トップ物理II 改訂版3部 原子・分子の世界>第2章 原子と電子>4節 粒子の波動性

4節 粒子の波動性

 

電子の波動性

物質波の波動数と速さ

波動と粒子の二重性

電子顕微鏡

不確定性原理

 

電子の波動性

1924年,ド・ブロイは,学位論文「量子論の研究」で,相対論的な考察に基づき物質波の仮説を示した。彼は,静止質量m0のエネルギーの塊には0m0c2の式で決まる振動数ν0の内部振動が存在し,運動量pの運動体にはh/νpの式で決まる仮想的な付随波があり,その波の射線は運動体の軌道方向で,その群速度が運動体の速度に等しいとした。この物質波の仮説により,ボーアの水素原子モデルの量子条件は容易に導くことができた。

電子の波動性が仮想的で原子の内部に限られるものではなく,実験的な実在であることは,最初にエルザッサー(WEIsasser1904)によって示された。彼は,1921年から23年にかけてデピソンとクンスマン(C.H.Kunsman)が行った低エネルギー電子線の白金板による反射の実験結果を調べ,それが電子波の結晶格子による回折であるとして説明できることを指摘した(1925)。そして1927年には,より決定的な実験がデピソンとジャーマ一によって,ニッケルの単結晶を用いて行われた。続いて,それより4か月遅れて,彼らと独立に,G..P.トムソン(電子の発見者J.J.Thomsonの息子)は,セルロイド,金,アルミニウムなどの薄い箔(厚さ約1nm)によって散乱された陰極線(高エネルギー電子線)の回折実験に成功し,電子線によるデバイーシュラー環を得た。また,翌1928年,菊池正士は,薄い雲母の単結晶を透過した電子線による菊池図形とよばれる干渉模様を得た。デピソンとトムソンは,この粒子の波動性の実験的確立の功績により,1937年にノーベル賞を受賞した。

高エネルギー電子線(10keV以上)による電子線回折は,実験が比較的容易で,薄膜や表面の構造を探る有力な手段となった(X線回折は,主に物質内部の構造を探る)。それに対し,低エネルギー電子線(1keV以下)による電子線回折は,技術的な難点が多く,デピソンらの実験以後は長いこと応用されず,戦後になってからようやく表面の観測手段に用いられるようになった。

物質波の仮説は,さらにシュレディンガー(E.Schr6dinger1887-1961)により発展させられ,量子力学の一形式である波動力学が打ち立てられた(1926)。ある環境中の電子の波動関数が,その環境に合致したどのような形になるかは,波動力学の基礎方程式であるシュレディンガー方程式に境界条件を与えて解くことによって求められる。求められた波動関数の絶対値の2乗が,電子が存在する確率を表す。

なお,初めにド・ブロイの学位論文の意義を認め,他の学者にその論文に注意を向けるように促したのは,アインシュタインであった。シュレディンガーが波動力学を構築するようになった動機も,アインシュタインがド・ブロイの仕事に関連して論文を発表し,それを詳しくゼミナールで締介するようにシュレディンガーに依頼したからであったという。

このように,アインシュタインは1905年の光電効果の理論以来,量子力学の発展にも非常な貢献をしたわけである。にもかかわらず,量子力学が完成すると,彼はその中の確率解釈を好まず,死ぬまでそれを承認しようとはしなかった。

 

物質波の振動数と速さ

ド・ブロイの物質波の仮説は,光子の運動量pと波長λとの関係ph/λを,λについて解き,

 

として,これが光子以外の粒子についても成り立つと考えれば,説明がつく。

しかし,それならば,光子のエネルギーEと振動数νとの関係Eも,物質波に適用できると生徒が考えるのは自然であろう。また,速さvの粒子の物質波の振動数νBと波長λBの間には,vνBλB(あるいは,光子と混同してcνBλB)の関係があると考えがちである。これらは次のようなパラドックスに陥る。

(a) パラドックス その1 物質波についてもEが成り立ち,エネルギーEが質量m,速さvの粒子の運動エネルギーであると考えると,

 

これと,物質波の波長の式λBh/mvより,νBλBを計算してみると

 

となり,粒子の速さvとも光速cとも一致しない。

(b) パラドックス その2 次に,光子のエネルギーが「光子の運動エネ ルギー」ではなく,光子の全エネルギーであることから,物質波についても Eが成り立ち,エネルギーE(相対論的)質量m,速さvの粒子の全 エネルギーであると考えてみると,

mc2=B

これと,物質波の波長の式λBh/mvより,速さνBλB

 

となり,やはり粒子の速さvとも光速cとも−致しないし,しかもνBλBcという相対論的に奇妙に思える結果である。

さて,物質波について,Eの関係が成り立つとするのは誤りではない。vνBλB(またはcνBλB)という関係を期待してしまうことが問題なのである。

物質波は,粒子の位置に(ある広がりをもって)局在したパルス波(イメージとしては,教科書の図4510などを参照)である。このようなパルス波は,波束または波群といい,振動数νおよび波長λが異なる波の重ね合わせで得られ,山(これを位相速度という)は波束が全体として進む速さ(群速度という)とは一般に異なる。νBλBは物質波の位相速度であり,粒子の運動速度vは物質波の群速度と等しく,両者は一致しないのである。なお,波束において情報やエネルギーを伝える速さは群速度であるので,上の「パラドックス その2」で位相速度が光速を越えてしまっても,相対論的な矛盾はない。

ただ,このような詳しい説明を生徒にしても,十分な理解を得ることは困難であろうし,かえって波束のイメージにとらわれすぎ,単純な誤った物質波の概念を獲得させてしまうことになりかねない。「高校物理では,物質波について,波の速さや振動数を考えることはしない」という指導をしたほうが無難である。

 

 

波動と粒子の二重性

マクロの言葉でいえば,波は空間的に連続して広がっているものであり,粒子は不連続で局所的に存在しているものである。この両者の性質は,マクロ世界の物理学では,全く両立しないものである。

1個の粒子の物質波は波束で表されるが,波束のイメージは両刃の剣である。波動と粒子の二重性を,「粒子はパルス波である」という単純なものとして理解されてしまう恐れがある。これは避けなければならない。電子は電子という粒子でもあり,物質波という波でもある。また,光は光波という波でもあり,光子という粒子でもある。現象によっては波動性が表に出てくるし,観察の仕方によっては粒子性が現れてくる。ミクロな世界の実在は,マクロな世界で対立するこの二重性を合わせもつのである。

このようなことを生徒に納得させることは困難で,その本質的な解決は大学における量子力学の学習に委ねざるを得ないであろう。光の波動性が現れる代表的な例である「複スリットによる干渉」では,スクリーンに到達するときには光子として現れること,および光のもつ波動性が「媒質の振動」ではなく,光子の行動の確率を決める「マクロな世界にはない波」であるということ,が示されている。この実験は,光量を極端に少なくし,スリットには同時に複数の光子が通過しないような条件で行われ,スクリーンは光子11つの位置を示すことができるフォトン・カウンティング・イメージャという特殊な撮像管が使われている。光子は1個ずつスリットを通過するのに,たくさんの光子を集めると,2つのスリットの存在を知っているかのように干渉した強度分布が得られるのである。

 

不確定性原理

波動と粒子の二重性は,ミクロの世界の物理法則に本質的なものであるが,古典物理学では致命的な矛盾である。そこで,その矛盾を直観的にいちおう理解し,解決するために,ハイゼンベルクが1927年に導いたものが不確定性原理で,不確定性関係ともいう。

ミクロの世界では,物体のある位置座標xと運動量のその方向への成分Pxは,同時に確定値として測定することはできない。そして,位置座標の不確定さΔxと運動量の不確定さΔPxとの積は,どんなに小さくしても,その限界はほぼプランク定数の値である。同様な不確定性関係は,波動関数の振幅と位相,エネルギーEとその測定時間tなどの間にも成り立つ。なお,波動と粒子,位置と運動量,といった対立する概念や量は,互いに相補的であるという。

ボーアとハイゼンベルクは,この原理の正当性を確認するため,さまざまな思考実験を考え出した。たとえば,γ線を当てて電子の位置を観測する顕微鏡を仮定する。電子の位置を正確に測定するために,波長の短いγ線を用いてレンズを大きくすると,電子はγ線によってコンプトン効果で運動量を受け取り,しかも(レンズが大きいから)レンズにやってくるγ線の経路が不明確になり,電子の受け取った運動量は正確に測定できなくなる。ただ,このような思考実験は,測定という行為が不確定性を生むという誤解を招きやすい。

不確定性原理で直接説明できる現象の例としては,単スリットによる光の干渉がある。単スリットの幅が狭いほど回折の程度が大きくなるのは,スリット幅が狭いほど,光子がスリットを通過するときの図のx軸方向の位置座標の不確定さが小さくなり,そのぶん光子の運動量のx成分の不確定さが大きくなるからである。

 

電子顕微鏡

試料を透過した電子線を電子レンズで結像する透過型電子顕微鏡(教科書p.215 14参照),試料表面から反射した電子線を用いる反射型電子顕微鏡,集束した電子のビームで試料表面を走査し,試料から放出される2次電子を検出して増幅し,ブラウン管にその像を映す走査型電子顕微鏡などがある。

電子線の加速電圧は,通常20200kVで,500kV以上のものは超高圧電子顕微鏡とよぶ。透過型電子顕微鏡の分解能は約30nm,走査型電子顕微鏡の分解能は200nm程度である。

 

 

 

 

 

 

 








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