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1節 物質の三態

 

物質の状態変化と熱

物質の三態変化とエネルギー

二酸化炭素の状態変化

臨界温度

物質量の単位「モル」

固体のモル比熱

熱膨張

 

 

物質の状態変化と熱

固体では,分子相互間に強い結合力がはたらき,それぞれの分子は,つり合いの位置を中心に振動している。

液体では,結合力が固体の場合よりやや弱くなっている。これは隣り合う分子間の距離が固体に比べて大きくなっているからである。分子は振動と移動を頻繁にくり返している。このため,液体は容器の形通りになるが,その体積は固体のときに比べて,ほとんど変化しない。

気体では,分子間の引力はほとんどはたらかない。これは隣り合う分子どうしが互いに遠く離れているためである。気体分子は自由に運動することができ,乱雑な方向の直進運動(回転を伴う)と,分子どうしや容器の壁との衝突をくり返している。したがって,気体は容器の大小に応じて体積が自由に変化する。

固体・液体・気体と物質の状態が大きく変化しても,分子の個数に変化はない。分子の運動の仕方や分子間の力のはたらき方が異なるだけである。

 

物質の三態変化とエネルギー

たとえば,0℃で,氷が水になるとき,水1molについて,6.01kJ(1.4kcal)の熱量(融解熱)が必要である。これは,分子間の引力に逆らって,分子が互いの位置を自由に変わることができるようになるために必要なエネルギーである。

また,100℃,1atmで,水1mol(18g)が水蒸気になるときには,40.7kJ(9.7kcal)の熱量(蒸発熱)が必要である。これは,1molすなわち6.0×1023個の液体分子を分子間の引力に逆らって引き離すのに必要なエネルギーである。分子間の引力に逆らって分子どうしが離れる距離は,固体が液体になるときよりも液体が気体になるときのほうが大きくなる。また,気体になるときは,外力に逆らって体積が大きく増加するので,外力に逆らってする仕事も大きくなる。したがって,融解熱よりも蒸発熱のほうがずっと大きな値になる。

これらの三態変化と熱の出入りの関係は,物質の状態により,その有するエネルギーに一定の差があると考えると説明できる。蒸発熱や融解熱が物質の種類によって大きく異なるのは,物質中の粒子間の結合力に大きな差があるためである。この差は,粒子間の結合の種類や分子量の違いから生じる。

一般に,粒子間の結合力は,イオン結合や金属結合では大きく,分子結晶では小さい。また,同じ分子結晶でも分子に極性があるものでは大きく,分子量が大きいものほど分子間力も大きい。

 

二酸化炭素の状態変化

はじめに,二酸化炭素の等温変化を調べてみよう。ピストンのついた丈夫な容器に二酸化炭素の気体を入れ,加える圧力Pを徐々に大きくしていく。それぞれの圧力に応じた二酸化炭素の体積Vを,等しい温度という条件の下で調べる。その結果をグラフで表すと,下図のようになる。グラフの横軸には,二酸化炭素の1molあたりの体積をとり,縦軸には圧力をとっている。

 

気体の等温変化 たとえば,21.5℃の等温線をみてみよう。A(0.20L/mol53atm)で二酸化炭素は気体である。圧力Pを大きくしていくと,体積V は等温線ABに沿って小さくなる。このとき気体の分子数は変わらないから,気体の密度は大きくなる。

・気体と液体の蒸発平衡 B点で二酸化炭素の液化が始まる。BC上の各点では,二酸化炭素の気体と液体は共存し蒸発平衡の状態にある。すなわち,単位時間あたりに凝縮するCO2分子の個数と,単位時間あたりに蒸発するCO2分子の個数は等しい。このときの圧力60.3atmが,二酸化炭素の21.5℃における蒸気圧である。

Le Chatelierの平衡移動の法則によれば,蒸発平衡にある物質を冷却すれば,その物質の温度を下げまいとする向きに,すなわち凝縮熱を出して気体が液化する向きに平衡は移動する。BC上の1点で,圧力を一定に保ちながら,二酸化炭素を冷却すると,気体の一部は凝縮熱を出しながら液体に変わる。このとき二酸化炭素の温度は,冷却しているのにもかかわらず21.5℃に保たれる。すなわち21.5℃は60.3atmにおける二酸化炭素の沸点である。

気体の液化とともに,二酸化炭素の平衡状態はB点からC点へと移動する。その間に,気体(飽和蒸気)の分子数は減少するが,その密度は一定に保たれる。圧力を変えないので温度が一定に保たれ,その結果,飽和蒸気の密度も一定に保たれるのである。飽和蒸気の密度ρ [mol/L]は,B点のモル体積の逆数に等しい。また,平衡状態がB点からC点へと移動するときの液体の密度ρ' [mol/L]は,C点のモル体積の逆数に等しい。気体の液化が進むと,二酸化炭素の体積は減少する。しかし,CO2分子の総数は一定であるから,二酸化炭素のモル体積は,気体の液化とともに水平線BCに沿って減少する。

C点で気体の液化は完了する。すべてが液体に変わると,その液体を押し縮めるのは難しく,液体に加える圧力をどんなに大きくしても,液体の体積の減少はきわめてわずかである。

 

臨界温度

二酸化炭素の等温変化において,一定に保つ温度が31.1℃より高い場合は,気体に加える圧力をいくら大きくしても気体は凝縮しない。二酸化炭素の気体を液化するためには,温度を31.1℃より低くする必要がある。この温度を二酸化炭素の臨界温度という。表に示したように,二酸化炭素に限らずすべての気体に,それぞれ固有の臨界温度がある。

 

   臨界定数    吉岡甲子郎『物理化学大要』p.59(1968 養賢堂)

物 質

臨界温度 ()

臨界圧力(atm)

臨界体積(L/mol)

He

-267.8

2.26

0.0578

2

-239.8

12.80

0.0650

2

-147.0

33.50

0.0901

2

-118.7

49.70

0.0744

CH4

-82.4

45.80

0.0990

CO2

31.1

72.80

0.0942

NH3

132.4

112.20

0.0720

Cl2

144.0

76.10

0.1240

SO2

157.2

77.60

0.1250

2

374.2

217.70

0.0566

 

CO2NH3SO2などの気体は,その臨界温度が高いので,常温でも高い圧力を加えるだけで容易に液化する。ところが,222などの気体は,臨界温度が低く,常温でどんなに高い圧力を加えても液化しない。19世紀の半ば頃到達できた最低の温度はおよそ-110℃であった。222などの臨界温度は-110℃以下であり,これらの気体は液化しない気体(永久気体)と考えられた。

気体の液化の科学史について,ダンネマンの『大自然科学史』には,次のような記述がある(本文の要約)

1801年頃にドルトンは,低温と高圧とを用いればどんな気体でも液化させることができるはずだという意見を述べた。1823年になって,この問題を組織的な実験によって研究したのはファラデーであった。ファラデーは,塩素,亜硫酸ガス・硫化水素・アンモニア・炭酸ガス等を液化するのに成功した。しかし,酸素・窒素・水素等の液化には成功しなかった。1844年頃にファラデーは,圧力のほうを高めるだけでは液化の条件として不十分であることに気がついて,目的の気体に50気圧の圧力を加え,かつ寒剤の温度を排気によって下げたが,液化できなかった。その数年後にヴィーンのナッタラーは,それらの永久気体に2790気圧の圧力を加えたが成功しなかった。

(p.107  7巻 ダンネマン『大自然科学史』安田徳太郎,加藤正訳 三省堂)

 

臨界温度の存在を発見したのはAndrewsである(1869)。彼は一定量のCO2を丈夫なガラス管に入れ,等しい温度という条件の下で,いろいろな圧力をかけてその体積を測定した。その結果が図1である。図1において,水平線の部分は,気体と液体が蒸発平衡にある状態を示している。水平線の右端は,気体が凝縮する直前の飽和蒸気の状態を表す。水平線の左端は,気体がすべて液化したときの液体の状態を表す。温度が高くなると,水平線の部分は短くなり,飽和蒸気のモル体積(その逆数は密度)と飽和蒸気に接する液体のモル体積との値は近づいてくる。温度が31.1℃の場合は,水平線の両端は遂に一点(K)となる。このときは,飽和蒸気と液体との区別がつかなくなる。温度を31.1℃に保って気体の圧力を徐々に高めていくと,K点の直前では二酸化炭素はすべて飽和蒸気であるが,K点の直後ではすべてが液体となる。しかし,両者の密度は等しいので,気体から液体へ変化したといっても違いはみられず,変化は連続的に行われる。31.1℃以上の温度では,どんなに高い圧力を加えても,気体の液化は起こらない。K点を臨界点(critical point)と呼び,臨界点における温度,圧力,モル体積をそれぞれ臨界温度,臨界圧力,臨界体積という。

アンドルーズによる臨界状態の説明について,ダンネマンの『大自然科学史』に次の記述がある。

凝集状態の解明に一つの進歩をもたらしたのは,アンドルーズが1869年に『物質の気態および液態の連続性について』という題で発表した研究であった。

アンドルーズは特に炭酸ガスについて観察を行った。彼は,ある温度(摂氏31)以上では,炭酸ガスに加える圧力をどれだけ高くしても,それを液化することはできないという注目すべき発見をした。アンドルーズはこの温度を,その気体の臨界温度とよんだ。この「臨界点を越えた」状態の特質については,発見者の次の説明によって最もよく知ることができる。すなわち「単に圧力を加えるだけで炭酸ガスの一部を凝縮させ,同時に温度を徐々に摂氏31度まで高めていくと,液体と気体との間の境界が境がますますはっきりしなくなり,その彎曲がなくなり,しまいには全く消えてなくなる。すると,管の中は同質の物質でみたされる。圧力を急に下げるか,温度を少し下げると,一種独特な外観を呈する。すなわちふわふわした帯状のものが,物質全体にわたって浮いているような印象をうける。」と。

(p.107  7巻 ダンネマン『大自然科学史』安田徳太郎,加藤正訳 三省堂)

 

 

物質の臨界状態の観察法については,『物理学の基礎』(ランドスベルグ編)に次の記述がある。

物質の臨界状態を観察することは困難ではない。第535図に示してあるものは,この目的に役立つ簡単な装置である。それは,窓のついた鉄の箱で200℃以上に熱することのできるもの(《空気加熱》器)と加熱器の内部にあるエーテル入りのガラスアンプルとから成り立っている。加熱器を熱するとき,アンプル内のメニスカスはもち上がり,さらに平らになり,そしてついに,消えて,臨界状態をすぎたことを確証させる。加熱器を冷却するとき,無数の細かいエーテルの滴の発生によってアンプルは突然曇らされる。その後,エーテルはアンプルの底の方に集められる。

(ランドスベルグ編 宮原将平監修,中川 毅訳『物理学の基礎』第2 熱学分子物理学 §303 理論社)

 上の文献の同じ§303 臨界温度には,水の臨界状態についての大変わかりやすい記述があるので参考にするとよい。

吉岡甲子郎『物理化学大要』P.58 1968 養賢堂

 

物質量の単位「モル」

物質量の単位「モル」は,1971年のメートル条約の総会で,SIの基本単位として追加されたものである。それによれば,1モルは,0.012kgの炭素12の中に存在する原子の数(アボガドロ数)と等しい数の要素粒子または要素粒子の集合体(組成が明確にされたものに限る。原子,分子,遊離基,イオン,電子など)で構成された系の物質量のことで,要素粒子の集合体を特定して使用するということになっている。

モルは,以前,化学では物質の分子量に等しい物質量として用いられてきた。たとえば,酸素分子1mol32gというように表してきた。ところが,化学者が基準としていたのは天然の酸素分子であったが,酸素には酸素16のほかに,同位体として,酸素1718がある。一方,物理学者は,同位体を分離して,酸素16を基準としてこの原子量を16と決めた。そのため,化学と物理とがそれぞれ別の単位を使うことになり,不便であった。そこで,共通的に炭素12の原子量を12と決め,それを物質量の基準に使うことにしたわけである。

 

固体のモル比熱

物理Tで学習した比熱cJ/(gK)は,物質1gの温度を1K上げるのに必要な熱量と定義される。この定義による比熱の値は,物質の種類によってそれぞれ異なる。鉄と金というように,物質を構成する原子の種類が違えば,その違いが物質の比熱に異なる値をもたらすということは,一見したところ当然のことに思える。

ところが,物質1molの温度を1K上げるのに必要な熱エネルギー,すなわちその物質のモル比熱を求めてみると,表2のように,多くの固体の比熱はほぼ等しくなる(デュロン-プティの法則)。これは,物質の最小単位となる粒子(原子)の熱運動の仕方に,固体としての共通性があるからである。

フランスのP.Dulong A.Petit は,1819年に,多くの固体元素のモル比熱は,どれもほぼ25J/(molK)に等しいことを実験的に見い出した。

この法則は,1893F.Richarzによって理論的に説明された。固体のモル比熱は,気体のモル比熱の計算と同様な方法で求めることができる。固体nmol〕に熱量QJ〕が入り,その温度がΔTK〕上昇したとする。固体のモル比熱C

 

で表せる。ここで,W は固体が熱膨張によって外にする仕事であるが,熱膨張による体積変化は小さいので無視できる。nmol〕の固体原子がもつ熱振動による内部エネルギーU は,エネルギー等分配の法則を適用すると,固体の絶対温度T に比例することがわかる1)。すなわち,

U 3nRT

したがって,固体のモル比熱C

デュロン-プティの法則には,ダイヤモンド(C6.1J/(molK)やシリコン(C20J/(molK))等いくつかの例外があった。また,固体の比熱は温度が低くなると小さくなり,デュロン-プティの法則は成り立たなくなる。物質の種類によって決まっている温度(デバイ温度)の付近から急に比熱は減少する。これは量子論的な効果がきいてくるためで,この効果を取り入れたのがEinsteinの比熱の理論である。

<参考文献> 1) 押田勇雄,藤城敏幸『基礎物理学選書7 熱力学』p.61裳華房

 

熱膨張

熱膨張の例は,身近に数多く見られる。街路の電線が,夏の暑い日に大きく垂れ下がることは,気をつけて見ればよくわかる。肉厚のガラス容器に熱湯を注ぐと,容器が割れることがある。ガラスの熱膨張が原因であるが,これを防ぐためには,線膨張率の小さな石英ガラスを用いるとよい。石英ガラスは耐熱ガラスと呼ばれている。線膨張率が格段に小さいのは超インバール(ニッケル36%と鉄64%の合金)である。精密な測定器械の素材として利用されている。

鉄とコンクリート,ガラスが建築に用いられるようになって,現代建築が始まったといわれている。これらの建築材料の線膨張率に,もしも,もっと大きな差があったとしたら,どうなっていただろうか。

温度計のように,熱膨張を利用した器具もある。インバールと黄銅などの板を貼り合わせてつくるバイメタルは,温度自動調節器として利用されている。これは貼り合わせる金属板の線膨張率の差を利用している。

火にかけたやかんの水が,短時間で熱湯になるのは,水の熱膨張が原因である。火で温められた水は,膨張して密度が小さくなり気球のように上昇する。浮き上がった跡には上からの温度の低い水が流れ込み,容器の中に対流が起こる。温められた水は上方へ移動し,温められていない水は下降して底で加熱される。この循環が仮に無いとしたら,水全体が暖まるのにはかなりの時間がかかる。温度勾配による熱伝導だけでは,水全体の加熱ははかどらない。

固体と気体については,長年にわたる多くの研究に支えられて,確立された定量的なモデルがある。しかし,液体については,その熱運動が複雑なこともあって研究も遅れており,定量的なモデルは未だ確立されていない。

 

 

 

 








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