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4節 熱力学第1法則

 

◆一般の物質の内部エネルギー

 

◆一般の物質の内部エネルギー

内部エネルギーという言葉は,生徒には聞き慣れない言葉であり,日常経験するいろいろな熱現象との関係がなかなか理解できないようである。ふだん『高温の物体ほど,熱をたくさんもっている』というような表現をするが,この,物体が『もっている熱』というのが,たいていの場合,内部エネルギーを指すようである。ここで,内部エネルギーUと,物体に『出入りする熱』すなわち熱量Qとをはっきりと区別することが,熱現象を理解するために重要である。

また,内部エネルギーというマクロな量が,分子の運動エネルギーというミクロな量と,どのように対応しているかを十分説明し,熱現象の本質を理解させたい。

(1) 分子間力と内部エネルギー

分子間力という言葉は,最初,ファン・デル・ワールスによって,実在の気体がボイル・シャルルの法則からずれるのを解釈するために導入されたものである。

理想気体では分子間には力がはたらかないとして考えるから,内部エネルギーは分子の運動エネルギーだけの和となる。しかし,内部エネルギーをより深く理解させるためには,一般の分子の場合を考えさせるとよい。

一般に分子では,分子間に力がはたらくので,内部エネルギーとしては分子間力による位置エネルギーも含めなければならない。特に,融解熱や気化熱(蒸発熱)を説明しようとすると,分子間の力を考えなければならない。

たとえば,以下のような例を挙げるのもよいと思われる。冷蔵庫の冷媒としては,分子間力のない理想気体を用いるよりも,ある程度分子間力の大きいものを使用するほうが,より効果がある。すなわち,モーターで冷媒の気体を圧縮すると,分子間引力に逆らわないで分子間の距離が短くなるから,分子間力による位置エネルギーが放出され,その分,分子間力のない分子よりも気体分子の運動エネルギーがより多く増加する。気体分子の運動エネルギーは絶対温度に比例するから,気体の温度がよりいっそう上がることになる。したがって,より多くの内部エネルギーが放熱器の所から熱として放出されやすくなる。その後,分子間力により気体が液体になる。また,その液体が冷却器の所で気化するとき,分子間力に逆らって分子間の距離が長くなるため,分子間力による位置エネルギーが増加し,その分,分子の運動エネルギーがより多く減少する。したがって,分子間力のない分子よりも,よりいっそう冷媒気体の温度が下がることになり(ジュール・トムソン効果),冷蔵庫内の熱を吸収するのに効果が上がる。

(2) 分子間力の原因

中性分子が離れていても,なぜ分子間力がはたらくかということは,高校生には以下のような説明をするとよいであろう。

分子の中の電子の運動を,時間的に平均した負電荷の球形の雲で置きかえると外部に電界を生じないことになるが,ある瞬間に注目すると,電子は一方にかたよっているから,電気双極子となっている。この双極子は別の分子の所に電界をつくり,同時に,別の分子の電気双極子に作用を及ぼす。このため,両方の電子の運動は無関係には行われなくなり,中性の離れた分子間にも力がはたらくことになる。下の図では,引力のはたらく場合を模式的に示している。一方の分子のつくる瞬間の電界が,他方の分子に誘発双極子モーメントを生じさせる効果から引力を生じるので,双極子モーメントを誘発されやすい分子ほどこの力は大きい。

 

希ガス原子は,その閉殻構造のため,近づいても共有結合がつくられず,分子をつくらないが,このファン・デル・ワールス力によってごく低温では凝縮して液体となる(原子間にはたらくファン・デル・ワールス力)

ファン・デル・ワールス力で結合する結晶(ヨウ素,ナフタリンなど)では,粒子間の結合力は,イオン結合,共有結合,金属結合の場合ほど強くない。したがって,融点は低く,昇華しやすく,室温で液体であるものが多い。

また,この力は,より大きい分子ほど力も大きくなるので,分子量の大きい分子ほど結合力が強くなり,融点も高くなる。たとえば,ハロゲン元素では,室温で塩素は気体であるが,臭素は液体であり,ヨウ素は固体である。また,活性炭やアルミナなどに吸着される気体でも,分子量の大きいものほど吸着されやすいのも,この力で説明できる。

分子間力F(r)は,分子間距離rが離れているときは,次の関係がある。

 

分子が接近すると,斥力がはたらき,距離が近づくと急激に大きくなる。これは,電子雲によって生じる反発力がその主因である。このことは,同種の電気の斥力からも類推し得る。ただ,分子のつくる原子間の位置エネルギーが急激に増大する場合は,2つの原子核が十分近づくために,それらの間にクーロンの斥力が強くなることと,パウリの排他律によるものである。

(3) 多原子分子の内部エネルギー

2個以上の原子からなる分子の場合,分子の並進の運動エネルギーのほかに,分子の回転の運動エネルギーなどがつけ加わるので,内部エネルギーにはそれらのエネルギーも加えなければならない。したがって,多原子分子の内部エネルギーは単原子分子よりも大きくなる。このことは,気体の定積モル比熱の実測値からわかる。

 

 

 

 

 








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