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第2節 光の性質

 

スペクトル

太陽光線のスペクトル

光の分散

光の散乱

 雲はなぜ白く見える

偏光

液晶


 

スペクトル

教科書p.2397の電球の光のスペクトルは,右図のような装置で実際に撮影したものだが,他のスペクトルはそれをもとに描いたものである。実際に撮影してみると,同じ波長の光でも光源が違うと違った色調になってしまったり,強い線スペクトルが露出過多で太くなったり白色になったりして,互いに比較しにくくなるためである。

なお,光の色は通常は真空中の波長で指定されるが,ここでは振動数も示した。「波長が色を決める」とのみ覚えてしまった生徒は,水中で見る光の色が変わると誤解してしまうことがあるので,できれば振動数との関係にも注目させたい。ある色の光が様々な媒質を通れば,各媒質における波長は変化するが,目の中の波長は色によって決まるただ1つの値である。つまり,光の色は途中に空気を通ってきても水を通ってきても同じであり,色を決めるのは振動数であるとした方が概念形成としては混乱がない。音の高さは音波の振動数で決まり,光の色は光波の振動数で決まるということになり,対称性もよくて整理がつきやすい。

 

太陽光線のスペクトル

 光のスペクトル分解は,微積分法および万有引力とともに,ニュートンの3大発見の1つである。その後,太陽スペクトル中の吸収線について,フラウンホーファー(J.Fraunhofer1787-1826)が,黄銅製の枠に銀線を多数張った回折格子を自作するなどして,詳しく研究した。彼は,おもな吸収線にはABC,……の符号をつけた。これらのうち,BCDEFGなどの吸収線について波長を求め,ことにD線については,10種の違う回折格子を用いて測定値を出している。

 これらの吸収線をフラウンホーファー線とよぶ。最も明瞭でよく知られているのはB線といわれるO2の帯スペクトル(地球の大気の吸収)C線とよばれるバルマ―系列のHα(水素による吸収)D線とよばれるNaの線,およびCa2によるH線とK線である。地球上の大気によって現れる吸収線,たとえばB線については,太陽の天頂距離の変化に伴って,強度が変化するので,太陽の周りにある太陽大気による吸収と区別ができる。

 

光の分散

 光の分散は,媒質中の光の速度,したがって屈折率が振動数(波長)によって異なるために生じる現象である。プリズムによる光のスペクトルがその代表的なものである。その類推から,回折格子で光がスペクトルに分かれる現象も分散とよぶことがあるが,その原因は全く異なる。光の分散の本質的原因は,光と物質との相互作用が光の波長によって異なることにある。

 物質中に光が入射すると,光の電磁界によって物質中に電気双極子モーメントpが生じ,この双極子の振動によって新たに電磁波が生み出される。この電磁波と入射してくる電磁波の重ね合わされたものが屈折波で,透明な物質では強制振動による電磁波に位相の遅れがあるため,屈折波の速さvは真空中より小さくなる(vc/n)。これが光の屈折のミクロな原因である。

 物質中に光の平面波が入射したとき,電界をEとすると,その中で粒子に生じる双極子モーメントpEに比例し,は,p=aEで与えられる。aは分極率(polarizability)とよばれ,光と物質との相互作用の目安である。光の分散はこのaが光の振動数によって変化することによって生ずる。

 

 この写真のように,上下に2つ虹が見えることがある。下のはっきりした虹は,教科書p.241の説明のように,水滴に入射した光が屈折→反射→屈折して起こるものである。図のように,ある波長の色に注目すると,1つの水滴の各部分に平行に入射した光と水滴から出ていく光の方向とのなす角(振れの角) に最小値があり,その最小値の角度の方向に出ていく光の量が多くなることによって起こる。その最小値の角度が屈折の影響により,波長()によって異なるので色がついて見える。色は,上から赤→紫の順になる。写真の上に見える薄い虹は,図のように,光が屈折→反射→反射→屈折して起こるものである。色は普通の虹とは逆の順になる。

 

光の散乱

 散乱は,波動が媒質中で進路を変える現象の一種であるが,反射や屈折との境界は必ずしも明確ではない。たとえば,すりガラスの表面は小さな反射面がいろいろな方向に存在しており,光を散乱する。しかし各々の現象はガラス面での鏡面反射であり,乱反射という方が適切であろう。また水滴による散乱も,実際は屈折や反射である。一般に,光が広い角度範囲に比較的均等に進路を変えるとき,散乱という言葉が使われるようである。

レーリー散乱】 光の波長に比べて十分に小さい粒子による散乱現象で,明確に定義されている。散乱光は粒子を中心とする球面波を放射し,その強度分布はまったく等方的である。レーリー卿は「空の色はなぜ青いか」という論文で,この現象を理論的に説明した。散乱光の強度は,波長の4乗に反比例して強くなる。たとえば赤い光の波長は青い光の波長の約1.22倍なので,青い光は最大で赤い光の約16倍強く散乱されることになる。大気を通過する太陽光は,空気中の分子によってレーリー散乱される。空が青く,朝日や夕日が赤いのはこのためである。

 しかし,もし分子が完全に均一かつランダムに存在していたら,散乱光はまったく観測されない。各分子で散乱されたすべての球面波を積分すると,前方方向以外は消えてしまうからである(このことはホイヘンスの原理との類推でも理解できる)。実際に起こるマクロな散乱を説明するには,媒質中の熱ゆらぎを考慮しなければならない。

密度ゆらぎによる光散乱】 媒質中には,熱エネルギーによって励起されたゆらぎが必ず存在する。このため媒質中の各点の密度は平均値からわずかにずれており,また時間とともに変動している。媒質の誘電率も密度とともにゆらぐので,散乱光の積分が前方以外にも残ることになる。これがマクロな散乱として観測される。

この現象は,光のブラッグ反射として理解することができる。図のように,2qの方向に起こった散乱を考える。もし密度ゆらぎの中に,間隔dの回折格子がqの向きに存在していれば,入射光はその格子によってブラッグ反射されるはずである。ここで,2d sinq=lというブラッグ条件が満たされている(lは媒質中での光波長)。実際に回折格子があるわけではないが,ゆらぎの成分として必ず含まれている。このことは任意の波形が,正弦波の重ね合わせで記述できることと等価で,時間が空間に置き換えられただけの違いである。ゆらぎがランダムであるとすれば,この仮想的な回折格子はあらゆるdについて,すべての向きに存在するはずである。したがって,どの方向から光を入射しても,あらゆる方向にブラッグ反射が起こるのである。

散乱光のスペクトルから,サイズdのゆらぎに関する情報を得ることができる。例えばゆらぎの一部は拡散によって消滅するので,拡散定数を求めることができる。またゆらぎはフォノン(音波)となって伝搬し,減衰する成分もあるので,フォノンの速度と寿命が測定できる。この場合フォノンの波長はdに等しい。60°方向の散乱光では,ブラッグ条件によりd=lとなり,光波長と等しいフォノンが測定できることになる。後方散乱(180°)の場合には光波長の半分のフォノンを見ることになる。

【コロイドなどによるミー散乱】 粒子径が光の波長に近くなると,レーリー散乱の考え方が成り立たなくなり,散乱光の強度分布は粒子径や形に依存するようになる。この領域の散乱をミー散乱という。散乱光は前方の方が強く,また粒子が大きいので波長の4乗則は顕著でない。散乱強度が大きいので,粒子密度が高い場合は多重散乱が無視できなくなり,白濁する。教科書p242の「やってみよう」は,ミルク粒子によるミー散乱の実験である。しかし波長の4乗則は少し残っているので上からみると赤く,また横から見ると下が青く,上部は赤っぽくなる。

 

 雲はなぜ白く見える

雲は小さい水滴の集まりである。水の分子は水蒸気の状態では目に見えないのに,雲になるとなぜ綿が浮いているようにはっきりと白く見えるのだろうか。 

水分子1個が散乱する光強度を1とすると,n個の分子が水蒸気の状態である場合の全散乱光強度はnとなる。一方n個の分子が水滴を作り,そのサイズが光波長に比べて十分に小さいとすると,全分子はほぼ同位相の光を散乱する。したがって,振幅がn倍となり,散乱光強度はn2となる。例えば,直径100nmの水滴には,107個程度の水分子が含まれている。同量の水が水蒸気として存在するときより107倍強い散乱を起こすことになる(もちろんこれは全分子が完全に同位相の散乱をする場合の値であり,実際にはこれより小さいであろう)。これが,雲がはっきり見える原因である。また水滴は,レーリー散乱ではなくミー散乱を起こすので,太陽光のスペクトルとほぼ等しい白色光の色を放射する。

散乱強度が大きいので,一度散乱された光が再び隣の粒子で散乱される多重散乱が無視できなくなる。粒子位置がランダムであるとすると,光のすすむ経路は,ランダムウオーク(酔歩)のモデルで扱うことができる。この結果,光は雲の中を拡散してゆく。これが綿のように見える理由である。光の拡散現象は,雲がかかった月の周りに見ることができる。

 

偏光

直線偏光と楕円偏光】 z方向に進む光を考えると,その電界はx-y面内で振動している。自然光はその振動方向がランダムに変化するのに対し,偏光はある相関を保っている。偏光のうち,振動方向が常にz軸を含む1平面内に固定されているとき,それを直線偏光という。また振動方向が光の位相とともに回転すると,円偏光や楕円偏光となる。回転には右回りと左回りの区別がある。直交する偏光どうしや左右回転どうしなどのように,偏光状態の異なる光は干渉を起こさない。電界ベクトルをx成分とy成分に分けて考え,それぞれの振幅が等しいとする。もし位相も等しければ,それらの合成はx軸から45°傾いた直線偏光となるが,位相がずれていると,一般に長軸が45°傾いた楕円偏光になる。特に,位相角のずれがp /4の場合には円偏光となる。また振幅が異なると,楕円の長軸の向きが変化する。

円偏光や楕円偏光を得るには,光路中に1/4波長板を入れるやり方が一般的である。これは水晶や雲母板でできた板で,固有の軸をもつ。電界ベクトルがその軸と平行な場合と,直交する場合とで光路差がp /4異なるような素子である。軸に対して45°傾いた直線偏光を通すと,円偏光が出てくる。軸を回転すると,楕円偏光となる。

反射光の偏光とブリュースター角】 屈折率n透明な物質に光が入射するときの反射率はp偏光(入射の面に平行な成分,図1参照)s偏光(入射面に垂直)とで入射角依存性が大きく異なる。入射角が大きくなるときs偏光の反射率は単調に増加する。これに対し,p偏光の反射率はまず0まで減少し,その後増加する。p偏光成分の反射が0になる入射角をブリュースター角(偏光角)といい,それをqとするとtanq= nの関係がある。つまりブリュースター角入射では,反射角は屈折角と直交している。水ではq53.0°,屈折率1.52のガラスでは56.7°である。qの測定から上の式を用いてnを決めることもできる。

自然光が水面で反射すると一般に偏光となるが,完全な偏光となるのはブリュースター角入射のときのみである。p偏光成分は全て透過するので,水平に偏光した直線偏光が反射される。垂直入射に近い場合の反射光は,ほとんど偏光していない。また,直線偏光を出すタイプのレーザーでは,レーザー管の端の窓ガラス面が光軸とブリュースター角をなすように傾けてある。発振がp偏光のみで起こるため,非常に純度の高い直線偏光が得られる。小型のHe-Neレーザーなどは,ブリュースター窓を持たないので偏光していない。

青空の偏光】 太陽光は自然光であるが,空で散乱された光を地上で観測すると偏光している。図2のように,太陽光線が東から西に向かって通り過ぎるとき,真上で起こる散乱光を見ることにする。太陽の自然光を,垂直に振動する成分と南北に振動する成分とに分けて考える。垂直成分が大気に入射すると,上下方向にはほとんど散乱されず,主に水平面内で散乱が起こる(図中の白い楕円)。分子中の電子は上下に振動し,それと直交する方向に光を放射するからである。したがって,地上からはこの散乱光を観測することはできない。一方,南北に振動する太陽光成分は垂直面内(図の灰色の楕円)に散乱を起すので,これが地上に届くことになる。観測者が見る青空は南北に偏光している。ミツバチの眼には偏光板がついており,このことを利用して方向を検知している。

図1

 

図2

青空の偏光状態

 

液晶

液体のような流動性をもちながら,構成分子は結晶のように規則性のある配置をしている状態を液晶という。液晶の構造には,図に示すようにいろいろなタイプがある。ネマティック液晶は細長い棒状分子からなり,各分子の重心位置はまったくランダムで規則性はないが,向きがある程度そろった配向状態にある。スメクティック液晶は,横方向に配列し層状構造をとっている。コレステリック液晶は,配向の方向がらせん状に回転する。これらの液晶構造は光学的な異方性をもち,光の偏光面を変化させるなどの光学作用がある。また,分子間の結合力は普通の結晶よりはるかに弱いので,外力や電界によって構造を制御することができる。これらのことを組み合わせて,電気光学素子としての応用が考えられている。

液晶の最も重要な応用は,教科書p.244に示されている液晶表示(LCD=Liquid-Crystal Display)であろう。現在ノートパソコンやテレビ,携帯電話などに広く使われている。上下2枚のガラス基板の間に,厚さ数mmの液晶を封入する。ガラス面には分子が横に寝てx軸方向に並ぶような配向処理をしてあり,横向きのネマティック状態となる。次に下のガラス基板を90°回転すると,ネマティックの向きが深さとともにしだいにねじれて,図のコレステリック相のような構造となる。x軸に平行な直線偏光が上から入射すると,その偏光面は分子の向きに従ってしだいにねじれ,下の面に届いたときには偏光面がy軸に向いている。ガラスの上下に直交した偏光板を重ねても,光は透過する。次に透明電極によって上下方向の電界をかけると寝ていた分子が起き上がり,偏光面が回転しなくなるので光が遮断される。棒状分子は長さ方向の分極率が他の方向より大きいので,電界と平行に並ぶほうがエネルギーが低くなり,起き上がるのである。これが液晶表示の基本原理である。

 

 

 

 








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