トップ物理II 改訂版3部 原子・分子の世界>第4章 原子核と素粒子>1節 放射線と原子核

1節 放射線と原子核

 

 放射能の発見とその研究

放射線を浴びたものは放射能を帯びるのか

陽子の発見

中性子の発見

質量分析器

同位体効果

原子質量単位と原子量

崩壊系列と天然の放射性同位体

原子核崩壊の統計的法則

放射線と物質の相互作用

放射線と物質の相互作用

放射線の分類

放射能の強さと半減期

放射線と放射性同位体の利用

人体に対する放射線の影響

放射線のリスクの評価

外部被曝と内部被曝

放射線の防護

放射線の検出方法

α崩壊・β崩壊以外の放射能現象

放射能・放射線に関する単位

自然放射線による被曝

人工放射線による被曝

 

 放射能の発見とその研究

1895年にX線が発見されると,それに刺激されて,関連した研究が次々に始まった。1896年,ポアンカレは十分強い蛍光を発する物体はX線も放出していると予測し,それを調べる実験が多くの学者によって行われた。

ベクレルは,燐光体であるウランを含む化合物の試料を黒い紙で包んだ乾板の上に置き,それが見えない放射線を出して乾板を感光させることを見いだした。初め,彼は試料を日光にさらして実験を行い,この現象が日光による励起が原因であると考えていたが,偶然に曇った日の実験結果を得て,暗がりに試料を置いた実験を意識的に行い,試料が自発的に放射線を出していることを発見した(1896)。そして,この放射線がX線と同様な電離作用をもつこと,透過する物質によって吸収の程度が異なること,温度変化・放電などの影響がないこと,および金属ウランが最も強く出すことを見いだし,この放射線の原因がウラン元素にあると推測した。

ベクレルの発見の反響で,多くの放射能の研究がされ,1898年,シュミットがトリウムについてウランと同様の放射能を見いだした。

マリー・キュリーは,空気を放射線によって電離させ,生じたイオンの電荷の総和を測定することにより,放射線の強度を定量的に測定した(それまでは,写真乾板の感光度か箔検電器の箔の閉じる速さによって,大ざっぱに推定されていただけであった)。そして,ウランの放射線の強さが,ウラン化合物の中のウラン量に比例すること,化学結合によらないことなどを確認し,ウラン放射線の原因がウラン元素にあることを確信した。次いで,ウランと同様の性質を示す元素を探し,ウランやトリウムを含む鉱物の中に,ウランやトリウムよりも強い放射能をもつものを見いだした。そして,ピエール・キュリーも研究に加わり,化学的に新しい方法でこの放射性物質の分離を行い,それまで知られていなかった新しい放射性同位元素ポロニウムとラジウムを発見することに成功した(1898)。なお,放射能という用語も,キュリーがつけたものである。

ウランの何万倍も強い放射線を放出するラジウムの発見により,それを用いて,放射線の電離作用,蛍光作用,オゾンを発生させたりガラスを着色させる化学作用,透過能,放射能の減衰などが盛んに研究された。1899年,ラザフォードは,放射線を透過能の強さによって2種類に分け,弱い方をα線,強い方をβ線とよんだ(同じ年にはβ線が,1902年にはα線が,磁場によって曲げられることもわかった)。そして,1900年には,ヴィラールが,磁場に曲げられず,透過能が強い第3の放射線(γ)を発見した。β線の正体は,ベクレルがβ線の比電荷を測定し,それが陰極線粒子の比電荷と同じことを見いだしたことにより明らかになった(1900)α線の正体は,比電荷や電荷の測定からヘリウムのイオンであることが予測され,最終的には1908年にラザフォードがα粒子のガスを放電管に集めてスペクトルを観測することによって確立された。また,γ線の正体については,粒子説と電磁波説があったが,後者が正しいことは,1914年のラザフォードらによるγ線結晶回折の実験によって明らかになった。

1900年には,キュリー夫妻がラジウムからのβ線が負電荷を運ぶことを証明し,ラジウム原子が帯電粒子を連続的に放出し,原子自体が変化しているのではないかと予想した。1903年,ラザフォードとソディは,放射線は放射性原子が壊れるときに出て,放射性原子の数Nが−dN/dtλNで与えられるとする「放射性変換説」を唱え,崩壊系列を初めて予想した。この後,崩壊系列にある未知の放射性物質を推定し,同定するという研究が多くの学者によって行われ,1910年にはソディがアイソトープの存在の可能性を指摘した。そして彼は,1913年にα崩壊とβ崩壊における元素の変位則(原子番号の増減の規則)を発表し,その論文でアイソトープの概念をより明確に述べている。

 

◆放射線を浴びたものは放射能を帯びるのか

 通常のX線や放射性崩壊によって放出されるα線,β線,γ線を物質や生物に当てても,放射能は帯びない。放射線によって与えられるのはエネルギーであり,放射線そのものは姿を消してしまう。α線は放射性のないヘリウム原子になり,β線はふつうの電子としてどこかの原子に捕らえられ,γ線は光電効果や電子対生成によって消滅する。放射線照射食品の安全性が議論されるとき問題にされるのも,その食品が放射能を帯びるということではなく,放射線の作用により生成した分子や化合物がなんらかの毒性をもつことはないかということである。例外は中性子線で,中性子は電気的に中性なので容易に原子核に侵入することができ,その原子核を放射性に変える核反応を起こす。たとえば,原子炉では多量の中性子線を浴びた構造物が放射能を帯び,廃炉の際には大量の放射性廃棄物になる。他の放射線も,加速器などで十分高エネルギーにすると,核反応を起こし,放射性同位体をつくる。

 

陽子の発見

ラザフォード散乱の実験で,原子の中心に原子核が存在することが明らかになった。一方,1915年,マースデンは,空気にα線を当てたところ,例外的に長い距離を飛ぶ粒子がいくつか出てくるのを見つけた。この長い飛程の粒子として考え得るのは水素の原子核であった。この研究をさらに続けて,1919年,ラザフォードは,ラジウムから放出されるα粒子(ヘリウムの原子核)を窒素の原子核に衝突させるとき,水素の原子核が飛び出してくることを発見した。この反応は,

4N4He → 17O1H

で表され,最初の原子核の反応過程(核反応)の発見であった。この水素の原子核は陽子(proton)と名づけられた。多くの原子核の質量は陽子のほぼ整数倍であることから,陽子は,水素以外の物質でも原子核を構成する基本的な要素であることが推測された。

 

中性子の発見

1930年頃より, BBeなどの軽い原子核にα粒子を当てると,透過性の大きい放射線が出ることが知られていた。ジョリオ・キュリー夫妻は,この放射線が水素を多く含む物質であるパラフィンから高エネルギーの陽子をたたき出すことを発見した。当初,この放射線は波長の短いγ線で,コンプトン効果で陽子をはじき出すと考えられたが,エネルギー保存の法則から計算されるγ線のエネルギーは極端に大きかった。チャドウィックは,この放射線が陽子ばかりでなくHeLiCNなどの軽い原子核もはじくことを発見し,放射線が未知の中性粒子で,その粒子と陽子などが弾性衝突をすると考え,実験結果からその粒子の質量を計算した。その結果は,陽子とほぼ同じで,こうして中性子が発見された。

中性子の発見は,電子,陽子に次ぐ新たな素粒子の発見であり,また電荷をもたない素粒子の検出という意味もあった。

 

 

質量分析器

同位体を分離し,その原子量を測定する装置を質量分析器という。

トムソンの装置は,図1のように,陽極線に垂直な同じ方向に電界と磁界をかけるものである。比電荷が同じ粒子は,陰極線に垂直に置かれた写真乾板上の破線で示した1本の放物線上にくる(放物線上のどこにくるかは粒子の速度によって決まる)。比電荷の異なる粒子は,別の放物線上にやってくるので,区別することができる。ただ,この方法では,質量の大きい元素の場合,同位体の質量比が11に近いため放物線が近接し,放物線の幅を細くしないと,それらを区別することができない。しかし,得られる放物線の幅を細くするために陽極線のビームを細くすると,イオン強度が弱くなり測定しにくくなるという問題があった。

 

アストンの装置は,図2のようなもので,速度の異なる同一質量の同位体を線上ではなく一点に集め,イオン強度が強くなるように工夫したものである。彼の方法では,陽極線は初めに電界で曲げられ,その後に電界と垂直な方向の磁界で反対側に曲げられる。速度の小さい粒子は電界で大きく曲げられるが,磁界でも反対側に大きく曲げられる。一方,速度の大きい粒子は,電界でも磁界でも小さく曲げられる。結局,電界による曲がりと磁界による曲がりが打ち消し合い,速度によらず一点に集まることになるのである。

 

 

 

同位体効果

原子の化学的性質は,外の軌道を回る電子によりほとんど決まるため,同位体は一般的に区別できないほど似た性質をもつ。しかし,同位体の原子核は,質量が質量数の差だけ異なるし,体積も少しは違う。これらの差に起因して,物質の化学的性質に少し違いが出ることがある。このような違いを,同位体効果とよぶ。

ほとんどの同位体効果は,原子あるいは原子核の質量の差によるものである(質量効果)。質量効果の例は,原子や分子の線スペクトルに現れる波長のずれや,原子や分子の拡散や移動,化学反応の速さの違いなどである。また,金属が超伝導になる転移温度も,質量効果を示すことが知られている。同位体は質量数がたかだか10程度しか違わないため,質量数の大きい同位体では質量の比が11に近く,質量効果は小さい。質量効果が顕著に現れるのは,軽い原子(とくに水素)である。

 

原子質量単位と原子量

炭素12の原子1個の質量を12とし,その12分の1を単位とする質量の単位を原子質量単位(記号u)という。1u1.661×1027kgである。しかし,炭素12を基準にとったことの理由がわかりにくい。実際,1962年までは原子質量単位の基準は酸素16であったが,この古い基準の原子質量単位を仮にu'と書けば,1u'16O原子1個の質量の1/16になるから,

(NA:アボガドロ定数)

となり,基準を12Cにとった場合と変わらない結果に見える。これは,アボガドロ定数の値が1molの定義自体に関わることを見落としたためである。16Oが基準であったときは,16O 16gの中に含まれる原子数と同数の粒子集団が1molであり,これは12C 12gの中に含まれる原子数とは当然異なる。

なお,ある元素の原子量Mは,その元素1molの質量をg単位で計ったものである。一般に,元素には同位体があるので,1molの元素の中には天然に存在する同位体がある割合で混ざることになる。そして,同位体どうしは化学的性質がほとんど同じであるから,地球上のどこでもこの割合(存在比という)は一定である。したがって,原子量Mは次のように計算できる。

M(同位体の原子質量〔g〕×NA×その同位体の存在比)

(同位体の原子質量〔u〕×その同位体の存在比)

たとえば,ホウ素については,天然の同位体が10B11B2種類で,

10Bの原子質量=10.013u(存在比19.9)

11Bの原子質量=11.009u(存在比80.1)

であるから,ホウ素の原子量は次のように求まる。

M10.013×0.19911.009×0.80110.81

 

崩壊系列と天然の放射性同位体

崩壊系列には4種類ある。各系列は元をたどればただ1つの親原子核があり,その原子の名前にちなんだ系列名がつけられている。以下にそれを示す。

系 列 名

親 核

最終生成核

質量数(nは整数)

トリウム系列

232Th

208Pb

4 n

ネプツニウム系列*

237Np

209Bi

4 n1

ウラン系列

238U

206Pb

4 n2

アクチニウム系列**

235U

207Pb

4 n3

*ネプツニウム系列は天然にはなく,原子炉などで人工的につくられる。

**親原子核235は「アクチノ・ウラン」という別名があるため。

 

天然に存在する放射性同位体で,崩壊系列に属さないものは,次の2つに分けられる。

@ 地球の誕生時に存在していて現在も残っている半減期の非常に長いもの

()カリウム40(40K)[半減期1.3×109年]

ルビジウム87(87Rb)[半減期4.8×1010年]

A 高層大気中で宇宙線(1次宇宙線や2次宇宙線の中性子など)N0Arなどの原子核に衝突してつくり出すもの

()トリチウム(3H)[半減期12年;核実験や再処理工場も放出源]

炭素14(14C)[半減期5730年;核実験も放出源]

 

原子核崩壊の統計的法則

 ある1種類だけの放射性原子核をとったとき,単位時間あたりに崩壊する原子核の数−dN/dtは,そのときの全体の原子数Nに比例する。

 

この式で崩壊定数λは,原子核が単位時間あたりに崩壊する確率である。また,式の左辺についている負記号は,時間がたつにつれ(dt0),原子核の個数が崩壊によって減少する(dN0)ので,右辺のλN0 とつじつまを合わせるためのものである。なお,λと半減期Tとの関係は,次のように求められる。

 

 

この法則の物理的意味は,原子核の崩壊が確率過程であることである。すなわち,放射性原子核の崩壊は,どの原子がいつ崩壊するかについては何も確定的なことはいえない全く確率的な事象である。

また,−dN/dtNに比例するということは,核の崩壊の11つが全く独立であって,他に存在している核によって何の影響も受けない現象であることを示している。いまn個の原子核があって,ある時間にk個の崩壊があったとしよう。すぐ隣に,もう1n個の原子核があったとしよう。もしも,この第2の原子核のグループが,近くにある第1の原子核のグループと全く関係なく崩壊するならば,やはり単位時間にk個の崩壊をするであろう。2つのグループをまとめて見れば,原子核の総数が2n個になればそこから出る崩壊個数は2k個に,3n個になれば3k個に,……となる。すなわち,崩壊個数は,現在の全個数Nに比例していることになる。一言でいえば,原子核の崩壊は互いどうしがばらばらで,11個ごとに全く独立した現象なのである。物理学のみならず,科学のいろいろな領域で不思議なほどeという数が出てくるが,この数の背後には,系の構成要素の間に関連がない(と近似する)場合が多い。

 

 

放射線と物質の相互作用

(a) 電離作用・励起作用 α線・β線のように電荷をもった粒子は,物質中の原子の近くを通過するときに,原子の中の電子と電気力を及ぼし合い,その結果電子を原子からはじき出したり(電離),外側の軌道に移したり(励起)する。蛍光作用など他の相互作用の原因も,もとはこの電離や励起である。

(b) 蛍光作用 放射線によって物質中の原子・分子などが電離あるいは励起され,その結果として光を放出する場合がある。紫外線でも起こる。放射線による蛍光をとくにシンチレーションという。

(c) 光化学作用 放射線を写真フイルムや写真乾板に当てると,飛跡が写真像として記録できる(写真作用)。また,物質によっては,電離や励起に続いて化学変化が起こる(化学作用)高分子に対する化学作用には,分子の間をつなぐ架橋反応と分子を切断する分解反応がある。

 

放射線と物質の相互作用

(a) α α粒子は電子に比べてはるかに質量が大きいため,散乱によってあまり進路を変えない。同じエネルギーならばβ線よりも速度が遅く,また電荷が大きいので,物質中の原子を激しく電離し,飛程はβ線よりもはるかに短い。

透過力はごく小さく,空気中でも数cm程度しか透過できず,薄い紙1枚で遮蔽することができる。

(b) β 物質中の原子や分子の電離・励起で,β線は大部分のエネルギーを失う(非弾性散乱)。また原子核の近くを通るときは,エネルギーは失わないが,進行方向を曲げられたり(弾性散乱),電磁波を放射してエネルギーを失ったりする(制動放射)β線は速度が速いため,1回の相互作用で失うエネルギーが小さいので,物質の中でエネルギーを全部失って止まるまでに非常に多数回の相互作用を行い,散乱で大きく進行方向を曲げられるため,ジグザグに進む。

透過力はα線に比べるとかなり大きいが,空気なら数十cm〜数m,アルミニウムやプラスチック板なら数mm1cmほどまでしか透過できない。

(c) γ線,X α線やβ線と異なり相互作用する確率は非常に小さいが,相互作用が起こるときには1回でもっていたエネルギーの全てまたは大部分を失う。その場合の相互作用は,X線では光電効果のみで,γ線では光電効果・コンプトン効果・電子対生成の3種類がある。これらの過程で生じる二次的な高速電子は,β線のように,また周りの原子を電離・励起する。γ線・X線が物質に当たったときに生じる物質原子の電離・励起のほとんどは,この二次的な電子によるものである。

物質との相互作用はα線・β線に比べてごく小さく,透過力は非常に大きい。厚い鉛の板でも完全に遮蔽することは困難である。

(d) 中性子線 電荷をもたないので,直接原子を電離したり励起したりすることはない。物質中の原子核との衝突によりエネルギーを失い,反跳された原子核が物質原子と相互作用する。この衝突でいろいろな方向にはね返されるので,物質中をジグザグに進む。核反応で放射性原子をつくること(放射化)がある。

高速の中性子はかなり透過力が大きいが,水やパラフィンのように水素(すなわち中性子とほぼ同質量の陽子)を多く含む物質を通すと減速して熱中性子になり,ホウ素やカドミウムなどに容易に吸収されるようになる。

 

放射線の分類

「放射線」は,通常は放射性崩壊によって原子核から放出されるα線・β線・γ

線などを指すが,それらと同程度以上のエネルギーのX線・宇宙線・核反応で生成される粒子線なども含む。また,それよりも低いエネルギーのX線も,放射線に含むことが多い。以下に放射線の分類を示す。

分類

名  称

主  な  線  源

電磁

放射線

X*

X線管,放射性同位体

γ*

放射性同位体,宇宙線,加速器

β(電子線)

放射性同位体,宇宙線,加速器

α

放射性同位体,加速器

陽子線

加速器,宇宙線

重陽子線

加速器

重イオン線や中間子線

加速器,宇宙線

中性の

粒子線

中性子線

原子炉,加速器,226Ra210Poなどの天然α放射性元素にBeを混ぜたもの,宇宙線

*X線は原子核外の現象に伴って出るのに対し,γ線は原子核から出る点で区別される。

 

なお,宇宙線には,地球の外からやってくる1次宇宙線と,1次宇宙線が大気中のN0の原子核と衝突してできる2次宇宙線がある。1次宇宙線の9割近くは陽子,9%ほどがα粒子であり,残りがLiBeなどの原子核,電子,γ線である。2次宇宙線はありとあらゆる核反応生成物と電子・陽電子・γ線などで,地上では約3/4μ粒子,約1/4が電子と陽電子とγ線である。

 

放射能の強さと半減期

 放射能の強さはふつう「単位時間に崩壊する原子の個数」で表すから, である。よって,計算すると,

 

と表すことができ,原子の個数Nと同じ半減期Tで指数関数的に減少することがわかる。だから,Tは「放射性原子の数の半減期」でもあるし,「放射能の強さの半減期」でもある。なお,この式より,放射能の強さはλN0が大きいほど強いことがわかる。すなわち,放射能は,半減期が短く(Tlog2/λより),放射性原子

の個数が多いほど強いのである。

ところで,放射性同位体の危険性は,半減期や放射能の強さだけで決まるわけではない。半減期が短いものは最初は強い放射能をもつが,すぐに減衰してなくなってしまう。逆に,半減期の長いものは最初に放射能が弱くても,いつまでもなくならない。また,放射能の強さは「その物質から単位時間に放出される放射線の数」を表すだけで,どんな種類のどんなエネルギーの放射線が出てくるかとか,その放射性同位体が人体に取り込まれやすいのか否かについては何も語ってはくれない。

 

放射線と放射性同位体の利用

(a) 概論 放射性同位体(radioactive isotope,以下RIと記す)が広く利用される

のは,大別して次の3つの特性による。すなわち,

(1) 放射線という標識によって原子の移動を追跡することができる。

(2) 放射線が物質に当たると,物理的ないし化学的な変化を誘起する。

(3) 放射線が物質を透過する過程において,物質は放射線を吸収したり散乱する。

この(1)の性質は,物理的ないし化学的トレーサー(tracer)として,工業,医学,生物学その他各方面に広く利用されている。(2)の性質は,物理では静電気の除去,アイソトープ電池,発光塗料などに,化学では化学反応の促進,物質の性質改善などに応用されている。また医学の分野では,癌の治療などへ利用されている。(3)の性質は,物質の種類によって吸収や散乱の仕方が異なることを利用して,レントゲン撮影や非破壊検査,および厚み計,液面計,比重計などの計測分野で広く応用されている。放射線の吸収や散乱は,その種類とエネルギーによって大きく変わるので,用途に合わせて最適の放射線源を選ぶことが大切となる。

トレーサーとして利用されるのは,RIがもつ次の性質による。すなわち,

(1) RIは安定な同種の元素と同一の化学的性質を示す。

(2) RIはその位置と種類と量とを示す放射線を常時放射していて,しかもこれを容易に,かつ遠隔的に測定することができる。

(3) 放射線の検知感度はきわめて高いので,他の方法では不可能な微量の元素も検知できる。

(4) RIの壊変特性はそれぞれのRIで異なっており,また温度,圧力,化学組成などによって変化することはない。

(b) 医学における利用 最も広く利用されているのは診断用のX線で,フイルムに撮影するレントゲン撮影や蛍光板に映して像を見る透視,様々な角度からX線を当ててコンピュータ処理をして人体の断面図をつくり出すXCT検査などがある。なお,密度の大きいバリウムやヨウ素,密度の小さい空気や二酸化炭素などの造影剤を体内に入れ,消化器,腎臓,心臓,血管などをはっきり映し出すX線造影検査が,レントゲン撮影や透視でよく行われる。

診断への利用は,この他にインビポ検査とインビトロ検査がある。人体にRIを含んだ薬品を投与し,それから出るγ線をガンマカメラというγ線検出器でとらえてコンピュータ処理し,臓器の動きや病巣の有無を診断したり,血液や尿を採取してそれから出る放射線を検出して診断するのがインビポ検査で,99mT123T67Ga201TIなどが用いられる。これらのRIの多くは,半減期が短くてすぐになくなり,α線とβ線を出さずにγ線のみを出すので,人体に対する善が比較的少ない。甲状腺の診断には,甲状腺によく集まるヨウ素のRIである123T131Tが用いられる。一方,人体には直接RIを投与せず,採取した血液や尿などを試験管内でRIを含む試薬と反応させ,それから出る放射線を使って,微量成分を定量して診断するのがインビトロ検査である。

新薬開発では,薬品の効果や安全性の研究において,薬品成分の体内での挙動を調べたり,薬品投与によるホルモンやタンパク質などの体内での挙動を調べたりするために利用される。調べたい物質を構成する原子の一部をRIで置換したものを実験動物に投与し,オートラジオグラフィー(RIが含まれる生体組織の薄い切片をフィルムに密着させて,写真作用で像を得る技術)や臓器・排せつ物の放射能の直接測定を行う。

癌の放射線治療は,外科手術・化学療法とともに広く行われている。60Coからのγ線やリニアックやサイクロトロン等の加速器からの電子線・中性子線・陽子線などを体外から照射したり,密封されたRIの小線源を癌組織に埋め込んで体内で照射したりする。甲状腺癌については,131Tを大量に経口投与し,甲状腺に131Tを集めて体内照射させる方法もある。なお,癌以外のバセドウ病などの甲状腺障害にも,RIを用いた治療が行われる。

注射針・注射筒・手術用手袋・メス・縫合糸などの滅菌消毒には,ガス滅菌や高圧蒸気滅菌と並んで60Coからのγ線による滅菌が行われている。

<核医学>

X線撮影,CTスキャン,エコー(超音波),核磁気共鳴(MPI)などの画像診断とは別に,微量の放射線を出す放射性同位元素(ラジオアイソトープ)およびその化合物を患者に投与して,その体内分布を外部から測定することで病気を診断し,治療を行う医学を核医学と呼んでいる。一般に核医学検査では,被曝量が少なく短い半減期をもつ放射性同位元素が用いられる。

 

(c) 農学における利用 32Pを含んだリン酸肥料を植物に与え,32Pからのβ線を検出すれば,リン酸肥料の植物体内での挙動を知ることができる。

農作物や園芸植物の品種改良のためには,主としてγ線やX線などを用いて突然変異や染色体異常を起こす方法がとられる。

放射線照射による食品の発芽防止・殺菌・殺虫は,多くの国で行われている。

害虫防除では,不妊化虫放飼法(人工ふ化させた雄に放射線を照射して不妊化して放すことをくり返し,自然界の雌と交尾させ,害虫集団をしだいに絶滅させる方法)が行われている。日本では,小笠原諸島や奄美・沖縄諸島に大量発生した久米島のウリミバエを絶滅させた成功例がある。

(d) 工学における利用 金属やゴムの摩耗の研究,ダムや下水の漏水検査,地下水調査などで,トレーサーとして利用される。ただし,日本では,環境での大規模なRIのトレーサー利用は行われなくなってきている。

セロファン・ラップフィルム・アルミニウム箔・紙・ゴム板・鋼板などの膜または板の厚さを連続的に測定するのに,β線またはγ線,X線を当て,その吸収や散乱の度合を測る方法が用いられている(高分子薄膜ではα線も用いられる)。この方法では測定対象に接触しないで測定できるので,赤熱した状態の鉄板の厚さも測定できる。同様な原理によるものとしては,厚さが一定の容器に試料を入れてその密度を測定する密度計などがある。

タンクの中の液体の液面の位置を測定するためには,60Co137Cγ線源とした次の図のような液面計が用いられている。

 

 

 

物体を壊さないで内部の状態を調べる非破壊検査では,X線・γ線・中性子線などによるラジオグラフィー(透過した放射線によってフイルムを感光させ,物体内部の検査を行う技術)が行われ,工業材料・製品・構築物などの外見ではわからない割れ目・空洞などの欠陥を調べるのに広く用いられる。たとえば,ジェットエンジンのタービンの損傷は,192Irγ線を用いたラジオグラフィーによって定期的に調べられている。

無人灯台や人工衛星などの電源として使われているアイソトープ電池は,RIの崩壊熱を熱電変換するものが主だが,半導体によって太陽電池と似た原理で発電するものもある。90Srなどの比較的長い半減期のRIが使われ,電源としての寿命が長いという長所がある。原子力電池,放射線電池ともいう。

微量のRIは,身近な工業製品にも使われている。たとえば,蛍光灯用グローランプには,147Pmが内部に塗布されたものがある。そこからのβ線の電離作用により,スイッチを入れたときに放電がすぐに起こるようにするためである。レジスターやガソリンスタンドなどで金額やガソリンの量を表示する小型放電管でも,63Ni147Pmが放電を助けるために塗布されている。また,夜光時計の自発光塗料には147Pmが含まれ,そこからのβ線によって発光する。また,大部分のビルに設置されている煙感知器は,241Amからのα線による電離電流が煙によって減少するのを検知する仕組みになっている。

高分子化合物の合成・改質には,放射線照射による架橋反応を利用している。耐熱性を向上させた電線被覆材料,自動車の内装・風呂用マット・冷蔵庫の断熱材・スリッパ・包装材料などに用いられる発泡プラスチック,電子部品の被覆などに用いられる熱収縮性チューブ,自動車のラジアルタイヤ用のゴムなど,様々なものが放射線照射によってつくられている。また,建物の床材やゴルフクラブのヘッドなどに用いられるウッドプラスチックは,木材にモノマーを浸み込ませてから放射線によって重合し,高分子ポリマーにすることにより硬化させている。なお,高分子工業において用いられる放射線は,ほとんどが加速器による電子線である。

(e) 年代測定 RIによる絶対年代測定は,一般に半減期の数倍までの年代を調べることができる。14Cによる年代測定はラジオカーボンデーティングとよばれ,考古学でよく用いられている技術である。発掘された動植物の遺骸(木材・木炭・泥炭・穀物・木の実・貝殻・骨など)が測定対象で,14Cの半減期が5730年なので数百年から数万年前までの年代を調べることができる。従来は放射能計測で14C/12Cが測定されていたが,最近は質量分析法による少量試料の測定も行われるようになった。

岩石や地層の年代測定には,RbSr法,UPb法,KAr法などが用いられる。K-Ar法は,40Kが半減期1.25×108年で89%が40Ca(β崩壊)に,11%が40Ar(EC)に崩壊し,その中の40Arが,岩石鉱物が加熱されたり結晶化するときに気体として失われることを利用するもので,岩石の生成年代を105109年の範囲で測定できる。また,鉱物中に含まれるウランの自発核分裂による核分裂片の飛跡を数えるフィッショントラック法などもある。

(f) 化学分析 環境中の有害物質の分析や薬品の不純物の決定などに広く利用されている化学分析法であるガスクロマトグラフィーには,検出部に63Niによるβ線の電離作用を利用しているものがある。

試料に放射線を照射し,励起した原子から出る特性X線のエネルギーと強度を測定することにより,試料中の元素を分析する方法が蛍光X線分析法で,絵の具の分析による絵画の真贋の鑑定にも用いられる。用いられる放射線は通常X線管からのX線だが,RIからのγ線やX線を利用したり,加速器による陽子線を用いたりすることもある。

放射化分析は,他の元素分析法と比べて,感度が高く,化学的分離を行わずに非破壊的に多数の元素を同時に分析でき,分析に要する時間が短い。環境中の微量金属元素の分析,毛髪中の水銀の分析,犯罪捜査など,その利用範囲はきわめて広い。放射化分析には,原子炉で生じる中性子線,加速器による中性子線, 252Cfの自発核分裂による中性子線,高エネルギーのX線・陽子線などが用いられる。

 

人体に対する放射線の影響

(a) 概論 一般には「放射線の被曝は,どのような場合でも正常な生体にとっては有害な作用を及ぼすだけであり,何1つプラスの要素はない。生物の進化はほとんどゼロに等しいきわめて弱い放射線の環境の中で行われてきたので,生物は放射線に対する防御体制を何ももっていない。他の化学的な危険物は光熱・異臭など五官に感じるものが多いが,放射線は致死量の被曝を受けていても何も感じない。また,細菌に対する免疫のような,自動的に体が反応して自分を守ることも放射線に対してはない。」というのが定説である。ただ,微量放射線については,生物の活動を盛んにする効果(放射線ホルミシス)の存在を示した研究もある。

影響は下の表のように分類できる。ここで,確定的影響(または非確率的影響)とは,ある線量(閾値とよぶ)以下では影響が発生せず,ある程度以上の線量で

は影響が必ず発生し,線量が増えるほど影響の程度(重症度)が大きくなるものである。そして,確率的影響とは,線量が大きくなるにつれて影響の生じる確率が単調に増え,閾値が確認されていないものである。

身体的影響

急性障害

皮膚の紅斑

脱毛

白血球減少

不妊

など

確定的影響

(非確率的影響)

晩発障害

白内障

胎児への影響

     など

白血病

確率的影響

遺伝的影響

代謝異常

軟骨異常

     など

 

(b) 障害発生のメカニズム 生体に放射線が当たると,生体組織の原子および分子を電離・励起する。特に障害の主因となるのは,細胞のDNAの破壊である。その破壊には,放射線による電離・励起で直接DNAが破壊される場合(直接作用)と,細胞中の水分子が壊れて遊離基(H基と・HO基など)やイオン(HOHなど)などの化学反応性に富むものができ,それによってDNAが破壊される場合(間接作用)とがある。このDNAの傷は酵素のはたらきによって修復される場合もあるし,逆にそのはたらきによって傷が広がる場合もある。そして,このDNAの傷によってその細胞が死んでしまったり分裂能力を失ったりしたものが急性障害の原因であり,遺伝子や染色体の突然変異になったものが晩発障害や遺伝的影響の原因である。なお,遺伝的影響は生殖細胞の遺伝子や染色体の突然変異によってのみ起こる。

(c) 放射線の種類による影響の違い 中性子線やα線は,X線・γ線・β線に比べて,電離した電子が密集してでき,DNAにも密集して傷をつくり,DNAを壊す確率も高くなる。すなわち中性子線やα線は,相対的に害が大きいといえる。またX線・β線・γ線では,総線量が同じなら照射が分割されたり長期にわたったりすると障害が著しく小さくなるが,中性子線やα線はそうではない。

(d) 被曝した組織・臓器による影響の違い 細胞分裂過程のDNAが放射線に対して弱いし,細胞分裂が傷ついたDNAを拡大するので,一般的に細胞は未分化なもの(胎児の細胞や精子をつくる精原細胞や骨髄中の血球の幹細胞など),分裂の盛んなもの(細胞の脱落・交代がつねに起こる腸上皮や皮膚の幹細胞など)であるほど放射線の影響を受けやすい。つまり,生殖腺,造血組織,股上皮,皮膚などの感受性が高いし,胎児や幼児の感受性が高い。また,同じ理由で癌細胞は感受性が高いから,癌治療に放射線照射が行われるのである。

胎児は,母親が妊娠815週の間に被曝した場合に,脳が障害を受けやすく,重症の精神発達遅滞を引き起こす(ただし,閾線量は0.12Svという大線量である)。奇形や成長の遅れ,死亡も,動物実験では明らかになっている。

卵巣・こう丸などの生殖腺は男性が0.15Gy,女性が0.651.7Gyで一時的不妊を起こし,男性が3.56.0Gy,女性が2.56.0Gyで永久不妊になる。また,遺伝的影響を起こし得る。

骨髄やリンパ節などの造血組織は広く分布しているので最も影響を受けやすく(0.25Svでリンパ球減少),わずかな線量でも長い年月受けると血球数が減少する。急性障害では白血球減少・出血・発熱などを起こし,晩発障害では白血病がある。

皮膚では,X線やβ線の1回照射の場合,3Gyで一時的な脱毛と紅斑(やけど)7Gyで永久脱毛,50Gyで壊死を起こし,晩発障害では皮膚癌がある。

眼では,水晶体が最も敏感で,X線の場合210Gyで白内障が起こる(中性子線はその210倍起こしやすい)

全身を被曝したときには,放射線感受性の高い組織に現れる影響が問題になり,身体の一部だけに被曝したときには,その被曝した箇所に現れる影響が問題になる。

(e) 全身被曝の場合の急性障害 同じ線量でも,それをまとめて1回で被曝すると,少しずつ何回にも分けて被曝するよりも影響が大きい。一時に全身がγ線またはX線をたくさん被曝したときの症状は,個人差があるが,典型的な例は次の表の通り。なお,代表的な急性障害を一つにまとめて表記している。たとえば,吐き気は2000mSvを越えたとたんに現れるという意味ではなく,およその目安である。

(f) 晩発障害の特徴 白内障や癌などの晩発障害は,放射線以外の原因によって生じる場合が多い。放射線はいつどこでどの程度被曝したか不明なことが多い上に,被曝してから障害が現れるまでに,長い時間が経過していることも多い。これらの理由により,放射線の晩発障害は,その障害が放射線被曝に起因することを立証するのが一般に困難である。

 

放射線のリスクの評価

(a) 線量と障害との関係 人間の身体的影響について線量と障害の関係(直線的関係)がはっきりわかっているのは,自然放射線よりもはるかに高い線量(数百mSv以上)だけである。一方,動植物の実験では,微量放射線(数十mSvとか数mSv)でも遺伝的影響である突然変異率が線量に比例してし)て,しきい値(それ以下では影響が出ない線量)の存在は認められていない。

よって,「晩発障害と遺伝的障害では線量閾値はなく,線量と障害は直線的に比例するとみなして,放射線防護を考える」というのが,現在の一般的考え方である。しかし,とくにX線,γ線,β線については,これは影響を過大評価し過ぎていて実際の障害はもっと少ない,という批判もある。また逆に一方では,微量放射線の影響はもっと大きく,直線的関係は過小評価である,とする批判も一部にある((d)項参照)

(b) 晩発障害のリスク評価 国際放射線防護委員会(ICRP),国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR),全米科学アカデミー・米国研究審議会の「電離放射線の生物学的影響に関する委員会」(BEIR)などの公的機関やその他の研究者がリスク評価を行っている。それらは次の表のとおり。

報告機関または報告者

      (報告年)

致死性癌にかかる者の増加数推定値 (100万人が全身に10mSvずつ被曝した場合)

BEIR I (1972)

117621

ICRP (1977)

125(100人,女T50)

UNSCEAR (1977)

75172

Mancuso ら (1977)

10002000

Rotblat ら (1978)

800

BEIR III (1980)

77226

Beral ら (1985)

200

高木仁三郎 (1988)

500800

BEIR V (1989)

790

ICRP (1990)

500

 

最近はICRPなどのリスク評価の基礎データとして用いられてきた原爆被曝者のデータの見直しが進み,リスク評価は放射線の危険性をより高く見積るものになりつつある。この表からもわかるように,米国のBEIR報告では,198912月のBEIRV が1980年の報告(BEIRIII)34倍のリスク評価になっているし,ICRP1990年の新しい勧告でも見積りが1977年の旧勧告の4倍になっている。

(c) 遺伝的障害のリスク評価 遺伝的障害は,どんな線量レベルでも人間については確認されていない。広島・長崎の被曝者の子孫についても現在のところは不明である。マウスやサルを用いた実験データを人間に当てはめて,両親のどちらかが10mSv被曝したとき,子孫のすべての世代に重い遺伝的影響が発生する確率を計算してみると,10万分の13程度になるが,これは,出生児の10.5%が奇形・ダウン症・血友病・色盲などのなんらかの遺伝的障害をもっている(1982年国連科学委員会報告)ことに比べれば,きわめて低い。

(d) 微量放射線のリスク評価 線量と障害の関係がはっきりしている高線量では,死んでしまう細胞(それは癌にはなりえない)が多く,そのデータを外挿して低線量による発癌を見積ると過小評価になる恐れがある(とくに中性子線やα線の場合)

一方,細胞レベルの研究や動物実験では,X線,γ線,β線で低線量および低線量率(長時間にわたって少しずつ照射すること)の照射の影響が直線的外挿よりも少ないことがわかっている。

人間の被曝集団に対する研究では,かなり高い線量の1回の被曝の場合が多く,微量放射線の影響について定量的に信頼できる情報はほとんどないとされている。微量放射線による数量的に少ない被害を調べるには多数の標本が必要である(たとえば10mGyの被曝には1000万人),という原理的な難点があるためである。微量放射線のリスクを大きく見積った研究にはマンクーソらによる米国ハンフォード研究所の作業者に対するものが有名であるが,ICRPBEIR III報告では正当性を認

められていない。

(e) ICRPの放射線防護の考え方

 放射線防護の原則として,ICRPでは1977年に次のような勧告を行った。

(1) いかなる行為も,その導入が正味でプラスの利益を生むのでなければ,採用 してはならない(正当化の原則)

(2) すべての被曝は,経済的および社会的な要因を考慮に入れながら,合理的に達成できる限り低く保たなければならない(最適化の原則)

(3) 個人に対する線量当量は,委員会がそれぞれの状況に応じて勧告する限度を越えてはならない(線量限度遵守の原則)

正当化の原則は,放射線被曝を伴う行為には被曝に値するだけの正当な理由が必要だということである。また最適化の原則は,as low as reasonably achievableの頭文字をとって俗にALARA(アララ)の精神といわれ,たとえ放射線を利用する正当な理由がある場合でも条件つきで被曝はできるだけ低くしなければならないということである(ただ,逆にいうと経済的および社会的に合理的達成が困難なら,線量低減化をしなくてよいということにもなる)。線量限度遵守の原則は,自然放射線と医療による被曝を除いて,どんな場合でも個人の被曝はこの限度を越えてはならないというレベルを決めたもので,ここまでは被曝してよいという「許容線量」ではない。

この線量限度は,1990年のICRP勧告では,放射線を取り扱う職業人について「5年間の平均が年間20mSvで,どの1年も年間50mSvを越えない」,一般公衆について「年間1mSv」とされている。なお,1977年の勧告で導入された職業人の基準の年間50mSvは,この十分の一(年間5mSv)の被曝のリスクが他の比較較的安全な職業のリスク(年間死亡率が1万人に一人)と同程度である,という理由に基づいていた。また一般公衆の基準が職業人に比べて厳しいのは,職業人に比べて健康管理が不十分なことと,放射線に対する感受性の高い子供や胎児が含まれているからである。

 

外部被曝と内部被曝

外部被曝はフィルム・バッジやポケット線量計などでかなり正確に被曝線量の評価ができるが,内部被曝についてはホールボディカウンターで身体から出るγ線を測定したり,尿・糞・呼気などに含まれる放射性同位体を測定したり,空気中の放射能濃度から計算したりして被曝線量を推定するので,その評価は難しくなる。

また,核実験や原子力事政などで環境が放射能汚染されたときには,放出されるのは人工放射性同位体なので,生物が濃縮・蓄積してしまうような元素も含まれる。したがって,空気や土の表面の放射能レベルが下がって外部被曝がなくなっても,食物連鎖による濃縮で動植物の放射能汚染は残り,人間も食物として摂取することによる内部被曝はしばらく続くことになる。

内部被曝では,口から体内に入り消化管を通じて吸収される場合と,呼吸器や皮膚から吸収される場合がある。水溶性または脂溶性のものは消化管からよく吸収されるが,不溶性のものは吸収されにくい(不溶性のものでも消化管壁は被曝する)。核種によって,また同一核種でも化合物の種類によって,吸収の度合いや吸収される速さは異なる。また,身体の健康状態にも左右され,たとえば貧血があると59Feの吸収率は増加するし,皮膚に損傷があると皮膚からの吸収は著しく促進される。

人体に吸収され,血液中に入った放射性物質は,比較的均等に体内に分布するものと,ある臓器に選択的に集まるものとが存在する。とくに集合する臓器を関連臓器,最も多く蓄積される臓器を決定臓器という。

体内に蓄積されている放射性物質は,物理的な放射能の減衰だけでなく,生物学的な物質交代で体外に排出されることによる減衰を生じる。後者により,体内の放射性物質が初めの値の1/2になるのに要する時間を生物学的半減期という。そして,物理学的半減期と生物学的半減期をともに考慮した実質的な半減期を有効半減期という。代表的な核種について,下に表で示す。核実験や原子力事故によって放出される放射性物質のうち,人体に取り込まれやすいものは131T89Sr90Sr137Csなどである。

 

放射線の防護

(a) 外部被曝に対する防護 線源のできるだけ近くに遮蔽物を置いて放射線を遮ること,線源から離れること,放射線を浴びる時間を短くすること,の3つが原則である。X線やγ線の遮蔽には鉛や鉄が,中性子線の遮蔽には水やパラフィンが,多量の放射線を遮蔽するためにはコンクリートが用いられる。

(b) 内部被曝に対する防護 整理整頓,飲食・喫煙禁止,専用作業衣の着用,手洗い,汚染のチェックなどの定められた注意事項を遵守することにより防護する。環境に放射能汚染があった場合は,空気や水・食物など摂取する物質の放射能の濃度を規制する。また,原子力事故などによりヨウ素の放射性同位体が環境を汚染した場合は,人体に取り込まれにくいようにするため,非放射性のヨウ素剤を服用する。

 

放射線の検出方法

(a) ガイガー計数管(GM計数管) ガイガー計数管は,1928年にガイガー (Geiger)とミュラー(Müller)が発明したもので,ガイガー・カウンター,GM計数管などともよばれ,アルゴン,ヘリウム,水素などに,放電抑制用の気体のアルコール,エーテル,ハロゲンガスを少量混ぜて封入した放電管の一種である。

電極は,細い芯線()とそれを取り囲む円筒()でできており,この間に大きな電圧をかける。放射線がガス中を通過すると,ガスの分子が電離され,芯線近くの強い電界で電子なだれが生じるようになっている。この電子なだれは,入射粒子の種類と無関係に,一定の大きさまで成長し止まる。そのため,放射線の種類に関係なく一定出力の電気的パルスが得られる。

あまり強くない放射線源を計測するときには,β線については計数効率が100%と見てよいが,γ線については1%ぐらいである。また,GM計数管の窓を通り抜けることができないα線や低エネルギーのβ線は測定できない。

(b) 比例計数管 GM計数管のように,細い芯線(正電極)とそれを取り囲む円筒(負電極)の間に,アルゴン,イソブタン,炭酸ガスなどの気体を封入し,電極間に,GM計数管よりも低い電圧をかける。ガスの分子が電離されて芯線近くで生じる電子なだれがあまり大きく発達しないようになっており,放射線がつくるイオン対の数に比例する電気信号をとり出すことができる。そのため比例計数管では,放射線の種類やα線,β線,X線などのエネルギーを測定することができる。

この他,時間応答が速く,粒子の通過位置を精度よく決める工夫が可能なため,加速器を使った実験などでは,比例計数管の改良版であるドリフト型比例計数箱が広く使われている。

(c) シンチレーション計数管 下図は,蛍光体にNalの単結晶を用いたγ線用シンチレーション計数管の原 理図である。@はγ線,AはNalの単結晶,BはNalによる蛍光,Cは光を反射するためにAlの外箱中につめてあるMgOの粉末(これで蛍光が反射され,すべてが光電増倍管に捕らえられるようになる),Dはガラスのふた,Eは光電増倍管の陰極面,FはEで放出される光電子,Gは光電子の集束電極,Hは2次電子を増倍する部分,Iは大きなパルス電流が発生する陽極である。

Nalを用いたシンチレーション計数管は,γ線に対して計数効率が高く,約100%となる。また蛍光の光子数が入射エネルギーに比例することから,発生するパルス電気量を測定することで,入射放射線の種類や エネルギーを測定することもできる。

(d) ウイルソンの霧箱 1987年にウイルソン(C.T.R.Wilson1869-1959)が電子の電荷を測定する研究をする中で考案した装置で,急激な膨張で過冷却状態にした気体中を放射線が通過し,電離されて帯電した粒子ができると,その周りで水蒸気が液化して霧ができるという性質を利用している。ごみが核となっても霧ができるので,はじめに何回か膨張させ,ごみによる寒が出ないようにしてから放射線を当てるようにする。霧箱の有感時間はだいたい1/10秒ぐらいである。膨張の周期は,30秒〜1分に1回の割合より短くしないよう注意する必要がある。

霧が多いときには膨張比を小さくし,少ないときには膨張比を大きくするとよい。

現在では電子機器を使った比例計数箱などにとって代わられ,ほとんど使われなくなっている。

(e) 原子核乾板 原子核乳剤を塗布した特殊な写真乾板で,ふつうの乾板に比べて臭化銀の粒子を小さくし,しかも臭化銀を多くしている。したがって,粒子の飛程が短くなるばかりでなく,飛跡の単位長さあたりのエネルギー損失も大きくなり,飛跡がはっきりと現れる。乳剤の厚さは25µm1mmと厚くしてある。

 塊像後,飛跡の観察には顕微鏡を用いる。

(f) 泡箱 閉じた容器中にある種の液体を封入し,それに適当な温度と圧力を与えておく。それを機械的に減圧すると液体は過熱状態になる。その際液体が沸騰しないようにしておく。この状態のとき荷電粒子が通過すると,粒子は液体分子と衝突してエネルギーを失い,液体を局部的に加熱することになる。するとそこに泡が形成される。こうして粒子進路に沿って生まれた泡の列を,強い照明で照らして写真撮影する。液体は気体と比較して密度がはるかに高いため,入射粒子のターゲットの役割をも果たす。通常強磁界と組み合わせて使用され,飛跡の曲率半径から運動量が,また泡の密度分布から粒子の速度が測定される。1952年にグレーザー(Glaser1926-)が発明した。霧箱と同様に,現在ではほとんど使われなくなっている。

 

α崩壊・β崩壊以外の放射能現象

(a) 陽電子崩壊 原子核内の陽子が中性子に変化し,高速の陽電子とニュートリノが飛び出すもの。陽電子崩壊はβ崩壊と書き表すこともあり,この陽電子はβ線という。放出された陽電子は,周囲のたくさんある電子のいずれかと対消滅し,代わりに180°方向に2個または3個のγ線が出る。陽電子崩壊をすると,原子番号が1減り,質量数は変わらない。天然の放射性同位体では起こらない。

(b) 軌道電子捕獲(electron capture) 原子核内の陽子が軌道電子を1個捕獲して,中性子に変わり,ニュートリノを放出するもの。たんに電子捕獲ともいい,ECと略記する。ECでは,陽電子崩壊と同様に原子番号が1減り,質量数は変わらない。陽電子崩壊には必ずECが伴うが,ECが単独で起こることもある。

(c) 内部転換 崩壊して励起状態にある原子核が,γ線を放出する代わりに,エネルギーを軌道電子の1つに与えて,その電子が原子の外に飛び出す現象。

(d) 核異性体遷移(isomeric transition) 励起状態がかなり長く続く原子核(核異性体または異性核という)が,γ線を放出し,固有の半減期で安定状態に移行する現象。ITと略記する。核異性体は,99mTcのように,質量数のあとにmをつけて表す。

 

放射能・放射線に関する単位

放射能・放射線の単位は,キュリー,レントゲン,ラド,レムといった単位が広く使われてきたが,SI(国際単位系)ではそれぞれ,ベクレル,クーロン毎キログラム,グレイ,シーベルトになる。日本でも,198941日に放射線障害防止法などが改正され,SIの単位が使われることになった。

(a) キュリーとベクレル(放射能の強さの単位) 物質の放射能の強さは,単位時間に何回放射性崩壊が行われるかで表す。歴史的にはCude夫妻の名にちなんだキュリー(記号Ci)が用いられてきたが,現在のSIでは放射能の発見者Becquerelにち

なんだベクレル(記号Bq)を用いる。

 

1Ci1秒間に3.7×1010個の原子が崩壊する放射能の強さ

1Bq1秒間に1個の原子が崩壊する放射能の強さ( ∴〔Bq〕=〔s1)

 

1Ciは当時の代表的放射性物質であったラジウム(226Ra)1gの放射能の強さであり,そのためこのような半端な数値で定義される。なおこの定義より,1Ci3.7×1010Bq(すなわち370億ベクレル)であることがわかる。

放射能の強さを決めるのは,放射性原子核の個数(あるいはその物質のモル数)と半減期である。同じモル数なら半減期が短い物質ほど放射能は強いし,同じ放射能になるモル数は半減期が短い物質ほど少ない。たとえば半減期45億年の238 U 1Ciのモル数は大きく,質量は3tほどになるが,半減期14日の32P  1Ciのモル

数は小さく,質量はわずか約3µgである。

(b) レントゲンとクーロン毎キログラム(X線・γ線の照射線量の単位) 放射線が物体に当たったときに及ぼす作用の原因は電離作用によるので,ある場所にやってくるX線やγ線の量は,その場所でどのくらい空気を電離できるかで表す。これを照射線量とよんでおり,X線の発見者Röntgenにちなんだレントゲン(記号R)という単位を用いてきたが,現在は単純にクーロン毎キログラム(記号C/kg)という組立単位を用いる。

 

1R1kgの空気に正負それぞれ2.58×104Cのイオン対をつくる放射線の量1Rの定義がこのような半端な数値なのは,元々の定義の仕方が「1cm3の空気に1静電単位のイオンをつくる放射線の量」というものであったためである。なお,このレントゲンの定義より,1R2.58×104C/kgの関係があることがわかる。

実際には,照射線量は単位時間あたりにどの程度かを問題にする場合が多く,R/hC/kgSなどの照射線量率の単位もよく用いられる。

(c) ラドとグレイ(放射線の吸収線量の単位) 放射線にさらされた物質は,電離作用などによって放射線のエネルギーを吸収する。物質の単位質量あたりのエネルギー吸収量を吸収線量といい,着目した物質がどのくらい放射線を浴びて物理的影響を受けたかを表すものである。1953年以来ラド(記号rad)という単位が広く使われてきたが,現在では電気の導体・不導体の区別を確立した英国の物理学者Grayにちなんだグレイ(記号Gy)という単位を用いる。

 

1rad=物質1gあたり100ergのエネルギー吸収があるときの線量

1Gy=物質1kgあたり1Jのエネルギー吸収があるときの線量

 

これより,〔Gy〕=〔J/kg〕であり,1rad0.01Gyであることがわかる。

なお,物質によって放射線透過の難易は違うから,同じように放射線が当たっても物質が異なれば吸収線量は異なる。たとえば同じ1Rγ線が人体1gに照射されたとすると,軟らかい組織は95ergほどのエネルギーを吸収するが,骨は約300ergのエネルギーを吸収することになる。すなわち,1Rγ線が人体に照射されたときの吸収線量は,軟らかい組織で約1rad,骨で約3radというわけである。

(d) レムとシーベルト(放射線の等価線量(Equivalent dose)の単位) 人体の組織が放射線を吸収したときの障害は,radGyのようなエネルギー吸収量だけでは決まらない。当たる放射線の種類によって,影響が異なるからである。そこで,放射線防護のためには等価線量という量を定義し,危険度を加味して組織の放射線吸収量を表している。これまでレム(記号rem)という単位が広く使われてきたが,現在は放射線防護の分野に貢献したスウェーデンの学者Sievertにちなんだシーベルト(記号Sv)という単位を用いる。

 

rem〕=(rad〕や測った吸収線量) ×(当たった放射線の放射線荷重係数)

Sv〕=(Gy〕で測った吸収線量)×(当たった放射線の放射線荷重係数)

 

これより,1rem0.01Svであることがわかる。放射線荷重係数は,X線・γ線・β線で1,エネルギーが不明の中性子・陽子で10α線・重イオン粒子で20という値である。つまり,γ1Gy1Svに相当し,α1Gy20Svに相当する。

なお,同じ値の線量当量だけ被曝しても,皮膚が被曝するのと生殖腺が被曝するのでは,その個人にとっての影響は異なり,被曝のリスクを単純に比べることができない。そこで,体の各組織が被曝することによる全体的な影響を評価するためには,各臓器の放射線に対する感受性や重要性を考えた組織荷重係数を各臓器の等価線量にかけてそれらを合計した実効線量という量を計算して利用する。

 

自然放射線による被曝

1993年の国連科学委員会報告によれば,自然放射線の年間被曝量は実効線量で平均2.4mSv。その内訳は宇宙線からの外部被曝が0.39mSv,大地などからの外部被曝が0.46mSv,空気中のラドンおよびその娘核種の吸入による肺の内部被曝が1.3mSv,体の組織にある放射性同位体(40Kなど)による内部被曝が0.22mSvである。

飛行機で日本とアラスカを往復したときの宇宙線の被曝量は,約20時間の搭乗時間に0.05mSv程度で,宇宙線だけで比べれば地上の50倍ほどの被曝量になる。したがって,飛行機の乗務員の被曝は一般人に比べてかなり多くなり,英米のデータでは年間12mSvよけいに被曝するという。また,宇宙飛行士は太陽系外・太陽・ヴァンアレン帯からくる放射線を被曝する。1990年に旧ソ連の宇宙船に乗った秋山宇宙飛行士は6.6mSv1992年にアメリカのスペースシャトルに乗った毛利宇宙飛行士は2.85mSvの被曝をしたという。一方,建物の中にいると遮蔽効果によって,宇宙線の被曝は減る(ただし,後に述べるようにラドンなどによる被曝は増える)

大地からの放射線による外部被曝は,放射性元素を多く含む花こう岩地帯である西日本が年間およそ0.6mSvで,関東のおよそ0.3mSvに比べて2倍程度多い(たとえば,40Kは花こう岩1kgあたり1000Bq,石灰岩1kgあたり90Bq含まれ,232Thは花こう岩1kgあたり80Bq,石灰岩1kgあたり7Bq含まれる)。また,トリウムに富んだ砂地やラジウムを含んだ水などが原因となって,ブラジルのグアラパリやインドのケララ,イランのラムサールなど,年間の被曝線量が10mSvを越える極端に大地放射線のレベルが高いところもある。海の上や飛行機・ロケットの中では,大地からの放射線の影響はほとんどなくなる。

空気中のラドンは,222Rn238の崩壊によるウラン系列に属し,220Rn(トロンとよばれる)232Thの崩壊によるトリウム系列である。したがって,ラドンも,元はすべて大地や建材に含まれていた放射性同位体が起源で,気体であるがために元の場所から空気中にしみ出てくる。温帯地域での室内のラドン濃度は外気中の8倍ほどなので,人の被曝の大部分は室内のラドンによるものである。室内のラドン濃度は,建物の下の土壌や建築材料中に放射性同位体が多く含まれているほど,また建物の密閉度がよいほどレベルが高くなる。建物の密閉度の向上は,省エネルギーには寄与するが,ラドンによる被曝は増加させるのである。

ラドン以外の建物の影響は,建材の宇宙線および大地放射線に対する遮断効果と,建材中の放射性同位体の出すγ線がある。一般に,木造家屋では遮断効果が大きく,コンクリートやレンガ造りの建物では建材中の放射能の影響が大きい。

人体の中には,下表のような放射性同位体が存在する。代表的な40Kは生体に必須な元素カリウムの同位体で,カリウムの大部分は非放射性だが,0.012%が40Kである。この40Kからのβ線は毎秒4200本,γ線は500本ほど人体を貫いている。人間はこれらの放射性同位体を食物を摂取して成長することにより体内に取り込むので,これらによる内部被曝は食物に由来するともいえる。

 

放射性同位体

 

放射能濃度

pCikg

体重60kg

人の全身放

射能〔pCi

40K

1800

110000

14C

1100

70000

87Rb

230

14000

210Pb210Po

2040

500

238U

30

 

人工放射線による被曝

医療放射線による年間実効線量は先進国で約1mSv,世界平均で0.4mSvで,平均

的な人の人工放射線による被曝の中では最も大きな寄与をする。胸部のX線間接撮影では皮膚の等価線量で1回当たり約0.3mSv(実効線量で約0.05mSv),胃のX線検査では1回当たり実効線量で約0.6mSvの被曝をする。これらのX線検査では,装置や技術の差によって被曝量が大きく異なるので,同じ検査でも国や病院による被曝量の差が著しい。放射性物質の医薬品を用いた検査は,先進国では1000人あたり1040回行われ,患者個人の被曝は0.020.15mSvになる。癌の治療では,等価線量で数千mSv以上の被曝をする。

1950年代から60年代にかけて多く行われた大気圏内の核実験による放射性降下物のため,しだいに被曝量は減少するものの,100万年以上にわたって人類は被曝する。主な原因核種は将来にわたっての人類全体への線量寄与の大きい順に14C137Cs95Zr90Srで,95Zrの半減期は65日,137Cs90Srは約30年,14C5730年であり,それぞれの半減期に応じて影響が残ることになる。放射性降下物による年間実効線量は,世界の平均でおよそ0.02mSvである。1954年のビキニ島での核実験では,マーシャル諸島のロンゲラップ島の住民が,2000mSvの皮膚の外部被曝と,大人で約1500mSv,子供でおよそ400014000mSvの甲状腺の内部被曝をし,日本の漁船の乗組員が皮膚に20006000mSvの外部被曝をした。

原子力発電が原因となる被曝は,採掘・精錬・燃料加工・運転・再処理の各過程と廃棄物で生じ,平均の年間実効線量の見積りは0.001mSvである。ただし,原子力産業の作業者や原子力施設や廃棄物処分場の近くの居住者は,平均よりも高い線量の被曝を受けることになる。日本の場合,1988年の原子力発電所の作業者の平均被曝線量は,電力会社社員で0.7mSv,下請け労働者で1.8mSvである。また,原子力発電所の敷地境界での線量目標値は,年間0.05mSvである。

テレビのブラウン管からも微量なX線が出ているが,10cmという至近距離で2時間見たとして,皮膚の等価線量で0.0001mSvという微量な被曝である。

たばこには,空気中の天然放射性元素であるラドンの娘核種の210Pb210Poが含まれており,喫煙すると煙とともに揮発したポロニウムを吸い込む。毎日20本喫煙すると,年間で肺の等価線量で0.18mSvの被曝をする。

夜光時計の蛍光物質として以前はラジウムが用いられており,甲状腺に0.01mSv以下程度の被曝をさせていたが,最近はトリチウムや147Pmが用いられるようになり,被曝線量は大幅に減少した。

石炭の放射性同位体の含有率は高くないが,その灰に濃縮され,灰の一部は煙突から大気に放出される。したがって,石炭の工業や家庭熱源での利用は,被曝を増加させる。化学肥料やリン石膏として利用されるリン鉱石も,採掘の過程のラドンの放出や製品そのものによって被曝を増加させる原因となる。

 

 

 

 

 

 








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