トップ物理II 改訂版3部 原子・分子の世界>第4章 原子核と素粒子>2節 原子核とエネルギー

2節 原子核とエネルギー

 

質量とエネルギーの等価性

質量欠損と原子核の結合エネルギー

核子と核力

核分裂

連鎖反応

 核分裂の発見

核融合

核融合研究について

原子炉

核エネルギー

使用済み核燃料

 

 

質量とエネルギーの等価性

相対論によれば,物体の質量mとそれが静止しているときにもつエネルギーEとの間には,

Emc2

の関係が成り立つ。この場合のエネルギーには,化学的エネルギーや核エネルギーや(熱力学的な)内部エネルギーなど,物体のもつ全エネルギーが含まれる。したがって,たとえば,物体を温めることによって内部エネルギーをΔEだけ大きくしてやると,物体の質量はΔmΔE/c2だけ増加する。

この式の解釈には,次のような難しい問題がいくつも含まれている。

(1) 取り出せない巨大なエネルギーがあること 化学反応などによって物体から取り出せるエネルギーから計算される質量変化は,ごくわずかで測定にかからない。また,核分裂などを起こすことによって取り出せるエネルギーは莫大だが,そのようなことができる核物質は限られているし,その質量変化もわずかである。つまり,物体は莫大なエネルギーの塊だが,われわれはそれを解放して取り出す方法をほとんどもっていない。物体全体が消滅して,その質量の全てを電磁波などのなじみのあるエネルギーとして取り出せるのは,電子・陽電子対消滅などのごく特別な素粒子反応でしかない。

確かに,位置エネルギーが基準の取り方でいくらでも値が変わるように,エネルギー保存の法則においては,エネルギーの値そのものは問題ではない。問題になるのは,現象に伴うエネルギーの差である。

(2) 「質量がエネルギーに変わる」という表現による誤解

質量とエネルギーの等価性は,「質量とエネルギーは相互変換可能な量である」として説明されることが多く,「質量が消滅するとエネルギーが発生する」とか「質量がエネルギーに変わる」という表現もよく見られた。しかし,このような表現だけを安易に用いると,生徒は「運動エネルギー,位置エネルギー,電気エネルギー,化学エネルギーなどの互いに相互変換可能なエネルギーの仲間として,≪質量エネルギー≫というエネルギーもある」と誤って理解してしまう恐れがある。

質量がエネルギーの形態の一種であると理解しても,問題なく説明できるものもある。たとえば,ウランの核分裂におけるエネルギーの解放は,「ウランの質量エネルギーの減少分が,核分裂片の運動エネルギー(つまり熱エネルギー)などになる」とすればよい。また,電子・陽電子の対生成も,「γ線のエネルギーの一部が電子や陽電子の質量エネルギーになった」と考えることによって正しい結果を導ける。

しかし,ここで正に「質量エネルギー」と考えてもよいのは対生成のほうだけで,核分裂では核エネルギー(あるいは結合エネルギーの差)という別の立派なエネルギーの名称があることに注意する必要がある。また,このような「Aというエネルギーが減少すると,代わりにBというエネルギーが増加する」という見方で,結合エネルギーと質量欠損の関係について説明しようとすると,「引力である核力によって結びついた原子核は,核子がばらばらになっているほうが核力に基づくエネルギーが大きいか

ら,その核子がまとまって原子核をつくると,そのエネルギー差が質量エネルギーに変わり,原子核の質量エネルギーが増加し,核子の質量和より原子核の質量のほうが大きくなる」というとんでもない思い違いをする者まで現れてくる。

(3) 運動物体についてEmc2を適用してしまう問題 これまで,この等価性の関係式を運動物体にも適用し,質点が速さvで運動すると,その運動エネルギーKは次式で表されるとしてきた。

 

ここで,mは相対論的質量(あるいは単に質量)m0は静止質量という名がある。この解釈では,物体の(相対論的)質量は物体に固有な不変な量ではなく,速度に依存して増大し,光速度cで無限大になる。この解釈にニュートン力学を適用すれば,物体の速度が増すほど,物体の慣性質量は大きくなって物体を加速しにくくなり,物体が光速になるともうそれ以上加速できない,ということになる。これは確かに相対論の結論と一致して,好都合である。このような解釈が広く行われてきたのは,この「わかりやすさ」と歴史的な事情のためであろう。

しかし,この解釈は,現代の相対論の立場から見れば正確なものではない。速度成分vxvyvzで運動している全エネルギーEの物体では,

 

4元運動量を構成し,(空間と時間が統一的に理解されるように)運動量とエネルギーが統一的に理解されるが,座標系によらない物体に固有な量(ローレンツ変換に対して不変な量)は静止質量で,相対論的質量およびエネルギーは測定する座標系によってその値が異なるのである。また,力と加速度は相対論的な領域では,単純にmaFと書けないばかりか,一般には方向が平行でもなく,相対論的質量は完全な慣性質量にはなっていない。さらに,エネルギーEの光子の重力質量は(特別なときを除いて) E/c2ではなく,一般には重い天体から受ける重力の方向と天体と光子を結ぶ方向も異なる。つまり,完全な相対論的重力質量というものも存在しない。相対論をニュートン力学で解釈するには限界があり,相対論的力学では質量は不変量である静止質量のみなのである。

 

質量欠損と原子核の結合エネルギー

核子が,ばらばらの状態よりも原子核として結合した状態の方が安定で,より小さなエネルギーをもつのは,核力が引力だからである。一般に,結合した物体系では,物体どうしを引き離すのに外から正の仕事を与えることが必要で,その仕事のぶん,系のエネルギーが増大する。つまり,引力を及ぼし合う物体系では,物体どうしをばらばらにした状態のほうがエネルギーが大きい。

アナロジーとしては,ボーアの水素原子モデルを示すこともよい。この場合も,電子を原子核から引き離した状態の方が,電子のエネルギー(正確には電子と原子核の系のエネルギー)は大きくなる。また,電離エネルギーは原子の結合エネルギーに相当し,電離エネルギーがeV単位程度であるのに対し,原子核の結合エネルギーはMeV程度であり,電磁気力と核力の強さの違いも明らかである。質量欠損が,原子核の結合で観測でき,原子の結合で観測できないのも,このエネルギーのオーダーの差である。

原子番号Z,質量数A,質量mの原子核の質量欠損Δmを,公式の形で示せば,

ΔmZmp(AZ)mnm

となる。ここで,mpは陽子の質量,mnは中性子の質量である。また,AZ=Nは中性子数となる。原子核の結合エネルギーは,一般に核子数が増加するほど大きくなるので,質量欠損は質量数が大きな原子核ほど大きい。

 

 

核子と核力

中性子と陽子とは質量がほぼ等しく,しかもスピンがともに1/2の粒子である。したがって,原子核を構成しているのは,実は同じ種類の粒子である核子であって,中性子と陽子は1つの核子の異なる2つの状態であると考えられる。両者の違いは,微小な質量差以外には,陽子が電荷をもっている点である。核力が電荷の有無に関係なく同じ性質を示すこと(核力の荷電独立性)は,核子-核子間散乱,2重散乱の実験によって支持されている。

自由な中性子は,半減期10分ほどでβ崩壊し,陽子になり,電子と反ニュートリノを放出する。一方,陽子は宇宙の年齢よりもはるかに長い時間安定で崩壊しないことがわかっているが,中性π中間子と陽電子などに崩壊する可能性もあり,実験的検証が進められている。今のところ崩壊の証拠は得られておらず,1970年代の大統一理論が予想したよりも数百倍以上の寿命をもつことがわかっている。

 

◆核力

核力は,とても複椎な性質をもち,まだ実験的にも理論的にも十分に解明されてはいない。以下には,核力の性質について,簡単に説明できる事項を述べる。

(1) きわめて強い力であること 核内の陽子間距離はきわめて短く,陽子間にはたらく強いクーロン斥力に打ち勝つ引力が核子間にはたらかなければ,核の安定性は得られない。原子核の内部で1.0×1015m離れて存在する陽子間のクーロン斥力は2.3×102Nとなる。力の絶対的な大きさはそれほど大きくないように感じるかもしれない。しかし,(量子力学的には正しくないが)陽子が束縛されていないとして運動方程式から加速度を計算してみると,約1029m/s2という途方もない値になる。

この力に打ち勝つ核力がいかに大きいかが想像できよう。

(2) 力の到達距離が短いこと 核子1個あたりの結合エネルギーΔmc2/Aは,質量数が比較的小さい原子核を除けば,質量数(=核子数)が少し異なってもそれほど値に変化があるわけではない。これは,原子核が有限の大きさの核子で詰まっており,核力が近くの核子にしかはたらかない短距離力だからである(到達距離はおよそ1.4×1015m)

核子どうしが核力を及ぼし合う範囲が,ごく近傍に限られるとしよう。すると,ある核子(Pとする)に対してその範囲の外側にある別の核子が1個なくなって質量数が1減っても,核子Pにはたらく核力は変化がなく,核子Pの結合エネルギーも値が変わらないことになる。つまり,この原子核のモデルでは,質量数が若干減っても,核子1個の結合エネルギーは一定という,実験事実を説明できる。逆に,もし核内の核子のすべてが互いに等しく作用するとしよう。この場合,A個の核子があるとすると,相互作用し合う対の数はA個の中から2個取る組み合せの数で,A(A1)/2である。そして,ある核子の結合エネルギーは相互作用の数とともに増えるであろうから,大ざっぱにいってこのA(A1)/2に比例するであろう。しかし,これは実験事実とはかけ離れた結論である。

また,自然に存在する安定な原子核では,下図のいわゆるセグレ図に示すように,原子番号が小さなものでは陽子数と中性子数が等しいのに,原子番号が大きくなるほど中性子数が増え,陽子数との差が拡大していく。この理由も,核力の到達距離が短いことにある。原子番号が大きくなるほど,核子の数が増え,核の中で離れた核子が増えてくる。互いに離れた核子どうしは,クーロン力は及ぼし合うが,核力ははたらかなくなる。そのため,クーロン力を及ぼさない中性子が多くないと,陽子どうしの反発力に逆らって原子核をまとめることができないのである。

 

(3) π中間子を交換する引力であること 核力のうち,相対的に距離が大きい場合の主な成分は,方中間子の交換によってつくり出されている(核力の本性はクォーク間の「強い力」であるが,核力全体は複雑で,様々なモデルで説明される)。いつも陽子と中性子は,π中間子を出したり吸収したりして相互転換している。

核力の到達距離を,核子の大きさ程度の2×1015mであるとしよう。核力を媒介するπ中間子は,核子の間で交換されるごく短時間Δtの間だけ存在する。π中間子の速度を光速度c(3×108m/s)であるとすると,このΔtは,

 

となる。エネルギーと時間に関する不確定性関係ΔEΔth/2πより,この時間では,次式で与えられるエネルギーの不確定さが許される。

 

つまり,この値のエネルギーの粒子を含む状態がΔtの時間だけ現れてもよいことになる。これより,π中間子の質量はおよそ,

 

となり,電子の質量9.1×1031kgのおよそ200倍で,核子の質量1.7×1027kg1/10ほどであることがわかる(正確なπおよびπの質量は約140MeV)。中間子という名称は,このように質量が核子と電子の中間の値であることに由来する。

 

核分裂

核分裂は,ウラン・トリウム・プルトニウムなど重い原子核に中性子・陽子・α粒子・γ線などを当てたとき,質量が大きくは違わない2個の原子核(核分裂破片という)に分裂する現象で,原子核分裂ともいう。3個の原子核に分裂する場合もある。また,厚子番号が92以上の原子核では,外から何も当てずに起こる場合があり,それを自発核分裂という。原子炉の火付け役の中性子源としては,自発核分裂をするカリホルニウムが使われている。

下図は,遅い中性子による核分裂で〔%〕の分裂生成物の様子を示したものである。

235Uが中性子を吸収すると,グラフからわかるように,主として質量数が89104128150という2つの範囲の物質に分裂する。そのとき,23個の中性子が放出され,はなはだ多量のエネルギーを発生する。この分裂には幾通りもあり,40種以上にも及ぶ。これらの破片は,中性子の数が陽子の数に比べて多すぎるので次の例のようにβ崩壊を次々起こして安定な物質に変わる。

 

1つの235Uの核分裂で同時に放出されるエネルギーは,平均200MeVで,そのうち160MeVは分裂の際放出され,残りは放射性崩壊でゆっくり放出される。1Kg235Uが放出するエネルギーは,約8.2×1013Jで,約3000tの石炭にあたる。

 

連鎖反応

1つの反応がきっかけとなり,鎖が連なるように次々と反応が進むのが,連鎖反応である。酸素と水素の混合気体に放電や加熱をしたときに起こる爆発的なH2O生成反応のように,化学反応でもあるが,単に連鎖反応というとふつうは核分裂の連鎖反応をさす。

 連鎖反応が安定して持続する状態が臨界で,臨界になると核分裂で発生する中性子の数と吸収や漏れなどで失われる中性子の数が等しくなり,一定の割合で核分裂が続く。出力が一定で運転されている原子炉では,臨界になっている(出力が増加しているとき,臨界を越えている)

原子炉の中の安定した核分裂連鎖反応では,放出される中性子のうち平均ちょうど1個が次の核分裂反応を起こすように調節される。

なお,臨界質量とは,臨界を保つために最低必要な核分裂物質の質量である。核分裂で生じた中性子を炉心に戻す反射材などを工夫することにより,臨界質量を小さくすることができる。

 

 核分裂の発見

原子核反応で発生するエネルギーが化学反応のそれの約百万倍も大きなことは,1930年代には学問的によく知られていた。しかし,ラザフォード自身,1933年には,原子力を利用するなどということは,たわけた空想であると述べている。

1934年にイタリアのE.フェルミは,非常に小さいエネルギーをもっている遅い中性子が高速中性子よりはるかに原子核に吸収されやすいことを発見した。そこでフェルミと,ジョリオ・キュリー夫妻は,100種以上の同位体に中性子を吸収させ,それがβ崩壊を行い,より大きな原子番号の元素の同位体になるのを観察した。さらに,フェルミは,自然界に存在する最も重い238Uに中性子を吸収させて,自然界に存在しない超ウラン元素を創ることを思いついた。ところが,この実験で生まれた生成物から放射されたβ粒子は4種類もあり,解釈はひどく混乱した。その後4年間,フェルミ,ジョリオ・キュリー,ラザフォード,ハーンの4つのグループはこの照射実験をくり返し,93949596番目の元素まで創りだしてこれら“新元素”の化学的性質もすべて検証したと思ったが,実際には全部間違っていた。

この混迷を解決したのが放射化学者O.ハーンとF.シュトラスマン,L.マイトナーであった。彼らは1938年のクリスマスの前日,長い根気のいる実験の結果,そこに発生しているものは超ウラン元素ではなく,原子番号56のバリウムであると結論した。当時の科学的常識に全く反するこの正しい結果に到達できたのは,ハーンたちの30年にわたる放射化学者としての経験と,慎重でねばり強い研究心と,すべての常識に反する疑問をもったことであったろう。この実験結果をハーンはただちに論文にするとともに,それを,少し前までこの研究の中心になり一緒に仕事をしてきた同僚で,ナチスのユダヤ人迫害を逃れてスウェーデンに亡命していたオーストリア人のL.マイトナー女史に手紙で知らせた。彼女は,たまたま,クリスマスの休暇で彼女のところへきていた甥のR.フリッシュと2人でこの手紙を読み,2人で雪の中を長々と散歩しながら討論した。そして,このハーンの発見した現象に正しい理論的説明を与えた。すなわち,重い原子核の核子はぎっしりつまっていて,液滴の中のように一種の集団運動をしているものとみなせる,というボーアによる原子核の液滴模型の考えを使えば,このような原子核にさらにエネルギーを加えると,その形が亜鈴のようになることがあり,2つの小部分に分裂する,と。

1939年,フィリッシュは電離箱に線型増幅器と結合した装置で,核分裂によって生じたウランとは異なる原子核を確認した。

ちょうどアメリカの核物理学の国際学会へ出席しようとしていたボーアは,2人からその知らせを聞いて,あやうくアメリカ行きの船に乗り遅れそうになったという。ボーアがこのホットニュースをアメリカの学会で発表したところ,それを聞いた物理学者の多くは,学会を途中で切り上げて実験室に飛んで帰ってハーンの実験を追試し,数日後にはハーンの実験結果は世界中でその正しさが確認された。ハーンはアメリカの学会に出席中のボーアから長文の祝福の電報をもらった。ハーンは化学者でもあったので,この分裂反応から“物理的に”エネルギーを取り出すことには興味をもたなかった。しかし,時はちょうど第2次世界大戦の直前であり,この際に放出される巨大なエネルギーに列強は注目し,やがて核物理の研究は“軍事研究”として厚い秘密のカーテンの陰に隠されてしまった。

 

核融合

核分裂が重い原子核でのみ起こるのに対して,2つの軽い原子核は,くっつき合う核反応を起こすことがある。このようにして重い原子核を生じる反応を核融合とよんでいる。この反応はすでに1932年,実験的に発見されていた。恒星の内部では,この核融合反応により,多量のエネルギーが放出されている。

核融合についての研究は,1952年ごろから開始された。放射性の廃棄物があまり出ないし,また,水素や重水素など地球上に豊富にある原子核が原料になることから,未来のエネルギー源として注目されてきた。

核融合とは,軽い原子核が複数個合体して,1個の重い原子核になる反応と誤解されがちであるので,注意が必要である。たとえば,2個の重水素の核融合では,次の反応が起こりうる。

 

つまり,核融合とは,原子核がたんに合体するのではなくて,衝突する原子核相互の間で核子が交換され,組み替えられる場合が多い。

核融合反応を人類の次のエネルギー源として利用するには,検討しなければならない数多くの問題が残されている。まず,核分裂反応とは異なり,核融合反応には放射性物質発生の危険がない,というのは誤解を招きやすい。たとえば,核融合反応の結果として発生する中性子が物質と衝突したとき,2次的に放射性物質をつくることがあるからである。また,核融合反応が将来において人類のエネルギー源になるためには,現在の研究が到達している水準を大きく前進させねばならない。

 

核融合研究について

核融合を実用化するには,反応を連鎖的に長時間安定して行わせること,原材料が大量に入手できることなどが必要となる。現在は,まだ核融合を科学的に実証しようとしている段階である。ただ,科学的な実証ができても,大量の中性子を浴びる炉壁の材料や放射性の三重水素(トリチウム)のとり扱いなど,技術的な問題を克服しなければならないし,経済的に採算が取れるかどうかの経済的実証も必要で,実用化にはまだ多くの難問が残されている。

核融合反応を連鎖的に持続するには,正の電荷をもつ2つの原子核が,かなりの確率で核力が及ぶ範囲(1015m)まで近づかなければならない。核融合炉での利用が考えられる核融合反応は,重水素核(deuteron)2HD,三重水素核(triton)3HT,中性子(neutron)nで表して,

DT4Hen17.6MeV(D-T反応)

DD3Hen3.3MeV(D-D反応)

などがあるが,最も実現が容易なD-T反応でも1億度程度の高温を維持しなければならない。このような高温では,原子は完全に電離し,原子核と電子がばらばらの状態(これをプラズマという)になる。プラズマが壁に接触すると,壁を融かし,プラズマ自身も冷えてしまうため,プラズマは宙に浮かせる必要がある。実用化を目指す核融合炉は,すべて磁場を使ってプラズマを宙に閉じ込める「磁気閉じ込め」方式を採っているといってよい(レーザーによる「慣性閉じ込め」方式なども研究されているが,実用化に適した方法であるとは考えられていない)。ただ,これも簡単ではなく,プラズマ内部に電流を流し続けるなど,多くの工夫が要求され,さまざまな型の装置が試みられている。それらの中で,かなりの成功を収めてきたのがトカマクとよばれるものである。しかし,現状は核融合炉点火のための条件(ローソン条件という)の実現にも,さらに一桁大きな装置が必要とされ,巨大な国際協力プロジェクトITER(国際熱核融合実験炉)にその期待がかけられている。

これに対し,核分裂の場合は,クーロン力を受けない中性子が原子核に飛び込み,反応を引き起こしてくれるので,235のように1つの核分裂で数個の中性子が発生する材料を使えば,連鎖反応を安定的に持続させることができる。核分裂の起こる速さ(およびそれで決まる炉の発熱)も,中性子を吸収する制御棒を炉に出し入れすることでコントロール可能なため,シカゴ大学構内に作られた第1号試験炉から数年のうちに実用化させることができたのである。

核融合の燃料については,もしD-D反応が実現できるとすれば,海水中にある豊富な重水素の利用が考えられる。しかし,現段階ではD-D反応の実現の見通しは立っておらず,実用化を目指しているのはD-T反応炉である。D-T反応では,天然には存在しない三重水素を用いるので,プラズマの周りにリチウムのブランケットを置き,反応で出る中性子をリチウムに当てて人工的に三重水素を作ることが考えられている。したがって,エネルギー資源としての核融合炉は,現段階ではリチウムの資源量に依存することになる。

なお,一時期,ある種の結晶中に吸着された重水素などが核融合反応を起こしたという報告があり,「常温核融合」として話題になった。しかし,結晶中に吸着された重水素核(重陽子)2個が融合して発生したとされた中性子の数はきわめて少なく,自然に存在する中性子(バックグラウンド)との区別が難しい。当初の「中性子が増えた」とする報告は,バックグラウンドが低くコントロールされた実験室での追試で否定されている。現在では,このような常温核融合が起きるとは考えられていない。

 

原子炉

(a) 原子炉の構成要素と型 原子炉は,核燃料(核分裂し,熱エネルギーを出す),減速材(核分裂で出る高速中性子を減速し,次の核分裂を起こしやすくする),冷却材(核燃料を冷却し,熱を炉心から外部に取り出す),制御棒(余分な中性子を吸収し,核分裂の度合を調節する)などで構成される。

日本の原子炉は主として,減速材と冷却材を兼ねてふつうの水(重水に対して軽水とよばれる)が使われている軽水炉で,沸騰水型(BWRboiling water reactor)と加圧水型(PWRpressurized water reactor)がある。BWRは,原子炉内で水を沸騰させて蒸気をつくり,それを直接発電機のタービンに送る方式で,米国ゼネラルエレクトリック社が開発したものである(下の図)PWRは,水に150気圧の圧力をかけて沸騰しないようにして蒸気発生器に送り,そこで別の系統の水を蒸気にしてタービンに送る方式で,米国ウエスチングハウス社が開発したものである。東京電力はBWRを,関西電力はPWRを設置している。なお,蒸気でタービンを給水ポンプ循環水ポンプ温排水冷却水(海水)回して発電する仕組みそのものは,火力発電と全く同じである(ただし,蒸気の温度が原子力のほうが低いため,熱効率は火力が約40%なのに対し,原子炉は33%程度である)

 

(b) 核燃料 酸化ウランの粉末を円筒状に焼き固めたペレットを,ジルコニウム合金の棒状の被覆管に入れている。酸化ウランは,融点が高く,水に溶けにくく,金属ウランより化学的に安定で頑丈である。ジルコニウムは,強度があり,放射線に強く,中性子の吸収が少ない。核分裂で生じる放射性物質の大部分はペレットの中にとどまり,ペレット外に出る少量の放射性希ガスは被覆管で閉じ込めている。

(c) 減速材 主として中性子を原子核と弾性衝突させて減速するので,原子量が小さい元素が利用される。軽水,重水,黒鉛,ベリリウムなどが用いられるが,天然ウランの核燃料の場合,軽水は中性子吸収が多すぎて適さない。日本最初の原子炉である東海発電所第1号炉や事故を起こした旧ソ連チェルノブイリ発電所の原子炉は,減速材に黒鉛を用いている。

(d) 冷却材 冷却能力に優れ,中性子吸収の少ない材料が利用される。空気,炭酸ガス,ヘリウム,軽水,重水などが用いられる。なお,蒸気タービンを回した蒸気を冷やして水に戻す復水器は,大量の冷却水を必要とするので,日本の原子力発電所はすべて海沿いにあり,海水を利用している。この冷却水は,使用後に7℃ほど温度が上がり,温排水として再び海に戻される。

(e) 制御棒 原子炉の起動時に引き抜き,停止時に挿入する。中性子を吸収しやすいカドミウムやホウ素などでできている。

(f) 臨界 天然ウランは,遅い中性子で核分裂する235U0.72%しか含まず,残りは核分裂をしないウラン(238U99.275%,234U0.0055)である。原子爆弾では,235Uがほぼ100%になるように高濃縮したものを材料にするが,原子炉では天然ウランまたは235U24%程度の低濃縮ウランを用いる。原子炉燃料用ウランの場合は,発生した中性子は238Uや制御棒に吸収されたり,核燃料から外へ漏れる分もあり,平均すると1回の核分裂で発生する中性子は次の1つの235Uを核分裂させる。このように,核分裂で生じる中性子の数が一定で,核分裂が拡大も減少もせずに安定して起こり続ける状態を,臨界という。臨界には,核燃料のある程度の大きさが必要で,それは核燃料・減速材・構造材・冷却材などの性質,量,および配置状態などによって決まる。

(g) 自己制御性 軽水炉では,温度が上がって冷却水の気泡が増えると,水の密度が下がって中性子の減速効果が小さくなる。また,238Uは温度が上がると中性子の吸収効率が高まる。よって,原子炉には,核分裂が急速に進展し,炉心の温度が上昇すると,核分裂を抑える方向に自然に反応する性質(自己制御性)がある。

(h) 原子炉の安全対策 異常や事故の発生を未然に防止するため,@安全上余裕のある設計および高性能・高品質の材料使用,A誤操作によるトラブルを防止するインターロック・システム(例:運転員が誤って制御棒を引き抜こうとしても引き抜けない)や,システムの一部に故障があってもその機能を別の機構で代用するフェイル・セイフ・システム(例:制御棒駆動装置用の電源が故障しても制御棒を挿入して原子炉を停止できる),B十分な点検や検査,C余裕のある耐震設計と地震に対する原子炉自動停止装置などの対策がなされている。また,異常が起こってもそれが大きな事故に拡大しないようにするため,@異常を早く発見する自動監視装置,A原子炉を緊急に停止する装置,B冷却材が喪失する事故に備えた緊急炉心冷却装置(ECCS),C放射性物質の漏出を防ぐ原子炉格納容器などを設けている。

 

核エネルギー

原子核を構成する核子の結合状態が変わるときには,結合エネルギーの差が吸収・放出される。このエネルギーが核エネルギー(原子エネルギーともいう)で,核分裂をはじめとする核反応や,放射性同位体の崩壊に伴って現れる。また,とくにこのエネルギーが人工的に原子炉などで動力源として用いられる場合,原子力ということが多い。吸収・放出されるエネルギーの量は,変化の前後において関係する原子核の静止質量の差で計算することができる。

235U原子核1個の核分裂で出る核エネルギーは約200MeVで,235U1kgがすべて核分裂したら,約2×1013calのエネルギーが放出されることになる。これは,高性能爆薬であるTNTおよそ20000トン分のエネルギーであり,広島型原爆のエネルギーに相当する。また,重水素どうしの核融合(D-D反応)では,重水素1kgから約8×1013calのエネルギーをとり出せる。原子炉で放出される核エネルギーのほとんどは熱としてとり出されるが,原子爆弾では爆発に伴って生じる高温気体によって衝撃波が発生し,放出されるエネルギーの半分ほどが爆風のエネルギーになる。

放射性同位体の崩壊に伴って放出される熱(崩壊熱という)は,放射性同位体の量が多くなると,意外に大きなものとなる。たとえば,火山や地震,温泉などのエネルギー源である地球内部の熱の多くは,岩石に含まれる放射性同位体の崩壊熱によるものと考えられているし,日本で主に用いられている軽水炉(減速剤と冷却剤を兼ねて普通の水を使用する原子炉)の熱出力の1割程度は炉内の放射性物質の崩壊熱である。軽水炉での最悪の事故と考えられているのは,冷却水が失われた場合に,核分裂が止まっても残る崩壊熱によって,炉が破壊されて放射性物質が大量に放出される炉心溶融事故である。

 

使用済み核燃料

 使用済みの燃料には,核分裂によって生じた核分裂生成物,238Uが中性子を吸収して生成したプルトニウム(1%程度),残った235U (1%程度)など,多くの放射性同位体(RI)が含まれる。これらのもつ放射能の量は時間とともに減少していくが,燃料棒は,その放射線のエネルギーを自己吸収するので,温度が高くなる。そこで,使用済み核燃料は,約1ヶ月間水中に入れて冷却させて,放射能の減少を待つ。その後に,残っているUPuの分離を行うが,この冷却期間中に出る放射線の利用ができる。アメリカでは,この使用済み核燃料で大規模な照射装置を作り,研究用や殺菌,消毒,医療などに利用している。

元素

95Zr

144Ce

106Ru

143Pm

90Sr

137Cs

99Tc

239Pu

分裂生成物%

6.4

5.3

0.5

2.6

5.3

6.2

6.2 

半減期

65d

280d

1.0y

2.6y

19.9y

3.3y

2.1×

 105y

2.4×

 104y

また,核分裂によって生じる使用済み核燃料中のおもなRIは,上の表のようになる。使用済み核燃料を10年間放置すると,半減期の短いものは全部なくなって,137Csだけがγ線を放出し,β線については,その90%ぐらいまでが137Cs90Srに起因することになる。

使用済み核燃料を硝酸に溶解し,これを中和した後,その水溶液から有機溶媒でPuおよびを抽出して,燃料として再使用する。このとき残漆液を蒸発乾回して焼き固めると,AlMgおよびZrの酸化物に使用済み核燃料中のRIが吸着されるので,水で抽出すれば137Csが得られ,薄い酸で抽出すると90Srが得られる。90Srは,β線源として厚み計,静電除去装置,あるいは発光塗料として用いられる。また,137Csは癌治療用や食品保存のための照射線源として用いられる。

 

 

 

 








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