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第4節 エネルギーの変換と保存

 

ジュールの実験

 熱力学の第1法則とエネルギー保存の法則

 熱機関

エネルギーの変換と保存

自然界におけるエネルギーの移り変わり

不可逆変化と熱力学第2法則


 

ジュールの実験

 ジュール(1818-1889)は,モーターに関する研究の中で,電流による熱の発生という現象に注目し,いわゆる「ジュールの法則」を発見した。この事実と,発電機を使って得られた電流も同様に熱を発生するという事実(すなわち機械的仕事が電流を生じてそれが熱になるという事実)とから,彼はやがて,電池内の化学変化(とくに亜鉛の消費)とそれによって生じた電流による発熱量または仕事量(生じた電流でモーターを回した場合に得られる仕事量)との関係に注意を向け,ついに,電流を媒介としつつ,熱と機械的仕事との間に当量関係があることをつきとめ,実験的に「熱の仕事当量」を求めたのである(1843)。その後,彼は,電流を媒介とすることは不必要だったと気づき,機械的仕事を直接熱に変える実験をも行うようになった。中でも,おもりの落下によって水をかき回し,このときの水の温度上昇とおもりの落下とから,熱の仕事当量を求めた彼の実験はとくに有名である。

 

 熱力学第1法則とエネルギー保存の法則

 19世紀半ば,熱は,熱素やフロギストンといった物質的なものではなく,エネルギーの一形態ではないかと考えられるようになった。1842年ドイツのマイヤーが,ついで1843年イギリスのジュールが,熱の仕事当量を発見し,熱と仕事は同等な量で,失われた仕事は熱として現れることを示した。さらに1847年には,ドイツのヘルムホルツが,熱をも含めてエネルギー保存の法則を発見した。かくて熱はエネルギーの一形態であることが明らかになり,従来の力学的な仕事によるエネルギーの移動に加えて,熱の形によるエネルギーの移動が考えられるようになった。

 これが熱力学第1法則で,マクロな現象について適用されたエネルギー保存の法則ということができる。名前の由来は,もともと蒸気機関のはたらき方に関して,すなわち“熱の運動”ということについての研究として出発したこの物理学の一分野に対して,Thermodynamicsという意味のラテン語があてられたことによる。

 

 熱機関

熱機関の歴史≫ 動力を風とか水のような自然の力に頼ることは,私たちの生活が自然に左右されることになり,きわめて不便である。そこで,水が水蒸気になるときの力の利用が考えられるようになった。水蒸気の膨張力は,ローマ時代から知られており,それを用いてへロンが玩具を作ったこともあるが,その後,必要もないままに実用は全く考えられなかった。

 あらためて蒸気に着目したのはフランス人パパン(D.papin1617-1712)である。彼は,初めホイヘンスの助手をしていたが,後にイギリスに移住し,ボイルの助手となった。ここで彼は,1679年に高圧蒸気むし器を発明し,次いで容器の中の水を沸騰させピストンを動かす玩具を作った。これが人間がヘロン以来15世紀を隔てて,蒸気の力に気づいた最初である。

1700年ごろ,この工夫を最初に炭鉱中の水のくみ上げに利用したのが,イギリスのセーバリー(T.Saberi1650-1715)であった。セーバリーの協力者ニューコメン(T.Newcomen1664-1729)は,セーバリーの装置を改良した蒸気機関を作った。このニューコメンの蒸気機関は,1725年ころには一般にかなり広く使用されていた。しかし,まだ熱効率も0.5%程度と悪く,多くの燃料を必要とした。

 ニューコメンの蒸気機関を徹底的に改良したのがワット(J.Watt1736-1819)である。学校に行かなかったワットは,徒弟生活を送って機械修理の技術を身につけ,グラスゴー大学に就職した。そこで,ニューコメンの蒸気機関の模型を修理したときに,蒸気機関の原理と欠点とを知った。最大の欠点はシリンダーに入った蒸気を冷やすときに,シリンダーをいっしょに冷やすので,再びシリンダーに蒸気を入れるとき,シリンダーを熱するために非常に多くの熱を必要とすること,その間に多くの時間を必要とし,運転が円滑でないことであった。そこで彼は,シリンダーとは別に冷却器を取りつけ,ピストンを動かし終わった蒸気はそこに導くようにした。これで上の欠点が除かれるわけである。さらに彼は1769年には,ピストンの両側に交互に蒸気を吹き込む複動機関も考案した。これにより,高圧蒸気機関への道を開いた。また,往復運動を回転運動に変える機構を考案した。かくて熱効率34%と効率のよくなったワットの蒸気機関は,短い年月の間にニューコメンの機関と代わった。

 ワットはグラスゴー大学で,化学教授ブラックから潜熱の知識を与えられ,水が蒸気になるときに多大の熱を必要とし,したがって多量の燃料を消費することを知って,水蒸気の使用を最小にする蒸気機関を考案したのであるが,それ以外に特別な物理的な知識は使用しなかった。ワットの蒸気機関が発明されたときは,イギリスにおいて紡績産業が強力な動力源を求めていたときである。おそらく,ワットの発明も時代の要請が生んだものであろうが,石炭のもつエネルギーを仕事に変える機械である蒸気機関は,早速産業に利用され,仕事の生産性が飛躍的に向上し大工場が作られるようになった。この手工業から大工場生産に移った状況を産業革命とよび,このとき,政治経済をはじめ,あらゆる人間社会の様相が一変したのである。

 蒸気機関を強力な動力として,1807年にはアメリカのフルトン(R.Fulton1765-1815)が蒸気船を発明し,1814年にはイギリスのスチーブンソン(J.Stephenson1781-1848)が蒸気機関車を発明することによって,交通,物資運搬が画期的に容易盛大となり,流通経済が促進され産業革命に一層の拍車をかける結果となった。

 

エネルギーの変換と保存

 教科書p.16820中の矢印の上に示した例は,これらのエネルギーの変換が直接的に行われるものだけを挙げてある。矢印のない部分については,説明しにくいところなので省略した。また,生徒にはあまりなじみのない現象もあるが,ここではその説明にはあまり深入りせず,エネルギー全般の相互変換とその保存に関心をもたせるように指導したい。

 エネルギーの最も重要な性格は,それがいろいろに姿を変えながらも保存されるということであり,熱,電気,光,化学反応,核反応などのいろいろな自然現象の変化の中で,そのような不変な量を探し出せたというのが大切な点であろう。

機械・装置

エネルギー変換

効率[]

白熱電灯

電気→光

10

蛍光灯

電気→光

25

太陽電池

光→電気

25

原子力発電

核→電気

30

燃料電池

化学→電気

60

小さい電気モーター

電気→力学的

63

家庭用石油暖房

化学→熱

85

ボイラー

化学→熱

88

乾電池

化学→電気

90

大きい電気モーター

電気→力学的

92

発電機

力学→電気

99

 

自然界におけるエネルギーの移り変わり

 太陽は,毎秒4.0×1026Jのばく大なエネルギーを発生し,これを四方八方に放射している。このエネルギーは,紫外線,可視光線,赤外線のすべてを含めて約1.4kW/m2の割合で,地球にふりそそいでいる。地球全体が受ける太陽からのエネルギーの割合は,約1.8×1014kWで,この約1/2は反射するなどして,残りの1/2が地表を暖めたり,海面から水を蒸発させたりすることに使われている。

 蒸発した水は,やがて雨や雪となって地上に降りそそぎ,高地に降った水の位置エネルギーは,水力発電などの動力源として利用され,電気エネルギーに変換されている。

 また,地球にふりそそぐ太陽のエネルギーの数千分の1は,植物の光合成に用いられ,デンプン等の化学エネルギーに変換されている。この太陽の光による光合成により,植物が繁茂し,それを食料として,人類や他の動物たちが生きている。また,数億年昔の生物が地中に埋もれてできたものが石炭や石油である。したがって,私たちが日常利用するエネルギーの源は,石油や石炭を含めて,ほとんどが現在または昔からの太陽のエネルギーであることがわかる。

 私たちが日常利用するエネルギーについていえば,乗り物の運動エネルギーや工場での機械の動力は,電気エネルギーや燃料の化学エネルギーが変換されたもので,利用後はほとんど熱エネルギーになってしまう。また,ラジオやテレビの音のエネルギー,懐中電灯の光のエネルギーも,電池の化学エネルギーが変換されたもので,最後には空気中や物体に吸収されて熱エネルギーになる。

 

熱力学第2法則

 熱を含めたエネルギー保存の法則が熱力学の第1法則であるが,この法則は単に閉じた系の全エネルギーが不変であるということを述べているだけで,変化の向きについては問題にしていない。しかし,本来摩擦を伴う力学現象を含めて,われわれの身の回りで起こっている自然現象は,すべて不可逆変化である。

 たとえば,高温物体と低温物体とを接触させるとき,高温物体が失った熱量と低温物体が得る熱量とが等しいという場合,逆に低温物体が熱エネルギーを失い,同じだけ高温物体が熱エネルギーをもらったとしても第1法則には反しないが,自然に起こるのは前者だけである。後者はなんらかの仕事をしないかぎり起こらない(例としてクーラー)。また,ある高さから物体を落とした場合,エネルギーはつねに保存されているが,やがて物体が地面に達したとき,次に物体が自然に元の位置まで逆向きに戻っていくかというと,そういうことは起こらない。振り子の運動でさえ,実際には11回の振動は空気中では完全に可逆的ではない。これが自然の姿といえる。

 このことを分子のレベルでみると,これらは分子の集団の秩序が乱れる向き,すなわち,より無秩序の向きに白然現象は進むことを意味している(教科書p.17022)

 そこで,第1法則とは別に,変化の向きを決める法則として第2法則が唱えられることになるが,その表現にはいろいろあり,次のものもそのうちの1つである。

“熱エネルギーが高温物体から低温物体に何の変化も残さないで移動する過程は不可逆である”

 教科書の表現は,熱機関の熱効率と関連づけたものにしてある。

 

 








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