トップ新編理科総合A 改訂版1部 物質と人間生活>第1章 物質の構成と変化>第5節 酸・塩基の中和反応とエネルギー

5節 酸・塩基の中和反応とエネルギー

 

acidは,ラテン語のacidus(酸っぱい)に由来し,感覚的な意味を表している。最初に化学的に定義したのはボイルで,植物性の青色色素(1itmus)を赤変させ,多くの物質を溶かす力をもつものを酸といった。後にラボアジエはSPN等の酸化物を酸(オキソ酸)といい,酸は全て酸素を含むと考えたが,NaKCa等の酸化物の水溶液が塩基性を示すこと等からこの説は崩れ,次第に現在の酸の基礎が確立してきた。

 

オキソニウムイオン

水和したプロトンで,普通H3Oで表される。水和が重要でないときには,単にHと表し,水素イオンと呼んでいる。

HH2O ―→ H3O

非水溶媒,例えばメタノールやジメチルエーテルにHが結合して生じるCH3OH2(CH3)2OH等は,メチルオキソニウムイオン,ジメチルオキソニウムイオンと呼ばれている。

HCH3OH ―→ CH3OH2

H(CH3)2O ―→ (CH3)2OH

水溶液中のHは,O原子の間を急速に移動し,個々のH3Oの寿命は10-13秒程度である。また,H3Oが水和したものも知られている。

 

塩基,アルカリ

狭義には,水溶液中で水酸化物イオンを生じ,酸を中和して塩を生じる物質を塩基という。塩基には,水に難溶性のものも存在する。

alkaliはアラビア語で,al-は定冠詞,kaliは灰分を意味する。アラビア人は,植物の灰をアルカリとよんだ。その後,灰の浸出液のように強い塩基性を示すものの名称になった。以前は,水溶性の塩基を示すものの総称として用いられており,水に難溶性の塩基はアルカリとよばなかったが,現在では塩基とアルカリは一般に同じ意味で用いられる。

 

広義の酸・塩基

酸・塩基の定義は,化学の進歩に伴い発展拡張されてきた。ブレンステッドとローリーによる定義,およびルイスによる定義を,広義の酸・塩基という。

(1) アレーニウスの定義 Arrhenius acid and base

1884年,アレーニウスは,水溶液中でHを放出する物質が酸,OH-を放出する物質が塩基であると定義した。

()HA ―→ HA-   (塩基) BOH ―→ BOH-

(2) ブレンステッドとローリーの定義Brfnsted-Lowry acid and base

1923年,ブレンステッドとローリーは,それぞれ独立に,酸とはHを相手に与える陽子供与体,塩基とはHを相手から受け取る陽子受容体であると定義した。

 

 

即ち,HAH3OHを放出するので酸であり,H2OA-Hを受容するので塩基である。このとき,HAA-H3OH2Oを,互いに共役な酸・塩基であるという。共役酸が強い酸である程,共役塩基は弱い塩基となる。この酸・塩基の定義は非水溶媒にも適用できる。

ブレンステッド Johannes Nicolaus Brfnstedはデンマークの物理化学者(18791947)で,バルドに生まれ,コペンハーゲン大学に学び,デンマーク工業大学教授,コペンハーゲン大学教授を歴任した。

ローリー Thomas Martin Lowryはイギリスの物理化学者(18741936)で,ヨークシャー州に生まれ,現在のロンドン大学に学び,1920年ケンブリッジ大学教授となった。

(3) ルイスの定義 Lwis acid and base

1916年,ルイスは電子の授受に注目して,電子対を与えて相手と結合する電子対供与体が塩基,逆に電子対を相手から受け取る電子対受容体が酸であると定義した。(2)の定義は,全てこの(3)の定義に含まれ,非水溶媒中でも適用できる。

BF3+:NH3 ―→ F3BNH3

  塩基

 

酸と塩基の歴史

ヨーロッパが中世に入る頃,酸としては食酢と酸性果実の果汁が知られており,王水の性質についても知られていたようである。また塩基としてはソーダ(水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム)や石灰について知られていた。

中世におけるヨーロッパの化学は,その多くをギリシャ科学を受け継いだアラビアの錬金術(Khemeiaalchemy)に負っている。錬金術の1つの重要な発見は鉱酸(硝酸,硫酸,塩酸)の発見である。

16世紀頃から,ヨーロッパは文芸復興期に入り,化学の発展も急テンポになった。ボイルの法則で有名なR.Boyle(イギリス,16271691)は,酸がリトマスを赤変させることを確認し,Wilhelm Homberg(ホムベルグ,オランダ,16521715)は,酸がアルカリを中和することを見い出し,K.W.シェーレ(スウェーデン,17421786)はシュウ酸,クエン酸,安息香酸等の有機酸を見い出した。

18世紀の中頃から酸・塩基の性質をより根本的に説明しようという動きが出始めた。まずA.L.Lavoisier(ラボアジエ,フランス,17431794)は,酸素が全ての酸の素であり,酸は必ず酸素を含むと考えた。この考えは,J.J.ベルセーリウス(スウェーデン,17791848)によって,「酸とは酸となり得る元素(非金属)と酸素の化合物で,塩基とは金属と酸素の化合物である」と修正された。しかし1810年,H.デーヴィー(イギリス,17781829)によって塩酸には酸素が含まれないことが明らかにされ,酸の働きに酸素が必要であるという考えは否定されたP.L.デュロン(フランス,17851838)は,酸と塩基(酸化物の塩基)の反応の際には,酸の中の水素と酸化物の中の酸素から水が生じることに注目した。デーヴィーとデュロンの考えを基に,J.F.リービッヒ(ドイツ,18031873)は,1838年,「酸は水素の化合物であり,その水素は金属イオンで置き換えられる」という考えを発表した。この定義が今日の酸の定義の出発点となっている。

酸の発見史

年代

酸の名称

発 見 者

年代

酸の名称

発 見 者

1600

硫酸,硝酸,

 

1785

リンゴ酸

K.W.Scheele

王水

1786

没食子酸,

1630

二酸化炭素

J.B.van Helmont

 

フッ化水素酸

1646

塩酸

J.R.Glauber

1813

ヨウ化水素酸

J.L.Gey-Lussac

1703

氷酢酸

G.E.Stahl

1814

塩素酸

1743

リン酸

A.S.Marggraf

1833

ベンゼンスルホン酸

E.Mitscherlich

1764

ヒ酸

H.Cavendish

1769

酒石酸

K.W.Scheele

1834

次亜塩素酸

A.J.Balard

1776

シュウ酸

1841

フェノール

A.Laurent

1777

硫化水素

1846

1852

アミノ酸

J.Liebig

1778

モリブデン酸

1779

乳酸

1886

五酸化二リン

T.E.Thorpe

1784

クエン酸

1890

三酸化二リン

 

酸・塩基の強さ

酸・塩基の強さは,電離度の大小によって議論できる。しかし,電離度は同一物質でも濃度により異なるので,議論がやや判り難い。本来は,その電離定数の大小によって決められる。

酸の電離定数とpK (25 °C)

酸の名称

電 離 式

電離定数式

電離定数値

pK

フッ化水素酸

HF
HF-

 

2.14×10-3

2.70

ギ酸

HCOOH
HHCOO-

 

2.88×10-4

3.54

二酸化炭素

(炭酸)

CO2H2O
HHCO3-

 

7.76×10-7

6.11

HCO3-
HCO32-

 

1.35×10-10

9.87

酢酸

CH3COOH
H
CH3COO-

 

2.69×10-5

4.57

プロピオン酸

C2H5COOH
H
C2H5COO-

 

2.40×10-5

4.62

安息香酸

C6H5COOH
H
C6H5COO-

 

1.00×10-4

4.00

フェノール

C6H5OH
H
C6H5O-

 

1.34×10-10

9.87

 

水素イオン指数pH
pHは水素イオン指数を表す記号で,ピーエイチと読む。

pHを測定するには,水素電極の電位差測定による方法と比色測定による方法がある。実際には,次の3つの方法がよく用いられている。

a)  pH試験紙pH指示薬をろ紙にしみ込ませたもので,標準色と試料水をしみ込ませた試験紙の示色とを比較する。誤差が大きく,pH0.2程度の差は普通である。緩衝能力の小さい溶液では,pH1程度も違ってくる。

b)  pH比色計pH指示薬を緩衝溶液に加えてアンプルに封入した標準色と,同量の指示薬を加えた試料水の示色とを比較する。比較的正確な測定ができて,誤差は普通,pH0.1以内である。

c)  ガラス電極pHガラス電極を用いて,溶液の水素イオンによる電極電位を測定する器機である。かなり精密な測定ができるので,研究室等でよく用いられている。普通の測定では,誤差がpH0.1以下である。

 

酸塩基指示薬

pH指示薬,中和の指示薬,水素イオン濃度指示薬等とも呼ばれる。主なものの変色域とつくり方を次に示した。

(1) チモールブルー(略号TB)1.22.88.09.60.10g95エタノール20cm3に溶かし,水で100cm3とする。

(2) ブロモフェノールブルー(略号BPB):黄3.04.6青紫:0.01g95%エタノール20cm3に溶かし,水で100cm3とする。

(3) メチルオレンジ(略号MO):赤3.14.4橙黄:0.10gを水に溶かし,100cm3にする。

(4) メチルレッド(略号MR):赤4.26.2黄:0.20g95%エタノール90cm3に溶かし,水で100cm3にする。

(5) リトマス:赤4.58.3青:0.50g95%エタノール90cm3に溶かし,水で100cm3にする。

(6) ブロモチモールブルー(略号BTB):黄6.07.6青:0.10g95%エタノール20cm3に溶かし,水で100cm3にする。

(7) フェノールレッド(略号PR):黄6.88.4赤:0.10g95%エタノール20cm3に溶かし,水で100cm3にする。

(8) クレゾールレッド(略号CR):赤0.21.87.08.8赤:0.10g95%エタノール20cm3に溶かし,水で100cm3にする。

(9)フェノールフタレイン(略号PP):無8.09.8赤:1.0g95%エタノール90cm3に溶かし,水で100cm3にする。

(10) アリザリンエローGG(略号AY):黄10.012.1赤:0.10gを水に溶かして,100cm3にする。

指示薬の呈色は,pHによりその構造が変化する為と考えられている。これは指示薬自身が弱酸や弱塩基であり,pHによって分子からイオンへ変化し,分子とイオンの濃度比で色相が変わる為と説明されている。例えば,指示薬を弱酸HAとすると,その電離は次式のようになる。

HAHA-

したがって,指示薬を酸に加えたときは,電離が抑制されてほぼ全部が分子HAとなり,分子の示す色(分子色)を呈することになる。これに塩基を加えていくと,まず酸が中和され,その後指示薬が中和されてA-が増えるので,イオンの示す色(イオン色)を呈することになる。

これを電離平衡で説明すると,平衡定数は次式で表される。

 

したがって,分子色とイオン色がほぼ等しくなるときのHが変色域の中央にくると考えられ,Hが変化するにつれて分子色とイオン色の比も変化し,その比がある程度大きくなると肉眼でも色相の変化として認められるようになる。

チモールブルーのように二段階に変色域をもつものは,構造が二段階で変化することによる。フェノールフタレインの場合も二段階に変色し,強塩基性の溶液では無色になる。

 

中和と水

今日,中和に伴う水の生成は,中和の本質的内容と理解されている。しかし,酸塩基の研究の初(18世紀末〜19世紀初)には,中和は,(酸+塩基― )という型で理解されていた。このような考え方は,水の出入りに関心が払われることなく,電離の概念もなかった時代の研究としては当然でもあった。

中和における水の生成に初めて注目したのは,P.L.デュロン(フランスの化学者。デュロン-プティの法則で有名。17851838)った。彼は,酸化カルシウムのような酸化物と酸が反応すると,塩と共に水が生じることに注目し,酸と塩基の反応の際に水が生じることを指摘した。

 

参考実験 酸・塩基の中和反応における導電率の変化

【目的】中和反応に伴う導電率の減少から,HOH ―→ H2Oの反応に注目させる。演示実験として行う。

【準備】電源装置(610V),演示用大型電流計,マグネチックスターラー,導線, 200cm3ビュレット,ステンレス板,割箸,輪ゴム,200cm3ビーカー,0.1mol/L NaOH水溶液,0.01 mol/L塩酸

【操作】(1) 左下図のような装置をつくり,0.01 mol/L塩酸100cm3をビーカーに入れ,ビュレットに0.1 mol/L NaOH水溶液を入れる。

(2) 電極を塩酸中に入れ,電流値が100mA程度になるように電圧を調整する。

(3) ビュレットからNaOH水溶液を滴下し,電流値の変化を見る。

 

【結果】滴下量と電流値の関係は,右上図のようになる。Hはよく電流を導くことから,最初の電流値の減少は,Hが中和反応により減少した為であることを理解させる。後の増加はNaOHの増加による。

 

塩の分類

中和の観点から,正塩,酸性塩,塩基性塩に分類される。正塩は,酸と塩基が過不足なく反応した組成の塩である。酸性塩は,多価の酸が中和反応したとき生じる塩で,未だ金属原子と置換できる水素原子が残った組成をもっている。塩基性塩は,多価の塩基が中和反応したとき生じる塩で,まだ酸基と置換できるOH原子団が残った組成をもっている。

HClNaOH ―→ NaCl(正塩)H2O

H2SO4NaOH ―→ NaHSO4(酸性塩)H20

Mg(OH) 2HCl ―→ MgCl(OH) (塩基性塩)H20

陽イオンも陰イオンもそれぞれ1種類の塩を単純塩といい,単純塩が2種類以上含まれる形の塩を複塩という。

(単純塩) NaCIK2CO3Al2(SO4)3

(複塩) AIK(SO4)2KNaCO3

その他,結晶に結晶水(水和水)を含む含水塩と,結晶水を含まない無水塩や,イオンが錯イオンである錯塩等がある。

 

 

 








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