トップ物理II 改訂版3部 原子・分子の世界>第4章 原子核と素粒子>3節 素粒子と宇宙

3節 素粒子と宇宙

 

原子論の変遷

素粒子論

宇宙論

加速器

宇宙線

中間子論

反粒子

素粒子反応における保存則

素粒子の分類

クォーク理論

基本的な力

宇宙のはじまり

ニュートリノ

ブラックホール

 

原子論の変遷

物質を構成する究極の要素の探究は,古代から始まっていた。レウキッポス(生存年不明)の後継者として原子論を唱えたデモクリトス(460-370)は,次のように述べている。

「世界は有と無,すなわち充実したものと空から成り,充実したものは不可分な原子である。原子は等質不変で形と大小の差と位置の変化とがあるだけである。事物の性質の差及び変化はこれによって生じる。」

この原子論はエピクロス(342-271)やルクレティウス(94-55)に引き継がれたが,後世に大きな影響を与えたアリストテレス(384-322)は,原子や空虚(真空)を認めず,4元素説を主張した。このため,ヨーロッパでは中世まで原子論はほとんど忘れ去られていた。

この古代原子論を復活させたのはガッサンディ(1592-1665)で,ボイル(1627-1691)はこれを粒子哲学として発展させ,物質の機能的な構成要素である元素の概念に到達した。その後,ニュートン力学の成立により,原子は力学的な粒子と考えられるようになる(力学的原子論)

一方,ラボアジエ(1743-1794)による質量保存の法則(1772),プルースト(1754-1826)による「化合物の成分元素の質量の比は,その製法や出所来歴によらず一定である」という法則(定比例の法則)(1799)などの発見を経て,ドルトン(1766-1844)によって化学的原子論は明確になった。彼は定比例の法則を原子論で説明し,「2つの元素が成分として何種類かの化合物をつくるとき,各元素の質量比は簡単な整数比になる」という法則(倍数比例の法則)を実験的に確立し(1803),原子量の概念を示し,原子仮説による化学体系を構築した。ゲー・リュサック(1778-1850)は「何種類かの気体が関係する反応では,同温・同圧での各気体の体積比は簡単な整数比になる」という法則(気体反応の法則)を発見し(1805),これを受けてアボガドロ(1776-1856)が分子の概念を得て,アボガドロの法則をうち立て(1811),化学的原子論は確立されたといってよいであろう。さらに,ファラデー(1791-1867)による電気分解の法則(1833)や,メンデレーエフ(1834-1907)による元素の周期律の発見(1869)も,この化学的原子論を補強するものであった。

しかし,化学的原子論がこのように完成しても,原子論そのものが学会に完全に受け入れられたわけではない。熱素説の否定,光の波動説などを背景として,19世紀後半には原子論への批判が高まった。マッハやオストワルトらは,原子論を単なる仮説であると批判し,実在はエネルギーであるとした。彼らは,可逆性をもつニュートン力学に基礎を置く気体分子運動論からは,熱力学の第2法則の不可逆性を導けないとして,原子論を攻撃した。本当の意味で原子の存在が確立されるのは,ボルツマンによって分子運動論に確率的法則性がもち込まれ,トムソンによる電子の発見を経て,原子およびその内部が物理学の対象になり,実験的にも調べることができるようになってからであろう。

 

素粒子論

自然界における物質の究極的な構造とその間の相互作用を研究する学問が素粒子論である。現在の素粒子論によると,物質を構成する基本的粒子はスピンが1/2のフェルミオンである何種類かのクォークとレプトンであり,それらの四つの基本的な力を媒介するのがゲージ粒子と呼ばれるボゾンである。ゲージ粒子のうち,光子、グルーオン、ウィーク・ボゾンはスピンが1,重力子(グラビトン,未発見)はスピン2である。弱い相互作用と電磁気的相互作用には統一理論がありグラショウ・ワインバーグ・サラム理論と呼ばれる。これに強い力,すなわちクォークとグルーオンの間の相互作用を記述する量子色力学(QCD)を加えたものを標準模型または標準理論と呼ぶ。

この標準理論はこれまでの実験結果を極めて良い精度で説明し,大きな成功を収めている。さらに一歩進めて、強い力と弱・電磁気力が10151016GeVという高いエネルギーでは統一されると期待されており,これを大統一理論(GUT)という。重力は量子論と必ずしも相性が良くなく,局所的なゲージ理論では無限大を除くことが困難である。現在,重力まで含めて四つの基本的な力を統一する最も有力な理論が「超ひも理論(Superstring Theory)」である。これは物質の究極的な実在は10-35mという極めて短い「ひも()」でありその開いたひもや閉じたひもの基準振動が素粒子を表すという理論で,超対称性というボゾンとフェルミオンの間の対称性を取り入れると重力の量子効果を有限にできると考えられている。

スピン

素粒子自身が持っている,自転の大きさを表す固有の角運動量を「スピン」という。通常,その単位はプランク定数h2πで割ったものをとり,この単位で1/2が最小のスピンの大きさになる。この偶数倍(整数値)のスピンをもつ粒子を「ボーズ粒子(ボゾン)」,奇数倍(半整数値)のスピンをもつ粒子を「フェルミ粒子(フェルミオン)」という。フェルミ粒子が奇数個集まってできる束縛状態はフェルミ粒子であるのに対し,偶数個集まってできるものはボーズ粒子として振る舞う。核子や電子,またクォークはスピンが1/2で,フェルミ粒子であり,光子はスピンが1でボーズ粒子である。フェルミ粒子は同一の状態に1つの粒子しか入れないのに対し,ボーズ粒子はいくらでも入りうるという統計性の違いがある。

CP対象性の破れと小林・益川理論

CP対称性」とは,素粒子の系にC変換(荷電共役変換,電荷の符号を反転させる)P変換(パリティ変換,空間反転すなわち右手系と左手系を入れ替える)を同時に施したとき,すなわち「CP変換」に対して,系の性質が変わらない対称性を指す。この「CP反転」は物質を反物質に変える働きをするので,CP対称性が破れていれば物質と反物質で振る舞いに違いが現れることになる。

実験ではBファクトリーと呼ばれる加速器で生成されたbクォークを含む「B中間子」とその反粒子である「反B中間子」が崩壊(例えば2個のπ中間子に崩壊)する数の比較によって「CP対称性の破れ」を検出する。

小林誠・益川敏英両博士のCP対称性の破れに関する理論(1973)では,クォークの種類(フレーバー)6つ以上あれば,クォークの混合を通じて「CP対称性の破れ」が起こり得ることが示された。このときのクォークの混合を表す行列を,Cabibbo-Kobayashi-Maskawa Matrix(CKM-行列)と呼んでいる。小林・益川理論を検証すべくKEKに作られたBファクトリーで,2001年,CP対称性の破れを示す実験結果を得た。同様の結果は米国スタンフォード加速器センターの実験でも確認された。さらに,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子陽電子衝突型加速器(KEKBファクトリー:KEKB)では,ボトム・クォークを含む中間子であるB中間子がK中間子とπ中間子に崩壊する過程を詳細に調べられ,この崩壊におけるCP対称性の破れが,荷電B中間子の場合と中性B中間子の場合で異なることが観測された。

なお,2008年,CP対称性の破れの起源の発見をした小林・益川両氏は,素粒子の自発的対称性の破れの発見をした南部氏とともに,ノーベル物理学賞を受賞した。

質量の起源とヒッグズ粒子

標準模型において素粒子に質量を与えるのがヒッグズ粒子と呼ばれる未発見の粒子である。この粒子が空間に満ちていると,各素粒子はこの粒子との結合の大きさに応じて,その中を通過するときに抵抗を受ける。この度合いに対応して質量を得ることになる。ヒッグズ粒子のスピンは0である。CERN(欧州共同原子核研究所)の陽子・陽子衝突型加速器であるLHC(Large Hadron Collider,大型ハドロン衝突型加速器)2008910に稼動開始したが, ヒッグス粒子の発見とその性質の測定が期待されている。

超対称性

素粒子にはスピンが整数のボーズ粒子(ボゾン)と半整数のフェルミ粒子(フェルミオン)がある。物質を構成するクォークとレプトンはスピン1/2のフェルミオン,弱・電磁および強い力を媒介するゲージ粒子はスピン1のボゾン,重力子はスピン2のボゾンである。これらボゾンとフェルミオンを結びつける対称性が超対称性で,統一理論で重要な役割を果たすと考えられている。

 

宇宙論

ビッグバン宇宙論は素粒子論の大統一理論(GUT)と密接に関連して急速に発展してきた。超ミクロの素粒子論と超マクロの宇宙論が結びついているところが非常に興味が持たれる。また最近は観測的宇宙論が観測装置・手段の進展と相俟って大いに発展した。

ビッグバン理論とインフレーション

ビッグバン理論は,宇宙が初期のきわめて高温で高密度の状態から爆発的膨張(ビッグバン)によって始まり,その後温度と密度が減少して現在の宇宙に至ったとする考え方である。ペンジアスとウイルソンが発見した2.7Kの宇宙背景放射の存在がこの考え方を支持する観測的証拠である。宇宙初期の短い波長の電磁放射が宇宙が膨張して冷えるにしたがって波長が長くなり,マイクロ波領域の電磁波となったと考えられる。宇宙は真空の揺らぎから生まれ,インフレーションとよばれる急速な膨張によって誕生した。この宇宙創成以後の時間的発展は,素粒子論における基本的な四つの力の統一と,各々のエネルギー領域での相互作用の強さの変化と密接に結びついている。

物質・反物質の非対称性

 観測によると,現在の宇宙は物質のみでできており反物質で宇宙の一部がつくられている証拠はない。ビッグバン理論では宇宙初期では粒子と反粒子は熱的につりあっていた。現在ではバリオン数と光子の比は約10-10である。これらの光子がクォークと反クォークの消滅で生まれたものとすると,初期宇宙において,クォークと反クォークの数の違いすなわち非対称性が同じく約10-10であったとすれば,現在の物質・反物質の非対称性を説明できる。これには上で述べた,相互作用の統一理論(GUT)CPの破れ,バリオン数非保存,熱的非平衡状態の三つの条件が満たさればならない。

暗黒物質の謎

私たちが肉眼や望遠鏡で眺める夜空の星は,可視領域の光を通して見ている。しかし,宇宙には明るく輝く星だけが存在しているわけではない。実際,宇宙背景放射は電波領域で,可視光の領域ではない。現在の天文学によると,宇宙の質量の大部分は,光を全くかまたはほとんど出していない物質,暗黒物質(ダークマター)で占められている。これは銀河団の中の銀河の速度分布が,光って見える銀河の質量だけからは説明できないという観測結果から推論される。このダークマターの正体はニュートリノや超対称性粒子なども含めて候補が検討されている。

WMAP

2003年,NASAが打ち上げた宇宙背景放射の観測衛星WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)の観測で、宇宙の年齢が137億年という結果が得られた。

WMAPはビッグバンによって生じた初期宇宙からの光である温度2.7Kの物体の熱放射に相当する電磁波を全天にわたって観測する衛星で,20016月に打ち上げられ,地球から約160km離れたラグランジュ点と呼ばれる場所で観測を行っている。

この観測結果によると,宇宙は平坦な時空で,その中に通常の物質が4%,未知の暗黒物質(ダークマター)23%,残り73%がダークエネルギーと呼ばれる同じく未知の力学的存在(アインシュタインの宇宙定数)によって構成され,永久に膨張し続けるであろうという描像が得られている。

ほとんど全てのデータがインフレーション理論と宇宙定数入りの暗黒物質モデルの理論を合わせた理論的予想と一致している。

 

加速器

現在,原子核や素粒子の実験に使われるものは,多くの場合,数種類の加速器が複合的に組み合わせられたものである。

加速器を加速方法で分類すると,静電気力による1回加速をするもの(コッククロフト・ウォルトン,バンデグラフ),マイクロ波による繰り返し加速をするもの(サイクロトロン,シンクロトロン,線形加速器),電磁誘導によるもの(ベータトロン)となる。また,加速する粒子によって分ければ,電子加速器,陽子加速器,重イオン加速器などに分類される。

コッククロフト・ウォルトン型加速器は,多くのコンデンサーと整流器を組み合わせて交流電圧から直流高電圧をつくり,それで荷電粒子を加速するもので,1932年にコッククロフトとウォルトンが発明した。彼らはその装置で600kV程度の電圧をつくり,陽子を加速してLiの標的に当て,初めて加速器による人工核変換を行った。現在も,線形加速器の前段加速器として用いられている。

バンデグラフ型加速器は,球殻の高電圧電極に静電荷をベルト状のものに載せて運び込んで直流高電圧をつくるもので,1931年にバンデグラフが発明した。同じ原理の小型静電高圧発生装置は,多くの学校で教育用に使用されている。

サイクロトロンは,一様な磁界中の荷電粒子の磁界に垂直な面内での円運動周期が,(古典電磁気学では)速さや回転半径に無関係で一定であることを利用して,粒子の回転運動に同期した一定周期の高周波電界をかけて加速するもので,1931年にローレンスとリビングストンによって提案された。この古典的なサイクロトロンでは,粒子がある程度速くなると相対論的効果で回転周期が変化してしまい,それ以上の加速はできない。そこで,高周波電界の周期を粒子の回転周期に合わせて変化させるシンクロサイクロトロンや,磁界の空間分布を工夫して粒子の回転周期を一定に保つAVF(AzimuthallyVaryingField;周回変動磁界型)サイクロトロンがつくられている。現在は,10MeVの小型のものから大型のものまで,多くのものが使われているが,そのほとんどはAVFサイクロトロンである。

サイクロトロンでは粒子の軌道半径が変化し,磁界はその全体にかかるが,シンクロトロンでは粒子の軌道は決まっており,電磁石は図のように軌道に沿って円形に配置され,粒子の速度増加に応じて強い磁界をかけて一定軌道に保つ。粒子の加速は,軌道の途中に置かれた高周波加速空洞で行われ,電界の周波数は粒子の回転周期に同期させる。原理的には到達エネルギーの上限はないが,電磁石の強さに限りがある以上,エネルギーが大きくなるほど軌道半径が大きくなってしまう。

 

線形加速器(linear accelerator)は,高周波電界によって粒子を直線軌道で加速するもので,リニアックともいう。すぐに光速近くになる電子と,それよりも到達速度が遅い陽子,重イオンでは,高周波加速空洞の方式が異なる。電子リニアックが,ガンの治療用の高エネルギーX線や電子線の放射線源として,多くの病院で使われている。

ベータトロンは,電磁石のつくる磁界の時間変化による誘導電界で電子を加速し,かつその磁界で電子を一定の円軌道に閉じ込めるもので,1928年にウィデルーが考案し,1940年にカーストが初めて製作した。加速した電子は,金属標的に当ててγ*を発生させ,それを原子核実験に用いた。現在は,主に非破壊検査や医療用のX線発生装置として利用されている。

ベータトロンは電子専用で,バンデグラフなどの静電加速器は数MeV以下の陽子・重イオン用,サイクロトロンは数十〜数百MeV以下の陽子・重イオン用,シンクロトロンは数百MeV以上の汎用,線形加速器は全エネルギーで汎用に使われる。

素粒子反応に有効なエネルギーは,重心と一緒に動く座標系での全エネルギー(重心系全エネルギー)である。この重心系全エネルギーを高めるには,反対方向に加速された2つの粒子を正面衝突させるのが最も有効である。1970年代以降に作られた高エネルギー加速器は,すべてこのような衝突型加速器であった。茨城県の高エネルギー物理学研究所(KEK)TRISTAN(直径960m)やスイスのジュネーブにあるヨーロッパ合同原子核研究所(CERN)LEP(直径8486m)LHC(直径約9km)は,電子と陽電子を加速する衝突型のシンクロトロンである。また,アメリカのスタンフォード線形加速器センター(略称SLAC)では,線形加速器で加速した電子と陽電子を直径600mのリング内で衝突させる衝突型加速器SLCが,シカゴ郊外のフェルミ国立加速器研究所では,超伝導電磁石を使った陽子・反陽子衝突型加速器TEVATRON(直径2000m)が稼働している。

これらで得られる重心系全エネルギーは,電子・陽電子衝突型で100GeV,陽子・反陽子衝突型で1.8TeV(1800GeV)に達している。

日本では,つくばにあるKEKで,電子・陽電子衝突型加速器,TRISTANCPの破れを研究する目的で作られたBファクトリーがある。このKEKB加速器では20014月以来、B中間子の生産能力にあたるルミノシティと呼ぶ性能で世界最高記録を更新し続けている。

ブルックヘブン国立研究所(BNL)の相対論的重イオン衝突型加速器RHICはハドロンのスピンの物理やクォーク・グルーオンプラズマの研究を目的として稼働している。

CERNでは,2000年に実験を終了したLEP(Large Electron-Positron Collider,大型電子・陽電子衝突型加速器)の地下トンネル(全周 27 km)を用いて,LHC(Large Hadron Collider,大型ハドロン衝突型加速器)を建設した。これにより, 陽子ビーム7TeVまで加速し,正面衝突させることによって,これまでにない高エネルギーでの素粒子反応を起こすことができる。高エネルギーの陽子同士の衝突実験によって,標準理論の中が予言する,素粒子に質量をもたらすとされているヒッグス粒子の発見とその性質の測定や,標準理論を超える大統一理論の有力候補である超対称性理論で予言される超対称性粒子の発見を目的に実験が行われている。

一方、電子・陽電子線形衝突型加速器(リニアコライダー)でエネルギー領域の素粒子実験を行うGLC(Global Linear Collider)の計画があり,トップクォークの対生成、ヒッグス粒子、超対称性粒子などの発見を国際協力で実現するように,計画が進められている。

一方、電子・陽電子線形衝突型加速器(リニアーコライダー)TeVエネルギー領域の素粒子実験を行うGLC(Global Linear Collider)の計画があり,国際協力で実現すべくプロジェクトが進められている。

*発生原理ではX線だが,このような核反応を起こすような波長の短い電磁波はすべてγ線とよぶことも多い。

 

宇宙線

 宇宙線には,地球の外からやってくる1次宇宙線と,1次宇宙線が大気中のNOの原子核と衝突してできる2次宇宙線がある。1次宇宙線は,銀河系あるいは銀河系外からやってくる比較的エネルギーの高いもの(1MeV1020eV)と,主に太陽からやってくる比較的エネルギーの低いもの(1〜数百MeV)とに分けられ,銀河系からやってくる宇宙線の起源としては恒星・超新星爆発・パルサーなどが考えられている。1次宇宙線の約9割が陽子,残りの多くがα粒子,あとはLiBeBなどの原子核,電子,γ線である。1次宇宙線は,地上に到達するまでに平均として10回以上も衝突するくらいの高い確率で大気中の原子核と衝突するので,地上にやってくる宇宙線は,そのほとんどが2次宇宙線である。

 2次宇宙線は,µ粒子,電子,陽電子,γ線,π中間子,陽子,中性子,ニュートリノなどで,π中間子は,π02個のγ線光子に,π+µ+に,πµに崩壊し,µ粒子は電子と2個のニュートリノに崩壊する。µ粒子の寿命は2×106sという短さだが,相対論的な寿命の延びで,崩壊せずに地表にやってくるものが多い。地表付近では,1cm21分間当たり1個ほどの宇宙線がやってきて,その約70%はµ粒子,残りの大部分が電子,陽電子,γ線である。

 

中間子論

湯川秀樹がπ中間子仮説を提唱した1935年は,原子核のβ崩壊が大きな関心を集めていた。β崩壊でエネルギーが保存しないように見えることを説明するため,パウリが未知の粒子であるニュートリノの存在を予言し,フェルミは中性子と陽子が電子とニュートリノを介して互いに変換するというβ崩壊の理論を発表していた。フェルミは,同じような理論で核力も説明しようと試みていたようである。

湯川は,フェルミとは逆に,核力を説明するためにπ中間子を仮定し,核力の到達距離から,その質量は電子の質量の約200倍であることを提唱した。β崩壊もπ中間子の崩壊で説明しようと考えた。パウリの弟子のシュテュッケルベルグも,湯川と同じような核力の理論を考えていたと伝えられている。

フェルミのβ崩壊の理論は,弱い相互作用を記述する現象論として生き残り,湯川の核力の理論は,強い相互作用を記述する現象論として1950年代まで生き残った。そして,1950年代までは評価されなかった湯川の理論のβ崩壊の部分は,1960年代にはウイーク・ボゾン模型の原型になり,1970年代にはクォークとヒッグズ粒子の結合の原型として,受け継がれているともいえる。

なお,湯川の理論が出た2年後の1937年に,湯川が予言していた中間子の質量に近い未知の粒子が,アンダーソンとネッダーマイヤーによって宇宙線の中から発見され,当初は湯川のいう中間子と考えられたのでµ中間子とよばれた。しかし,これは平均寿命が短すぎることや,物質中で止められるときのふるまいなどから,電子と似た性質をもった強い相互作用をしない別の素粒子−湯川の中間子が崩壊してできた粒子−で,現在はµ粒子(ミューオン)とよばれている。

 

反粒子

反粒子は,量子力学と相対性理論を組み合わせた場の量子論から導かれるもので,すべての素粒子に反粒子がある。ある素粒子Aがあるとき,その反粒子はと表記する。粒子と反粒子は,質量・スピン・寿命が同じで,電荷・バリオン数・ストレンジネスなどは絶対値が同じで符号が異なる。また,中性のボゾンでは,光子やが中間子のように粒子と反粒子が同じである。

高エネルギーのγ線が核の近くで粒子と反粒子のペアを生ずる過程を,対生成という(γ線だけでは,エネルギーと運動量の保存則を満たすことができないため,核の近くという条件が必要になる)。逆に,粒子と反粒子が結合すると,γ線や様々な素粒子が発生し,これを対消滅という。比較的低エネルギーの電子と陽電子の対消滅では,両者の静止エネルギーの全てが光子のエネルギーになり,2ないし3個のγ線が発生するし,重心系全エネルギーが300MeV以上の高エネルギーでは,µ粒子対やその他のハドロンが生じる。

粒子と反粒子が近接して存在すると,対消滅が起こるので,安定して存在できる物質は粒子だけからなるものか,反粒子だけからなる物質(反物質という)である。宇宙誕生の初期には,あらゆる素粒子が対生成・対消滅を繰り返しており,宇宙には粒子と反粒子が満ちあふれていたが,膨張とともに温度が下がり,対消滅ばかり起こるようになったときに,粒子の方が反粒子よりもわずかに多かったため,反粒子が消え,粒子だけからなる現在の宇宙ができたと考えられている。宇宙のどこかに,消え残った反物質が大量に存在する証拠は,今のところ見つかっていない。

 

素粒子反応における保存則

素粒子の反応前後では,いくつかの保存則が成り立つ。マクロな現象でも成り立つエネルギーの保存,運動量の保存,電荷の保存が代表的であるが,それ以外に次のようなものがある。

(1) 角運動量の保存 量子力学的な粒子の角運動量には,公転の角運動量に相当する軌道角運動量と自転の角運動量に相当するスピン角運動量(または単にスピンという)があり,軌道角運動量はh/2πの整数倍,スピンはh/2πの半整数倍(1/23/25/2,…)もしくは整数倍であるh/2πを単位として表せば,電子,ニュートリノ,陽子,中性子などのスピンの大きさは1/2,光子は1π中間子(π+ππ0)0である。したがって,β崩壊で,反電子ニュートリノ元が発生しないとすれば,

 →  + e

(±1/2)(±1/2)(±1/2)

となって,スピンが保存しないことになり,不都合である。

(2) バリオン数の保存 核子が関係した反応で,これが保存しない反応は起こらない。陽子,中性子のバリオン数は1,反陽子,反中性子は−1,電子,陽電子,ニュートリノは0で,反応の例としては,

 

がある。これは,核子をつくっているクォーク数の保存が原因である。

これらも含めて,保存則には反応が実際に起こるものとそうでないものがあることを説明するために,新たに考え出されたものが多く,ストレンジネス,チャーム,ボトムなどの量子数が保存則にともなって考えられてきた。

 

素粒子の分類

 素粒子には,固有の質量,電荷,スピン,アイソスピン(荷電スピン),パリティ(偶奇性),寿命など,その粒子を特徴づける基本的な量がある。質量は,ふつうEmc2の関係式によるエネルギー換算で表され,MeVGeVという単位が用いられる。スピンが整数のものはボース統計に従い,ボゾン(ボース粒子)といい,スピンが半整数のものはフェルミ統計に従い,フェルミオン(フェルミ粒子)という。陽子と中性子は,核子という粒子の状態が違うものとみることができ,その状態の違いはアイソスピンとよばれる内部自由度の成分の差で表される。核子はアイソスピンが1/2で,陽子はその第3成分が+1/2,中性子は−1/2である。また,π中間子はアイソスピンが1で,その第3成分が+1のものがπ+0π0,−1πである。パリティは,素粒子の内部状態を表す波動関数を空間反転したときに,もとの波動関数と符号を比べて,符号が変わらなければ+1,変われば−1として定義されたものである。寿命τとは,その素粒子の集団が崩壊して,もとの数の1/eに減るまでに要する時間で,崩壊の半減期Tとは次の関係がある。

τT / log2

素粒子は,及ぼし合う力の種類などにより,次のように分類できる。ただし,この他にも,ごく短寿命の共鳴状態というものが多数存在する。

(1) ハドロン 強い力で相互作用を行う粒子で,ギリシア語の「太い,力のある」という意味の言葉に由来して名づけられた。弱い力もはたらき,電荷をもつものには電磁気力もはたらく。質量が比較的重い粒子で,重粒子(バリオン)と中間子(メソン)とに分けられる。

(a) 重粒子(バリオン) バリオン数が±1の粒子で,スピンは半整数倍のもの。核子とその反粒子(陽子,中性子,反陽子,反中性子)の他に,核子よりも重くて不安定で,崩壊して核子になるもの(Λ粒子,粒子,Ξ粒子,Δ粒子など)が多数発見されている。重粒子に所属しない粒子のバリオン数は0である。

(b) 中間子(メソン) バリオン数が0で,スピンが整数倍のもの。核子と電子の中間の質量という意味で中間子という名称がつけられたが,現在では核子よりも重いものも見つかっている。π中間子,η中間子, K中間子などがある。

(2) 軽粒子(レプトン) 強い力で相互作用をしない粒子で,バリオン数は0,スピンは1/2。弱い力で相互作用し,電荷をもつものには電磁気力もはたらく。電子とµ粒子,τ粒子,およびそれらと対をなす3種類の中性微子(ニュートリノ)があり,次のような3つの世代に分けられる。核子に比べると軽い粒子という意味で軽粒子と名付けられたが,核子よりも重い粒子も見つかっている。なお,レプトンは,ギリシア語の「薄い,小さな」という意味の語に由来する。

(a) 1世代 電子,電子ニュートリノνe,およびそれらの反粒子

(b) 2世代 µ粒子,µニュートリノνµ,およびそれらの反粒子

(c) 3世代 τ粒子,τニュートリノレντ,およびそれらの反粒子

(3) ゲージ粒子(ゲージボゾン) ゲージ理論に現れるゲージ場の量子で,スピンは1。基本的な力を媒介する粒子で,光子,ウィーク・ボゾン(WWZ0),グルオンに分けられる。光子およびグルーオンは質量が0と考えられており,ウイーク・ボゾンは100GeV程度の大きな質量をもつ。

 

クォーク理論

1956年,坂田昌一がハドロンについて複合素粒子模型を提唱して以来,いろいろなハドロンの複合模型が提唱されたが,これらは当時知られていた粒子を基本粒子としていた。これらの模型が破綻したのを見たゲルマンとツヴァイクは,独立に1964年にクォーク理論を構築した(ツヴァイクはこの基本粒子をエースとよんだが,クォークの方が定着した)。クォーク(quark)の名は,ゲルマンが愛読書のジェームズ・ジョイスの小説「フィネガンズ・ウェイク」の中の詩の一節「Three quarks for Muster Mark!」からとったという。当初,クォークには実験的な根拠がなかったため,実在に疑問も出されていたが,1960年代の終わりに電子を陽子に衝突させる実験で陽子の内部に点状の粒子が存在することが明らかになり,その後その粒子が半端な電荷をもつこともわかり,現在ではハドロン内部での存在は確かめられているといってよい。

クォークはスピン1/2で,電荷は+(2/3)eまたは−(1/3)eで,次の6種類が知られている。また,これらのクォークには,電荷の異なる反クォークがあり,のように表記する。

重粒子はクォーク3個から,中間子はクォークと反クォークの2個からなる。たとえば,陽子の構成はuudで,中性子はuddπ+中間子はπ中間子はである。クォークにはudのほかに,これらより重くてストレンジネス(奇妙さ)という量をもつs(ストレンジ)クォーク,さらに質量がこれらより重いc(チャーム)b(ボトム)t(トップ)という6種類のものがある(下表)

名称

記号

電荷(eを単位とする)

質量[GeV]

アップ

u

+2/3

0(MeV)

ダウン

d

-1/3

0(MeV)

ストレンジ(サイドウェイ)

s

-1/3

0.3

チャーム

c

+2/3

1.5

ボトム(ビューティー)

b

-1/3

4.5

トップ(トゥルース)

t

+2/3

175

 

クォークに上記の6種類があることは,クォークに6種類の「香り」(フレーバー)があるという。また,その各クォークには,赤,青,緑の3種類の内部自・由度(量子数)があり,それを「色電荷」(カラー)という。たとえば,核子を構成する3っのクォークは赤・青・緑の3色であり,それが混ざり合っている状態なので,(光の3原色の混合で白色光になるように)無色になり,色電荷の存在が直接は現れてこない。また,反クォークには,これらの反対色である反赤・反青・反緑の色電荷があり,中間子はたとえば赤と反赤のクォークから成るため,やはり無色になり,中間子の色電荷は観測できない。クォーク間の相互作用の理論である量子色力学(QCD)では,色電荷の間の力はグルオンによって媒介される。グルーオンの存在は,電子と陽電子の衝突実験で確認されている。

最後まで実験的に未発見であったトップクォークは,米国フェルミ国立加速器研究所の陽子・反陽子衝突型粒子加速器テパトロンを用いた実験の結果から,米国・日本・イタリアなどの共同研究グループにより,それが生成されている証拠が得られた(1994)。それ以来,百を超えるトップクォーク事例が検出されている。

なお,現在まで単独の粒子としてのクォークは発見されておらず,クォークはハドロンの中に閉じ込められ,直接の観測は不可能であるとする「クォークの閉じ込め理論」が考えられており,この有力なものがQCDであるQCDでは,ハドロン内部の非常な近距離にあるクォークが,ほとんど相互作用せずに自由粒子のようにふるまうことも説明されている。

 

基本的な力

現在,自然界に存在する基本的な力は,強い力,弱い力,電磁気力,重力の四つと考えられている。すなわち《強い力》はクォークを結びつけてハドロンを構成する力で,クォーク間の強い力を媒介するのがグルーオンとよばれるスピンが1のゲージ粒子である。クォークにはフレーバー(香り)の他に,3色のカラー()という自由度があり,これに結合する力を説明するのが量子色力学(QCD)と呼ばれる理論である。クォーク間の力の特徴は,クォークどうしが近づけば近づくほど力が弱くなり,また離れれば離れるほど力が強くなることである。この性質を「漸近的自由性」といい,グルーオン自身が8色のカラーの自由度(色電荷)をもっているためで,電気的に中性の光子が媒介する電磁気的相互作用と大きく異なる性質である。一方,原子核のβ崩壊に関与し,また一方で太陽の熱核反応に寄与するのが《弱い力》で,この力を媒介するのはW粒子とよばれる重い質量をもちスピンが1,電荷が±1のゲージ粒子である。電磁気力との統一を考えると,さらに中性で質量をもったスピンが1のゲージ粒子であるZ粒子が存在する。電子と原子核を結びつけて原子を構成する力が《電磁気力》で,粒子間の電磁気的な力を媒介するのは質量がゼロの光子である。最後に《重力》はいわゆる万有引力の力で,アインシュタインの一般相対性理論から説明される。見かけは異なるこれら4つの基本的な力もきわめて高いエネルギーでは本質的に一つの力に統一されるのではないかと期待されている。すでに,弱い力と電磁気力は統一理論(グラショウ-ワインバーグ-サラム理論)が確立されており,実験的にもCERNなどにおいてWZなどのウィークボソンが発見されさらに精密実験によって確かめられている。この統一理論と強い力に対するQCD理論を合わせて標準模型(標準理論)とよんでいる。強い力と弱・電磁気力は大統一理論(GUT)という理論で1015~16 GeVで統一されると考えられており,重力まで含めた統一理論が超ひも理論(superstring theory)である。

 

宇宙のはじまり

現在の知識では,宇宙の初期は,非常に高いエネルギー密度をもつ小さな閉じた空間が爆発的に膨張を始めた時期(「ビッグバン」とよばれる)までしか遡ることはできない。そのために,この「ビッグバン」をもって,宇宙の誕生とすることが多い。今の「ビッグバン」よりも先に遡ることは,将来の宇宙物理学や素粒子物理学の進歩に期待するとして,ビッグバンから現在までの宇宙や太陽系そして生命誕生までの歴史を,わかっている範囲で解説してみよう。

ビッグバンは,クォークが陽子や中性子,さらにはπ中間子などに転換した,あるいは「閉じ込められた」後の時期に設定されることが多い。それは現在の素粒子物理学で,未解明の現象が入り込むのを避けるためである。この時期には,宇宙を構成していた素粒子が,おおむね,互いに熱平衡を保っていたと思われているので,宇宙の歴史の出発点とするのにも適している。ともかくビッグバン理論の要点は,陽子,中性子やπ中間子,さらには電子,µ粒子やニュートリノ,そして光子とそれらの反粒子が互いに相互反応し合い,熱平衡にあったこと,そして宇宙は急速に膨張していったことにある。この粒子のガスは,重力で閉じ込められたふつうのガスと同じように,膨張すると温度が急速に冷えていく。冷たくなると,粒子のもつ運動エネルギーも小さくなり,衝突で粒子を生成することが難しくなる。やがて,寿命の短いπ中間子やµ粒子が崩壊する分を,他の粒子の衝突で補えなくなり,それらは宇宙から消えていく。このようにして,µ粒子型ニュートリノが熱平衡から離れ,原始のままで残ることになる。やがて陽電子も,電子と対消滅する分を生成してもらえなくなり,消えていった。かくして,陽子,中性子,電子,電子ニュートリノ,光子が主役を演ずる初期宇宙となる。

S.ワインバーグの名著「宇宙創成はじめの三分間(The First Three Minutes)」の話は,この時点から始まる。残された粒子で,次に寿命が短いのが中性子である。一方,原子核を造るには,中性子が必要である。中性子が崩壊し消え去るまえに(平均寿命=15),原子核が生まれたはずである。さもなければ,水素原子だけの宇宙しか造れなかったことになる。宇宙初期にいろいろな原子核が造られたとする考えは,50年ほど前にG・ガモフと彼の共同研究者により提出されていた。その中でガモフ達は,ビッグバン直後に宇宙を満たしていた黒体放射(光子)が,現在でも残っていると予想していた。この「宇宙背景放射」とよばれるものは,1960年代半ばに,米国のペンジアスとウイルソンにより,マイクロ波の波長領域で発見された。この背景放射は,強度もスペクトルも,絶対温度3K(正確には2.7K)の黒体放射とみなせるため,「3K(あるいは2.7K)の背景放射」あるいは「宇宙マイクロ波背景放射」とよばれる。同じ頃,ヘリウムの割合が宇宙のどこでも比較的小さくほぼ一定(重量で約1/4)である観測事実を説明するため,数人の理論研究者が,黒体放射が陽子と中性子が結合するのを抑制していたと考え,現宇宙の背景放射の温度を10K前後と算出しつつあった。このように,3K背景放射の発見は,ビッグバン宇宙論だけでなく,ヘリウム原子核までが宇宙初期に合成されたこと,そして核子と光子の数の比率が110倍程度であったことなどを教えてくれるきわめて重要な発見となった。ビッグバンから10数分たった頃には,宇宙初期の原子核合成は一段落し,最初にあった中性子の約1/8がヘリウム原子核に取りこまれて残る。これが,はるか後で星の中での重元素合成の種となるのである。

宇宙の温度が下がると,陽子やヘリウム原子核が電子を捕捉し,電気的に中性の原子になる。それらは,それ以前のプラズマ状態(イオンと電子に分かれた状態)と比較して,光子をほとんど吸収しない。これを「宇宙の晴れ上がり」といい,ビッグバンから1020万年後に起こったと考えられている。その後光子は,ただ黒体放射のスペクトルを保ちながら,宇宙の膨張に反比例して温度(エネルギー)を下げて今日に至ったのである。この意味で,3Kの背景放射は,晴れ上がった時点での宇宙の様子を今に伝えているといえる。

これ以降,宇宙は重力が支配する時代に入る。この時代以降に発せられた電磁波は,今でも飛び交っているのだから,原理的には,遠い宇宙の姿として観測できることになる。光学望遠鏡や電波望遠鏡,X線望遠鏡やγ線望遠鏡の感度の飛躍的な向上,スーパーコンピューターの登場で,銀河の生成や銀河団が大規模な構造に成長する過程の研究が急速に進みつつある。これらの観測では,時間の原点はビッグバンでなく,現在にとることになる。そして,赤方偏移zが過去に遡る時計となるが,現在はz0で,宇宙の晴れ上がりはz1000あたりとされる。現在の標準的な理解では,初期の宇宙の物質分布にゆらぎがあり,その密度の高いところが銀河に成長し,この銀河が衝突などの相互作用をしながら様相を変え,銀河団など大規模な構造が生まれてきたと考えられている。ここでダークマターの存在が重要な鍵となってくる。また,クエーサーと銀河の関係,渦巻銀河と楕円銀河の関係,種族12星の関係,などの解明が観測上の重要課題となっている。

星は,星間雲が重力で収縮し生まれたと考えられている。現在でも星の生成が盛んな場所が多く知られているが,太陽も,渦巻銀河の中で星間ガスが多いアームの中で生まれた,ごく普通の主系列星であったと考えられる。星間ガスが収縮するときには,角運動量をあまり失わないで,中心から遠くを回る星間雲があり,それが惑星となったと考えられる。しかし,惑星にまで成長する過程はかなり複雑であったようだ。まず,星雲内の固体粒子が微惑星を形成し,それらが衝突・合体をくり返しながら10万年ほどかかって,月程度の大きさの原始惑星が生まれたらしい。原始惑星は星雲のガスを引き連れていたため,微惑星を次々にとらえて成長する。数百万年から千万年かかって地球や木星の大きさに成長したと考えられている。この惑星誕生の過程では,物質は蒸発・凝縮をくり返すが,太陽に近い地球付近では,氷は一度蒸発すると凝縮しないため,岩石が多い地球型の惑星となった。他方,木星以遠では温度が低いため水蒸気が凝縮し,木星型の惑星となった。このように太陽系が生まれた時期は,地球上の放射性同位元素の存在比から,4546億年前であることがわかっている。

地球誕生から5億年ほど後には,単細胞生物が誕生していたらしい。これらの生物が生まれるには,アミノ酸が必要である。アミノ酸は,隕石などでも見つかっていることから,太陽系誕生以前に存在していた可能性が大きい。しかし生物の誕生は,初期地球の大気構成(水素や酸素の量)と太陽の紫外線などが重要な役目を果たしたと考えられる。現在の生物は,酵素(タンパク質)RNADNAなどにより維持されているが,どれが最初に生まれたのか。また,なぜ地球上の生物は20種類のL型アミノ酸だけで造られているのか。これらのなぞは解明されていない。

 タンパク質は宇宙空間に多いHCNOで構成されている。ところが,動物では海水に含まれる原子番号が4050までの原子からなる分子をうまく使っている。これらは生物誕生の歴史を反映していると思われる。人間をはじめとする生物の遺伝情報がDNA解析などで解明されれば,40億年前の生命誕生以来の進化の記録が読みだされるかも知れない。そうなれば,地球惑星物理学にも非常に重要な知識が得られるだろう。

 

 

 

 

 








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