トップ理科総合B 改訂版2部 生物の変遷と自然のつり合い>第2章 生物の変遷と多様性>第3節 植物の多様性

3節 植物の多様性

 

31 緑藻類(オオヒゲマワリ)

32 磯の藻類

34 コケ植物の体のつくりと一生/図36 シダ植物の体のつくりと一生

何を植物界に含めるか

藻類

陸上植物

コケ植物の生活環

シダ植物の生活

観察 植物の陸上への適応

図40 いろいろな菌類
花粉と種子

種子植物と花

胚珠と被子植物,裸子植物

菌類

種子植物と胞子

真菌類による木材の分解

発酵


 

A 藻類 B 種子をつくらない陸上植物

 

   教科書の主な図表の解説                           

31 緑藻類(オオヒゲマワリ)

 沼や水田にふつうに見られ,単細胞の個体が多数(数千個)集まった定数群体をつくる。オオヒゲマワリの個体は寒天質の基質の表層に並び,大きな球形となる。内部に見られる丸い塊は娘群体。

定数群体2個以上の単細胞生物が連結してあたかも一個体のように行動し,無性生殖により親群体と同様な娘群体をつくるもの。

 

32 磯の藻類

われわれのよく目にする大形の藻類は,体の色によって緑藻,褐藻,紅藻の3つの群に大別される。藻類の体色と生息場所には関係がある。だいたいにおいて紅藻は深いところにはえ,緑藻は浅いところ,褐藻は中間域にはえている。19世紀末,エンゲルマンはどの波長の光が光合成に有効かを調べ,緑藻では赤色光,褐藻では青色光と青緑色光,紅藻では緑色光が最も有効なことを示した。つまり体色と補色の関係にある波長の光が有効であった。太陽光は海水によって波長の長いもの(赤の方)から吸収されるため,緑藻は浅海に,紅藻は深いところに,褐藻は中間に,という垂直分布が生じるというのが補色適応説である。これで多くの場合は説明がつくが,浅いところでも太陽光のよくあたるところには緑藻が見られ,日陰には紅藻が見られるということもあり,分布は波長だけではなく,光量も関係すると考えられている。

緑藻と褐藻は垂直分布の違いの他に,南と北とでも分布が違う。日本の沿岸では,南に行くにしたがい,褐藻よりも緑藻の比率が高くなる。

 

34 コケ植物の体のつくりと一生/図36 シダ植物の体のつくりと一生

コケ植物とシダ植物は種子をつくらない陸上植物である。種子ではなく胞子をつくって増える。コケもシダも世代交代をする。

「コケ」としてわれわれの目につくのは配偶体の世代であり,その植物体の上に造卵器や造精器ができ,卵や精子がつくられ,卵が受精するとそれが胞子体になるが,これは小さなもので,配偶体の上に寄生して生活する。胞子体で減数分裂により胞子ができ,これがばらまかれて,新たな配偶体へと成長する。

シダの場合はコケとは逆で,われわれの目につくのは胞子体の世代である。胞子体では減数分裂により胞子がつくられ,胞子がばらまかれて発芽し,配偶体である前葉体となる。前葉体の上に造卵器や造精器が生じ,受精卵は配偶体へと成長する。

コケとシダの大きな違いは,シダには維管束があるが,コケにはない点である。コケは丈高く成長することはないが,これは体を支えたり水を高いところまで運ぶ役目をはたす維管束をもたないことと関係があるだろう。

 

   教科書の内容の解説                           

何を植物界に含めるか

生物は長い間,動くか動かないかによって,動物界と植物界とに分けられてきた。この教科書ではそれを踏襲している。ただし近年は生物を5界に分ける分類法がよく使われており,それに従えば,植物界に属するのは,陸上植物(コケ,シダ,種子植物)だけであり,藻類は原生生物界,菌類は菌界に属することになる。

 

藻類

光合成する生物のうち,陸上植物を除くもので,主に水中生活する植物の総称が藻類である。藻類にはさまざまなものがある。単細胞で泳ぎ回るユーグレナ藻類(ミドリムシの仲間)のような小さなものから,多細胞で100mの長さにもなる巨大なコンブの仲間(褐藻)のようなものまで,大きさだけでも多様である。

陸上植物は緑藻の仲間の車軸藻から進化したと考えられており,緑藻のもっている光合成色素は,陸上植物と同じクロロフィルabである。クロロフィルaは光合成生物に共通して見られるものだが,クロロフィルbは褐藻や紅藻にはない。褐藻は褐色のキサントフィルであるフコキサンチン,紅藻は赤いフィコビリンタンパク質であるフィコエリトリンをもち,これらは光合成に関与している色素である。

藻類には緑藻,褐藻,紅藻以外にも,多くの仲間があり,これらの多くは単細胞である。たとえば,灰色藻類,クリプト藻類,珪藻類,黄緑藻類,ハプト藻類,渦鞭毛藻類,ユーグレナ藻類,クロララクニオン藻類などである。

クロララクニオン植物門(Chlorarachniophyta); 海産の単細胞緑色藻の一群で,以前は不等毛植物門に入れられていたが,クロロフィルabをもつこと,細胞の微細構造が他の藻類と大きく異なることから,1984年にD.HibberdR.Norrisにより新たな門が創設された。細胞は糸状の偽足をもつアメーバ状,細胞壁をもつ球状,または鞭毛を一本もつ遊走性。多数の緑色の葉緑体をもつ。

 

陸上植物

 生物の多様性は,多様な環境に適応してきた結果であると考えられる。生物は水中にすんでいたが,まず植物が陸に進出した。今から44.5億年前のことだと言われている。それ以来,今見るようなさまざまな陸上植物が進化してきた。

陸上植物には,陸上生活のためのさまざまな適応が見られる。乾燥から身をまもるため,体の表面にクチクラ層をもった。胞子が厚い胞子壁で覆われているのも乾燥対策である。陸上では水による浮力がはたらかないため,体を支える支持組織として,維管束が発達した。維管束はまた,水を運び上げる管の役割ももっており,これも陸上生活への適応である。地中から水や養分をとり込む根も発達した。光合成に必要な二酸化炭素を空気中から取り入れるための気孔もつくられた。

 

コケ植物の生活環

コケ植物の胞子体は葉緑体をもたず,雌性配偶体に寄生した状態である。有性世代の配偶体のほうが大きく,葉緑体をもち光合成をする。受精の際は,降雨などで植物体の表面や地表がぬれているときに,精子が水中を泳いで雌株の造卵器に入り,卵と合体する。受精卵は造卵器の中で発生し,胞子体となる。胞子体は配偶体に付着して成長し,その上部に胞子嚢 (さくともいう)ができる。この中で減数分裂によって多数の胞子が形成され,それが散布され地表で発芽し,糸状の原糸体となり,成長して雌雄の配偶体となる。

 コケ植物にはスギゴケに代表される蘚類のほかに,ゼニゴケなどの苔類がある。ゼニゴケでは雌雄のそれぞれの株には造卵器のできる雌器床と,造精器のできる雄器床が形成され,外見上も明らかに区別できる。また,胞子体は雌器床の下へぶらさがるような状態で付着する。それに対し,蘚類は造精器や造卵器が茎の先端につき,葉の中にかくれているために,雌雄の区別はむずかしい。

 

シダ植物の生活環

無性世代とは,受精卵が発生して根・茎・葉の植物体ができ,その葉の裏面に胞子をつくるまでである。この世代の核相は複相 (2n)である。有性世代とは,胞子が芽生えて直径3mmぐらいの前葉体ができ,前葉体の中心部の造卵器に卵ができ,前葉体の下部の造精器に精子ができるまでである。この世代の核相は単相(n)である。

 図36のイヌワラビは真正シダ類に属するものであり,1種類の胞子から形成される前葉体に造卵器と造精器ができる。しかし,スギナでは,同形であるが,雌雄の別のある2種類の胞子をもち,発芽してそれぞれ雌性前葉体と雄性前葉体となる。クラマゴケやミズニラ類の場合は,大胞子嚢と小胞子嚢が形成され,それぞれから大胞子と小胞子がつくられ,大胞子は雌性前葉体に,小胞子は雄性前葉体となる(まとめると,大胞子嚢→大胞子→雌性前葉体;小胞子嚢→小胞子→雄性前葉体)

 

観察 植物の陸上への適応

<指導目標>

(1) 双子葉植物の維管束の観察を通じて,植物が陸上へ進出するためには,水の確保が重要課題であったことを理解させる。

(2) 二重染色法によって,維管束は道管と師管から成っていることを理解させる。

 

<準備と留意点>

(1) 薄い切片を得るため,かみそりはよく切れるものを用意する。メスやカッターナイフは,刃が厚く不向きである。また両刃かみそりの場合は,ペンチ等で縦に2つに割って使えば,手を切る心配がなく安全である。

(2) サフラニン液は塩基性色素で,核や木化した細胞壁を染める。すなわち,道管壁,繊維状の組織(道管の周囲に存在する木部繊維,師管の外側に存在する師部繊維:両者とも存在しないこともある)などを赤く染める。ライトグリーン液は酸性色素で,細胞質やセルロースを染める。すなわち,髄,師管,形成層,伴細胞(師管に接着する細胞:存在しないこともある)などを緑色に染める。

 

<方法と留意点>

(1) きれいな像を得るポイントは,できるだけ薄い切片を作ることである。しかし,均一な薄さの切片を切り出すことは難しいので,切り口が茎の長軸に対して斜めになっても構わない。むしろその方が,切片の端の方が薄くなり,観察に適した像が得られる。かみそりは茎に直角に押し当てるのではなく,刃に沿って引くようにして切るとよい。なかなかうまく切れないので,10枚くらい切片を作り,その中から特に薄く切れたものを用いる。

(2) 染色時間が短いので,切片をピンセットでつまんだまま染色液をくぐらせる。

(3) 染色液を調整するときは,染料を最初から水で溶くのではなく,少量のメタノールで溶いてから規定量の水で溶けばきれいに染まる。

 

<結果>

(1) 横断面:赤く染まった道管,緑に染まった師管が観察できる。双子葉植物では,木部(道管を含む)と師部(師管を含む)が形成層をはさんだ維管束が茎の断面中に環状に配置されており,単子葉植物では維管束が散在しており,形成層はない。

(2) 縦断面:道管では,管を形成する細胞を上下に仕切る細胞壁が失われており,その痕跡が環状やらせん状の文様を作っている。師管では,この細胞壁は穴のあいた篩(ふるい)状の隔壁(師板)となって残っているのが観察される。

 

<考察>

維管束の発達と陸上生活への適応について考察する。

 

<発展>

 単子葉植物の茎の維管束を観察する。食用のタケノコの水煮を用いれば簡便である。水煮を角材状に切って切片を切り出す。

 双子葉植物の葉の切片を作り,葉脈(主脈)の中の維管束を観察する。茎での配置と比較する。

 

C 種子をつくる植物 D 菌類

 

   教科書の主な図の解説                           

40 いろいろな菌類

 担子菌類(シイタケ,ドクベニタケ)の子実体と,子嚢菌類(コウジカビ,アオカビ)および酵母。コウジカビの丸い部分やアオカビの筆のような部分が無性生殖する分生子のできている部分。酵母には担子菌や子嚢菌やほかの菌に属するものなど,さまざまなものがある。

 

 

   教科書の内容の解説                           

花粉と種子

コケやシダでは,受精の際に精子が卵まで泳いでいくため,受精には雨などの水のある環境を必要とする。それに対して種子植物では,受精のために個体間を長距離移動するのは花粉であり,花粉は風に運ばれたり昆虫に運ばれたりするので,移動に水を必要としない。めしべの柱頭にたどりついた花粉は,柱頭中で花粉管をのばしながら,子房にある胚のう内の卵へとに近づいていく。花粉管内の精子は,乾燥した環境である外界にさらされることなく卵へと運ばれるわけで,これは陸上という環境に適応したやり方である。

受精卵は胚となり,これが新しい個体へと発生するのだが,胚をサポートするシステムを種子植物はつくりだした。種子である。しっかりと皮につつまれて栄養の蓄えもある種子は,乾燥に耐え,乾期や冬などの都合の悪い時期を休眠することにより,成長に適した時期に発芽できるようになった。

種子植物と花

種子植物の前葉体にあたるものは,すべて花という生殖器官に集まっている。目立つきれいな花をつけるのが被子植物であり,陸上植物のほとんどがこの仲間で占められている。目立つ花は,昆虫を利用して受粉するための仕掛けである。植物は動けないため,違った個体間で交配するには工夫がいる。

被子植物は乾燥に耐える花粉(雄の前葉体)という形で,昆虫によって他個体の花へと運んでもらうシステムを開発した。きれいな花には,昆虫をひきつける仕掛けとしての目立つ花弁や蜜線と,外界にさらされずに受精を起こし,乾燥に耐える種子をつくるという仕掛けの,両方の精巧な仕掛けが備わっている。いずれも水のない乾燥した陸という環境への適応である。なお,種子植物は,かつて顕花植物とよばれることもあったが,花の定義にいろいろあるため,教育用語としては顕花植物を用いない。

胚珠と被子植物,裸子植物

 胚珠とは,のちに種子となるもので,中心部の珠心と,これを包む珠皮とからなっている。珠心中の細胞が減数分裂して雌の胞子(トピックス参照)となり,これから胚のう(雌の前葉体)ができ,その中に卵が形成される。受精が起こると胚(幼い植物体)となる。胚珠が外界に露出しているのが裸子植物,子房の中に包み込まれているのが被子植物である。

菌類

菌類は酵母,カビ,キノコの仲間で,カビは子嚢菌に,キノコは担子菌に分類される。酵母にはさまざまのものがあり,子嚢菌酵母,担子菌酵母,不完全酵母に大別される。菌類は,胞子を形成し,生活史のどの時期でも鞭毛が形成されない真核生物と定義される。大部分が陸生である。分子系統学の結果によれば,菌類は植物よりは動物により近縁の仲間とされる。

 

   トピックス                           

種子植物と胞子

われわれが目にする植物のほとんどが種子植物である。種子植物は種子で増える。それでは胞子をつくらないのかと言うとそうではない。おしべのやくの中で花粉ができるとき,花粉母細胞が減数分裂して花粉四分子になるが,これが雄の胞子なのである。花粉四分子はさらに細胞分裂して花粉になり,これが雄の前葉体(配偶体)にあたるものである。

 一方,雌の胞子はどうだろうか。めしべの子房中に胚のう母細胞ができてくる。これが減数分裂して胚のう細胞となったものが雌の胞子なのである。これがさらに分裂して胚のうとなったものが雌の前葉体(配偶体)にあたるものである。胚のうは,その中に卵をつくる。種子は,雌の前葉体が胚乳となって胚の栄養の供給源となり,さらにこの胚と胚乳を,親である雌の胞子体の細胞が種皮をつくって包みこんだものである。

種子植物においては,われわれが目にする大きな植物体はシダ同様,胞子体なのであり,前葉体はシダと違って独立してはおらず,親の体に寄生した形になっている。

 

真菌類による木材の分解

菌類は生物の遺体を分解し,資源を再度生物に利用可能にする分解者であり,物質循環において重要な役割をはたしている。植物に比べ,動物は分解しやすい。植物はセルロースでできた細胞壁をもっており,これは分解しにくいものだからである。植物でも樹木はリグニンを含んでいるため,草よりもさらに分解しにくい。

われわれ日本人は木材を建築材料として使ってきた。木材の分解(これを腐朽とよぶ)にかかわる主なものは木材腐朽菌とよばれる担子菌である。担子菌には,リグニンとセルロースの両方を分解できるものと,セルロースは分解できるがリグニンは分解できないものとがある。セルロースだけを分解する菌がはたらくと,木材は残ったリグニンによって褐色に見えるので,このような菌を褐色腐朽菌とよぶ。セルロースもリグニンも分解されると白い色になるので,両方分解する菌は白色腐朽菌とよばれる(これらは分類学上のよび名ではない)。食用になるシイタケ,エノキタケ,ナメコ,ヒラタケなどは白色腐朽菌,サルノコシカケ,ナミダタケ,オオウズラタケなどが褐色腐朽菌である。

 

発酵

 微生物の力を借りて有用なものを作り出すのが発酵である。日本酒,みそ,しょうゆ,納豆など,すべて発酵によってつくられた食品であり,日本は昔から発酵王国であった。発酵でつくられる代表は酒。醸造酒(ワイン,ビール,日本酒など)は酵母のアルコール発酵を利用してつくられる。日本酒は米を酵母で発酵させてつくるが,酵母だけでは酒はつくれない。酵母は米のデンプンを分解できないからである。そこでまず,コウジカビでデンプンを分解して糖にし,それに水と酵母を加えて発酵させる。

 パンも発酵食品である。小麦粉にイースト(パン酵母)をまぜ水でこね,寝かせてから焼く。発酵で出てきた二酸化炭素によりふっくらふくれ,また発酵でつくられたアルコールなどがパンに風味を与える。発酵食品は多い。ヨーグルトやチーズは乳酸菌による乳酸発酵,納豆は大豆を納豆菌で,米酢は米を酢酸菌で発酵させたものである。これらはみな,細菌(バクテリア),つまり原核生物による発酵である。

一方,カビや酵母は真菌類,つまり真核生物による発酵である。

 

<参考文献>

●マルグリスとシュヴァルツ,「五つの王国」,日経サイエンス社(1987)

●加藤雅啓, 「植物の多様性と系統」, 裳華房(1997)

●千原光雄,「藻類の多様性と系統」, 裳華房(1999)

 

<参考リンク>

●珪藻の世界 http://www.u-gakugei.ac.jp/~mayama/diatoms/Diatom.htm

●植物園へようこそ http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/

デジタル植物園(京都府立植物園) http://www.kyoto-np.co.jp/kp/koto/96plant/new.plant.html

国立科学博物館附属自然教育園 http://www.ins.kahaku.go.jp/

 

 

 

 

 








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