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3節 気体分子の熱運動

 

気体分子の運動と圧力

気体分子にはたらく重力の影響

気体分子の運動エネルギーと絶対温度

気体分子の速さ

 

 

気体分子の運動と圧力

気体分子のいちばん簡単なモデルとして,次のような性質をもつものを考える。

(1) 分子自体の占める体積は,気体が全体として占める空間の大きさに比べて,無視できるほど小さいとし,分子はすべて同じ質量をもつ質点として取り扱う。

(2) 分子は,それぞれ任意の方向に自由な直線運動をしているとする。気体がつり合い状態にあれば,気体内部の分子の状況は平均して各方向同じである。

(3) 分子間力は無視し,分子どうしの衝突や分子の器壁に対する衝突は,いずれも完全弾性衝突とする。したがって,衝突によっては,分子の運動エネルギーの総和は変わらない。

(4) それぞれの分子の速度は非常に広範囲に変化する。いくつかの分子はやっと運動しているかと思えば,他の分子は弾丸のような速さで飛んでいて,ちょうど容器の中に閉じこめられたハエの群を見るようなものである。

このような気体分子の特性から出発すれば,圧力の物理的意味を説明したり,その値を計算できる。生徒がすでに学習してきた気体の圧力や温度が,分子運動論から考えたとき,どのような物理的意味をもつかを理解させることが重要である。

教科書P.201の式(14)

 

を,運動エネルギーKを入れた式になおすと,

として,

 

と書くことができる。この式は,圧力は1つの分子の平均の運動エネルギーの2/3に,単位体積中の分子の数をかけたものと等しいことを示している。ここで注意しなければならないことは,圧力に関係する運動エネルギーが,分子の質量中心の運動(並進運動)に関する運動エネルギーであることである。単原子分子でない場合の,振動したり,質量中心の周りに回転したりする分子運動の運動エネルギーは関係しない。1秒間にどれだけ多くの分子が壁にぶつかり,どれほどの力積を与えるかを決定するのは,壁に近づく分子の速度である。これは質量中心の運動であり,したがって,気体の圧力は,この運動の平均の運動エネルギーで決まる。

統計力学的な方法で,厳密に求めることは非常に難しいが,いろいろな力学的な量の平均をとるという方針が大切である。これは1cm32.7×1019個もの多くの粒子があるから成立することである。また,気体は方向によって物理的性質が変わらない等方体であるということに,の式を対応させるような考え方が大切である。このような多数の粒子を取り扱うときには,数学で学ぶ確率の概念が非常に正確に再現されることも強調する必要がある。数学で確率を学ぶときには,サイコロを振って何かの数字が出る回数というような遊戯的なことで始まるが,その概念は統計力学に必要なことを強調して,数学での確率の応用に興味をひかせるようにしたい。

 

気体分子にはたらく重力の影響

速さ500m/sで水平方向に運動する1個の分子が,1m落下したとして,重力による位置エネルギーの変化と分子のもつ運動エネルギーとを比べると,

 

となり,重力による影響は十分無視し得る。

 

 

気体分子の運動エネルギーと絶対温度

分子運動論から求める圧力の式と,巨視的に見たときに成り立つ理想気体の状態方程式から,

 (:ボルツマン定数)

 

が導かれる。この式は,分子の質量中心の運動(並進運動)についての関係式である。それは圧力の式を導くとき,気体分子が器壁に衝突して壁に与える力積は,分子の質量中心の周りの回転運動には無関係であったからである。2原子分子の気体では,エネルギーとしては並進運動と回転運動の両方の運動エネルギーを考えるべきであるが,そのときのすべての運動エネルギーと絶対温度との関係については,「気体の比熱とエネルギー等分配の法則」のところでふれることにする。

ところで,上式は,気体分子の平均の運動エネルギーは絶対温度に比例するということだが,このことは逆に,絶対温度とは,気体分子の運動エネルギーの尺度でもあるということである。絶対0度の場合を考えると,上式より気体分子の平均の運動エネルギーは0にならなければならない。このことは,絶対0度では分子の運動が停止しなければならないことを意味する。運動エネルギーは負にはならないから,絶対温度も負にはなりえない。このように考えると,絶対温度とは,静止状態を基準にして,気体分子の運動の激しさを示すものである。

圧力や温度という物理量は,上述のような統計的な性格をもっているので,1個あるいは数個の分子を取り出して,それの圧力や温度を議論することは全く意味のないことである。このことは,熱平衡の状態に到達するということは,物質の分子の平均速度が等しくなることを意味しているのであって,個々の分子の速度が等しくなるのではないということからもわかるであろう。

 

気体分子の速さ

気体分子の2乗平均速度 は,気体のモル質量Mを用いて,

m

 

と表される。これによれば,軽い気体の分子ほど,また同一種類の気体では温度が高いほど速度が大きい。次に,上式から求めた0℃における気体分子の速さを示す。

気体

m/s

気体

m/s

水素(H2)

1840

アンモニア(NH3)

630

ヘリウム(He)

1300

二酸化炭素(CO2)

390

アルゴン(Ar)

410

ベンゼン(C6H6)

295

 

ところで,理論的に分子の速さvの平均値を求めると,その値は,

m/s

 

となる。つまりとは違うのである。

このことは,下のような,たとえばの話をすれば同じでないということは納得するであろう。すなわち,速さの異なる5つの分子がある。このときを計算すると3となる。一方,を計算すると,11であるから,3.31で,である。したがって,は,ではないのである。

 

v

v2

1

1

2

4

3

9

4

16

5

25

3

11

 

 

 

 








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