トップ理科総合A 改訂版1部 物質と人間生活>第3章 物質の利用>第2節 生物のつくる物質

2節 生物のつくる物質

 

代謝とエネルギー代謝

生物は,生命体を維持するため,外部から取り入れた物質を細胞や組織内の化学反応によって,様々な物質に分解・合成し,不用となった物質を外部に排出している。これを代謝(物質代謝・物質交代)という。また,代謝の過程で得られるエネルギーをアデノシン三リン酸(ATP)の形に変え,あらゆる生体活動に利用している。この過程をエネルギー代謝という。

 

糖類の代謝

植物は光合成により糖を作りデンプンの形で蓄えている。動物がデンプン等の糖類を食べると加水分解されてマルトースになり,更にグルコースとなる。グルコースは体内に吸収され,エネルギー源になると共に,グリコーゲンとして筋肉や肝臓に貯蔵される。

グリコーゲンは必要に応じて加水分解されてグルコースとなり,必要な場所で解糖系に入り分解される。解糖系では1分子のグルコースから2分子のピルビン酸がつくられ,これがクエン酸回路を経て二酸化炭素にまで分解され,更に血液により運ばれてきた酸素による酸化・還元反応が起こり,グルコース1molあたりATP38molつくられる。また,アルコール発酵,乳酸発酵では無酸素状態でそれぞれグルコース1molからATP 2molがつくられる。

グリコーゲンやグルコースは,生体内では何段階もの反応を経て酸素と反応して二酸化炭素と水に分解される。まず,グルコースはピルビン酸CH3COCOOHにまで分解される。この過程を解糖系と呼んでいる。次にピルビン酸はクエン酸回路で二酸化炭素にまで酸化される。この全過程をまとめてみると,グルコース1分子が酸素と反応して,そのとき放出される自由エネルギーを利用して38分子のATPが合成していることになる。

 

光合成

植物は二酸化炭素と水から糖と酸素をつくるというのが光合成である。

6CO2 6H2O C6H12O6 6O2

1941年,アメリカのS.RubenM.D.Kamanは,H218Oを用いて水の酸素原子が18O2として放出されることを明らかにした。18Oを用いた化学反応式は次のようになるが,単なる化学反応式としては,両辺から水を差し引いた形になる。

6CO2 12H218O C6H12O6 618O2 6H2O

光合成は植物の葉緑体において行われている。葉緑体は葉の葉肉細胞に多く存在し,光合成装置として働くミトコンドリアと類似した細胞質に存在する葉緑体膜に囲まれた細胞小器官である。

 

葉緑体は膜構造のチラコイドを内部にもっている。チラコイドの膜の中には光合成色素(クロロフィル)が含まれていて,光エネルギーを吸収し,電子が励起される。クロロフィルと電子伝達系は全てチラコイドの膜の中に存在している。二酸化炭素と水から炭水化物をつくる反応は光を必要とせず,ストロマで起こり,暗反応とよばれている。

 

チラコイド膜には3種類の複合体,光化学系II(PSII),シトクロムbf複合体,光化学系I(PSI)が存在している。PSIPSIIの数字は発見された順番を意味している。

光合成装置のうち光学的な部分(明反応)を示した模式図

 

クロロフィルが光を吸収すると,反応中心にある電子は励起され,高エネルギー状態となり,自然には起こらない反応がおこる。PSIIには,680nmの光を吸収して励起されるクロロフィル分子P680があり,励起された電子は電子伝達系径を通ってPSIに伝えられる。その結果P680は電子を失ってP680+となり,非常に強い酸化剤となる。PSIIには水分子を分解するMn2+を持ったタンパク質複合体があり,酸化剤となったP680+が水分子から電子を引き抜き,酸素と水素イオンを生じる。水素イオンはチラコイド幕の内側に移動し,酸素は大気中に放出される。

 

水分子の酸化とチラコイド膜での水素イオンH+,電子e の流れ

 

PSIIで励起された電子が,電子伝達系を通るときに,チラコイド膜の外から中に水素イオンが取り込まれ,その水素イオンがATPの合成を行う。そして,PSIに渡された電子は,700nmの光を吸収するクロロフィル分子P700で励起され,NADP+を還元しNADPHにするのに利用される。

NADPHはストロマ中に放出され,二酸化炭素から炭水化物を合成する暗反応で利用される。

光合成での電子の流れとエネルギー変化の模式図

 

P680の電子が680nmの光を吸収し励起(高エネルギー状態)され,シトクロムbf複合体Cylbfを通ってP700へ伝達される。電子が不足したP680は水から電子を受け取り,再び光で励起されるのを待つ。Ph:フェオフィチン,Q:プラストキノン,Pc:プラストシアニ,Fd:フェレドキシン,Fp:フェレドキシン−NADPレダクターゼ

 

脂質の代謝

油脂のトリグリセリドは,小腸内で酵素リパーゼによって脂肪酸とグリセリンに加水分解される。そして,胆汁酸塩,脂肪酸,ジグリセリド,モノグリセリド等の混合物ができ,これらが未分解の油脂の乳化促進剤として働き,乳化された油脂は腸壁から吸収される。

加水分解で生成したグリセリンは酸化酵素とリン酸化酵素により3-ホスホグリセルアルデヒドに変換され糖の代謝に合流し分解されていく。脂肪酸は,カルボキシル基側から炭素数2個ずつ切断され,補酵素A (CoA)と結合しアセチル補酵素A(CH3COCoA)となる(カルボキシル基が結合している炭素の隣の炭素(β位)が切断されるのでこの反応をβ酸化という) CH3COCoAはピルビン酸の代謝と同じようにクエン酸回路に入り,ATPをつくりながら二酸化炭素と水に分解されていく。このときCH3COCoA1分子から15分子のATPができるので,脂肪酸の代謝ではアルキル鎖の炭素数n個から15×n/2ATPがつくられ,脂質がエネルギー貯蔵物質として役立っていることが分かる。

逆に考えると,体についた脂肪を取り除くには,多くの運動が必要であることが納得できる。

 

タンパク質とアミノ酸の代謝

食物を食べると,食物中のタンパク質は胃から腸に移動する過程で消化=加水分解され,約20種類のアミノ酸が生じて体内に吸収される。体内に入ったアミノ酸によって,その個体に応じたタンパク質が再度合成される。

 

 

生体内ではアミノ酸から別のアミノ酸が合成されるが,合成されないアミノ酸が約半数あり,必須アミノ酸という。ヒトの必須アミノ酸は,ロイシン,イソロイシン,リシン,メチオニン,フェニルアラニン,トレオニン,トリプトファン,バリンの8種類である。ネズミでは更にヒスチジンが加わり9種類,鳥類ではグリシン,アルギニンが加わって11種となる。(理化学辞典より)

不要になったアミノ酸は,アミノ基がアンモニウムイオンの形で分離され,残った炭素骨格は主にはクエン酸回路で分解されていく。アミノ酸の分解は次のようになっている。

 

@ アミノ酸はアミノ基転移反応でグルタミン酸に変えられる。

 

A グルタミン酸脱水素酵素によりアミノ基がアンモニウムイオンの形に分離される。

 

B 一部のグルタミン酸はアミノ基転移反応によりアスパラギン酸に変わる。

 

C ここで生じたアンモニウムイオンとアスパラギン酸が次の尿素回路に入り,窒素が最終的に尿素の形で体外に放出される。尿素回路は,中間体にオルニチンがあるのでオルニチン回路ともいわれ,ATPを消費しながらアンモニウムイオンとアスパラギン酸,二酸化炭素から尿素と,フマル酸を生じる反応である。

 

酵素

酵素は,触媒の働きをもつタンパク質を含んだ巨大で複雑な有機分子(複合タンパク質,ホロ酵素)である。酵素は,タンパク質部分(単純タンパク質,アポ酵素)に補酵素(補欠分子族)とよばれる低分子の非タンパク質部分を含む場合があり,基質が酸化される場合には補酵素が還元される等,基質が受ける反応に反応剤として相補的な役割を果たす。生体内の条件「体温・体内のpH(多くは中性付近)・常圧」の下で,基質特異性をもって作用する点を理解させる。

 

触媒とは何か

デンプンの水溶液は,そのままではグルコースに分解しない。これは,ヨード反応による呈色変化で示すことができる。ところが,唾液を加えてしばらくするとヨード反応が消失する。これと同じことは,濃い硫酸(つまり水素イオン濃度を上げる)存在下で100℃で数時間煮沸すると起こる。これら3本の試験管を予め用意しておき,デモンストレーションをしながら,触媒の説明にかかる。

化学反応(物質の分解や合成)には,普通の条件ではなかなか起こり難いものが多い。ところが,何かの物質を入れると,反応が速やかに起こってくることがある。しかもその物質は反応の前後で変化しない。このように,それ自体変化することなく化学反応の速度を調節する物質のことを触媒とよぶ。

アンモニアは窒素と水素の化合物だが,両者を混合しただけでは生じない。ところが温度を上昇させ(500),圧力を掛け(100気圧),そこに鉄粉(Feに数%のAl2O3K2OFe3O4と共に高温で熔融して造った二重促進鉄触媒)を加えるとアンモニアが生じてくる。Al2O3Feの表面積を拡げ,維持する。即ち鉄の微粒子状態を維持し,またK2OFeに電子を供与しての活性を数倍に上げる働きをしている。圧力を掛けるのは,気体分子の密度を高めて衝突による反応の機会を増やし,また平衡をアンモニア側に有利にする為である。また,高温では分子の運動が速くなり,反応が促進される。そして,鉄粉が触媒の作用をする。鉄粉上で窒素と水素分子が反応を起こし,化合してアンモニアとなる。この鉄粉のような触媒を無機触媒と呼ばれる。

酵素は生体触媒である。基質に対する酵素作用の選択性が高く,“鍵と鍵穴”に例えられる。

 

化学反応を促進する方法

一般に下図に示すように,Aという物質とBという物質の間で化学反応が起こる場合,まず,ABが接触することが必要である。反応の場の温度を上げると,その物質をつくっている分子の運動が活発になるので,接触の機会も増してくる(a)ABの濃度や圧力を増しても,互いに接触する機会が増してくるので,化学反応は起こり易くなる(bc)

また,ある物質の表面にABを吸着させれば,ABとは広い空間よりも接触の機会が増すので,化学反応は起こり易くなる(d)。このように,反応を促進する作用をもっているものを触媒という。したがって,反応速度を増すためには,物質の濃度・温度・圧力を増したり,触媒を用いたりする。

(a)

(b)

(c)

(d)

(a)温度を上げる。

(b)濃度を増す。

(c)圧力をかける。

(d)表面に吸着する。

 

酵素の触媒作用

酵素の触媒作用は,酵素の表面に反応物質(基質)を吸着して接触し易くするだけでなく,反応物質を活性化して,その活性化エネルギーを低くして反応を起こし易くする性質もある。例えば,化学反応ABが起こるには,活性化エネルギーhが必要であるとする。これは下図のようにA点の石をB点に落とすことに相当し,その場合,A点よりhだけ高いC点に石を上げなければならない。A点からC点に石を上げることが活性化することに相当し,AC間の距離hを活性化エネルギーと考えてよい。酵素の働きは,AC間のエネルギー障壁hが低い他の反応経路を与えることにある。

活性化エネルギー

 

酵素の作用条件

酵素の触媒作用は,いろんな条件で大きく変わる。温度が低いと活性が小さく,40℃付近にピークに達し(最適温度),それ以上の温度になると急速に低下する。これは,タンパク質の構造が熱によって壊れてしまうからである(変性)。溶液のpHが大きな影響を与える。これも,酵素タンパク質の構造に関連し,普通は酸性(pH 4以下),塩基性(pH9以上)で失活する。例外はペプシン(pH 2が最適),塩基性ホスファターゼ(pH99.5が最適)である。最大活性を示すpHを最適pHという。酵素の活性は,作用する物質(基質)の濃度によって影響を受ける。また,活性化剤(マグネシウム,カルシウム等の金属イオン)SH(2-メルカプトエタノール),補酵素(NADNADP)に依存することがある。タンパク質を変性させる物質(重金属イオンや表面活性剤等)が混入すると,酵素活性は低下もしくは消失する。酵素を使う実験で試薬を溶かしたりするのに,ガラス器具や蒸留水を用いるのはこの為である。

酵素作用が失活した場合,条件を元通りにすると,失活酵素は再生されることもあるが,多くは不可逆である。

 

酵素の種類

加水分解酵素(ヒドロラーゼ)  水の助けを借りて基質を分解する。消化等に重要な働きをする。

例:アミラーゼ(C6H10O5)n(デンプン)H2O ―→ nC12H22O11(マルトース)

マルターゼ C12H22O11(マルトース)H2O ―→ 2C6H12O6(グルコース)

除去酵素(リアーゼ)  基質を加水分解によらずに分解する。

例:カルボキシラーゼ(脱炭酸酵素)

CH3COCOOH(ピルビン酸) ―→ CH3CHO(アセトアルデヒド)CO2

転移酵素(トランスフェラーゼ)  リン酸基やアミノ基等の原子団を,1つの基質から他の基質に移す。

例:クレアチンキナーゼ  クレアチン+ATP ―→クレアチンリン酸+ADP

異性化酵素(イソメラーゼ)  基質分子内の原子の並び方を変える。

例:六炭糖リン酸イソメラーゼ  グルコース・リン酸―→フルクトース・リン酸

酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ) 基質の酸化還元に関与する。細胞内呼吸に重要な働きをもつ。カタラーゼや各種のデヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)がある。

例:乳酸脱水素酵素  CH3CH(OH)COOH(乳酸) ―→ CH3COCOOH(ピルビン酸)2H

合成酵素(シンテターゼ)  多くの生体物質の合成を促進する。

例:クエン酸合成酵素  活性酢酸+オキサロ酢酸―→クエン酸

 

消化

デンプンは,唾液や膵液に含まれるアミラーゼの作用で直鎖部分がグルコースとマルトースに分解される。枝分かれの多い部分は,小腸の吸収上皮細胞の細胞膜に固定されているマルターゼによってグルコースに分解される。小腸の吸収上皮細胞の細胞膜にはアミラーゼもあり,短くなったデンプン(デキストリン)を分解する。

タンパク質は,胃でペプシンによって,幾つかのポリペプチドに切断される。ペプシンは不活性型のペプシノーゲンとして合成され,胃内に分泌されてから,ペプシンによって一部が切断され,活性型のペプシンとなる。胃粘膜は多糖のねばねばした液で保護されている。十二指腸で,膵液が送り込まれる。膵液・腸液は弱塩基性で酸性の胃液を中和する。膵液中には数種類のタンパク質分解酵素を含んでいる。トリプシンとキモトリプシンで,これらも分泌されるときはトリプシノーゲン,キモトリプシ液のトリプシン)によって活性化される。これらはポリペプチドを小さなペプチドに切断する。ペプチドは,小腸の上皮細胞上のペプチダーゼ(カルボキシペプチダーゼとアミノペプチダーゼ)によってアミノ酸に分解される。

脂肪は十二指腸で胆汁と混ぜ合わされ,細粒になる。膵液中のリパーゼは胆汁で活性化され,脂肪をグリセリンと脂肪酸に分解する。

 

アゾ化合物

アゾ基-NN-をもつ化合物をいう。アゾ化合物はアゾベンゼンの誘導体が多い。アゾ基は芳香族と結合して強力な発色団となり,アゾ化合物は,黄橙,赤等の色をもっている。普通の芳香族アゾ化合物は全て結晶である。-NH2-OH-SO3H等の置換基をもつアゾ化合物は.アゾ染料として使われている。

メチルオレンジは,酸性ではHが付加して赤色となる。

メチルオレンジの発色はアゾ基によるものだが,酸性ではベンゼン環がキノン型構造()をとり,そのため赤色となる。このように発色の原因となる基を発色団といい,発色団は特有の波長の光を吸収して,その補色が現れる。食品用のアゾ色素を次に示す。

 

光学異性体と不斉炭素原子

4価の炭素原子に4個とも互いに異なる原子や原子団(置換基)が結合しているとき,この炭素原子を不斉炭素原子という。不斉炭素原子をもつ分子を,それを鏡面に映した形の分子と比べると,重ね合わせることができず,互いに異性体となる。この異性体は,鏡像体(鏡像異性体)の関係にある立体異性体で,光学的性質だけが異なることから光学異性体と呼ばれている(ときには,結晶形が左右逆になることもある)。このような立体的関係はちょうど右手と左手の関係と同じなので鏡像異性体同士を互いに対掌体とよぶことがある。光学異性体の溶液に偏光を当てると,その振動面が右や左に旋回する。左に旋回させるものを左旋性があるといい,()で表す。右に旋回させるものを右旋性があるといい,()で表す。左旋性と右旋性のものの等量混合物は旋光性がなく,ラセミ体と呼ばれる。

光学異性体には,その構造からみた命名上の規約がある。これは,フィッシャーE.Fischerによるもので,基準物質にグリセルアルデヒドを用い,小型のD(Dextrorotatory,右旋性)L(Lrerorotatory,左旋性)の文字を用いて表すものである。この規約では,下図(a)の構造のものをD-グリセルアルデヒドとする。四角形は不斉炭素原子を中心においた正四面体を表し,各頂点で置換基と結合している。-H-OHを結ぶ横向きの実線は紙面の手前にあることを示し,-CHO-CH2OHを結ぶ縦向きの破線は紙面の奥にあることを示している。図(b)は,(a)を平面に投影した図である。Lグリセルアルデヒドは,図(b)-H-OHを互いに交換したものになる。図(c)D型,図(d)L型であり,(c)(d)DLが鏡像体になっていることを示す。

D ()-グリセルアルデヒドは,酸化されてD(-) -グリセリン酸になり,更に導かれる光学異性体をD型とし,DLは,旋光性と無関係に定められる。


乳酸は,ヨーグルトのような乳酸飲料や漬物等の酸味成分であり,乳酸発酵によってDL乳酸ができる。また,筋肉等の動物組織中で糖代謝によってできる乳酸は,L()-乳酸である。

糖の場合には,糖とグリセルアルデヒドの-CH(OH)CH2OHの構造を対比させ,同じ構造のとき記号も同じになる。アミノ酸の場合には,-NH2-OHに置き換えて乳酸と対比させ,同じ構造のとき記号も同じになる。

天然のアミノ酸は殆どL型だが,旋光性は右と左のものがある。

酒石酸には,1分子中に2個の不斉炭素原子がある。そこで,2個ともD型またはL型のものと,D型とL型を1個ずつもつメソ体と呼ぶ対掌構造のものがある。メソ体は,ラセミ体と同様,左旋性と右旋性が打ち消し合って旋光性を示さないので,光学不活性体である。

一般に,不斉炭素原子n個をもつ分子の光学異性体は,2n個である。

光学異性体は,生理的には全く異なった挙動を示すもので,地球上の生物体内のホルモンや糖類,アミノ酸等は,どれも光学活性であり,そのどちらか一方の分子からできている。例えば,タンパク質のa-ヘリックスのらせん構造は,光学活性のL型アミノ酸による二次構造である。もし,この中にD-型アミノ酸が混入すると,あの規則的ならせん構造はできなくなってしまう。このように生物体内では,一方の光学異性体のみが選択的に秩序よく配列され,安定な構造を保って生理作用を営んでいる。

 

エタノール

代表的なアルコールで,古くから酒として利用されてきた(酒精)。物理的性質は融点114.5℃,沸点78.32℃,密度0.79g/cm3(20)で,室温では液体である。

従来は,デンプンや糖蜜等を原料として発酵によってつくられていたが,近年エチレンを原料として工業的に合成されるようになった。

硫酸法による合成では,濃硫酸とエチレンから硫酸エステルをつくり,これを加水分解してエタノールを得る。このときジエチルエーテルが副生する。

C2H4H2SO4 ―→ C2H5OSO3H   C2H5OSO3HH2O ―→ C2H5OHH2SO4

直接水和法は1947年以後工業化され,最近新設工場では,殆どこの方法によっている。触媒として,ケイソウ土にリン酸が含まれたものを用いる。

C2H4H2O ―→ C2H5OH

エタノールは,水と濃度95.6%で共沸混合物(沸点78.15)をつくる。したがって,単純な蒸留法では無水物を得られないので,CaOを加えて蒸留する。更に高純度にするには,マグネシウムリボンとヨウ素少量を加えて加熱沸騰させた後に蒸留する。

2C2H5OHMg ―→(C2H5O)2MgH2
(
C2H5O)2Mg2H2O ―→ 2C2H5OHMg(OH)2

 

食物連鎖・食物網

自然界では生産者→一次消費者→二次消費者という単線形ではなく,複雑な食物網をつくっているが,その中の11つの流れは基本の通りになっている。中には植食性,肉食性共に合わせもつ雑食性のものもあるが,これは全体の位置づけで判断し,一次消費者,二次消費者のいずれかにおくことになる。

 

生態ピラミッド

生態ピラミッドは,その指標によって,個体数を示すピラミッド,重量やカロリー値等で示す生体量のピラミッド,各栄養段階でのエネルギー流量や生産力を示すエネルギーのピラミッド等に分類される。一般的にはこれらの要素を全て含むものとして認識され,食物連鎖や弱肉強食を示す図式として受け入れられている。食物連鎖を構成する生物個体数は,下位の生産者が最も多く,次いで一次消費者,二次消費者と少なくなっていき,三次消費者が最も少ない。但し,生産者が樹木だったり,あるいは寄生連鎖だったりした場合はそうならない。この個体数をピラミッド型に示したものが個体数ピラミッドであり,エルトン(1927)が示したので,エルトンのピラミッドともいう。寄生連鎖等はピラミッド型にならない。

個体の重量×総個体数,即ち栄養段階毎の生体量で示したピラミッドを生体量ピラミッドという。この場合は寄生連鎖でもピラミッド型になる。

一定時間あたりの生産量を基にしてつくったピラミッドを生産量ピラミッドという。この場合,総生産量の場合と,純生産量の場合があるが,一般的には純生産量でピラミッドをつくることが多い。生産量ピラミッドは,物質の移動がない閉鎖系は必ずピラミッド型になる。

 

生物群集における物質経済

日本の近海の生物群集では,植物プランクトンを動物プランクトン(オキアミ等)が食べ,オキアミ等をカタクチイワシが食べ,それをマサバ,ブリ,マグロ,イカ等が食べ,更に人間がマサバ等を漁獲している。マサバとブリは共存しているが,これらを飼育して個体の物質経済と社会関係を調べると次のようになった。

当歳魚(魚齢1年未満の魚)では,ブリはマサバより4倍多く食べて10倍もよく成長し,1日の成長率(成長量Gの現存量Wに対する割合G/W)や摂取量(C)の成長量への転換効率(G/C)は,ブリではマサバの2倍になる。また,両種を同じ水槽に入れて餌を与えると,まずブリが食べ,マサバは後から食べるので,種間の順位はブリの方がマサバより優位にある。ブリは朝と夕方に摂食し,夜は休止するが,マサバは昼間不規則に餌をとっている。このような2種が実際に日本近海に共存する場合,ブリは良質のタンパク質のかたまりであるカタクチイワシやイカ等を1年中捕食している。ところが,マサバはカタクチイワシの生産が上がっている真夏から秋に食べるが,この生産が落ちる秋,冬,春の9か月には,カタクチイワシよりもタンパク質の質の悪いオキアミ等を食べ,この時期のマサバの成長率は,カタクチイワシを食べるときのからに落ちている。

 

生物濃縮と生体への影響

化学物質の毒性や薬効は生体内への取り込みの程度によって大きく異なる。ダイオキシンやPCB等の化学物質は生体内では脂質に濃縮され易い。特定の化学物質が生体内に取り込まれ,外部の環境より高い濃度で蓄積されるとき,これを生物濃縮という。このとき取り込まれた化学物質で生体内の内分泌系の働きを乱し,生殖や発育等に影響を与えるように作用し,環境ホルモンとよばれた物質に有機スズ化合物がある。1985年頃,イギリスで急激に増加したインポセックスという現象で,貝等の付着を防ぐために船底塗料として使われていたトリブチルスズ基を含む化合物群(Bu3SnFBu3SnOAcBu3SnOCO(CH2)4CO2SnBu3)が,巻き貝の一種ホンチジミボラの仲間に取り込まれて蓄積し,エストロゲン生合成を阻害し,メスのペニスの長さが3(1mm前後のものが時には3mmになり,普通のオスの長さ34.5mm程度になっていた)程長くなったそうである。日本でも雄化したイボニシ(巻き貝)のメスでこのような現象が起こっていることが確認されている。トリブチル(およびトリフェニルスズ化合物)は,船底塗料としては現在使われていない。

1980年の解説記事では,有機スズの優秀さが,環境影響の点でも他のものより優れているとして紹介されているが,数年後に(1985)誰も予想しなかった悪影響がわかってきたことを考えると,現在でも化学物質等のちょっとした生物影響についても,信頼性の高い研究結果である限り注意を怠ってはいけないと思われる。

 

 

 








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