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探究活動3 熱機関に関する探究

 

 

ねらい 熱力学の第2法則より,熱の一部を捨てない限り熱から仕事を取り出すことはできない。だが生徒にとっては,高温部から熱をもらうというイメージは持てても,捨てることの意味はなかなか理解しづらい。ここでは,歴史的な調査,及び実際の製作を通して,熱から仕事を取り出す方法を学ぶとともに,実際にどの過程で熱を捨てているのかを確認し,熱を捨てなければ仕事をとり出せないことを理解させる。

 

研究1 蒸気機関の歴史の調査

 最初に蒸気機関を発明したのはイギリスのセーバリーであった。この機関は,鉱山にたまった水をくみ出す装置であったが,高圧の蒸気を使うため,しばしば爆発事故を起こした。そこで登場したのが低圧の蒸気を使うニューコメンの機関である。教科書にその仕組みが記述してある通り,負荷を持ち上げているのは大気圧である。したがって,シリンダー内の圧力はせいぜい1気圧ですんだ。さらに,この機関は水を汲み上げるだけでなく,ものを持ち上げることもできた。

 ワットはグラスゴー大学の器械製作者であった。176364年の冬,教授から講義で使っていたニューコメン機関の模型が壊れたので直すように頼まれた。ワットはこの模型を修理しながら,この機関をはたらかせるにはあまりにも多くの水蒸気を必要とすることに気がついた。やがて,これはシリンダー内の水蒸気を凝縮するために冷たい水を注ぐことにより,シリンダーが冷え,次に水蒸気を注入する際に熱の大部分がシリンダーを暖めるために使われているためであることがわかった。この欠点をどう克服すべきかを考えていたワットは,1765年にシリンダー内の水蒸気を別の容器(凝縮器)に導き,そこで凝縮させればよいことに気がついた。ただ,その後もさまざまな困難があり,実際に実現できたのは,教授から模型修理の依頼を受けてから13年目の1776年のことであった。シリンダーと凝縮器を分離したことにより,熱効率は2倍以上も向上した。

 このワットの熱機関は凝縮器に蒸気を移動させやすくするため,シリンダー内の圧力は1気圧よりも大きくしてあるが,実際に負荷を持ち上げているのは,シリンダー内の水蒸気が凝縮器に吸い込まれる際にピストンを押し下げている大気圧であり,基本的にはニューコメンと同様の大気圧機関である。ワットも高圧水蒸気の使用を考えていなかったわけではないが,装置の強度的な問題からあえて手を出そうとはしなかった。高圧蒸気を使った蒸気機関を作り上げたのは,ウェールズの鉱山機械技師の息子,トレビシックであった。かれは数気圧の蒸気を作ることに成功し,機関の大きさを5分の1ほどまで小さくすることが可能となった。

考察 ニューコメン機関において熱を捨てているのは,冷却水によってシリンダーを冷やす過程であり,ワットの熱機関では凝縮器を冷やす過程である。いずれの機関においても,冷やさなければ全く動作しないので,冷却が本質的な意味を持っていることがわかる。

 ワットの熱機関までは実際に仕事をするのは大気圧であったが,その後の蒸気機関では,高圧の蒸気そのものが仕事をし,圧力の下がった蒸気は大気中に排出される。ここでは大気が低温源となる。

 

補足 ワットが作った最初の蒸気機関のしくみ

 教科書p.1762は模式図である。実物により近づけた図を示す。バルブcは蒸気をピストン上部へ通す弁,バルブeはピストンの上下をつなぐ弁,バルブfはピストン下部の蒸気を凝縮器hに通す弁である。

@シリンダーa内のピストンbは上がり,ポンプロッドは下がっている。バルブらcfは開いており,バルブeは閉じている。ボイラーから送られた蒸気はパイプd,バルブcを通って,ピストンの上部に入る。ピストン下部の蒸気はバルブfを通って凝縮器hに入り,冷やされて圧力が減少し,ピストンは下降する。

Aビームyが回転し,ポンプロッドが上昇する。バルブcfが閉じ,バルブeが開いて,ピストン上部の蒸気は圧力の低いピストン下部へと移動し,ピストン上下の圧力は等しくなる。ポンプロッドの重さによりポンプロッドは下降し,ピストンは上昇するため,ピストン上部の蒸気は下部へと移動する。

Bバルブeが閉じ,バルブcfが開いて,@の過程に戻る。

 

参考文献:

A HISTORY OF THE GROWTH OF THE

STEAMENGINEJ

THURSTON KENNIKAT PRESS.

蒸気機関に関するWebサイト

http://www.egr.msu.edu/~lira/supp/steam/

:ニューコメンとワットの蒸気機関に関する簡単な歴史

http://www.geocities.com/Athens/Acropolis/6914/wvae.htm

:ワットの蒸気機関のアニメーション

http://www.history.rochester.edu/steam/thurston/1878/

:蒸気機関に関する詳細な歴史。参考文献の内容がそのまま載っている。第3章にワットの蒸気機関が記述されている。

 

研究2 熱機関の製作

回転式の蒸気機関

準備 ねじ式のふたがついた金属製の缶,ねじとナット(3mmφ),スチールボール(パチンコ玉),磁石(ある程度強力なもの),千枚通し(きり),アルコールランプ

方法 @缶のふたの中央に穴を開けて下からねじを通し,上からナットで固定する。

A缶に千枚通しで穴を開け,図1のように穴の向きを傾ける。

B缶に水を少量入れ,ふたをする。

C教科書p.1773のようにスチールボールを介してビスと磁石とをつけ,アルコールランプで熱する。しばらくすると水が沸騰し,缶に開けた穴から蒸気が噴き出して,缶が回り始める。高温の蒸気でやけどをしないように十分注意する。最初はゆっくり回っているが,徐々に高速になって缶がぶれ出すので,そうなったら速やかに火からはずす。そのままにしておくと,缶がはずれて危険である。

考察 高温の蒸気が噴き出すことによって熱が捨てられている。この場合の低温部は大気となる。

 もし,熱が捨てられなければ高温の蒸気のまま閉じこめられて,回転することはできない。

参考 アレクサンドリアのへロン(生没年不明,1世紀?)は,図2のような装置を考案した。ボイラーでつくられた水蒸気が,上の球のノズルから吹き出し,球が回転する。ただ,これは単なるおもちゃで,仕事をとり出すための装置ではない。なお,へロンは三角形の三辺の長さから,三角形の面積を求めるへロンの公式で知られる。三角形の三辺の長さをabcとし,abc2lとすると,面積Sは次のように求められる。

   

ビー玉型スターリングエンジン

 

準備 試験管(耐熱ガラス製,外径16.5mm),ガラス製注射器(3mL),ビー玉(外径12.5mm)4個,強力両面テープ,板(10×30×1.5cm)1枚,棒(3×20×1cm)2本,アルコールランプ,シリコンチューブ(外径5mm,長さ6cm),ゴム栓♯02(16×12mm),ガラス管(外径6mm,長さ3.5cm)

12.5mmのビー玉が手に入らないときは,通常の17mmのものでも動作するようである。そのときは試験管は外径21mm,注射器は5mL,ゴム栓は♯04を使用する。

製作方法 @板の真ん中に2本の棒を固定し,支柱とする(3)

A輪ゴム2本を使って試験管を固定する(4)

 

 

B注射器のピストンを,強力両面テープで固定する。

C試験管にビー玉4個を入れてゴム栓をし,シリコンチューブで注射器のシリンダーと接続する(5)

 

動かし方 @ビー玉が注射器側にくるように,輪ゴムを動かして調節する。

Aアルコールランプで加熱する。

B動きが悪いときはゴム栓をはずしてシリンダー内の空気の量を調節したり,輪ゴムを動かして支点の位置を調節する。うまくいけば1秒程度の周期で往復運動をするはずである。

考察 アルコールランプから熱を受けとった空気は膨張し,注射器が上がることによってビー玉が移動する。この移動に伴い,温められた空気は低温部である試験管の口の方へ移動し,冷やされて収縮する。その結果注射器が下がってビー玉は再び口の方へ移動し,冷やされた空気が試験管の底の方へ移動して,また温められる。すなわちここで熱を捨てているのは,試験管の口のあたりとなる。もし熱が捨てられなければ,最初の一回だけは空気が膨張して注射器が押し上げられるが,そこで止まってしまう。

※このビー玉型スターリングエンジンは埼玉県立大宮ろう学校の土田三郎先生の考案によるものである。

参考 蒸気機関は高圧を使用するので,ボイラーの爆発事故が多発した。そこでスコットランドのロバート・スターリングは,作動流体として空気を使用する外燃機関のエンジンを1816年に発明した。これがスターリングエンジンである。だが,19世紀後半になるとガソリンエンジンなどの内燃機関が登場して,熱効率や大きさの面で太刀打ちできなくなり,一線からは退場した。しかし外燃機関であるから熱源を選ばないこと,燃料をゆっくりと燃やせるので環境汚染物質が出にくいこと,内燃機関のように爆発させないので振動が少ないなどの利点から,最近再び注目されてきている。

 様々なスターリングエンジンの作り方がインターネット上で公開されている。

発展 @それまで,紡績工場の動力源は水車であった。そのため,紡績工場は山間部の川沿いにしか建てられなかったが,蒸気機関の出現により,輸送や労働力の確保が容易な場所に建てられるようになった。また,鉄道や船舶にも蒸気機関は使用され,産業革命をもたらした。

A蒸気機関は小型軽量化が難しいことや,熱効率が低いなどの理由により,現在ではほとんど使われていないが,1884年に発明された蒸気タービンは現在でも火力発電所や原子力発電所で使われている。これは高温高圧の蒸気を羽根に当てて回転させるものであり,大きな出力を出すことが可能である。

B現在主に使われている熱機関には,前述の蒸気タービンのほか,ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのような内燃機関がある。

参考文献:

1)「ものづくりハンドブック3

 「楽しい授業」編集委員会編 仮説社

2)「プロジェクト物理3 力学の勝利」

  渡邊正雄,石川孝夫,笠耐 監修 コロナ社

 

 

 

 

 








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