,タンパク質部分(単純タンパク質,アポ酵素)に補酵素(補欠分子族)とよばれる低分子の非タンパク質部分を含む場合があり,基質が酸化される場合には補酵素が還元される等,基質が受ける反応に反応剤として相補的な役割を果たす。生体内の条件「体温・体内のpH(多くは中性付近)・常圧」の下で,基質特異性をもって作用する点を理解させる。

 

触媒とは何か

デンプンの水溶液は,そのままではグルコースに分解しない。これは,ヨード反応による呈色変化で示すことができる。ところが,唾液を加えてしばらくするとヨード反応が消失する。これと同じことは,濃い硫酸(つまり水素イオン濃度を上げる)存在下で100℃で数時間煮沸すると起こる。これら3本の試験管を予め用意しておき,デモンストレーションをしながら,触媒の説明にかかる。

化学反応(物質の分解や合成)には,普通の条件ではなかなか起こり難いものが多い。ところが,何かの物質を入れると,反応が速やかに起こってくることがある。しかもその物質は反応の前後で変化しない。このように,それ自体変化することなく化学反応の速度を調節する物質のことを触媒とよぶ。

アンモニアは窒素と水素の化合物だが,両者を混合しただけでは生じない。ところが温度を上昇させ(500),圧力を掛け(100気圧),そこに鉄粉(Feに数%のAl2O3K2OFe3O4と共に高温で熔融して造った二重促進鉄触媒)を加えるとアンモニアが生じてくる。Al2O3Feの表面積を拡げ,維持する。即ち鉄の微粒子状態を維持し,またK2OFeに電子を供与しての活性を数倍に上げる働きをしている。圧力を掛けるのは,気体分子の密度を高めて衝突による反応の機会を増やし,また平衡をアンモニア側に有利にする為である。また,高温では分子の運動が速くなり,反応が促進される。そして,鉄粉が触媒の作用をする。鉄粉上で窒素と水素分子が反応を起こし,化合してアンモニアとなる。この鉄粉のような触媒を無機触媒と呼ばれる。

酵素は生体触媒である。基質に対する酵素作用の選択性が高く,“鍵と鍵穴”に例えられる。

 

化学反応を促進する方法

一般に下図に示すように,Aという物質とBという物質の間で化学反応が起こる場合,まず,ABが接触することが必要である。反応の場の温度を上げると,その物質をつくっている分子の運動が活発になるので,接触の機会も増してくる(a)ABの濃度や圧力を増しても,互いに接触する機会が増してくるので,化学反応は起こり易くなる(bc)

また,ある物質の表面にABを吸着させれば,ABとは広い空間よりも接触の機会が増すので,化学反応は起こり易くなる(d)。このように,反応を促進する作用をもっているものを触媒という。したがって,反応速度を増すためには,物質の濃度・温度・圧力を増したり,触媒を用いたりする。

(a)

(b)

(c)

(d)

(a)温度を上げる。

(b)濃度を増す。

(c)圧力をかける。

(d)表面に吸着する。

 

酵素の触媒作用

酵素の触媒作用は,酵素の表面に反応物質(基質)を吸着して接触し易くするだけでなく,反応物質を活性化して,その活性化エネルギーを低くして反応を起こし易くする性質もある。例えば,化学反応ABが起こるには,活性化エネルギーhが必要であるとする。これは下図のようにA点の石をB点に落とすことに相当し,その場合,A点よりhだけ高いC点に石を上げなければならない。A点からC点に石を上げることが活性化することに相当し,AC間の距離hを活性化エネルギーと考えてよい。酵素の働きは,AC間のエネルギー障壁hが低い他の反応経路を与えることにある。

活性化エネルギー

 

酵素の作用条件

酵素の触媒作用は,いろんな条件で大きく変わる。温度が低いと活性が小さく,40℃付近にピークに達し(最適温度),それ以上の温度になると急速に低下する。これは,タンパク質の構造が熱によって壊れてしまうからである(変性)。溶液のpHが大きな影響を与える。これも,酵素タンパク質の構造に関連し,普通は酸性(pH 4以下),塩基性(pH9以上)で失活する。例外はペプシン(pH 2が最適),塩基性ホスファターゼ(pH99.5が最適)である。最大活性を示すpHを最適pHという。酵素の活性は,作用する物質(基質)の濃度によって影響を受ける。また,活性化剤(マグネシウム,カルシウム等の金属イオン)SH(2-メルカプトエタノール),補酵素(NADNADP)に依存することがある。タンパク質を変性させる物質(重金属イオンや表面活性剤等)が混入すると,酵素活性は低下もしくは消失する。酵素を使う実験で試薬を溶かしたりするのに,ガラス器具や蒸留水を用いるのはこの為である。

酵素作用が失活した場合,条件を元通りにすると,失活酵素は再生されることもあるが,多くは不可逆である。

 

酵素の種類

加水分解酵素(ヒドロラーゼ)  水の助けを借りて基質を分解する。消化等に重要な働きをする。

例:アミラーゼ(C6H10O5)n(デンプン)H2O ―→ nC12H22O11(マルトース)

マルターゼ C12H22O11(マルトース)H2O ―→ 2C6H12O6(グルコース)

除去酵素(リアーゼ)  基質を加水分解によらずに分解する。

例:カルボキシラーゼ(脱炭酸酵素)

CH3COCOOH(ピルビン酸) ―→ CH3CHO(アセトアルデヒド)CO2

転移酵素(トランスフェラーゼ)  リン酸基やアミノ基等の原子団を,1つの基質から他の基質に移す。

例:クレアチンキナーゼ  クレアチン+ATP ―→クレアチンリン酸+ADP

異性化酵素(イソメラーゼ)  基質分子内の原子の並び方を変える。

例:六炭糖リン酸イソメラーゼ  グルコース・リン酸―→フルクトース・リン酸

酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ) 基質の酸化還元に関与する。細胞内呼吸に重要な働きをもつ。カタラーゼや各種のデヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)がある。

例:乳酸脱水素酵素  CH3CH(OH)COOH(乳酸) ―→ CH3COCOOH(ピルビン酸)2H

合成酵素(シンテターゼ)  多くの生体物質の合成を促進する。

例:クエン酸合成酵素  活性酢酸+オキサロ酢酸―→クエン酸

 

消化

デンプンは,唾液や膵液に含まれるアミラーゼの作用で直鎖部分がグルコースとマルトースに分解される。枝分かれの多い部分は,小腸の吸収上皮細胞の細胞膜に固定されているマルターゼによってグルコースに分解される。小腸の吸収上皮細胞の細胞膜にはアミラーゼもあり,短くなったデンプン(デキストリン)を分解する。

タンパク質は,胃でペプシンによって,幾つかのポリペプチドに切断される。ペプシンは不活性型のペプシノーゲンとして合成され,胃内に分泌されてから,ペプシンによって一部が切断され,活性型のペプシンとなる。胃粘膜は多糖のねばねばした液で保護されている。十二指腸で,膵液が送り込まれる。膵液・腸液は弱塩基性で酸性の胃液を中和する。膵液中には数種類のタンパク質分解酵素を含んでいる。トリプシンとキモトリプシンで,これらも分泌されるときはトリプシノーゲン,キモトリプシ液のトリプシン)によって活性化される。これらはポリペプチドを小さなペプチドに切断する。ペプチドは,小腸の上皮細胞上のペプチダーゼ(カルボキシペプチダーゼとアミノペプチダーゼ)によってアミノ酸に分解される。

脂肪は十二指腸で胆汁と混ぜ合わされ,細粒になる。膵液中のリパーゼは胆汁で活性化され,脂肪をグリセリンと脂肪酸に分解する。

 

合成繊維の製造

低分子化合物を原料として化学的に合成された高分子物質を繊維化したもので,化学繊維の一種である。天然繊維とは異なり,繊維の長さ,太さ,断面形状から官能基の種類等の物理的・化学的性質を人為的に変えられるので超高強力繊維,耐熱性繊維,光学繊維等自然界にはない新しい機能をもつ繊維もつくられ,その種類も極めて多彩になってきている。合成繊維の生産量の殆どはポリエステル,アクリル,ナイロンで占められ,三大合成繊維といわれている。これらのうち,ポリエステルは適度のこしと混紡性のよさ,アクリルは共重合による改質の多様性と(かさ)高性,ナイロンは適度の弾性と弾性回復率が特徴である。これらの他,ビニロンは吸湿性,ビニリデンは重さと難燃性,ポリウレタンはその大きな弾性等に特徴がある。

近年,紡糸技術が著しく進歩し,ポリエステル繊維の紡糸速度は1950年代には1000m/分だったが,1985年頃には50006000m/分の高速紡糸が可能となった。また,非常に細い繊維(超極細繊維;ファインデニール繊維)もできるようになり,眼鏡拭き用クロス等特殊な用途で用いられている他,合成繊維につきまとう人工的な冷たさをぬぐう為に,制御されたばらつきを加味して暖かみを帯びた繊維にしたり,繊維の断面を三角形にし外観や性能をできるだけ絹に近づけたポリエステル繊維(シルクライク繊維)を開発したり,中空で多孔性のため汗を吸いやすい吸汗性繊維もつくられる等,様々な繊維が紡糸技術の発展により開発されている。

 

光学異性体と不斉炭素原子

4価の炭素原子に4個とも互いに異なる原子や原子団(置換基)が結合しているとき,この炭素原子を不斉炭素原子という。不斉炭素原子をもつ分子を,それを鏡面に映した形の分子と比べると,重ね合わせることができず,互いに異性体となる。この異性体は,鏡像体(鏡像異性体)の関係にある立体異性体で,光学的性質だけが異なることから光学異性体と呼ばれている(ときには,結晶形が左右逆になることもある)。このような立体的関係はちょうど右手と左手の関係と同じなので鏡像異性体同士を互いに対掌体とよぶことがある。光学異性体の溶液に偏光を当てると,その振動面が右や左に旋回する。左に旋回させるものを左旋性があるといい,()で表す。右に旋回させるものを右旋性があるといい,()で表す。左旋性と右旋性のものの等量混合物は旋光性がなく,ラセミ体と呼ばれる。

光学異性体には,その構造からみた命名上の規約がある。これは,フィッシャーE.Fischerによるもので,基準物質にグリセルアルデヒドを用い,小型のD(Dextrorotatory,右旋性)L(Lrerorotatory,左旋性)の文字を用いて表すものである。この規約では,下図(a)の構造のものをD-グリセルアルデヒドとする。四角形は不斉炭素原子を中心においた正四面体を表し,各頂点で置換基と結合している。-H-OHを結ぶ横向きの実線は紙面の手前にあることを示し,-CHO-CH2OHを結ぶ縦向きの破線は紙面の奥にあることを示している。図(b)は,(a)を平面に投影した図である。Lグリセルアルデヒドは,図(b)-H-OHを互いに交換したものになる。図(c)D型,図(d)L型であり,(c)(d)DLが鏡像体になっていることを示す。

 

D ()-グリセルアルデヒドは,酸化されてD(-) -グリセリン酸になり,更に導かれる光学異性体をD型とし,DLは,旋光性と無関係に定められる。


乳酸は,ヨーグルトのような乳酸飲料や漬物等の酸味成分であり,乳酸発酵によってDL乳酸ができる。また,筋肉等の動物組織中で糖代謝によってできる乳酸は,L()-乳酸である。

糖の場合には,糖とグリセルアルデヒドの-CH(OH)CH2OHの構造を対比させ,同じ構造のとき記号も同じになる。アミノ酸の場合には,-NH2-OHに置き換えて乳酸と対比させ,同じ構造のとき記号も同じになる。

天然のアミノ酸は殆どL型だが,旋光性は右と左のものがある。

酒石酸には,1分子中に2個の不斉炭素原子がある。そこで,2個ともD型またはL型のものと,D型とL型を1個ずつもつメソ体と呼ぶ対掌構造のものがある。メソ体は,ラセミ体と同様,左旋性と右旋性が打ち消し合って旋光性を示さないので,光学不活性体である。

一般に,不斉炭素原子n個をもつ分子の光学異性体は,2n個である。

光学異性体は,生理的には全く異なった挙動を示すもので,地球上の生物体内のホルモンや糖類,アミノ酸等は,どれも光学活性であり,そのどちらか一方の分子からできている。例えば,タンパク質のa-ヘリックスのらせん構造は,光学活性のL型アミノ酸による二次構造である。もし,この中にD-型アミノ酸が混入すると,あの規則的ならせん構造はできなくなってしまう。このように生物体内では,一方の光学異性体のみが選択的に秩序よく配列され,安定な構造を保って生理作用を営んでいる。

 

エタノール

代表的なアルコールで,古くから酒として利用されてきた(酒精)。物理的性質は融点114.5℃,沸点78.32℃,密度0.79g/cm3(20)で,室温では液体である。

従来は,デンプンや糖蜜等を原料として発酵によってつくられていたが,近年エチレンを原料として工業的に合成されるようになった。

硫酸法による合成では,濃硫酸とエチレンから硫酸エステルをつくり,これを加水分解してエタノールを得る。このときジエチルエーテルが副生する。

C2H4H2SO4 ―→ C2H5OSO3H   C2H5OSO3HH2O ―→ C2H5OHH2SO4

直接水和法は1947年以後工業化され,最近新設工場では,殆どこの方法によっている。触媒として,ケイソウ土にリン酸が含まれたものを用いる。

C2H4H2O ―→ C2H5OH

エタノールは,水と濃度95.6%で共沸混合物(沸点78.15)をつくる。したがって,単純な蒸留法では無水物を得られないので,CaOを加えて蒸留する。更に高純度にするには,マグネシウムリボンとヨウ素少量を加えて加熱沸騰させた後に蒸留する。

2C2H5OHMg ―→(C2H5O)2MgH2
(
C2H5O)2Mg2H2O ―→ 2C2H5OHMg(OH)2

 

ペニシリン

アオカビから産生する抗生物質で,βラクタム構造をもち,βラクタム抗生物質に属する。1929年,A. フレミングSir Alexander Fleming H.W.により発見され,1941年,H.W.フローリー(Howard Walter Florey),チェイン(E.B.Chain)らの共同研究によって,臨床的に使われた最初の抗生物質である。その後,ペニシリン産生菌の探索と改良が大規模に行なわれ,工業的に利用されるようになった。

 

食物連鎖・食物網

自然界では生産者→一次消費者→二次消費者という単線形ではなく,複雑な食物網をつくっているが,その中の11つの流れは基本の通りになっている。中には植食性,肉食性共に合わせもつ雑食性のものもあるが,これは全体の位置づけで判断し,一次消費者,二次消費者のいずれかにおくことになる。

 

生態ピラミッド

生態ピラミッドは,その指標によって,個体数を示すピラミッド,重量やカロリー値等で示す生体量のピラミッド,各栄養段階でのエネルギー流量や生産力を示すエネルギーのピラミッド等に分類される。一般的にはこれらの要素を全て含むものとして認識され,食物連鎖や弱肉強食を示す図式として受け入れられている。食物連鎖を構成する生物個体数は,下位の生産者が最も多く,次いで一次消費者,二次消費者と少なくなっていき,三次消費者が最も少ない。但し,生産者が樹木だったり,あるいは寄生連鎖だったりした場合はそうならない。この個体数をピラミッド型に示したものが個体数ピラミッドであり,エルトン(1927)が示したので,エルトンのピラミッドともいう。寄生連鎖等はピラミッド型にならない。

個体の重量×総個体数,即ち栄養段階毎の生体量で示したピラミッドを生体量ピラミッドという。この場合は寄生連鎖でもピラミッド型になる。

一定時間あたりの生産量を基にしてつくったピラミッドを生産量ピラミッドという。この場合,総生産量の場合と,純生産量の場合があるが,一般的には純生産量でピラミッドをつくることが多い。生産量ピラミッドは,物質の移動がない閉鎖系は必ずピラミッド型になる。

 

 

 








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