トップ物理II 改訂版1 力と運動>第1章 物体の運動>3節 運動量の保存

3節 運動量の保存

 

運動量

 ゴルフボールを打ったときにはたらく力(教科書p.182)

運動量の変化と力積

平面内での運動量の変化と力積の関係

2物体の衝突と運動量の保存

運動量保存の法則の式の取り扱いについて

運動量保存と重心の運動

外力が無視できる条件について

 

 

運動量

この節の導入で,運動量を定義する。運動している物体が相手に与える影響の大きさを表す量として,質量mと速度の積を考え,これを運動量とよぶことにする。

ここにいう運動量は,たんに質量と速度の掛け算をいうのではなく,積そのもののこと,全く新しい1つの物理量を考えることを意味している。たとえば,質量が5kgの物体が4m/sの速さで運動しているときと,質量が2kgの物体が10m/sで運動しているときを比べると,この場合はどちらも20kg·m/sという同じ大きさの運動量をもっている。したがって,衝突の際,両者が他の物体に与える影響の大きさは同じである。

もちろん,質量5kgの物体が4m/sの速さで運動しているときと,10m/sで運動しているときとでは,後者の方が大きな運動量をもっているといえるし,また,4m/sという同じ速さで運動している2つの物体があって,それらの質量がそれぞれ4kg2kgである場合は,前者のほうが後者より2倍大きな運動量をもっているといえる。このことについては,生徒は比較的抵抗なく受け入れるので簡単にふれるのでよい。

ただし,運動量は,速度と同じ向きをもつベクトルとして扱うので,たとえ大きさが同じでも運動の向きが違うときは,その2つの運動量は違うものと考えなければならない。運動量はベクトルである,ということははっきりいっておきたい。

 

 ゴルフボールを打ったときにはたらく力(教科書p.1812)

静止しているボールをクラブで打つとき,大きな力が瞬間的にはたらくため,ボールは大きく変形する。力がはたらいている時間は,とても短いが,それでもボールがクラブに触れた瞬間から力を受け始め,ボールが短い時間Δtの間クラブに接している間は力を受け続け,ボールがクラブから離れた瞬間,クラブから受ける力は0になるといったぐあいに,やはりボールはクラブから力積を受ける。このときの力の作用時間は,日常生活の感覚でいえば小さいが0ではなく,力は大きいが無限大ではなく,ある有限値である。それらの積である力積は不明な量だと思われがちであるが,そうではなく,ある有限値である。このように大きな力が短時間はたらいて,運動量や速度が大きく変化するような場合の力を撃力または衝撃力(impulsive force)という。

なお,この写真では,ゴルフクラブヘッドの速さはおよそ45m/s,写真の時間間隔は1/4000s,ボールとクラブのインパクト時間は(加速度計等で計測した結果)およそ3/10000 s である。

撃力がはたらく場合の力の変化は複雑であるが,およそ下図のグラフのようになると考えられる。力積の値(グラフの斜線の部分の面積)Iを直接求めることはできないが,前後の運動量の変化から簡単に求めることはできる。もし,撃力のはたらいていた時間Δtを何らかの方法で知れば,運動量の変化から求めた力積の値IΔtで割ることにより,平均の撃力(グラフでΔtを底辺とし,面積が斜線の部分と等しい長方形の高さに等しい)を知ることができる。

 

 

運動量の変化と力積

ここでは,運動の第2法則を運動量と力積の間の関係として書き直すことを考える。まず,一直線上を運動している質量例の物体について考えると,一直線上ではあるがベクトルで表しておく。

 

両式よりaを消去すると,

 

この形は,よく知られているように,ニュートンが運動の法則として示したもので,「運動量の時間的変化の割合は,物体にはたらいた力に等しい」ということを表している。教科書ではこの式の左辺の分母を払って,

と変形している。このときの右辺のFΔtを力積とよぶ。力積は物体の運動量が変化する際の原因とみることができる。

力積についても運動量の場合と同様に,力と力がはたらいた時間の単なる掛け算というのではなく,積そのものを考え,新しい1つの物理量とみること,および力と同じ向きをもつベクトルであることをおさえておきたい。

ところで,下図のような3つの場合,力の大きさも,力がはたらいている時間もみな違うが,斜線部分の面積が等しいなら,結果として生じる物体の運動量の変化は3つとも等しい。つまり,この場合3つとも力積は等しいのである。

 

ところで,運動量は,運動の激しさともいうべき運動状態を表すベクトルであるから,物体がある時間に力を受けて運動状態が変わると,運動量も変化する。このことから,逆に運動量の変化がわかれば,その物体がどのような力積を受けたかがわかる。短時間に力がはたらく場合のように,力そのものがはっきりわからなくても,運動量の変化を調べると,はたらいた力の積分値,つまり力積が求まる。運動方程式を教科書p.19(21)の形に書き変えたのには,そういった背景がある。

刻一刻と力が変わっている場合でも,前後の運動量の変化から力積が求められる。その理由は次のように説明できる。すなわち,下図のように,初め速度の物体に力が時間t0だけはたらいて速度がとなり,つづいて力t1だけはたらいて速度がになったとすると,

となる。さらに力が,……と変わり,それぞれの力が時間t0t1t2,……とはたらき,その結果,速度がになったとすると,

……

となり,「物体の運動量の変化は,その変化の間に与えられた力積の総和に等しい」という結果が得られる。

 

平面内での運動量の変化と力積の関係

教科書p.19(21)は,運動量の変化と力積の関係を一般的に表したものとみることができる。ただ,この式を使って具体的に計算をするというときは,式(21)そのままの形で考えてもよいが,次のように変形できることを生徒に示してやると,理解させやすい。すなわち,

 ……ア

または,

 ……イ

のいずれかに変形する。これらはいずれもベクトルの和を計算しようという形をとっている点で,ベクトルの差で計算しようという式(21)と違っている。

これらの考えの違いを教科書p.2016のテニスボールをラケットで打ち返す場合について示すと,下図のようになる。たとえば,ラケットがボールに与えた力積なり,そのときはたらいた平均の力なりを求める場合は式アで,また,打ち返された後のボールの運動量や,そのときの速度を求める場合は式イで説明すると,理解させやすい。

 

2物体の衝突と運動量の保存

運動量保存の法則を理論的に導くために,教科書ではまず同じ直線上を運動する2台の台車を例に用いている。衝突の際の一方の台車の運動量の変化と相手の台車から及ぼされた力積との関係をおさえて,つづいてもう片方の台車についても同様のことがいえるが,作用・反作用の法則により,互いに及ぼし合う力積の大きさは等しく向きが逆だとして,2式の和より教科書p.22(24),つまり運動量保存の法則を導く。

一通りの説明が終われば,あらためて導いてきた過程をふりかえることが大切であろう。それは,この保存則が成り立つための条件とか,意味する内容についての理解のためである。まず,先程の台車の衝突の際,それぞれの台車にはたらいた力は,互いに及ぼし合った水平方向の力のみとしたことである。台車には重力や垂直抗力がはたらいているのはいうまでもないが,これらの力はつり合っていて,今の例では運動状態の変化の原因にはなっていない。摩擦力も無視している。要するにこの保存則が成り立つための条件としては,他の物体からの力がはたらかないことが大切だ,という点をはっきりさせておく。この点の確認と運動量保存の法則の一層広い解釈は,教科書p.23で取り扱われているので,ここではこの程度にふれるのでよい。

また,ここでは速度の変化に注目するのだが,個々の物体の速度,したがって運動量も変化するのに,運動量の和だけが保存されているのであって,速度そのものを衝突前後で比べても,「保存」されてはいないのだ,ということについてもふれておくとよい。

教科書では,つづいて平面内での衝突を例にとって,この場合にも運動量保存の法則が成り立つことを示している。これを学ぶことによって,運動量がベクトルであること,および衝突の前後で運動量の和をとって比べていることの意味がよりはっきりしてくるであろう。

 

運動量保存の法則の式の取り扱いについて

運動量はベクトルであるから,運動量保存の法則の式はベクトルの関係式となる。しかし,一直線上で運動する物体の場合には,その向きを+,−の符号で表すと,スカラーを用いて表すことができる。すなわち,図のように,一直線上の右向きを正と定めると,左向きはその逆ということで負として,物体が運動する向きによって,それぞれの運動量の大きさに+,−をつけて,教科書p.22(24)に代入すればよい。衝突後の速度といった未知数は,いずれも+の向きをもつと仮定しておき,代数的に求めた答えが負であれば,大きさはそのままで,向きのみ逆向きだったとすればよい。

また,平面内での衝突(二次元衝突ともいう)では,各物体の運動量を互いに直交する2つの方向に分解すると,それぞれの方向について運動量は保存される。たとえば,下図のように直交するxy軸方向に各運動量を分解したとき,

(衝突前のx軸方向の運動量の和)(衝突後のx軸方向の運動量の和)

(衝突前のy軸方向の運動量の和)(衝突後のy軸方向の運動量の和)

が成立する。ここでも運動量は各座標軸の向きに従って,+,−の符号をつける。

 

運動量保存と重心の運動

質量m1m2の物体の重心xGは,

 

この式を時間で微分すると重心の速度の式vGが得られる。

 

いま,たとえば衝突の場合のように運動量保存の法則が成り立つとき,衝突前の各物体の速度と重心の速度をv1v2vG,衝突後の各物体の速度と重心の速度をv1v2vG,とすると, m1v 1+m2v 2= m1v 1′+m2v 2 が成り立つから,

 

すなわち,動量保存の法則が成り立つとき重心の速度は一定である。いいかえると,外力がはたらかないときは,重心に関して慣性の法則が成り立つ。

 

外力が無視できる条件について

運動量保存の法則が成り立つ条件は,『外力による力積が無視できるとき』というのが正確な表現であるが,この条件を,『瞬間的に起こる衝突や分裂の場合』というような表現で表すことができる理由を考えてみよう。

たとえば,花火が最高点で質量m1m22つに分裂する場合を考えてみよう。分裂後のそれぞれの鉛直方向の速度成分をv 1(0)v 2(0),分裂に要した時間をΔt,互いに及ぼす力(内力)の鉛直成分の大きさをFとすると,運動量と力積との関係より,

m1v 1m1×0= FΔtm1gΔt=(Fm1g)Δt ……@

m2v 2m2×0=FΔtm2gΔt=(Fm2g)Δt ……A

 

物体が瞬間的に勢いよく分裂した場合は,| m1v 1 || m2v2 |もそんなに小さくなく,分裂に要する時間Δtが小さいのでFは大きいと考えられる。Δtが小さくても外力mgは一定で大きくならず,内力Fに比べて外力mgが無視できることになる。

m1v 1m1×0FΔt  ……@

m2v 2m2×0≒−FΔt ……A

 

@+Aより, m1v 1 +m2v 20

となり,運動量保存の法則が成り立つことになる。

 

 

 

 








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