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テーマ例5 野生生物の保護

 

 

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◆ニホンコウノトリの保護

(1) 形態・生態 ニホンコウノトリはユーラシア東部の温帯域に分布している大型の鳥類である。翼を広げた大きさは2mほどになる。全身は白く,風切羽(翼の後縁)と嘴が黒い。近縁種としてはヨーロッパコウノトリ(シュバシコウ)が存在する。丘陵地などの大木上に営巣し,水田・沼地・河川沿いの広い湿地などを歩き回って,ドジョウやフナなどの魚類,ネズミやカエルなどの小動物,バッタなどの昆虫を捕食する。食物連鎖の上位を占める。

(2) コウノトリの減少 日本でも明治初期までは各地に広く分布していた。江戸時代には江戸市中の寺院の屋根で営巣していた記録が残っているほどである。白くて大型で目立つ存在だっため,明治初期に銃猟が流行した際に乱獲され,数を減らした。明治の終わりころには,兵庫県などの限られた地域でしかその姿が見られなくなっていた。生息地が小さなエリアに限定された状況は,1つの種が小集団に分断され,絶滅に向かいはじめたことを意味する。その後,農薬の使用によるエサ動物の減少や生物濃縮による汚染,土地開発による湿地の減少,営巣に適した大木の減少などにより,個体数は激減した。1953年に天然記念物に指定されたが保護策は実らず,1958年の調査時には兵庫県で15羽,福井県6羽が確認されたのみであった。その後もさらに個体数の減少は進み,1971年に最後の一羽が,傷ついていたところを保護されたが死亡し,日本で繁殖する野生のコウノトリは絶滅した。現在では大陸からの個体が迷鳥としてまれに飛来するのみである。日本以外でも個体数は減少しており,現在野生のものは,ロシア極東部と中国東北部に約3000羽が生息するのみである。

©高井信雄

 

(3) 保護の歴史(兵庫県の取り組み) コウノトリが法的に保護された最初は,1908年に保護鳥の指定を受けたときであるが,このときすでにその生息地はごく限定されていた。1953年に天然記念物,1956年には特別天然記念物に指定され,保護活動が具体化していった。1963年には野生の巣から卵を採取して人工孵化を試みたが失敗。その後,野生個体の人工飼育に踏み切ったが,なかなか軌道に乗らなかった。その間,1986年には飼育下にあった日本産個体の最後の一羽が死亡し,ロシアで捕獲された個体の繁殖に期待がかけられた。1989年に初めて繁殖に成功し,以後は毎年繁殖に成功している。現在では飼育下の個体は100羽を超え(20041月現在),近親交配を防ぐため全国の動物園で飼育されている個体との交配も順調に行われている。

(4)  兵庫県立コウノトリの郷公園  1999年,豊岡市に兵庫県立コウノトリの郷公園が開園され,以来,コウノトリの増殖に大きな役割を果たしてきた。この公園は165ha(中規模の学校グラウンドが約1haである)の面積をもち,その中に小川・水田・湿地・里山林等を整備し,コウノトリの暮らせる環境の再生を図っている。そのかいあってか,20028月頃から1羽の野生コウノトリが飛来し,すみ着いている。現在は,飼育下の個体を野生に帰す計画が進められているが,そこでは地域の取り組み(農薬を使わない農法など)が後押しをしている。

 

©兵庫県立コウノトリの郷公園

極東地域にすむコウノトリのくちばしは黒く,ヨーロッパのものは赤い。

©兵庫県立コウノトリの郷公園

 

(5) 保護における問題点 コウノトリが野生で生きていくためには,営巣用の大木を含む林や,大量のエサ動物を有する広大な湿地などが必要である。そのような環境はサギなどの競合種にとっても生息好適地なので,彼らの分のエサも供給できる規模の自然環境が必要となる。このように食物連鎖の上位者の保護は,決して狭い範囲を整備するだけで事足りるものではない。そのためには,便利さや快適さを最優先しているわれわれの生活姿勢も見直さなければならないだろう。しかもそれを地域全体で実現するには,多くの人々の理解を得るはたらきかけが必要であるし,「開発」を仕事としている人々との折り合いも必要である。

一方,生物進化の歴史を見れば,ほとんどの種はいつかは絶滅するのが常であり,特殊な種だけが長期間にわたって生存し続けるにすぎない。しかしながら,そのスピードが人間の活動によって大幅に増大しているのだとすれば,この点についてわれわれの手で対策を講じることが必要と考えられる。ヒトが自然界の一員である以上,コウノトリなどの生活できる自然環境はわれわれにとっても必要な環境であろうと考えられる。

                                                            

<参考文献および参考リンク>

高野伸二編(1992)日本の野鳥 山と渓谷社

相賀徹夫(1992)自然大博物館 小学館

●兵庫県立コウノトリの郷公園(兵庫県豊岡市瑞雲時字二ヶ谷128番地)

http://www.stork.u-hyogo.ac.jp/

兵庫県および豊岡市ではコウノトリの保護増殖事業に取り組んでおりいろいろな

情報も発信している。

 

 

 

 








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