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1節 平面内の運動

 

平面内の運動

自由ベクトルと束縛ベクトル

平均の速度と瞬間の速度

速度の合成と分解

相対速度

平均の加速度と瞬間の加速度

運動の解析

運動の三法則

 

 

平面内の運動

物理Iでの直線上の運動に対し,ここでは平面内の曲線運動を扱う。ベクトルで表された速度,加速度の式は,直線上での式をベクトル化しただけのもので,p.7(1)の右辺はベクトルをスカラー(1/Δt)倍したものに過ぎない。しかし,生徒にはこの式はなかなか理解しがたい。ベクトルの割り算であるとみてしまうのである。

平面内の運動の扱いは,生徒から難解な内容ととられがちであるので,教科書では,まず,A項で速度を定義し,B項で合成速度,C項で相対速度を扱い,その後,D項で平面内運動の加速度を定義した。これは,直線上の運動での相対速度は物理Iで扱っており,そこでの理解をベースに,しかも平面内といえども直感的に捉えやすい速度という量の理解から入っていくのが生徒の定着がよいだろうと考えたからである。

加速度は速度より理解の難しい概念であり,生徒は,放物運動や円運動という実例を通じて理解していくことになるだろうから,D項の内容の扱いは,生徒の実情に応じて軽重を調整するとよい。

 

自由ベクトルと束縛ベクトル

教科書p.95のように,ベクトルの和・差を求める方法は,ベクトルは平行移動してももとのベクトルに等しいという前提の上で成り立つ。しかし,位置ベクトルや力のベクトルのように,平行移動すると意味が異なってしまうベクトルもある。このようなベクトルをとくに束縛ベクトルといい,平行移動してももとのベクトルに等しいと考えてよいベクトルを自由ベクトルということがある。

力のベクトルは,本来,束縛ベクトルであるが,質点の力学では,平行移動して始点を1点に集めて考えているから,自由ベクトルとして扱っていることになる。剛体の力学では,力を同じ作用線上で平行移動しても剛体に対するはたらきは変わらないから,自由ベクトルに準じるベクトルである。このように物理学におけるベクトルは,物体をどういうモデルで扱うかによって数学のベクトルと少し異なるものであることに注意して指導しなければならない。

 

平均の速度と瞬間の速度

単位時間あたりの位置の変化を平均の速度といい,Δt→0 の極限で考えたとき,瞬間の速度というのは,直線上の運動と全く同じである。式の上でも直線上の式にベクトルの矢印をつけただけのものである。ベクトル式なので生徒は難解に捉えがちであるが,「直線上と同じである」ことを強調するとよい。数学でのベクトルの学習の進度をみておくことも重要であり,数学での学習が済んでいると,「成分表示すると直線上での式と全く同じである」ことがよりよくわかる。そしてこれは,p.10参考『運動の解析』につながる。

一方,直線上の運動との違いを強調しておく必要もある。速さは速度の大きさであり,ベクトルを絶対値記号で挟んだものであるが,数値で求めるには速度のx成分vx2乗とy成分vy2乗の和の平方根であることや,直線上の運動での「加速度の正負と速度・速さの増減の関係」が成り立たない(加速度の正負が定義できない。速度の変化は定義できても,「速度が増える」という表現が成り立たない)ことなどである。

平面内運動の瞬間の速度の方向が軌跡の接線の方向であることは,平面内での運動で物体がどう進もうとしているかを理解する上で特に重要であるから,よく強調しておきたい。また,このことと,一直線上の運動での瞬間の速度はx-tグラフの接線の傾きであることが,作図上類似しているので,生徒は混同しやすい。このことにも注意を払うべきである。

 

速度の合成と分解

速度に限らず,ベクトルを分解することとベクトルの成分を求めることとが混同されがちである。それは,どのような物理的意味をもつ2(あるいはそれ以上)に分解するのかという点を不明瞭にしているからである。成分という考え方は,直交する2(あるいは3)の方向に分けたことに相当するが,それぞれの方向に物理的意味がなくてもよく,数学的操作に過ぎない。座標軸のとり方も任意である。分解においては,分解する方向は互いに直交とは限らないし,なによりもそれぞれの方向に物理的意味がなくてはならない。力のベクトルではどのような実際の力がはたらいているのかを考えなければならない(それらの力の合力をもとのそれらの力に分解するのである)。速度の分解では合速度がどのような速度の合成としてできたものなのかを考えなければならない。教科書p.7の例では,このときすでに,「甲板に対する速度」というように相対速度の視点が入っていることに注意したい。

 

相対速度

教科書では合成速度,相対速度の順に学ぶので,相対速度の式(3)は添字が異なるが合成速度の式(2)の変形で求められる。これは,「甲板に対する速度」が日常生活でも体験しているという前提での展開である。あるいは教科書p.8L1724の方法で求めることができる。

この逆の順に展開するという指導も考えられるが,そのときは式(3)が理解されにくいので,導出に注意が必要である。教科書p.8L1115の方法以外に次に2つの方法も考えられる。

〔導出方法1〕速度の観測者自身の相対速度がになる(観測者を止めて考える)ためには,観測者の速度を加えなければならない。同様に考えて,物体bの相対速度は,物体bの速度を加えて,である。

〔導出方法2〕まず,軸上での2物体の相対的な位置xaxbを考え,それの単位時間あたりの変化から,x軸上での相対速度vxbvxaを定義する(下に計算の詳細を示す。)同様にして,軸上での2物体の運動を考え,y軸上での相対速度vybvyaを定義する。これらの相対速度を成分とする平面内の運動を考えて,式(20)を得る。

〔計算〕地上に静止した観測者からみて,abの位置,速度,加速度を次のように決める。

 

a

b

位置

xa

xb

速度

 

 

加速度

 

 

aに対するbの相対的な運動について,

位置:

速度:

 

加速度:

 

となる。

 

平均の加速度と瞬間の加速度

速度と同じく加速度も,文章上の定義は直線上の場合の定義と同じであり,式においても,直線上での式にベクトルの矢印をつけただけのものである。ここでも,「直線上と同じで定義であり,成分表示すると直線上での式と全く同じである」ことを強調し,p.10参考『運動の解析』につなげたい。

加速度の指導においては,p.106(b)の速度ベクトルを始点をそろえて描いた図(ホドグラフ)が生徒にとっては奇異なものに映るようだということに注意したい。図6(a)では位置という次元の空間に速度という異次元の量のベクトルが描かれている。その図から速度ベクトルを取り出して,書き換えたものが図6(b)であり,速度変化を知るためには必要な図であり,そこには,速度ベクトルの空間の中に加速度ベクトルが描かれている。生徒が理解しにくいのは「異なる時刻の速度ベクトルを始点を揃えて描いた」ことによるのであろう。

瞬間の加速度は,等速円運動などの実際の運動の解析の中でよりよく理解できる

ものであろう。

 

運動の解析

平面内の曲線運動において,位置,速度,加速度

というように,成分で表されているとする。教科書p.7(1)より,

 

 

同様に,教科書p.10(5)より,

 

これらの式は,直線上の運動の速度,加速度の式をxyの各成分に適用した式にすぎない。すなわち,平面内の曲線運動は,直交座標軸上の2つの直線運動に分解でき,逆にその2つの直線運動を合成して平面内の曲線運動を知ることができる。このことは,今後の学習において有用であり,強調しておきたい。

 

運動の三法則

ベクトルで表した運動方程式は物理Iで出てきているが,すべて合力の向き(=加速度の向き)が一定で,かつ加速度の向きと速度の向きが同じである,すなわち一直線上の運動という状況であった。物理IIでは水平投射・鉛直投射という,合力の向き(=加速度の向き)は一定であるが,加速度の向きと速度の向きが異なり,速度の向きが時々刻々と変化していくという例を扱い,さらに合力の向きが時々刻々と変わるという本格的な運動方程式の使用に至る。

そのような運動方程式の適用は,証明や説明はなされていないが,本格的な運動方程式の適用の布石として,ここに物理Iでの既習内容を示したものである。

 

 









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