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第1節 波の伝わり方

 

波の伝わり方の演示例

水面の波と水の運動

いろいろな波とその伝わる速さ

単振動と正弦波

位相

横波と縦波

 波動はエネルギーと情報を運ぶ

津波とソリトン――非線形波動の話

地震波


 

波の伝わり方の演示例

 ひもを伝わる横波 気柱共鳴実験用のゴム管(長さ8mほど)を用いるとよい。ゴムひもの一端を,床面から1.21.5mの高さの所に固定し,他端を片手で持って水平に張る。もう一方の手で,ゴムひもをたたくとパルス波が発生する。また,引っ張っている手をすばやく振り動かすと,連続した波が発生する。ある一定の振動数で振り続けると,定常波が現れる。

 ばねを伝わる縦波 波動実験用つるまきばね(スリンキー)を用いるとよい。ばねを滑らかな机面に置き,大きく引き伸ばす。ばねの一端をばねの長さの方向に振動させると,ばねに疎密波が発生する。ばねの途中に小さな目印(発泡ポリスチレンを小さく切ったもの)をつけておくと,この波が縦波であることを説明するのにつごうがよい。

 水平すだれ式波動実験器(シャイブ式ウェーブマシン) この波動実験器は,ベル電話研究所(アメリカ)John N.Shiveによって考案された。波の伝搬速度が小さく,そのうえ大きな振幅の波を起こすことができる。波の伝わり方,波の独立性,波の反射,定常波など,波の様々な現象の観察に適している(教科書p.191などの写真を参照)。波はゆっくり伝わるので,大きな感銘を生徒に与えることができる。

 波動説明器(林田式) この型の説明器は従来からあり,現在でも市販されている。構造がプリミティブであるので,波の生じるしくみや波の伝わるしくみ等の説明に適している。これを演示しながら,説明を行うと効果的である。

 

水面の波と水の運動

 水面を波が伝わるとき,運動するのは水面近くの水だけではない。たとえば,海中水族館の窓越しに海底の海草の動きを見ると,海底近くの水も波によって激しく運動していることがわかる。波が最も単純な場合,水の各微小部分は楕円運動をする。その楕円の形は,水深とともに小さくなり偏平になっていく。これらのことを数式の上で確かめよう。

 水面を平面波が右向きに進む場合を考える。波の振動数をfHz〕,波長をlm〕とする。図のように,x軸を静水面に沿ってとり,y軸を鉛直上向きにとる。水中のある任意の微小部分Pは,波がくる前は位置 (xy)に静止していたが,波が到着すると動き始めて,位置(xy)を囲む閉曲線上を運動するものとする。そこで,P点の運動を静止時の位置(xy)からの変位ベクトルy で表す。変位y は時間tの関数であるが,これに加えて平衡点(xy)の関数でもあるとしよう。

 

変位ベクトルyの水平成分と鉛直成分を,それぞれyx (xyt )yy (xyt )とする。yxyyは運動方程式を満たすとともに,次の関係式をも満たしている。

 

(1)式は連続の方程式といって,水の質量保存性に水の非圧縮性や波によって水中に泡が生じない仮定などを加味して導いた関係式である。(2)式は,波によって水中に渦が生じない仮定を表している。最後の(3)式は境界条件で,水底(水深hm)で水は底面から離れる向き(y方向)に運動できないことを表している。

 さてここで,話を単純な場合に限って,変位の鉛直成分yy

 

とおこう。すなわち,水の中にもx軸の正の向きに速さflで進む波があり,その波によって変位の鉛直成分yyは単振動をするものとする。また,その波の振幅bは水深(y0)によって異なるが,その波の位相は水深によらないものとする。yyをこのように仮定すると,変位の水平成分yxは上に述べた3つの関係式から次の形の関数に定まる。

さらに,振幅ab

 

 

でなければならない。また,@,A式からただちに

 

を得る。

@,A,C式から,水の微小部分は楕円上を時計回りに運動することがわかる。またB式から,楕円の長半径aや短半径bは水深とともに小さくなり,その形は水深とともに偏平になっていくこともわかる。B式を用いてabの値をl4hの場合について計算すると,右図のようになる。

 楕円の長半径aと短半径bの差は,B式の第2によって生じる。この項が充分に小さいと,楕円を円と見なせる。そこで,試しにこれが103より小さくなるyの範囲を求めてみると,0 y > −h0.55l となる。すなわち,水面から水深(h0.55l )までの範囲では,水の各部分は円運動をしているとみなしてよい。また,残りの範囲(水の底から0.55lの厚さの層)では,水は底面の影響を受けて楕円運動をしている。

 また,円運動をするとき,その半径はとみなせる。これを用いて,水の運動半径と水深の関係を簡単に調べることができる。半径が水面での半径A1/10になるのは,水深およそ0.37l,また1/100になるのは,水深およそ0.73l,さらに1/1000になる水深はおよそ1.10lである。このようなことから水深が1波長を超える水の中は,波の影響をほとんど受けない静かな世界であることがわかる。

参考文献:F.S.CrawfordJr.「バークレー物理学コース3.“波動”」(丸善)

 

いろいろな波とその伝わる速さ

 自然界には様々の波があり,それぞれの媒質の物理的状態に応じて固有の伝搬速度をもっている。

 

@      弦を伝わる横波: 

A      水面を伝わる波

波長が水深に比べて十分に大きい場合:浅水重力波= 

 波長が水深に比べて十分に小さい場合

    波長が大きい場合:深水重力波= 

    波長が小さい場合:表面張力波=

B 液体や気体中の縦波(音波) 

C 固体を伝わる波(等方的で無限に大きい場合)

横波=

縦波= 

 チリ津波(1960)は,日本海岸まで約17000kmをほぼ23hで渡ってきた。時速およそ700kmで,浅水重力波の式を用いて計算すると,太平洋の平均水深は4000mとなり,これは実際の値とほぼ一致する(→「津波」の項参照)

 縦波の伝わる速さは,固体の鉄やガラスなどで約20000km/h,水では5400km/h,空気では1200km/hである。ジェット機の約1000km/h,新幹線の200km/hなどと比べると,波の伝わる速さがいかに速いかがわかる。

 いろいろな物質中での弾性による波の速さは,物質が等方的で無限に大きい場合,表のようになる。細い棒のような場合には,波の速さは幾何学的形状によっても異なるので,波の速さは棒をつくっている物質のみに固有というわけではない。

弾性波の速度m/s

物 質

縦 波

横 波

アルミニウム

6420

3040

5010

2270

5960

3240

1960

690

ガ ラ ス

5640

3280

ナ イ ロ ン

2620

1070

ポリエチレン

1650

540

 

単振動と正弦波

 「生徒にとって,波動はなかなか理解しにくい。波動は時間と空間という2つの独立変数で変化するからである。波源の単振動が,x軸上の媒質に次々と伝わっていくとき,正弦波の波形が現れる。その様子を,波動実験器などを用いて観察させる。次に,波動実験器の中ほどに小さな目印をつけ,そこに正弦波を送って,目印の振動と波形の通過の関係を観察させる。ここでは,図形的な理解を重視した指導が望まれる。表計算ソフトのグラフ機能を使えば,図形的な扱いも手軽にできる。

次に,作図を通して波動の動きを理解させる試みを紹介しよう。

 

●サイン定規を作る

 厚紙にl波長6cm,振幅1.5cm3波長連続の波形を正確に描き,切り抜いて定規を作る。この定規を用いて,t0から1/4周期ごとに波形を描かせる(右図。)次に,x座標の1Aを指定して,A点の振動のグラフを描かせる(下図)

 

 

●波の式をグラフ化した立体モデルの作成

 t0から1/8周期ごとにtTまで9枚の波形をボール紙で作り,下図のように底面の台紙に差し込むと,立体モデルができ上がる。この作業を通して,媒質の振動と波形の移動の関係を把握しやすくなると期待される。

 

位相

 おもりが単振動をする場合,ある時刻tのつり合いの位置からの変位y

              y A sin(ωtθ0)               ・・・・  (1)

で表せる。角変数 φ ωtθ0 を,振動の位相という。位相φは,時間t と共に増加し,1周期T につきradずつ増加する。位相 φθと位相 φθ2p×(整数) は,おもりに同一の運動状態(変位と速度)を与える。そこで,位相が2p×(整数)だけ異なる位相を同位相とみなしている。

 教科書p.1856のように,振幅の異なる2つの振動(ただし,周期は等しいものとする)を比べる場合を考えよう。それぞれの振動は,次式で表せる。

               y1 A1 sin(ωtθ1)               ・・・・  (2)

               y2 A2 sin(ωtθ2)               ・・・・  (3)

  初期位相が等しい場合(θ1θ2)は,図6(a)のように,2つの位相は常に等しい。そ

こで,2つの振動は同位相であるという。初期位相がp radだけ異なる場合(θ1θ2 π)は,図6(b)のように,2つの位相は常にp radだけ異なる。この場合は,2つの振動は逆位相であるという。

6 (a)のように,2つの振動が同位相であっても,それぞれの運動状態(変位と速度)は異なることに注意しよう。このことからわかるように,位相の概念は,振動体の運動状態に基づいて規定されたものであるとはいえない。位相が同じであることと運動状態が同じであることが応するのは,1つの単振動だけを問題にする場合に限られる。式(1)において振幅Aが時間と共に減少する場合,すなわち減衰振動においても,振動の位相は角変数 φ ωtθ0 で定義される。この場合にも,位相が同じであることと運動状態が同じであることは対応していない。

 

横波と縦波

 横波・縦波の定義は,ばね(スリンキー)を伝わる横波や縦波の観察を通して理解させよう(教科書p.187「やってみよう 縦波と横波」)。縦波の波形の描き方は,教科書p.1888(A)(B)(C)から(D)(E)を作図させることによって理解させるとよい。波形のもつ意味は,教科書p.1894を解かせて,理解を深める。

 

 波動はエネルギーと情報を運ぶ

 地震は地球を伝わる弾性波(弾性力を復元力として伝わる波,広い意味の音波)で,微弱なものはつねに起こっており,地殻の変動など地球内部の情報を地表まで伝えてくる。しかし大きな地震は,われわれの体で感じられるばかりか,ときには建物を破壊するほどの大きなエネルギーを伴うこともある。このように,波動はエネルギーと情報の両方を運ぶ。とはいっても,エネルギーを伴わない情報の伝達はあり得ない。あくまで受波側がそれをエネルギーと見るか情報と受け取るかだけの違いであり,本質的な区別があるわけではない。

 波動とは,媒質(真空も含めて)の何らかの物理量の局所的な変化が次々と隣接部分に伝わり,非常に遠いところまで届く現象である。人が大勢並んで何かをリレーで運ぶのと似ており,人が媒質でその「何か」がエネルギーであり情報である。したがって,波動の利用には情報通信的応用とエネルギー的応用とがある。今,波動を情報のキャリアとして利用する場合を考えてみる。物質の移動と異なり,波動の速度や伝搬経路は送受波間の媒質の性質だけで決まる。あらかじめそれを知っておけば,情報を波動に載せ,その速度で遠いところまで素早く確実に情報を送ることができる。音声や文書のような1次元情報だけでなく,画像や立体像などの多次元情報も走査処理によって1次元化し,波動に載せることも容易である。また,波動をエネルギーのキャリアと考えてみよう。振幅を変えてパワーを自在にコントロールし,波動をガイドとして確実に所定の場所に送り,局部的にエネルギーを加えることができるきわめて制御しやすいエネルギーキャリアということができる。

 情報キャリアとしてもっとも多く利用されているのは,いうまでもなく電磁波である。波長数10kmの超長波から数mmのミリ波まで,無線通信,ラジオ,テレビ,衛星通信,レーダーなど広く用いられている。電気的な発振でキャリアをつくり,送りたい信号でそれを変調し,アンテナから送り出す。受波側はアンテナで受け,検波によってキャリアから信号を取り出す。電磁波のエネルギー的応用としては電子レンジがある。

 光も電磁波の一種であるが,波長が短いため放送用の電波とはまったく異なった伝わり方をする。古くから信号灯を手動で点滅させる簡単な通信は行われていたが,最近では光ファイバーを用いた新しい光通信が始まっている。これは,キャリアの発振器である半導体レーザー,その光に信号を載せる光変調器,信号伝送路である光ファイバー,光を検出して信号を取り出す光ダイオードなどに代表される関連技術の進歩によって初めて可能となったものである。光は周波数が高く非常に多量の情報を送ることが可能なため,光通信は急速に発展しつつある。一方,光のエネルギー的応用としては,レーザーによる精密加工,レーザーメスによる治療など,高密度のエネルギー集中と制御性のよさを生かした高度な技術が進歩している。またよく考えてみれば,地球上のほとんどの生命活動は,遠い太陽から光に運ばれてきたエネルギーに頼っているのである。

 超音波にも電磁波や光と同様に情報通信的応用とエネルギー的応用がある(2章第1節「超音波」参照)

 

津波とソリトン――非線形波動の話

 海底下の大規模な地震などに伴って発生する津波(tsunami)の恐ろしさは,よく知られている。1993年に起きた北海道南西沖地震による津波では200人を超す死者が出た。津波の大きな特徴は,周期が何10minといった程度に長く,波長も外洋では100km以上というように非常に長い点である。水面を伝わる波の速さvは,波長に比べて水深hが小さい,つまり浅い水の場合,重力加速度をgとしてvで表されることが,かつてラグランジュにより示された。海がいかに深くても,津波の波長は水深より十分に大きいため,上記の式が成立する。太平洋の水深を平均4000mとすると,津波が太平洋を越えてくるときの速さは

 

であるから,ジェット旅客機の巡航速度なみである。したがって南米チリ沖くらいで発生した津波も20時間くらいで日本に到達してしまう。こういう深い海域では目立たないが,津波が沿岸部に近づいてhが減ると,vが減るだけでなく,波長も減り,l波長に含まれるエネルギーがほぼ一定しているため波高が増してくるという結果が生じる。これが大きな災害につながる。また浅いほどvが減るため,進行方向は浅い方へ浅い方へと曲がり,海岸に垂直に津波が進んでくるようになる。

19世紀の初期,スコットランドのJ.S.ラッセルという工学者は,運河に沿って大きなボートを引いていき,急にボートを止めると,平均水面より高い1つの波が発生し,それは非常に長い距離にわたって運河を進み続けることを発見した。そして小規模な実験をくり返して,その波の速さvは波の高さをaとすると,ラグランジュの式よりもで表されるべきだということを提唱した。

 「それだけのことか」と思う人がいるかも知れないが,このラッセルの発見は波動現象を考える上で非常に重要な意味をもっていたのである。ふつう波動は,波動方程式とよばれる線形微分方程式で記述される。線形の特徴は重ね合わせの原理が使えることである。しかし,波動方程式はいわば理想的な波動を表す道具であって,厳密にいえば真空中の電磁波を除くと自然界の波動はほとんど波動方程式から多少ともずれていて,非線形的な要素が加わっているといってよい。とくに水の波などは,その要素が強い。しかし,こういう非線形波動の問題は難しく,19世紀後半に至るまでほとんど手がつけられなかった。その頃,ストークスやL.レイリーは,浅い水の中では弧立波(solitary wave)という単独な波が存在しうること,その速さがラッセルの提唱した式に従うことを証明した。それに引き続いて,コルテヴェーグとド・フリースの二人は,さらにとり扱いを拡張して,現在KdV方程式という名前で知られる非線形微分方程式を導いた。孤立波は安定で独立な粒子のように振る舞うため,ソリトン(soliton)とよばれることも多く,光通信への新しい応用などで注目を浴びている。

 

地震波

 地殻や上部マントルの中などで,急激な破壊が起きる(たとえば既存の断層がすべり始めるといった)と,その際に生じる振動は弾性波として地球内部や表面を伝わっていく。この波動を地震波(seismic wave)という。地震波は次のように大別される。

 

実体波は,震源から四方八方へ3次元的に伝搬する波で,P波はS波より速度が大きい。地震の最初,初期微動といって“ガタガダ”と小さく上下方向に揺れる波がP波,次に“ユサユサ”と大きく揺れる波がS波に相当する。S波は,振動方向によってさらにSV波とSH波に分類される。

 地震計で地震波を記録すると,下のように,P波とS波に続いて表面波の到来が観察され,最後に振幅の小さな尾部(コーダ)が認められる。

表面波の速度は,その波長程度の深さまでの地球のマントル構造によって決まり,また振動の周期によっても異なる(つまり,分散がある)。コーダは,地殻や上部マントルの不均質構造に由来する散乱波である。以上の各種の波のうち,P波・SV波・レイリー波は地球の伸び縮み振動に,またSH波・ラブ波は地球のねじれ振動に対応している。

 地震波の伝搬には,地球の内部構造や震源の位置が深く関係している。マントルと外核の境界面は,地震波にとってとくに顕著な不連続面として作用し,ここで反射や屈折が起きる。また,地球表面も同様に不連続面として作用する。そして反射や屈折の際は,単に波の進行方向が変るだけでなく,たとえばP波の一部がSV波になったり,逆にSV波の一部がP波になったりといった変化も起きる。内部にそれほどはっきりした境界面をもたないマントル内だけでも,深さによって構造が異なり,地震波の速度は深くなるほど増大する傾向がある。そのため震源から斜め下方へ出た地震波は,地球の中心から遠ざかる方向へ屈折され,地表に到達することになる。震源と観測点が地球の中心を挟む角度を角距離といって,震源から角距離が100°くらいまではどこでもP波が観測されるが,103°143°くらいの地域ではそれが観測できない「影の地帯(シャドーゾーン)」ができる。こういった現象も,地球の内部構造からよく説明できる。

 

 

 

 

 








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