トップ理科総合B 改訂版2部 生物の変遷と自然のつり合い>第1章 生物と遺伝>第2節 遺伝の法則

2節 遺伝の法則

 

4 メンデルの交配実験

図5 優性の法則

対立形質

優性の法則

実験材料としてのエンドウ

ヒトの形質

基礎的な遺伝用語

6 遺伝子と染色体

遺伝子

形質の決まり方

遺伝子記号

7 分離の法則

分離の法則

独立の法則

メンデルの生涯

メンデルの研究

メンデルの法則の歴史

独立の法則

検定交雑

実験 遺伝の規則性


 

A 対立形質 B 優性の法

 

   教科書の主な図表の解説                           

4 メンデルの交配実験

 メンデルは遺伝のしくみの解明をめざして,7組のはっきりした対立形質(代をかさねても変化せず,肉眼で違いがわかりやすいもの)に着目し交配実験を行った。それらの形質は図示されている通りであるが,茎の高さについては,高い=180230cm,低い=2346cmのものである。

 また彼は,種子が実って交配結果がきちんと得られるように,強壮な個体を選んで実験に用いた。さらにすべての実験で正逆交雑(父と母の形質を入れ換えた交雑)を行い,いずれも同じ結果を得ている。

 交配実験の結果はよく知られているように,雑種第一代の形質は両親の一方と同じであり,中間型のものはまったく表れない。雑種第二代では,優性と劣性の個体がほぼ31となる。ただしこのような明確な比を得るには,表中に示したように相当数の交配を行わなければならない。

 

5 優性の法則

 純系しわ種子を播いて得たエンドウの花粉を,純系丸種子を播いて得たエンドウのめしべにつけると,丸種子の植物体に種子(1)が実るが,それらはすべて丸種子である。逆に,しわ種子の花粉を丸種子のめしべにつけたときも,しわ種子の植物体に丸種子ばかりが生じる。

種子の形と色は,交配後すぐに次世代の形質が確認できるが,他の形質の場合は1年待たねばならない。

 

   教科書の内容の解説                           

対立形質

エンドウの種子の色は「黄色」か「緑色」であって,他の色や中間型(黄緑色)のものは存在しない。このように対になった形質を対立形質とよぶが,もっともシンプルな遺伝現象の結果だとみなせる。一方,生物のいろいろな形質をながめれば,第3の形質や中間型形質が見出されることも少なくないが,それらはシンプルな遺伝現象に特殊な事情が重なった結果だと考えればよい。

したがって遺伝の基本的なしくみを考えるためには,メンデルがそうしたように,対になった形質に着目するのが適当である。

また,着目している形質に関して1種類の遺伝子しかもつていない個体では,それらどうしを交配してもやはり同じ形質の個体しか生まれない。このような集団を純系とよぶ。もし純系に変異が生じれば,それは突然変異によるものだといえる。また純系の個体は,系統がはっきりわかりやすい。アルビノなど純系が実験用生物として用いられるのは,このような理由による。

ところで,メンデルの調べた7対の対立形質は,互いに別々の染色体に乗っていたわけではなく,その一部は相互に連鎖している。すなわち,種皮の色−子葉の色(1染色体,遺伝子間の距離=204センチモルガン),花の付き方−茎の高さ−さやの形(4染色体 距離はそれぞれ12112センチモルガン)のそれぞれが連鎖している。

しかし彼が2遺伝子雑種を調べるために行った交配実験は,子葉の色と種子の形についてだけであった。これらは実った種子を見ただけで形質が分かる(他の形質は実った種子を播いてみないとわからない)ため,実験が行いやすかったのだろう。これらの遺伝子は互いに異なる染色体に乗っていたため,独立の法則が見いだされたのである。

 

優性の法則

 「雑種では対立形質の一方が隠されてしまう」という現象が優性の法則である。そして隠される(または,表れる)形質はいつも決まっており,それが父親の形質であるか母親の形質であるかということは関係がない。F1に現れる形質を優性形質,現れない(隠される)形質を劣性形質とよぶ。

 メンデル以前にも,雑種の形質は両親(純系)のいずれかに似る場合が多いということは知られていた。メンデルの実験結果は,それを再確認したことになる。

優性と劣性との関係は,二倍体細胞の各対立遺伝子がそれぞれ作用を及ぼし合う結果としておこるものである。したがって,表現型はそれらの対立遺伝子の相互作用の結果を反映している。もし,一方の対立遺伝子が機能をもち,他方が機能をもたない場合は,前者が優性となって現れる。第二の対立遺伝子が第一の作用を抑制する場合は,第二の対立遺伝子が第一のものに対して優性となる。もし一方の対立遺伝子が,充分なだけの物質を作る作用がないならば,ヘテロの個体は両者の中間となり,優性も中間となる。メンデルも,雑種の形質が両親の中間型となる場合もあるという報告があることは認識していた。

 なお,劣性と訳された“recessive(退行の,逆行の)”という表現は,この形質が雑種では後退して見えないがその子孫に再び表れてくるところから用いられたものである。優性は“dominannt(支配的な)”であり,いずれも善し悪しの意味はもたない。

 

実験材料としてのエンドウ

 エンドウでは,おしべとめしべが竜骨弁という小さな花びらに包まれており,この中で自家受粉が行われる。つぼみのうちに葯が割れ,開花前に柱頭は花粉におおわれる(マメ科植物に共通の特徴)ため,他からの花粉を受粉することはない。また露地や植木鉢で簡単に栽培ができ,生育期間も比較的短い。このような特徴に加えて,先にあげたように明確な対立形質がみられるため,エンドウはメンデルの交配実験に用いられたのである。(5参照)

 

<参考リンク>

●島根大学生物資源科学部作物学研究室(エンドウの花の構造が見られる)

http://homepage2.nifty.com/crop_shimane-u/flower_pea.htm

●同上(花の構造等の実験.PDF)

http://homepage2.nifty.com/crop_shimane-u/experiment%20text_2.pdf

 

ヒトの形質

 われわれヒトがもつ形質には,単純な対立関係ではなく,何段階もの移行型(中間型)が存在する形質が目につく。身長や皮膚の色などがそれにあたる。しかし一方で,対立関係にある形質も見受けられる。耳垢の「ウエット(優性)」と「ドライ」,まぶたの「ふたえ(優性)」と「ひとえ」,つむじの「右巻き(優性)」と「左巻き」,左右の指を組んだとき「右が上(優性)」と「左が上」,PTC(フェニルチオカルバモイド)に苦みを「感じる(優性)」と「感じない」などがそうである。ただし上の例のうち,1組の遺伝子で説明できることが明らかにされているのは耳垢とPTCについてだけである。

 

<参考>隔世遺伝

現在は一般に見られない先祖の形質が,ある個体に偶然のように出現する現象は先祖がえりとよばれ,遺伝子の組み換えや突然変異などで説明される。そのうち祖父母の形質が孫に現れるものが隔世遺伝であり,これは遺伝子の分離で説明できる。

すなわち父母(F1)において優性遺伝子におさえつけられていた劣性遺伝子が,孫(F 2)においてホモとなって発現する場合などである。優性の法則は,存在する遺伝子がすべて発現するわけではないことを教えてくれる。

 

   基礎的な遺伝用語                           

交配

2つの個体間で受精や受粉を行わせることを交配といい,特に遺伝子型の異なる2個体間の交配を交雑という。

形質

生物の形や色などの性質,特徴をひとまとめに形質という。特に親から子に遺伝する形質を遺伝形質という。

対立形質

遺伝形質の中で,ある1つの観点から見て,対になったもの。例えば,花の色で赤色と白色とか,種子の形が丸いものとしわのあるものなど。

純系

同じ形質のものどうしを交配したとき,生じる子がすべて両親と同じ形質となるもの。遺伝子型はホモ接合。異なる純系どうしの交配によって生じた個体を雑種といい,遺伝子型はへテロ接合。

P(親世代)

ふつうは純系どうしを交配するときに,その親をPとして表す。

F1(雑種第一代)

純系の親どうしの交配(交雑)によって生じた子。

F2(雑種第二代)

F1どうしの交配か,植物の場合は,F1の自家受精によって生じる子。

自家受精

同一個体より生じた配偶子の間で行われる受精のことで,普通は植物で行われるもの。

優性と劣性

純系の親世代(P)の交配(交雑)の結果生じるF1で,外面上現れるほうの親の形質を優性といい,かくれるほうの親の形質を劣性という。

遺伝子

遺伝形質を現すもとになるものを遺伝子といい,化学的にはDNAを主成分とし,染色体を構成している物質。遺伝現象を説明するときには,1つの遺伝形質に対して1つの単位粒子があると仮定して考える。また,相同染色体上で同じ位置関係にある1対の遺伝子で,対立形質を表わものを対立遺伝子という。ふつう,同じアルファベットで表し,優性遺伝子は大文字(例えばA)劣性遺伝子は小文字(例えばa)が用いられる。

遺伝子型

個体のもっている遺伝子の組み合わせ。AAAaaaのような遺伝子記号で表す。

表現型

実際に外面上に現れる形質のこと。遺伝子型AAの個体の表現型は「茎が高い」のようにいう。

ホモ接合体とヘテロ接合体

遺伝子型がAAaaのように同じ遺伝子記号で表される個体をホモ接合体とよび,Aaのように対立遺伝子を両方とももつ個体をヘテロ接合体という。

 

 

C 遺伝子と染色体

   教科書の主な図表の解説                           

6 遺伝子と染色体

ある形質の遺伝子が,何番目の染色体上のどの位置に存在するかは決まっている(それらをまとめたものは遺伝子地図とよばれる)。さらに,対立遺伝子どうしはその位置が同じである。図では染色体上に種子の形遺伝子の存在場所を示してある。

 

   教科書の内容の解説                           

遺伝子

優性の法則を確認したメンデルは,雑種一代目では隠される形質(劣性形質)が,二代目,三代目の交配を行う中で,再び姿を現すのはなぜかを考えた。そして彼は,不連続な遺伝の単位(細胞中で混ざってしまったりせず,12個とかぞえることのできる粒子のような存在)を仮想することで,これらのことがうまく説明できることに気がつき,この単位をエレメンテン(要素)とよんだ。今の「遺伝子」に相当する概念である。

1つの形質には1つの遺伝子が対応する。対立形質に対応する1対の遺伝子を,対立遺伝子とよぶ。

 

形質の決まり方

遺伝子は細胞の中にあってその形質を決定するものであるが,生物の形質は1個の遺伝子だけで決まるのではなく,ふつう2個の遺伝子の組み合わせで決定される。その2個とは,父から受け継いだものと,母から受け継いだものである。別の表現をするならば,たとえ父親そっくりの目元をしている人でも,母親からも目の形に関する遺伝子は受け取っているということである。

ではこの場合,母親からの遺伝子は何をしているのだろうか。それは形質発現の力が弱いために,父親からの遺伝子に押さえ込まれていると考えられる。このことは,父親と母親の遺伝子が入れ替わっても同じである。つまり,対立する遺伝子間には表現力に強弱の差が存在し,両者が一緒になると強い方の形質だけが表れる。このようにして個体(細胞)の形質が決定されるため,優性形質をもつ個体は劣性形質の表れている個体よりも数が多い(ヒトの形質についてクラスで調べてみればすぐに体感できる)

このような仕組みによって,純系の優性と劣性どうしの交配によって生じる雑種第一代(F1)は,必ず優性形質を表すという「優性の法則」がみられることになる。

 

遺伝子記号

多くの場合,英語のアルファベットで遺伝子を表す。大文字が優性,小文字が劣性の遺伝子という約束である。

 各個体は1つの形質につき2個の遺伝子をもつが,その組み合わせにはAAAaaa3種類がある。このうちAAaa1種類の遺伝子しかもっていないのでホモ接合体( homogeneous=同質の)Aaはヘテロ接合体( heterogeneous=異質の)とよばれる。各遺伝子型に対する表現型は,AAAの形質,AaAの形質(優性の法則)aaaの形質,である。

 

<参考>染色体説

遺伝子と染色体には類似点が多く,遺伝子が染色体上に存在することが推測される。

(1)相同染色体の存在は,対立遺伝子の存在を裏付ける。

(2)減数分裂時に相同染色体が別々の配偶子に入ることは,対立遺伝子が別々の配偶子に入ること(分離の法則)を裏付ける。

(3)受精によって相同染色体が再び対になることは,子が父と母とのもつ遺伝子を併せもつ(対立遺伝子が再び対になる)ことを裏付ける。

メンデルの法則が再発見された1900年頃は,細胞分裂時の染色体の行動などの研究が進みつつあった。1902年にサットン()は,減数分裂時の染色体の行動をメンデルの法則と対応させて説明した。これは,メンデルの考えに対して,初めて細胞学的基盤を与えたものであった。最終的に,遺伝子が染色体上にあることを証明したのは1926年,モーガン()のショウジョウバエを用いた研究であった。

 

D 分離の法則 

   教科書の主な図表の解説                           

7 分離の法則

 ある個体が1対の対立遺伝子をもつとき,減数分裂によってこの対立遺伝子(相同染色体)は,別々の配偶子に入ることになる。その結果,Aをもつ配偶子とaをもつ配偶子が同数ずつできる。

このような個体を両親にもてば,生まれる子の遺伝子の組み合わせは,2×24種類(AAAaaAaa)となる。このような組み合わせを考えるには,図のようなマ

ス目の表を書くのがわかりやすい。これはパンネット(20世紀の遺伝学者)の考案し

た方法である。

 上の結果を表現型で眺めてみれば,〔A〕:〔a〕=31となる。

 

   教科書の内容の解説                           

分離の法則

生物体内では1つの形質を表すのに2個の遺伝子(1対の対立遺伝子)が関与している。このペアは, 1対の相同染色体上にそれぞれ存在し,配偶子ができるときには分離して,別々の配偶子に入る。これは分離の法則とよばれ,遺伝を考えるときの基礎となる最もたいせつな法則である。

分離の法則に従えば,たとえばAaの個体からは「Aをもつ配偶子」と,それと同数の「aをもつ配偶子」が生じることになる。

さらにこのことは,♂配偶子形成時にも♀配偶子形成時にも同様に起こるので,それらの組み合わせによって生まれる子は,まったく偶然によって,図7の表に示した4通りのいずかの遺伝子型をもつことになる(AAAaAaaa4通り)。したがって数多くの子が生まれれば,その中にこの4種類の遺伝子型の子は同数ずつ含まれるはずで,それを表現型で数え直せば,[A]:[a]=31となるのである。

メンデルは純系どうしの交配で雑種を得,さらに雑種どうしの交配(自家受精)を何代にもわたって繰り返した。そこで得られた各形質の個体数は,分離の法則が示す結果とぴったり一致するものであった。

 

   発展の解説                           

独立の法則

 たとえば種子の色と形という,2種類の特徴に同時に着目してみよう。そこには,(黄色で丸)(黄色でしわ)(緑で丸)(緑でしわ)4種類の種子が存在する。これらの形質はどのように遺伝するのだろうか。

メンデルが,黄色で丸い種子をつける純系の個体と,緑でしわのある種子をつける純系の個体を親世代(P)として交配したところ,子世代(1)はすべて(黄・丸)であった。次いで,このF1どうしを交配すると,得られたF2における分離比は次のようになった。

(黄・丸)(黄・しわ)(緑・丸)(緑・しわ)9331

 この結果は一見,これまでに学習していない特殊な遺伝のように見えるかもしれない。しかしF2の分離比を書き直すと次のようになり,これまでに学んだような,1種類の特徴だけに着目した場合と全く同じ結果であることがわかる。

黄: (93)(31)31

丸:しわ=(93)(31)31

すなわち,形と色の遺伝子は,互いに影響しあうことなく次世代に伝えられるのであり,これを独立の法則とよぶ。独立の法則によれば,遺伝子型AaBbの個体から生じる配偶子は,ABAbaBab4種類であり,それぞれ同数ずつ作られることがわかる。

 

メンデルの生涯

グレゴール ヨハン メンデル(Gregor Johann Mendel)は,1822722日に現在のチェコ,ボヘミアのハインツェンドルフという小さな村に農夫の子として生まれた。高等学校卒業後ブリュン(Brünn)の僧院に入り神学を修め,後にウィーンの大学に学び,卒業後ブリュンの高等学校で教鞭をとった。彼の名を不朽に留めたエンドウの実験は,この教師生活中の8年間を費やして行われたものである。1868年僧院の長となり,実験園を拡張して研究をさらに拡げようとしたが,1871年から寺院財産課税法のことで政府と争い,10年経過してもなお解決せず,加えて彼の論文の価値が認められないために,失意のうちに,18841661才でこの世を去った。

生前に口癖のようにいっていたといわれる「今にきっとわかる」“Meine Zeit wird

schonkommen”ということばはあまりにも有名である。

 メンデルの科学者としての生涯は1859年から1872年の間で,エンドウの実験とヤナギタンポポ(Hieracium)の実験とは,それぞれ1866年と1870年にブリュンの博物学雑誌にのせられた。しかし,この2つの論文は彼の実験の一部にすぎず,多くの植物が実験材料として使われ,さらに植物のほかにミツバチの遺伝にも手をのばし,また天文学の研究や気象学にも興味をもち,特に太陽の黒点の観測を熱心に行い,これに関する論文も出している。

 

メンデルの研究

メンデルの登場以前,多くの育種家たちによって交雑の研究が行われていた。彼らは個体(いくつもの形質をあわせもった存在)を単位として遺伝現象を考えようとし,個々の形質を単位と考える発想はなかった。また,交配の結果を数えて形質の分離比を定量的に扱うということもなかった。そのため,根本原則を見い出すまでに至らなかったし,言い換えればこういった点がメンデルの研究上のアプローチとして際立っていた点である(彼は修道院の庭でエンドウをひたすら数えつづけた。教科書p.745を見れば,彼がいかに多くの個体を扱い,それを定量的に処理したかがわかるであろう)。これはメンデルが,物理学を学んだこととも関連があると思われる。ちなみに,彼のウィーン大学での指導教官は,ドップラー効果で名を残しているC.ドップラーであった。

メンデルは46世代にわたって自家受精を繰り返し,得られた結果から,第n世代の分離比が,AAAaaa2(n-1)122(n -1)1で表せることに気づいた。これは,個別的な遺伝因子の存在を形質ごとに仮定した場合の結果とぴったり一致する。さらにこの結果は「雑種は親の形質に帰る傾向を有する(各世代における雑種の比率が小さくなっていく)」という育種家たちの観察結果を支持するものであった。両親の「血」が混ざって子の形質が決まるというような曖昧なとらえ方ではなく,形質ごとに原因要素を想定するという分析的な思考の結果によって,複雑そうに見える遺伝現象のしくみが明らかにされたのである。また彼の行った実験は,仮説検証の姿勢に基づき,実験生物の選定段階から極めて綿密に計画されたものでもあった。このことも,現象の背後に存在する法則性を発見するに至らせた大きな要因である。

 

メンデルの法則の歴史

メンデルの論文「植物雑種に関する実験」(1866)の中で示された遺伝の根本原則が,ドイツのコレンス(C. Correns),オーストリアのチェルマク(E. Tshermak),オランダのド・フリース(H. de Vries)3人の学者によって再発見されたのは1900年のことである。この根本原則がコレンスの命名により今日にいたるまでメンデルの法則とよばれている。

メンデルの論文中には個々の法則が列挙されているわけではないが,一般には分離の法則,独立の法則,優性の法則の3つをメンデルの法則としている。しかし,学者のなかには,このほかに純粋の法則をつけ加えるものもあり,また分離の法則をメンデルの全法則の基底と考え,これをもって代表すると考える学者もいる。

分離の法則はメンデルの発見の根幹をなすものだが,これは彼が,遺伝子は単離して個数を数えることができる粒子のようなものだ,と見抜いたことによって初めて明らかにできた法則性であった。メンデル以前には,遺伝は「血」のような連続した因子が混ざり合う現象であり,その配合によって形質が決まると考える人々もいたのである。メンデルの3法則のうち,優性の法則には中間雑種という例外が存在し,独立の法則(理科総合Bでは扱わないが)には連鎖という例外が存在するが,分離の法則はいつでも成り立っている法則である。

また純粋の法則とは,「異なる遺伝子どうしが,どのように組み合わせを作っても,相互に他の遺伝子から影響を受けることはなく,遺伝子は純粋に存続する」というもので,分離の法則から当然導かれる(分離の法則に含まれている)ので,別個の法則としてみなされないのがふつうである。しかし,純粋の法則は遺伝子粒子説の基礎として重要であるとして,一つの法則として取り上げる見方もある。

以上のメンデルの法則は,遺伝子が細胞核内の染色体上にある場合に成立するが,核外の細胞質に遺伝子のようなものが存在する場合には,メンデルの法則があてはまらない。このような遺伝は,非メンデル式遺伝(細胞質遺伝)とよばれている。

 ベーツソンなどにより,メンデルの法則が単に植物だけに限らず,動物にも通用されることが確かめられ,今日では生物一般に通じる法則として重要である。

 

独立の法則

わたしたちは,2個体が似ているかどうか判断するとき,無意識のうちにいくつもの形質に同時に着目していることが多い。2つ以上の形質の遺伝を同時に考える場合には,優性・分離の法則に加え,独立の法則について知る必要がある。

独立の法則とは

独立の法則とは,「2対以上の対立遺伝子は,配偶子に入るとき,たがいに独立に組み合わさる。また受精の際,雌雄の配偶子はそれぞれの遺伝子型に関係なく偶然的に受精する」という法則である。その結果,遺伝子型がAaBbの個体にはABAbaBab4種類の配偶子が同数ずつ生じ,その自家受精によってF2では,9331の分離比が得られる。

エンドウマメの形(丸/しわ)と色(黄/緑)を例にとれば,「丸遺伝子は黄遺伝子と組み合わさって子に伝わることもあるし,丸と緑が組み合わさることもある。それは偶然のみに左右され,その結果,F2では,丸黄:丸緑:しわ黄:しわ緑=9331となる。」ということを示している。

これは,遺伝子を乗せた各染色体が,それぞれ独立に子に伝えられることから,当然導かれる規則性である。したがって,同じ染色体に乗っている複数組の対立遺伝子に着目した場合は,独立の法則は成立しない(連鎖)。メンデルがとり上げた7つの形質は,いずれも異なる染色体上に存在する遺伝子によるものであった。

メンデルが行った実験

実験

P 種子の親株=丸黄×花粉の親株=しわ緑

Flすべて丸黄。

F2Flの自家受精で得られた556個の種子内訳は,丸黄=315,丸緑=101,しわ黄=108,しわ緑=32

これらF2を全てまき,得られたF3の形質から,F2各個体の遺伝子型を考察。

丸黄 の種子ばかりをつけたもの  =38

丸緑 の種子ばかりをつけたもの  =35

しわ黄の種子ばかりをつけたもの  =28

しわ緑の種子ばかりをつけたもの  =30

丸黄・丸緑 の種子をつけたもの  =65

しわ黄・しわ緑の種子をつけたもの =68

丸黄・しわ黄 の種子をつけたもの =60

丸緑・しわ緑 の種子をつけたもの =67

丸黄・丸緑・しわ黄・しわ緑の種子をつけたもの =138

発芽あるいは結実しなかったもの  =27

合 計               =556

考察

上の結果は,「形も色も純系」:「形または色の一方のみ純系」:「形も色も雑種」=124 ということである。

これは,{(丸純系)2(丸しわ雑種)(しわ純系)} ×{(黄純系)2(黄緑雑種)(緑純系)} を展開した結割に一致する。すなわち,形と色をランダムに組み合わせた結果となっている。

※メンデルはこの実験に先立つ研究で,1つの遺伝子のみに着目した場合の雑種の分離比は,

A(純系)2Aa(雑種)a(純系)

で表されることを結論付けている。

発展

メンデルはさらに,3遺伝子雑種についても実験を行い(種子の形,子葉の色,種皮の色),上の結論が支持されることを確認している。

指導上の留意点

生徒にとっては, 9331という比が,形のみに着目すれば(93)(31)31,色のみに着目しても31となっていることが,メンデルの考察を理解する助けとなるであろう。

また,当時の背景すなわち遺伝に関する人々の認識を知っておくことも,理解の助けとなる。当時は,血液のような不連続なものがまじりあって子の形質が決まるとか,父親(または母親)の影響のほうが強く子に現れるなどと考えられており,また,細胞分裂における染色体のふるまいについても明らかにはなっていなかった。メンデルが見出したのは,遺伝子という「数える事のできる粒子」が,全く「偶然

的に」子に伝わる(したがってシンプルな確率の問題である)のだということである。独立の法則につても,減数分裂などの知識が理解できていれば,とりたてて「法則」とよぶまでもない当たり前のことがらとして理解しうるであろう。

 

E 検定交雑

   教科書の内容の解説                           

検定交雑

交配実験の準備などに際して,ある個体がどのような遺伝子をもっているのか知りたい場合,劣性ホモ個体と交配し,子における分離比を調べればよい。これが検定交雑である。

なぜならば,劣性ホモの個体が子に与える劣性遺伝子は単独で個体の形質を支配することはなく,子の形質はもっぱらもう一方の親が与えた遺伝子によって決まるからである。いいかえれば,問題の個体の遺伝子型はストレートに子の表現型に反映される。

なお,交雑によって生じた雑種と,その両親のいずれか一方との交配を「もどし交雑」という。これには,次の2通りの組合せがある。劣勢ホモの親世代とのもどし交雑(2)が検定交雑である。

(1) F1×優性ホモのP表現型は,優性のPと同じになる。

(2) F1×劣性ホモのP表現型の比は,F1の配偶子の遺伝子型の種類とその比率を示す。

 

<参考文献>

●メンデル,「雑種植物の研究」,岩槻邦彦・須原準平訳(1999)岩波文庫

    リテャード・M・イーキン,「ダーウィン教壇に立つ」,石館三枝子・石館衝平訳(1994)講談社

 

 

実験 遺伝の規則性

<指導目標>

@ 遺伝子モデル(碁石)を用いて,メンデルの優性・分離の法則を確かめる。

A メンデルの法則は,確率の問題であることに気付かせる。

 

<準備と留意点>モデルとして用いるものは,碁石やビー玉,ボタン,カードなどいろいろ考えられる。碁石等は,ポケット内で混ぜて無作為に取り出すのに適している。カードを作る場合は,トランプ大で,厚手ケント紙かボール紙くらいの厚さのものが使いやすい。遺伝子記号を記入して用いる。表にA,裏にaと記入して,放り投げるようにして出せば,無作為の試行となりやすい。

 

<方法と留意点>

@ 実験者が親,ポケットが精巣や卵巣,碁石が1個の配偶子(配偶子中の遺伝子),碁石を出し合う行為が交配に相当することを確認させる。

A 試行回数が多いほど結果は理論値に近づくが,生徒の興味が続かないことと時間的制約から,1時間の実験では4050回が適当である。

 

<結果>結果例を示す(下表)

<考察>

@ 表現型の分離比は,丸:しわ=6121973.11131となり,メンデルの法則が成り立っていると考えられる。

A 1班分のデータだけではきれいな分離比になりにくいが,クラス全員分のデータを集約すると理論値に近づく。試行回数が多くなるほど理論値に近づくのは,メンデルの法則が確率の問題であることを示している。

 

<発展>41組になれば,二遺伝子雑種の実験が同様に行える。また色を塗った碁石を作り,3種類の碁石を用意すれば,後述のABO式血液型遺伝のモデル実験を行うこともできる。

 

 

 








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