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第1節 環境と適応

 

2 サンゴに共生している藻類

4 サンゴの群体

5 サンゴ群体の上にすむさまざまな生物

サンゴ礁

サンゴ礁域の「美しい」海水

サンゴと褐虫藻の共生

サンゴ礁の分布

サンゴの白化


 

   教科書の主な図表の解説                           

2 サンゴに共生している藻類

サンゴは体内に藻類を共生させており,この藻が光合成する。これは単細胞の渦鞭毛藻類で,褐色をしており,褐虫藻とよばれる。サンゴ体内では球形をしているが(直径が約1/100 mm),体外に取り出すと形をかえ,体の外に硬い殻をつくり,鞭毛をはやして泳ぎだす(サンゴの体の中で守られているときは殻がないわけで,殻が身を守る役割をしていることが,このことから推測できる)。褐虫藻はサンゴの細胞の中に入り込んでおり,多いときにはサンゴの軟体部の量と同じくらいの多量の藻がサンゴの体の中に入っている。いわばサンゴは半分植物とみなせるものなのである。

 

4 サンゴの群体

サンゴの群体には,大別して4つの形がある。樹枝状(木の枝の形のもの),葉状(草の葉が組合わさった,ちょうどハボタンのような形),塊状(球状の塊),匍匐盤状(海底をシートのように覆うもの)4つであるが,教科書にはそのうちの2つの写真があげてある。左は樹枝状のミドリイシの仲間,右は塊状のキクメイシの仲間で,どちらも沖縄で撮影したものである。

サンゴ群体が木や葉,つまり植物の形をしているのは光合成と関係がある。葉が平たいのは体積当たり光をたくさん受けとるには平面になるのがよいからである。ただし,地面を平たくシート状に覆ってしまうよりは,立体的になった方が光を受けとる面積が増える。だから匍匐盤状(シート状)よりは葉状の方がよいことになる。ただし,平たい葉が立っていると,波の力により折れやすい。より折れにくくて立体的に配置するとなると,木の枝状になる。ただし細い円柱形の枝も,平たい葉形よりはましだが,やはり波の力で折れやすい。最も波浪によって破壊されにくい形は塊状である。だが塊状は体積あたりの表面積は小さいため,光を受けにくい形である。つまりサンゴ群体の形は,光を受ける上での効率と,波浪で破壊されにくいという力学的な要請との二つのかねあいでほぼ決まっている。波当たりの強い場所には塊状のサンゴや,太くて短い枝の樹枝状のサンゴが分布する。波当たりの弱い場所には,細い繊細な枝をもった樹枝状のサンゴや葉状のサンゴが分布する。シート状に海底を覆うサンゴ(匍匐盤状)は,深くて光の少ないところに多く見られる。シート状の形は地面を効率よく使うことができないが,深いところで光をもっとも効率よく受けとるのがこの形だからである。このように,サンゴ群体の形は光や力学的環境(波など)に適応していることが理解しやすい,よい教材である。

 

5 サンゴ群体の上にすむさまざまな生物

ハナヤサイサンゴの枝の上や枝の中には,さまざまな動物たちがすんでいる。このサンゴは樹枝状で直径1030 cm程度のものが波静かなところでよく見られる。サンゴは硬い石(石灰岩)の枝分かれした構造物だから,小動物にとって隠れる場所の多い安全なすみかとなる。ハゼや巻貝,ウロコムシ(ゴカイの仲間)などがサンゴの上にすんでいる。ミスジリュウキュウズメダイは,ふだんはサンゴ群体のまわりにいるが,危険を感じるとサンゴの枝の間に逃げ込む。サンゴの岩に穴をあけて入りこんですんでいるカイメンやカイ(シギノハシの仲間),サンゴの骨格に埋もれて中でくらしているカニやフジツボもいる。サンゴは多量の粘液を分泌し,これを餌としてバクテリアがふえる。粘液やバクテリアを多くの動物が餌としている。サンゴはすみ場所を提供するだけではなく,食事も提供している。このため,多くの動物がサンゴの上にすむ。

ハナヤサイサンゴに上にすんでいるサンゴガニやサンゴテッポウエビはすみ場所と餌をサンゴから提供してもらっているが,彼らは単なる居候というわけではなく,おもしろいやり方でサンゴに恩返しをしている。サンゴを食べる大形のヒトデにオニヒトデがいる。これがサンゴを食べに来ると,エビやカニはサンゴの枝の間から出てきてオニヒトデの体をはさみで切ったりはさんで揺さぶったりしてオニヒトデを撃退してサンゴを守るのである。

[カニの虫こぶ] 図5gの虫こぶの中には,サンゴヤドリガニが入っている。このカニの若い個体がサンゴの枝の間にとりつくと,とりつかれたサンゴの部分は,ちょうど花びらのように短く薄い枝の芽を放射状に出し,この枝がチューリップの花のように成長してカニを取り囲む。そして最終的には数ミリの穴を残すだけで,完全にカニを封じ込めた虫こぶとなる。虫こぶの中は安全なすみかだが,カニは中に閉じこめられ,外には出られなくなる。カニは水流を起こし,その水流にのって穴を通して外から入ってくる微細な粒子を食べる。虫こぶをつくるのは雌だけで,雄は大変小さく,交尾のときには虫こぶの小さな穴を通って雌のもとに来る。

 

   トピックス                           

サンゴ礁

サンゴ礁をつくるサンゴは造礁サンゴとよばれ,刺胞動物花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴ目に属する(宝石のサンゴは八放サンゴ亜綱に属し別の仲間である)。造礁サンゴと同じ仲間にイソギンチャクがおり,サンゴは石(炭酸カルシウム)の家をつくるイソギンチャクと思えばよい。サンゴ礁とは「熱帯の浅い海でサンゴをはじめとする造礁生物が成長し,それが死亡することによって残された骨格が堆積して固められ,波浪に耐えるように形成された浅瀬」と定義できる。サンゴの石の家はさまざまな動物にすみかを提供するとともに,サンゴ礁の島を形成することにより,その上に人間を住まわせたりもする。オーストラリア大陸の東岸に沿って2000 kmにもわたって続くグレート・バリア・リーフは月からも見え,生物のつくった最大の構造物である。サンゴ礁は生きものが環境をかたちづくる大変よい例である。

 

サンゴ礁域の「美しい」海水

サンゴ礁の海はじつに美しい。ガラスのように透明感のある水。海底はサンゴが砕けたまっ白い砂。そこに青や緑や紫や褐色のサンゴの林があり,その林の間を色鮮やかな熱帯魚がほんとにたくさん泳いでいる。サンゴ礁の海に潜ってみると,私たちが生きものに囲まれて生きていることが実感できる。こういう実感をもつことは,教育上,きわめて重要なことだと思われる。

サンゴ礁の海の水はきわめて透明なのだが,これは水中に浮遊している粒子が少ないことを意味している。浮遊粒子には,プランクトンや有機物のかけらなどが含まれ,これらが少ないということは,光合成する植物プランクトンが少ないし,餌となる有機物の粒子も少ないわけで,結局,サンゴ礁のきれいな海の水とは,栄養の少ない環境(貧栄養の環境)であることを意味するのである。

 

サンゴと褐虫藻の共生

サンゴ礁をとりまく外洋には生きものが少ない。少ない原因は窒素やリンが外洋の水中に少ないため,光合成するプランクトンがあまり育たないからである。ところがサンゴ礁には多くの生物が住んでいる。生物の少ない外洋を砂漠にたとえ,その中で例外的に生きものの豊富なサンゴ礁を「海のオアシス」とよぶことがある。

サンゴ礁の海水中も,まわりの海と同様にリンや窒素が少ない(だから水中にはプランクトンが少なく,水中を浮遊している有機物も少ない)。このように栄養の少ない水なのにもかかわらず,サンゴ礁にはたくさんの生物がすんでいる。それはサンゴと褐虫藻との間の共生がたいへんうまくはたらいていることによる。

褐虫藻はサンゴの体内で光合成し,光合成産物(グリセリンなど)の大半をサンゴに与えてしまう。藻自身が使うのは,わずか1割なのである(下表参照)。一方サンゴは,藻に対してさまざまなサービスを提供する。まず安全なすみか。サンゴのつくる石の家は大変安全なものである。また,サンゴ群体の形は木や葉の形のように,光合成に都合の良い形となっている。サンゴによっては,熱帯の強い紫外線をカットするフィルターを用意しているものもある。サンゴは自身の排泄物であるリンや窒素を褐虫藻に与える。これらは熱帯の海の中では不足になりやすいものである。また,サンゴの呼吸で出てきた二酸化炭素も藻の光合成で使われる。結局,サンゴの不要物が藻によって使われ,藻のあまったもの(光合成産物や,光合成でできてくる酸素など)がサンゴによって使われと,栄養分のリサイクルがサンゴ−藻類複合体で起こっている。このリサイクルが大変にうまくはたらき,熱帯の強烈な太陽エネルギーを効率よく物質エネルギーに変換することができる。サンゴは体外に大量の物質を,主として粘液の形で分泌しており,それがサンゴ礁の多くの生きものを養っている。また,豊富なエネルギーを石の家をつくることに割り当てることができ,サンゴ礁という壮大な構造物をつくることもできるわけである。

 

▼ サンゴ(ヘラジカハナヤサイサンゴ)とその体内の褐虫藻のエネルギー収支

(単位はジュール。晴れた124時間の値)

収入

支出

 

呼吸

成長

体外へ

褐虫藻 250.7

(光合成)

24.6

0.2

225.9

(サンゴへ)

サンゴ 225.9

(褐虫藻より)

103.6

2.0

120.3

(粘液など)

 

サンゴ礁の分布

サンゴ礁が発達するためには,いくつかの条件が満たされる必要がある。@水温が18.5℃以下にはならないこと。このため,サンゴ礁は熱帯と亜熱帯域に限られる。

A水深が40m以下の浅い海であること。サンゴに共生している褐虫藻が光合成する必要があるのだが,光は水の層に吸収されるため,深いところにはサンゴは生育できないためである。B水が透明であること。濁った水ではやはり光が吸収されてしまい,褐虫藻の光合成量が下がってしまう。

暖かい海でなければサンゴが育たない理由は,温度が低いと褐虫藻との共生関係が保たれないためだといわれている。

温度の制約のため,サンゴ礁の見られるのは南北回帰線にはさまれた海域に限定される。その海域であっても大量の土砂が流れ込む大河の近くにはサンゴ礁は発達しない。また,寒流が流れ込む海域(たとえばチリの沿岸)にはサンゴ礁の発達が悪い。逆に暖流が流れているところでは少々高緯度でもサンゴ礁が見られる。沖縄は黒潮という強力な暖流に洗われているため,緯度的にはかなり高緯度であるが,世界で最もサンゴの豊かな海域の一つとなっている。

 

サンゴの白化

最近,全世界のサンゴ礁で,サンゴが白っぽく変色して死ぬというサンゴの白化現象が見られ,大きな問題となっている。サンゴと共生している褐虫藻がサンゴから抜け出てしまい,それまで褐虫藻の色で褐色が基調だったサンゴの色が白っぽく見えるため,白化とよばれる。異常に高い海水温が原因で白化が起こると考えられ,地球温暖化の影響がこのような形で表れているのではないかと心配されている。

地球温暖化と関連した話題としては,サンゴは炭酸カルシウムの骨格を大量につくるため,空気中の二酸化炭素を骨格として固定し,二酸化炭素濃度を下げるという形で地球温暖化を防ぐはたらきがあるのではないかと期待されていた。しかし実際に測定した結果では,大気中の二酸化炭素を下げる効果はないだろうという結論になっている。

サンゴ礁の破壊を引き起こすものとして話題になるものにオニヒトデがある。オニヒトデは直径が60cmにも達する大形のヒトデである。ふつうヒトデは腕が5本であるが,オニヒトデは約15本あり,このヒトデが大発生してサンゴを食い尽くすことがしばしばある。オニヒトデはサンゴ群体の上に乗り,口から胃を反転させて吐き出し,消化液を出してサンゴの軟体部を溶かし,その場で吸収して食べる。このようなやり方のため,サンゴがいくら硬い石灰の殻で身を守っていても,オニヒトデに対しては無効である。

オニヒトデが大発生する原因には,人間の活動がかかわっていると考えられている。サンゴ礁域の人口が増えると,有機物を含んだ水(生活排水や農耕地の肥料を溶かしこんだ水)が陸から海へと大量に流れ込む。このような富栄養化した海水中では,オニヒトデの幼生の死亡率が下がるため,大発生につながるといわれている。

 

<参考文献>

本川達雄,「サンゴ礁の生物たち」,中公新書(1985)

●西平守孝,酒井一彦,佐野光彦,土屋誠,向井宏,  「サンゴ礁 生物がつくった〈生物の楽園〉」,  平凡社(1995)

 

<関連リンク>

琉球大学理学部海洋自然科学科 日高道雄研究室

http://www.sci.u-ryukyu.ac.jp/labo/bio/bio09.html

日本サンゴ礁学会 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jcrs/

 

 

 

 








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