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3節 電流が磁界から受ける力

 

磁束密度Bと磁界の強さH

物質の磁化

比透磁率

平行電流間にはたらく力

 ピンチ効果

 

 

磁束密度Bと磁界の強さH

磁界ベクトル は,磁気量mの磁荷に力 を作用する磁界を表す量として,

の関係で定義される。磁束密度は,電荷qをもつ荷電粒子が速度で運動しているとき,この粒子にはたらくローレンツ力を作用する磁界を表す量として,

の関係で定義される。ここでは,磁界とともに存在する電界ベクトルである。

磁界ベクトルと磁束密度は,ともに磁界を表す量である。

が活躍するのは磁性体の分野である。たとえば,電磁石の設計とか,磁石相互に引っ張る力の計算等では,磁極や磁荷の概念を使うことなしには不可能に近い。しかし,電流や荷電粒子の運動が主要な役割を演ずる領域は磁性体の領域よりさらに広い。その意味でも高校段階ではを主として扱いたい。

ケルビン(Lord Kelvin1824-1907)は物質中のcanal fieldを用いてを,gap fieldを用いてをそれぞれに定義した。

軸方向に一様な強さで磁化している円筒形の磁性体を例にとって考えてみる。

(a)のように,軸に垂直にうがった薄い円板状空洞内の磁界の強さをとすると,円筒内のμ0に等しい。空洞内のの向きは,円筒端面の磁荷による磁界よりも空洞面の磁荷によるものがより強く寄与するために,図示の方向をもつ。この空洞を有する円筒(a)に対する等価電流分布は図(b)のようになる。図(b)において,空洞の厚さをδとすると,空洞面の表面電流は/μ0であり,δを十分に小さくすれば,Mは有限であるから,その存在は無視できる。したがって,図(b)の,円筒を何枚かの薄い磁殻の積み重ねとみて,それらを表面電流密度の環状電流で置きかえたときの,真空内の環状電流分布が円筒内外のを与えることになる。

円筒内の1点Pにおけるは,図(c)のようにPを含んでの方向に設けた針状空洞内の磁界の強さに等しい。この空洞をもつ円筒を等価電流分布でおきかえると図(d)のようになる。針状空洞面における電流分布は,P点に関しては無限長のソレイドとみてよいから,P点に表面電流密度に等しい磁界をつくる。一方,円筒面の電流分布は,前述のように,磁性体内のを与える。両者の向きは反対であるから,P点における磁界の強さは,となり,したがって,の関係が成り立つ。この円筒形の磁性体による磁束線と磁力線の様子は図(e),図(f)のようになる。

 

多くの物質ではは平行で大きさが比例する。そこで,

とおくと(χを磁化率という)

となる。ここで,あらためて定数(1χ)μ0μとおくと,

と表せる。μがその磁性体の透磁率である。強磁性体以外の物質ではχ10-6程度のオーダーなので,μμ0とほとんど一致するが,強磁性体,たとえば軟鉄ではχ100程度と異常に大きい。

 

物質の磁化

磁化の生ずる原因は荷電粒子の各種の回転運動である。質量mの荷電粒子が半径rの円周上を速さvで円運動しているとき,Iev/2πrの環状電流が流れていることになる。この環状電流が遠方につくる磁束密度を考えると,μ0evr/2,すなわちμ0emvr/2mの磁気モーメントがつくる磁束密度に等しくなる。ここでmv rは角運動量である。角運動量はh/2πを単位として量子化される。したがって,磁気モーメントもμ0eh/4πm(ボーア磁子)を単位として量子化される。陽子は電子と比較して質量mが桁違いに大きいので,普通は原子核のつくる磁界は無視でき,電子の磁気モーメントだけを考えればよい。

電子の回転運動にはスピン(古典的には自転に相当)と原子核の周りの軌道運動(公転に相当)がある。その両方が物質の磁性と関係がある。

物質を磁界中に置いたとき,磁界と同じ向きに磁化をもつ場合を常磁性,反対向きに磁荷を持つ場合を反磁性,磁界がなくても磁化をもつことができる場合を強磁性という。

 

@ 反磁性

物質に磁界をかけたとき,一種の電磁誘導により,電子の軌道運動が変化し,かけた磁界に反発する磁界を物質がつくるのが反磁性である。すべての物質に反磁性があると考えられるが,その磁界は非常に弱く,常磁性や強磁性を持つ物質では打ち消されて現れない。閉殻構造をもつような原子やイオンでは反対向きのスピンの電子が2個ずつ対をなし,軌道運動も逆まわりの電子が対をなし,物質の磁気モーメントが打ち消されている。したがって,反磁性だけを示す。

A 常磁性

遷移金属や希土類元素は部分的にしか満たされない軌道電子があり,その磁気モーメントが打ち消されずに残っている。また,O2分子のように電子スピンが同じ向きになっている物質も磁気モーメントが残っている。これらの物質に磁界をかけると,電子の磁気モーメントが磁界から力を受け,磁界の向きを向くことにより常磁性を示す。

金属では,磁界をかけることにより,伝導電子のスピンの磁気モーメントが磁界から力を受け,磁界の向きを向くものが多くなり,常磁性を示す(Pauliの常磁性)

常磁性の磁化は反磁性の磁化よりも大きいが,強磁性に比べると桁違いに小さい。

B 強磁性

鉄,ニッケル,コバルトなどでは,量子的な交換相互作用により,隣り合う原子内の電子スピンの向きがそろったほうがエネルギーが低くなり安定となる(協同現象)。そのため,結晶全体で同じ向きにスピンがそろうほうが安定となる。しかし,大きな物体全体でスピンの向きがそろうことは難しく,同じ向きのスピンが並ぶ1100ミクロン程度の小さな区域(磁区)に分かれている。磁区の磁化の向きはバラバラで,普通,大きな固体全体としては磁化は示さない。その強磁性体に外から磁界をかけると磁壁が移動し,磁界の向きの磁化をもった磁区は広がり,逆向きの磁化を持った磁区は小さくなる。そのため,固体全体として磁化をもつようになる。磁界を十分に強くすると,初めの磁区の磁化の方向が磁界と一致していない磁区では,最後に磁区の中で磁化の回転が起きて磁化が増す。その後は磁界を強くしても磁化はほとんど増加しない(飽和磁化)。この後,磁界を弱くしていくと磁区はだんだん元の状態に戻ろうとするが,磁壁が途中で結晶内の不純物や結晶の歪などに引っかかり,完全には元に戻らず,外からの磁界を0にしても磁化が残る(残留磁化)

鋼鉄のほうが軟鉄よりも不純物(炭素など)が多く,急激に冷却されるために結晶の歪も多いため,鋼鉄のほうが軟鉄よりも残留磁化が大きいので永久磁石になりやすい。

なお,永久磁石を熱すると熱的な乱れが大きくなり,磁化が減少する。磁化が乱れると協同現象も弱くなるので温度が上昇すると急激に磁化が弱くなり,ある温度(Curie温度)以上では磁化が消えてしまう。

 

比透磁率

BμHと表したときのμが透磁率である(磁束密度Bと磁界の強さH」参照)

透磁率μの数値は単位系が変わると変わる。物理的な意味のあるものは透磁率ではなく比透磁率である。比透磁率は比誘電率に対応したものである。高校生の場合,「比誘電率の意味はコンデンサーの極板間に誘電体を入れたとき,電気容量が真空の場合の何倍になるかを表すもの」という説明をするとわかりやすい。同様に,たとえば「鉄の比透磁率は,ドーナツ型のコイル(トロイダルコイル)に電流を流し,コイルの中に鉄心を入れ,鉄心に非常に狭い隙間(ギャップ)をあけたとき,その隙間にできる磁界が鉄心を全く入れない場合の何倍になるかを表すもの」という説明がわかりやすい。すなわち,荒っぽい言い方をすると「コイルに鉄心を入れたとき,磁界の強さが入れる前の場合の何倍になるかが鉄の比透磁率である」ということである。隙間をあけると,隙間の空間にできる磁界はコイルを流れる電流がつくる磁界と鉄心の断面に現れた磁極がつくる磁界の和となり,強磁性体では磁化が大きいので隙間の磁界も非常に強くなる。

なお,鉄のような強磁性体では,外部磁界が強くなると磁化が飽和したり,外部磁界がなくても残留磁化があったりするのでBHに比例するわけではなく複雑な関係がある。しかし,軟鉄などの残留磁化が少ない物質で外部磁界が小さいときは,BHに比例すると考えても良い。このときの透磁率を初期透磁率という。

 

平行電流間にはたらく力

平行電流間にはたらく力はきわめて弱い。その力を定性的に示すには,金属リボンを用いて簡単にできる。定量的な実験方法もいくつか工夫されている(山田盛夫「平行電流間の力」物理教育Vol.21No.3)。平行電流の代わりに平行電子線間の力を定量的に測定することは,そのクーロン斥力のためにきわめてむずかしい(福井常勝「平行電子線間の力」物理教育Vol.22No.1

平行電流間の力の求め方は,教科書に示したように,I2のつくる磁界だけが単独に存在していてI1はその磁界から力を受けると考える。このとき,I1自身もまた磁界をつくっているという事実は一切考えていない。このような考え方が正しいのは,I1のつくる磁界の効果がI1の位置で消失するからであることが証明されている(林稔「電気力学」岩波全書p.4445)。

平行電流I1I2にはたらく力を,電流I1を流れる1個の電子に注目して考えてみよう。実際に起こっている現象はただ1つで,I1中の電子はI2のほうへ引き寄せられる(I1I2が同じ向きのとき)。それを実験室にいる人が見れば,I2の外側には電界はないので,I1の電子は磁界からローレンツ力evBを受けていると観測する。ところが,I1中の電子の側から見ると,自らは静止していて,I2の針金が速さvで走りすぎるだけである。電子は静止しているから磁気力はない。このとき電子は,I2の線上に分布している正の電荷によって電気力を受けると観測する。静止系ではI2の針金は電気的に中性であるが,運動系から見ると,特殊相対性理論により,長さの方向に短縮するため,針金を構成する正のイオンの電荷密度が大きくなって見える(逆に,自由電子の電荷密度は,静止系よりも小さくなって見える)からである。

相対論はふつう光速に近い大きな速さの現象に現れてくるのであって,ジェット機はもちろんロケットぐらいの速さでも相対論の効果は生じない。ところが電流の移動速度vdは,概してきわめて小さいにもかかわらず,ここでは,その小さなvdによる相対論効果が大きく作用したのである。それは,電気のクーロン力がきわめて大きいこと,および電流にあずかる電荷が,きわめて大きい量だからである。たえば1Aはふつうの電流量であるが,それは1秒間に1Cの電荷の移動である。一方,1回の落雷の際の放電電流にあずかる電荷も1C程度だといわれている。ただし,落雷のときの電荷の運動速度はきわめて速いから,1C程度の電荷でも,瞬間の電流としては大電流になる。

 

 ピンチ効果

直線電流が流れると,その周囲に同心円状の磁力線をもつ磁界ができ,直線電流はこの磁界からしめつけられるような力を受けることになる。このとき,電流が大きいと,生じる磁界の強さも大きいから,電流をしめつける力も大きくなる。したがって,電流が十分大きいときには,自分自身の作った磁界にしめつけられて,電流は中心部に集まって流れることにる。この現象は1934年にベネット(Bennet)によって論じられ,後に「ピンチ効果」と名づけられた。その後,1934年にウェアー(Ware)は,104Aの大電流による実験で,中心部のイオン濃度が,周囲のガス濃度よりはるかに大きいことを確認した。

さて,一般にプラズマ(自由に運動し得る正,負の荷電粒子が共存して電気的に中性を保っている物質の状態)は,物質の高温の状態で生じるが,このときプラズマは,電気的にきわめてよい導体となり,その電気的性質は金属とよく似ている。たとえば,プラズマ柱に電流を流すと表皮作用が起こり,電流は表面だけに流れて内部には侵入しない。そうして,ピンチ効果によってプラズマ柱がしめつけられて,プラズマ柱の圧縮が起こる。

核融合研究において,ピンチ効果を利用して,柱状または環状に,高温プラズマを管壁から離れた状態で作ることの研究が活発に続けられている。しかし,プラズマの流体としての運動はきわめて複雑で,これを制御するのは非常にむずかしい。

 

 

 

 

 

 








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