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4節 遺伝子の本体

 

10 グリフィスの実験(形質転換)

肺炎双球菌

S-R変異と形質転換

DNAの構造

DNAの複製

<参考> バクテリオファージの増殖

遺伝情報とゲノム


 

A 遺伝子とDNA

   教科書の主な図表の解説                           

10 グリフィスの実験(形質転換)

図に示す実験は,1928年グリフィス(Griffith)によって行われたものであるが,当時はこの結果が,どこまで信用できるかということに疑問がもたれていた。その後,アベリー (Avery)とその一門の研究により,ハツカネズミを用いなくても同様の結果が試験管内でも起こることがわかり,さらに1944年アベリーらは,99.5%純粋にしたDNAがこの変化を引き起こさせるのに有効であることを確かめ,DNAが形質転換を起こす物質であることを確認した。

 はじめは,無毒性の菌が死菌のさやをかぶって有毒性に変わるのだろうと単純に考えられていたが,タンパク質のさやは表現型(pheno type)であって,DNAこそ遺伝子であることが明らかになった。

 

   トピックス                           

肺炎双球菌

 肺炎双球菌は肺炎連鎖菌ともよばれ,肺炎の代表的な原因菌である。Crofonの報告では,298例のヒト肺炎のうち48%がこの菌によるものだという。菌体は0.51.25μmの大きさで,やや角張った球形の菌が通常2個ずつ対をなし,多糖類の莢膜に包まれている。マウスはこの菌に最も敏感な生物である。

 

S-R変異と形質転換

 ほとんどすべての寄生性細菌は,ふつう寒天培地上で表面が滑らかでみずみずしく膨らんだ集落(Smooth Colony)を作るが,これを人工的に継代培養すると,表面がざらざらでしわの寄った集落(Rough Colony)を作るようになる。これは菌自体の変化にともなうものであり,莢膜の消失,鞭毛の変化,運動能の消失,病原性の著しい低下などの変化が見られる。肺炎双球菌では,S型の時は莢膜をもち病原性を有するが,R型になると莢膜が消失し病原性も失う。

 この現象はS-R変異とよばれ,ある種のファージの存在や,アミノ酸の蓄積による増殖阻害などの外的要因によって起こりやすくなるが,直接的にはDNAに生じた変異によるものである。

 これに対し,菌体から抽出したDNAによって,ある形質がほかの菌に移される現象を,形質転換とよぶ。形質転換を起こさせるには,抽出DNAを培地中で菌に接触させる。DNAは菌体内に侵入して染色体の対立遺伝子に付着し,そこで遺伝子の組み換えが起こると考えられている。

 グリフィスは肺炎双球菌に対し,S-R変異という形質転換を人工的に起こさせたのである。

 

DNAの構造

DNAは分子量100万以上の高分子化合物であるが,その構造は単純なヌクレオチドのくり返しにすぎない。DNAを分解するとヌクレオチドとよばれる単位になる。ヌクレオチドは塩基+糖+リン酸であり,リン酸と糖はどれも同じであるが,塩基だけ4種類,アデニン・グアニン・シトシン・チミンが関与している。

 DNAの構造の研究は,まずシャルガフ(E. Chargaff)らによる4つの塩基の割合を調べた研究から始まった。その結果わかったことは,アデニンとチミンの量は常に等しく,グアニンとシトシンの量は常に等しいということである。その後,ウィルキンス(M.H.F. Wilkins)X線回折でDNA内の分子の配列を調べた。これらの結果をもとにして,ワトソン(J.D. Watoson)とクリック(F.H.C. Crick)は, 1953DNAの立体構造のモデルを提案した。

 この構造の特徴は,遺伝情報の担い手である塩基配列が保存されやすいように二重らせんになっており,常にアデニンとチミン,グアニンとシトシンが結合していることである。この塩基の結合は水素結合という弱い結合で,70ぐらいに熱すると,結合が離れてしまう。再びこれらを静かに冷却すると,もとの二重らせんにもどるが,急に冷却すると,一重らせんのDNAが得られる。

 

DNAの複製

核分裂の際,染色体は縦に2つに割れて,それぞれが2つの娘核に入るが,DNAは分裂前に合成されて倍加し,娘染色体へ分かれていく。このとき,DNAは単に量が2倍になるだけでなく,その情報も正しく複製される。

 DNAが複製される際は,まずATGCの間の結合が切れて,2本のらせん(鎖)が離れる。それぞれの鎖に,周囲を浮遊しているヌクレオチドが結合して新たな鎖を形成し,2組の二重鎖(らせん)がつくられる。このとき,もとのAのところにはTTのところにはAGのところにはCCのところにはGをもつヌクレオチドが結合するため,新しく合成されたDNAの構造(塩基の配列順序)は,もとのDNAの構造とまったく同じとなる。

 このようにして新たに合成されたDNAでは,2本のヌクレオチド鎖のうち,1本は古いものがそのまま流用され,もう1本はそれを鋳型にして作られた新しいヌクレオチド鎖である。このような複製の様式を半保存的複製とよんでいる。これも,ワトソンとクリックの考えた仮説であるが,それを裏付ける実験が1958年にメセルソンとスタールによって行われた。彼らは,セシウムやショ糖の密度勾配をうまく利用した超遠心分離法で,14N15Nをそれぞれ含むDNAのわずかな密度の差を明らかにして,半保存的複製を証明した。その後,ケインズ(1963)がオートラジオグラフ法によって細胞内でのDNAの複製が半保存的に行われることを明らかにし,また,真核生物においても,フィルナー(1968)がタバコの培養細胞を用いて確証している

 

<参考> バクテリオファージの増殖

 ハーシーとチェイス(1952)は大腸菌に寄生するT2ファージの増殖のしくみを明らかにした。

@T2ファージは自分のDNAのみを大腸菌の体内に注入する。

ADNAが自己複製する。

B多数のT2ファージができる。

DNAが遺伝子の本体である。

 

   発展の解説                           

遺伝情報とゲノム

[DNA分子の構造]

DNA分子は糸のように細長い形で,ヌクレオチドとよばれる基本単位からなる。ヌクレオチドは,ずらりと一列につながり,ポリヌクレオチド鎖となる。ポリヌクレオチド鎖は2本向かい合い,ねじれながら結合する(二重らせん構造)。結合部位は0.34nmごと,らせんのピッチは3.4nm,二重らせんの太さは直径2.0nmである。

ヌクレオチドは糖・リン酸・塩基からなり,上記の結合は,向かい合ったヌクレオチドの塩基部分どうしの結合である。塩基にはATGC4種類が存在し,ATGCが相補的に結合する。

このようなDNAのらせんをほどいて平面に押し広げたとすると,ハシゴのような形を示し,踏み段の部分に塩基どうしの結合がみられることになる。したがってDNAは,その二重らせんの内部に長軸に沿って,2列の塩基配列をもつことになる。ATGC4文字からなる配列が,生物にとって暗号文のようになっており,遺伝情報を与える。

ちなみに,ヒトの細胞1個に含まれるDNAの全長は1.8mである。成人1人は約60兆個の細胞からできているので,これを合計すると1.2×1011mとなる。これは地球から月までの距離の約840倍にあたる。DNAの直径が先述の通り2nmであることを考えると,その長さ,ひいては含みうる情報量の多さが実感できるだろう。

[形質発現]

生物がもつ形質は,それぞれ異なるタンパク質のはたらきによって生じる。例えば皮膚の色はメラニンの量で決まるが,メラニン合成反応は酵素であるチロシナーゼによって進められる。チロシナーゼを生成できない異常はアルビノと呼ばれ,皮膚や毛髪が白く,眼は血液の色が透けて赤く見える。ヒト以外にも,白ヘビ,白ウサギ,白いオオカミなどもアルビノである。

DNAは,直接的にはこれらのタンパク質をつくる。塩基配列は,アミノ酸配列すなわちタンパク質の種類を決定しており,細胞には,塩基配列からなる暗号文を解読し,アミノ酸の配列を決定するシステムが備わっている。

したがって,DNAがもつ塩基配列を解読することは,遺伝情報および形質(まだ発現していないものも含め)を知ることにつながり,重要となる。

[ゲノム]

1個体がもつ全塩基配列をゲノムとよぶ。ヒトの場合,1人がもつ塩基は約30億対である。そのすベてを解読しようというヒトゲノム計画が1990年にスタートした。1996年には,日米欧他6カ国が協力するプロジェクトが発足した。

コンピュータを用いた自動シーケンサーの進歩により,解読は予想以上のスピードで進み,20034月に,30億対の塩基配列のほぼ全てが解読された(解読不能の1%を除く。精度99.99%)。その結果は公表されている(日本DNAデータバンクhttp://www.ddbj.nig.ac.jp/fromddbj-j.htmlなど)

さらに200410月には,この中に含まれる遺伝子数は,従来の予想よりかなり少ない約22000個であることが明らかにされた。これらの遺伝子を構成する塩基配列は,全体の約2%にすぎないという。

なおここでいう「ヒト」とは特定個人を指すのではない。解読・公表されているのは,平均的なヒトゲノムである。各研究者は入手できたDNAサンプルについて分析を行い,多くの結果をつなぎあわせ,この平均的なヒトゲノムをつくり上げたのである。

[ポストゲノム]

ヒトゲノムが解読された今,得られた結果の利用について研究が進められている。その例として,オーダーメード(テーラーメード)医療があげられる。同じ環境下でも個人によって病気の発症の仕方は異なるし,同じ薬を服用しても個人によって効きぐあいや副作用は異なる。その差を遺伝子レベルで解明できれば,個人によって最適な治療が施せるという発想である。DNAには個人によって塩基配列の異なる部分(SNPs:スニプス)があり,この領域を解読することで個人差が解明できると考えられている。

一方で遺伝情報は究極の個人情報であるから,それが明らかになったとき,この情報をいかに管理するかという問題が生じることにもなる。

 

<関連リンク>

●森田保久の高校生物関係の部屋

(埼玉県立川越女子高等学校教諭のHPDNA抽出実験などユニークな実験方法を多数紹介

 http://homepage3.nifty.com/ymorita/hisa1.htm

 

 

 








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