トップ理科総合A 改訂版2部 エネルギー・資源と人間生活>第1章 力学的エネルギー>第1節 運動と力

1節 運動と力

 

◆速度と速度ベクトル

物体が直線上を運動する場合には,速度の向きは,運動方向のいずれかの向きを正として正負の符号で区別される。この場合,いずれの向きを「正の向き」とするかは任意であるが,この点に戸惑いを感じる生徒もいる。また,生徒が「速さ」と「速度」の違いを正しく認識できるよう,指導者としても用語の使い分けに注意したい。

理科総合Aでは基本的に一直線上の運動のみを扱うことから,教科書でも速度をベクトルとして扱う記述は最小限にとどめてある。

 

速さ

速さを表す方法には,『距離/時間』と定義する以外に『時間/距離』という考え方もあることは意外と認識されていない。100m競走では10sで走る者が12sで走る者より速い。これらの2つの速さの表し方のうち,物理では時間的変化という観点から前者を用いて体系化しているのである。かなり高度な課題となるが,後者による体系の可能性を考えさせてみてはどうだろうか。

 

平均の速度と瞬間の速度

ここでは,平均の速度の式が,数学で学ぶ2点を通る直線の傾きの式であることを強調することが大切である。そうすることによって,「x-tグラフの接線の傾きが速度である。」ことが直感される。平均の速度というある時間の間の(2つの時刻の間の)量から,ある時刻の(1つの時刻の)速度という質的発展に際しては生徒に認識を促す必要がある。数学で微分を学んでいれば,

時刻t1の瞬間の速度 

 

というように,時間を微小にとった極限で定義される量というように理解できるが,この時点ではおそらく微分をまだ学んでいないであろう。瞬間の速度というのは,電車や車のスピードメーターのある時刻での指示値のことというような納得しやすい例を挙げていくのも1つの方法である。

また,「接線」という用語も厳密にいえば微分を未習の生徒には,円の接線しか定義されていない。このように,生徒の数学での進度に配慮することが必要である。

 

平均の速さ

「平均の速さ」という用語は中学校理科で定義されたが,高校物理での変位,速度,速さの定義を考慮すると,「平均の速さ」という用語は定義に混乱が起こりかねない。典型的な例は,ある点から動きだした物体がある時間の後にその点に戻ったというときである。この間の変位は0であるから平均の速度は0である。しかし,もちろん瞬間の速度の大きさ(瞬間の速さ)の平均は0ではない。中学校理科での定義と同じ意味で使うためには,「平均の速さ」とは「平均の〔速度の大きさ〕」であり,「〔平均の速度〕の大きさ」ではないことを確認しておかなければならない。

 

◆等速直線運動

中学校理科の物体の運動についての学習では,記録テープを何打点毎かに切ったものを並べて,速さと時間の関係を得ていることが多く,時間的変化という概念が十分に形成されていないことがある。よって,生徒の実状を見ながら,等速直線運動のxtグラフ,vtグラフについて,十分習熟できるよう指導することが望まれる。

また,距離,変位,位置という量が混同して使われることによって,生徒が理解に苦しむことがある。指導の際にも配慮されたい。

 

加速度

「単位時間あたりの位置の変化」が速度であるのに対して,「単位時間あたりの速度の変化」が加速度であるから,その定義式も速度にならって定義できるわけである。すなわち,

 

時刻の瞬間の加速度 

 

このような抽象的な定義は.単純明解であるが,初学者には理解しにくい。速さが変わるならそれをどう表すとよいかと考えさせたり,車の出足のよさ,ブレーキの効き具合いなど,日常生活上の体験を思い出させて理解させるとよい。とくに,車に乗っているときに感じる力(後で学ぶ慣性力)が加速度に関係していることを述ベ,加速度を体感していることを強調するなどして,親しませるとよい。

速度と加速度の混乱は生徒によくあることなので,新幹線と通勤列車との比較などから,速度の大きい運動が加速度が大きいということではないことを理解させる。

加速度が負であるとはどんな場合であるかについても,説明をしておくべきである。速さが増えているのに,加速度は負という場合(例:=−3m/s=−5m/s)もあることなどを説明しておくとよい。

加速度の単位m/s2は生徒には理解しにくい単位であるから.その成り立ちを説明しておくとよい。

 

等加速度直線運動

変位を求める方法がこれまでに確立しているのは,等速直線運動の場合だけである。そこで,所要時間を微小な時間ごとに区切り,それぞれの時間内では等速直線運動をしていると考えるのである。

 

 

 

 

より正確に求めようとすれば,より微小な時間に区切る必要がある。このとき,変位を表す図形(近似したv-tグラフ)は正確なv-tグラフに近づいていく。このことから変位はv-tグラフの下の面積で与えられるとわかる。

 

 

 

これを区分求積法という。これを一般化した計算方法が積分である。

 

 

 

等加速度直線運動での変位xを求める方法として,よく知られた方法に,平均の速度 を用いて,

 

 

 

と求める方法があるが,この「平均の速さ」は「速度の時間的平均」ではなく,初速度と最後の速度の単純平均(個数平均)にすぎないことに注意しなければならない。ただ等加速度のときは両者は一致するだけのことである。

 

◆力の三要素

中学校で,力を図に表すには,力の大きさに比例した長さの矢印で表すことや,力がはたらいている点を作用点ということを学んでいるが,力の作用線は学んでいない。

力に関しては中学校で学んだことの理解が十分でない生徒も多いが,いろいろな場面で力のつり合いを考えたり,さまざまな状況に適応していく中で理解が深まっていくという側面もある。よって,導入段階では中学校で学んだことを復習しながら,重要な点を一つひとつ確認していくことが大切である。

@物体を変形させたり,支えたり,動きを変えるはたらきを力という。

A力には,筋肉による力,重力,摩擦力,静電気の力,磁石の力などがある。

B力はN(ニュートン)を単位として測る(中学校ではNしか学ばず,kgwは学ばない)

C力は矢印の長さと向きで図示し,力のはたらいている点を作用点という。

D物体に2つの力がはたらいても動かないとき,2力はつり合っているという。この2力は,同一直線上にあり,逆向きで大きさが等しい。

なお,作用・反作用の法則は中学校では学んでいない。

 

◆教科書における力の図示の方法

理科総合Aでは発展扱いになるが,運動方程式を正しく使うには,物体にはたらく力を正しく図示することが必要である。教科書での力の図示の仕方について説明しておきたい。

質点の力学では,物体にはたらく力はすべて1 (重心を選んだと考えるとよい)を作用点とする力の矢印で表すのが本来である。しかし,それではその力がどういう力かが一目ではわかりにくい。そのため,中学校でもしていたような,力を及ぼす相手がわかるような描き方をする。高校では,2物体間の作用・反作用を考慮し,2物体それぞれの運動方程式をたてるということがある。このとき,一対の作用・反作用の作用点を同じ点にすると,どちらの力がどちらの物体にはたらく力かがわかりにくい。これを明確にするため,2物体の接触面を少し離して描くことにした。こうして,作用点を向かい合うようにそれぞれの物体の中に描くことによって,どちらの物体にはたらく力かが一目でわかる。また,どの2力が作用・反作用の関係にあるかが一目でわかる。

 

 

 

◆力の単位

中学校では,力の大きさはばねはかりではかり,その単位はN(ニュートン)であると学習しているが,単位Nについての定義は一切学んでいない。物体をばねはかりにつるすと伸びることから,物体に重力がはたらいていることを示し,100gの物体にはたらく重力の大きさが約1Nであるとしている。従来,中学校では物体にはたらく重力の大きさを力の単位として用い,kgwなどの単位を用いていたが,現行の学習指導要領でこの点が変更されていることには注意が必要である。

また,中学校で単位Nを使うようになっても,「力とは,ばねはかりを伸ばすはたらきであり,その大きさは物体にはたらく重力を参考にはかられる」という扱いは従来とほぼ同様である。

 

◆フックの法則

現行の学習指導要領では,フックの法則が中学校での学習内容から削減されていることを意識した指導が求められる。実験を通して,ばねの弾性力の大きさがばねの伸びに比例することを体験的に学ばせるとともに,ばねの性質がばね定数によって表されることを理解させる。また,ばねの弾性限界についても説明しておくことが望ましい。

 

◆力のつり合い

中学校で学習した「2力のつり合い」の復習から始め,「力がつり合う」とは,「複数の力がはたらいているが,全体としては力のはたらきがない状態」であることについて認識を深めるよう指導するのがよい。

 

作用・反作用の法則

この法則については,次の点に留意しながら,生徒の実状に応じて指導をされたい。

1)力はそもそも2つの物体間の相互作用である。たとえば2物体AB間で及ぼし合うものである。その力の大きさをfとすると,このことを,「AからBに大きさfの力がはたらき,同時に,BからAに同じ大きさの力がはたらく」といい換えることができる。は同じ大きさで向きが逆であるから,である。この2力を作用・反作用という。

2)作用・反作用には因果の関係は考えられないから,2力のどちらを作用とし,反作用とするかの区別はできないが,便宜上,区別する場合がある。

例:机上におかれた物体が机を押すと,反作用として机の垂直抗力が物体にはたらく。

3)この法則は物体が静止してつり合っているときだけでなく,一方が他方を押しながら動いているときでも,また,互いに引き合って近づきつつあるときでも成り立つ。

 

 

なお,作用・反作用の法則を簡単,明瞭に表す実験は多くない。よく見かける上図のものは,2力のつり合いとの区別が難しいので,例として挙げることは慎重に行いたい。これを作用・反作用とみなすためには,相手の「ばねはかり」に引かれている「ばねはかり」という物体を考えることになる。これは,ばねはかりは物体なのかそれとも力の大きさを測る道具なのか,さらに自分が相手を引く力(弾性力)を測るのか,それとも相手が自分を引く力を測るのか,という混乱の原因となる。生徒の実状にもよるが,初歩の段階ではばねはかりは力の大きさを測る道具であるということに徹したほうがよい。もちろん,十分に慣れた段階では,正しく作用・反作用であることを説明できる。

 

作用・反作用と力のつり合い

はたらいている力が作用・反作用の関係にある2力なのか,それとも力のつり合いの関係にある2力なのかの判定は,生徒の理解がなかなか進まないところである。「何から何にはたらく力」,「何から何が受ける力」,「何が何を押す(引く)力」というように力を表す練習をした上で,「AからBにはたらく力」と「BからAにはたらく力」は作用・反作用の関係にあり,つり合いはある1つの物体にはたらくいくつかの力の間の関係であることを指導するとよい。

 

◆摩擦力

教科書に書かれているような摩擦の法則は,200余年前にクーロンが発見したものとされているが,ほぼ同じ内容のことをアモントンが300年程前に見いだしていたといわれ,さらにさかのぼれば,レオナルド・ダ・ビンチも400年ほど昔に,すでに摩擦について本質的ないくつかの点を発見していたようである。

摩擦の法則は経験的にかなり確かめられた法則ではあるが,物理学の基本法則を用いて摩擦力の原因を分子間力であるとして,正しく説明できるようになったのは, 20世紀の半ばを過ぎてからである。クーロン以来20世紀の初頭頃までは,接触面の目に見えない凹凸に沿って動く物体の上下動が,重力に逆らう動きから摩擦力が生じるものと考え,それで摩擦力の大きさのオーダーは説明可能であるとされていた。しかし,固体表面の数mmの凹凸よりさらに千分の1も小さい単分子膜の存在による境界潤滑効果による摩擦力の変化が確認され,凹凸説は完全にその根拠を失った。さらに,表面の接触をよく調べてみると,本当に接触しているのは不規則な凹凸した面どうしのごく限られた部分(真実接触面)のみで,大部分は隙間になっていると考えられ,この真実接触面の面積が強く押しつけられると,その押しつける力に比例して増えると考えれば,摩擦の法則をうまく説明できることがわかった。そして,真実接触面には摩擦力がはたらき,それは分子レベルで接近したときにのみ有効な力が生ずる。このような分子レベルで主役となる力の源泉は,電磁気力しかあり得ず,重力は小さすぎて問題にならない。こうして,摩擦力の原因は分子間力であることがわかった。ファン・デル・ワールスは,弱い引力が中性の分子の間にいつも作用しているとして,実在の気体の状態方程式を現象論的にうまく導き出していたが,1930年頃になって,量子力学を用いてこの分子間力をみごとに基礎理論から説明できるようになった。量子力学による解明をおおざっぱに直感的に説明すれば,分子は全体として中性であっても,その中には核や電子等の電気を帯びた粒子が存在し,電荷分布にゆらぎが生じ,時間的な平均はほとんど打ち消し合ってゼロになるが,距離の7乗に反比例する小さな引力が残って,分子間力またはファン・デル・ワールス力が生じるのである。分子間力はその作用の範囲が短いので,真実接触面でしか作用しない。上述のように,垂直方向に面を押す力が作用しているときには,真実接触面はそれに比例した大きさをもち,そこでは分子間力の効果が作用して摩擦力を形成する。しかし,摩擦を止めて垂直方向の力を取り除くと,真実接触面はほとんど消失し,もはや分子間力は作用しなくなり,摩擦力も生じない。この考え方でさらにその後,分子とコロイドの微粒子の間のふるまいなどもうまく説明できた。現在では,分子間力という量子力学に基づく物性論的な考え方と,接触変形論(硬さの科学)という材料力学的な考え方から発展した真実接触面という考え方の双方の発展を土台として,摩擦力は正しく理解できたものと考えられている。

参考文献:河野彰夫「摩擦の科学」(裳華房)

 

◆静止摩擦係数と動摩擦係数

摩擦力に関して,生徒はよく,

最大摩擦力=静止摩擦係数×垂直抗力

という関係を,

静止摩擦力=静止摩擦係数×垂直抗力

というように間違って覚えている。

動摩擦力=動摩擦係数×垂直抗力

というのは正しいので,これと混同してしまうのである。

最大静止摩擦力=最大静止摩擦係数×垂直抗力

というのなら,生徒は覚えやすいのであろうが,現実の用語はそうはなっていない。最大摩擦力という用語は,静止摩擦力の最大値という意味であり,そういう意味で最大静止摩擦力というべきである(そういう用語を使っていた書物もかつてはあった)が,静止摩擦力の最大値は動摩擦力より大きいので確かに摩擦力の最大値でもある。そのため,単に最大摩擦力という習わしとなっている。また,静止摩擦係数という言葉としては「最大値のときの」というニュアンスがない。このように,確かに生徒の誤りを誘う表現になっているので注意深く指導されたい。

 

◆摩擦係数と制動距離

摩擦は日常生活の様々な場面で有用なはたらきをしているが,中でも自動車のタイヤと路面との間の摩擦は重要なものの一つである。交通安全という実用的な面から摩擦を考えてみることで,認識を深めることも期待できる。

積雪がある場合や路面が凍結している場合などは,濡れている場合以上に摩擦係数が小さくなり滑りやすい。関連して,タイヤの表面にある溝や切れ込み(トレッドパターン)に注目してみるのも生徒の関心を高めると思われる。自動車のタイヤについてインターネットで検索したり,下記の文献などにあたるなどして,生徒に自由に調べさせても良いだろう。

 

〔参考文献など〕

「タイヤのおはなし(乗用車用タイヤ編)」社団法人日本自動車タイヤ協会

「安全運転の知識」警察庁交通局運転免許課・監修

「タイヤ博士の部屋」 http://www.yokohamatire.jp/yrc/japan/tire_professor/index.html

 

◆慣性の法則

アリストテレスは,力を加えて動かすという運動は,物が落ちるという物体の本性に逆らう運動であり,強制された運動であると考えた。したがって,この強制運動をさせるには物体に力を作用し続けていなければならないと考えた。慣性の法則が発見されて400年が過ぎても,物体の運動についてこのような考えがもたれ続けている。たとえ物理学で慣性の法則を学んでも,しばらくするとこの考えに戻ってしまう。幼い頃から,力という言葉を,forceの意味だけでなく,powerenergymomentumabilityなどが混然一体となったニュアンスをもつ言葉として使い慣れているためであろう。ましてや,これまで使っていたkgwという単位でならまだしも,Nという単位で表された量には全く現実感がもてないのであろう。

現状をこのように認識し,何度も何度も執拗に力という量の理解を求めていく必要がある。印象深い実験をすることも大切で,慣性の法則ではエアレール,だるま落としなどを見せることは効果的である。

 

◆慣性の法則の意義

近代物理学の基礎となったニュートンの運動に関する3つの法則のうち,第1法則は,すでにガリレイやデカルトによって発見されていた。しかし,彼らは,ニュートンほどしっかりした力の観念を与えていなかった。

ところで,これらの三法則のうち,第1法則は,第2法則で加速度が0の特殊な場合であるという考え方をよく聞くが,これはむしろ誤った考え方であり,第1法則の重要な意味を見落としているというべきであろう。第1法則で,力がはたらかないという言葉があるが,自然界には万有引力その他の作用があり,力が全くはたらかない物体などあり得ない。したがって,この第1法則は,思考実験の結果なのであって,ニュートンがこれを第1法則に掲げたのは,慣性の法則が成り立つような座標系においては,第2法則および第3法則はいつでも適用できると考えたからである。

このように,第1法則は,ニュートンの運動の法則が成り立つために,特別な基準となる座標系が必要であるということを述べている。この基準となる座標系を慣性系といい,そこでニュートンの運動の法則がなりたつ。

以上のように,第1法則は,ニュートンの運動法則について考察するとき,つねに念頭に置かなければならない基準となるものについて述べたものである。ただ,生徒の実状によっては,以上のことをことさら理解させようとしなくてもよいであろう。

なお,地上は近似的にこのような慣性の法則の成り立つ系と考えてよい。

参考文献:原島 鮮「続・物理教育覚書」(裳華房)

 

◆カーリング

カナダでもっとも普及しており,92年の冬季オリンピックで公開競技に採用された氷上のスポーツ。長さ44.5m,幅4.32mのレーンに描かれた円の中に,質量19.96kgの花こう岩の石(ストーン)をすべらせて入れることを競う。ブルームとよばれるほうきでストーンの進路の前方を激しく掃き,進路や距離を調節する。

 

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2008 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.