トップ物理II 改訂版3部 原子・分子の世界>第2章 原子と電子>2節 光の粒子性

2節 光の粒子性

 

光電効果

熱放射

熱放射の理論

エネルギー量子の概念

光量子仮説による光電効果の説明

星はなぜすぐに見えるのか

 

 

◆光電効果

物質が光を吸収して,電子を放出する現象が光電効果で,その電子が物質表面から外に出てくる外部光電効果(あるいは光電子放出)と,気体中の原子や分子から自由電子が放出されてイオンができる光イオン化,絶縁体や半導体の内部の伝導電子数が増える内部光電効果に分けられる。単に光電効果といえば,ふつう外部光電効果を指す。

外部光電効果は,光電管,光電子増倍管,撮像管などとして,光の検出や強さの測定などに広く利用されている。また,紫外線やX線による光電効果で放出される光電子の運動エネルギー分布などを測定する光電子分光法は,物質の構造解析や表面の分析に広く利用されている。内部光電効果は,固体の電気伝導率が上がったり,電極との接合部に起電力が生じたりすることから,太陽電池や露出計などに利用されている。

光電管は,光を受ける光電陰極と光電子を集める陽極からなる2極管で,分光光度計や比色計などの測定器に用いられる。光電陰極は, AgOの面上にCsの薄膜をのせた複合材や,SbCsの合金などで作られ,ふつう管内は高真空である。

光電子増倍管は,光電陰極から出た光電子を,電界で加速して真空管内の2次電子放出面に当て,そこから出た2次電子を別の2次電子放出面に当て,さらに……ということを繰り返すことにより,光電管の感度を上げたものである。分光測定,放射線の出す蛍光検出(ポジトロンCT,ガンマカメラ,サーベイメータなど),天体観測などの弱い光の測定,印刷用カラースキャナなどに用いられる。光電子増倍管は直径10mm50cmのものがある。光電子増倍管はカミオカンデ内でチェレンコフ光を検出するのに使用されているが,それはニュートリノの観測に利用されているのである。

撮像管は,像を電気信号に変換する真空管で,テレビカメラやX線診断に用いられる。現在,通常のテレビカメラは半導体素子が用いられており,帯電させた光伝導性ターゲット面に結ばせた光学像による電位像を電子線走査で拾う光伝導型撮像管が高感度および高解像度カメラに利用されている。

 

熱放射

物体の温度を上げていくと,初めは赤外線だけを出していたのが,暗赤色の光を出し始め,黄,橙と色が変わり,ついには白く強く輝くようになる。この熱放射の変化は,白熱電球のフィラメントや,シャープペンシルの芯に,単巻き可変変圧器(スライダック)をつないで,両端にかける電圧を高めていく実験によって,簡単に示すことができる。

黒体(全ての波長の電磁波を吸収する理想化された物体。可視光の全ての波長を吸収するものは黒く見えるので,この名がある)が放射する電磁波の波長と電磁波の強さとの関係を,黒体の温度を変えて見てみると,下の図のようになる。この黒体放射では,黒体が放射する電磁波の全エネルギーは温度が高くなるほど大きく,最も強く放射される電磁波の波長は温度が高いほど短くなる。なお,黒体放射は空洞放射ともいうが,それは温度が一定に保たれる壁で囲まれた空洞に,非常に小さな穴を開けたものは,その穴を外部から見ると黒体になるからである。

 

熱放射の理論

熱放射については,シュテファン(J.Stefan1835-1893)が実験的に発見し,ボルツマン(L.Boltzmann1844-1906)が理論化した「黒体放射の全エネルギーは絶対温度T4乗に比例する」という法則(シュテファン・ボルツマンの法則,1884)と,ウィーン(W.Wien1864-1928)による「黒体放射のエネルギー密度が最大となる波長λmTに反比例する」という法則(ウィーンの変位則,1893)が,知られていた。

しかし,測定された黒体放射のエネルギー分布の形の全てを理論的に説明することは,19世紀末まではできなかった。1896年,ウィーンは,シュテファン・ボルツマンの法則とウィーンの変位則を満足するような放射のエネルギー密度の式を,ある仮定から導いた(ウィーンの式)。これは,絶対温度Tの黒体放射において,波長がλλの間にある放射のエネルギー密度をρ(λ) とすると,

 

となるというものである。だが,この式は,1899年および1900年の実験で,長波長(赤外領域)での実験結果とのずれが決定的であることがわかった。

プランク(M.Planck1858-1947)は,1895年から熱放射の理論にとり組んでいたが,1900年になって,このウィーンの式の改良を試み,実験結果をうまく説明する次のような式を導くことに成功した。

 

この式が,物理学史に画期的な意義をもつのは,エネルギーを不連続量として扱う「エネルギー量子の仮定」を初めて用いて導かれたことによる。プランクは,高温物体から放射されたり吸収されたりするときの光のエネルギーを,それまで考えられていたように,いくらでも小さく分けられる連続量ではなく,その光の振動数をν (c/ν)として,23,……のように,をエネルギーの素量(かたまり)として変化する不連続量として扱ったのである。なお,ウィーンの式は,このプランクの式の短波長での近似式になっており,その場合,定数ClC2は,次のような値に対応する。

Cl8πhc  C2ch/k

プランクの仕事とは独立に,ウィーンの式の改良が,空洞内の電磁波に対してマクスウェル理論を当てはめ,振動のモードごとにエネルギー等分配則を用いる方法で,レイリー(L.Rayleigh1842-1919)とジーンズ(S.J.H.Jeans1877-1946)によって行われた。その結果は,次のような式(レイリー・ジーンズの式,1905)になり,実験結果と長波長または高温領域でよく合った。この式は,プランクの式の長波長,高温度での近似式になっている。

 

エネルギー量子の概念

エネルギー量子について,いくつか注意を述べる。

(1) 古典論では,どのような場合でもエネルギーが連続量であるということは本質的である。古典論の一部を修正することによって,エネルギー量子の概念と両立できるようにはならない。エネルギーに量子が存在するということは,単にエネルギー概念だけについてではなく,古典物理学全体の見直しに直結するのである。

(2) エネルギーが連続量であるとする古典論の立場と,量子を考える立場とで,理論にはどのような違いが生まれるのであろうか。例として,比熱の理論を考える。連続量とする立場では,理論の中で2つの積分

 

を実際に計算する。一方,量子を考える立場では,その代わりに無限和

 

を求めることになる。積分と無限和の違いの高位の微小量が,理論にとって決定的な変化を与えるというのは,ちょっと考えると奇妙に思えるかもしれないが,0ということと,微小量ということの物理的な意味は全く違うのである。

(3) エネルギー量子の「量子」という言葉は,単位量を意味しているのであって,「粒子」という言葉と混同してはならない。また,エネルギー量子は,電気素量のような普遍定数ではない。エネルギー量子は,1つの振動系νについては一定の大きさであるが,系が変わればνが変わり,その系の量子は前の系の量子とは値が異なるのである。

 

光量子仮説による光電効果の説明

教科書p.22711の物質内の電子は,最大のエネルギーをもった電子が示されているので,最大ではないエネルギーをもった電子が光を吸収して外部に飛び出すと,Wよりも小さな運動エネルギーをもつ。つまり教科書p.228(6)式は,すべての光電子の運動エネルギーの式ではなく,さまざまな運動エネルギーで飛び出す光電子のうち,最大の運動エネルギーのものについて成り立つ式である。

この(6)式は,ミリカンによって実験的に確認され,そこで求められたhの値は,黒体放射の実験結果から導かれるhとよく一致した。

なお,金属内の「放出されうる電子」は,熱エネルギーによっても外部に飛び出してくる。この現象が熱電子放出で,その実験結果より求まる仕事関数の値は,光電効果におけるものとよい一致を示す。

 

星はなぜすぐに見えるのか

太陽に最も近い4.3光年の距離にあり乙女座南方に輝く恒星αケンタウルスは,太陽とおよそ同じ発光量の0等星であることが知られている。実測によれば同星から2×10-8W/m2〕のエネルギーが地球に届いている(実際にはαケンタウルス星では地球の公転軌道を用いた三角測量によってその星までの距離4.3光年を求め,その星から届く上記の光量から,この星がおよそ太陽と同じ発光量の星であることがわかるという順序になる)。視神経細胞分子の断面積を10-10m2〕とすると,その分子1個には平均として同星より2×10-18J/s〕の光エネルギーを受容している。したがって,同細胞分子1個は約1eV1.6×10-19Jの光エネルギーが届くと反応するものとすれば,光のエネルギーが波として空間に一様に分布して届くのならば,1.6×10-19J/2×10-18J/s1/10sで目がαケンタウルス星を見られる事になる。

肉眼で見える最も暗い6等星は0等星より約300倍暗いので,6等星を見るには1/10×30030s間じっと見つめないと見えないはずである。人間の脳は目から送られてくる画像を3/100秒ごとに更新しなければならない(つまり写真でいえば目は3/100秒より遅いシャッターは切れない)そうなので,光のエネルギーが波として伝わるとすると6等星はこのような機構では絶対に見えないはずである。

ところが,光が物質と作用してそのエネルギーが物質に吸収されるときには,光のエネルギーは波としてではなく光子という粒子として吸収されるので,すべての視神経細胞分子が一様に光のエネルギーをもらわなくても,可視光の光子のエネルギーは,=3×10-19J5.2×10-19J等で,これらは上記の1eV=1.6×10-19Jより十分大きいので,100個ほどの光子が届けば,視神経細胞分子は光を感知するものと考えられ,星はすぐに見えるのである。このように,光の波動説では明るい星でもすぐには目に見えないはずだが,光の粒子説では暗い星でもすぐに見えることがうまく説明できるのである。

余談だが,同じ論法で写真の写るわけも説明できる。たとえば,晴れた日の戸外撮影でフィルムの膜面に届く光量は約10-3W/m2程度なので,フィルムの膜面の臭化銀分子1個の断面積(切り口)10-19m2とすると,10-3×10-19J/sの光のエネルギーが平均として臭化銀分子1個に降り注ぐ計算になる。それを貯めてその分子1個の分解(露光)に要するエネルギーが約1eV=1.6×10-19Jに達するには1.6×10-19J/10-22J/s1.6×103s,つまり約30分かかってしまうことになる。実際には1/100秒以下で写真は写せる。つまり,光の波動説では30分も露光しておかないといけないはずだが,光量子説なら1個の可視光の光子が臭化銀分子に命中しても,すぐにその分子は分解されるわけだから,1/100秒でも膜面中のかなりの数の分子が分解されて,うまく写真が写せるわけである。写真の場合には視神経細胞や脳のような複雑な生体系の働き方が絡まないので,より単純なこの種の説明が説得力を持つといえるだろう。

 

 

 








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