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第4節 力学的エネルギー

 

力学的エネルギー保存の法則

保存力と非保存力

全エネルギーの保存

摩擦力のする仕事

衝突とエネルギー

 エネルギーと運動量――2つの保存量の発見


 

力学的エネルギー保存の法則

 まず,放物運動について,運動エネルギーの変化と仕事の関係を求める。この関係は,物理Uでは,等加速度運動の式から求めることができるが,物理Tでは平面内の運動を扱っていないので,まだ求めることはできない。この関係式は,位置エネルギーから運動エネルギーへの変換と捉え直すことができ,さらに,移項して,力学的エネルギーの保存と捉えることができる。

 そののち,糸の引く力,あるいは面の垂直抗力がはたらいていても仕事しないときは,同様の関係が成り立つことを調べて,力学的エネルギー保存の法則の理解を深めることができる。

 力学的エネルギー保存の法則は,運動方程式を一度積分したものにほかならないが,運動方程式が数学的に正確には解けない場合でも,運動する物体の位置と速さの関係が明らかになるので,力学の問題を解く上できわめて有用である。

 

保存力と非保存力

 物体を移動させたとき,ある力のする仕事が途中の道筋によらないで決まる場合,その力を保存力という。重力,弾性力,万有引力,静電気力は保存力である。それに対して,たとえば動摩擦力の場合,始点と終点を決めても,移動距離が長くなれば動摩擦力のする仕事の絶対値は大きくなる。このように,物体を移動させるとき,力のする仕事が,途中の道筋によって異なる力を非保存力という。非弾性衝突をするときにはたらく力も非保存力である。

 力が保存力の場合,基準点をOとすると,物体をある点Aから基準点Oまで移動させたとき,途中の道筋によらないで力のする仕事が決まるから,物体が初めにあった位置で力のする仕事が決まってしまう。このとき,物体を点Aから基準点Oまで移動させるときに力がする仕事を,点Aに物体があるときの位置エネルギーと定めることができる。すなわち,保存力の場合は,物体の位置を決めるだけで,力がする仕事の量が決まってしまうので,位置エネルギーを定めることができるのである。この場合は,

  (力がする仕事)=(位置エネルギーの減少分) ……@

という関係が成り立つことになる。

 一方,運動方程式を積分することにより,

  (運動エネルギーの増加分)=(力がした仕事) ……A

の関係が成り立つから,式@,Aより,

(運動エネルギーの増加分)(位置エネルギーの減少分) ……B

すなわち,

  (運動エネルギー)(位置エネルギー)=一定

という力学的エネルギー保存の法則が成り立つのである。なお,式Bはエネルギーの変換を表しているといえる。

 力が非保存力の場合は,式Aは成り立つが,力のする仕事を,式@のように位置エネルギーの減少分に書き換えることができない。よって,力学的エネルギー保存の法則は成り立たない。この場合は,式Aを用いてエネルギーの計算を行わなければならない。

 以上の関係からわかるように,

力学的エネルギー保存の法則が成り立つのは,保存力のみが仕事をする場合(非保存力が仕事をしない場合)である。

ということができる。

 

全エネルギーの保存

 たとえば,摩擦力が仕事をするときには,教科書p.144(12)に示したように,

  (力学的エネルギーの変化)=(動摩擦力のした負の仕事) ……C

となるが,これは上記の式Aに対応する式となる。

ここで,

  −(動摩擦力のした負の仕事)(物体が動摩擦力に逆らってした仕事)

(摩擦によって熱になったエネルギーなど)

であることを考慮すると,

  (初めの力学的エネルギー)

(後の力学的エネルギー)(摩擦によって熱になったエネルギーなど)

となることがわかり,全エネルギーが保存することがわかる。

 

摩擦力のする仕事

 水平面上の2点,A点からO点まで物体を移動させるとき,物体にはたらく動摩擦力はつねに物体の速度とは逆向きである。したがって,物体の移動した経路の長さをsとすると,動摩擦力Fのする仕事Wは,

WFscos180°=−Fs

となり,Wの値は物体の移動した経路の長さsによって異なり,始点Aと終点Oを決めただけでは決まらない。すなわち,動摩擦力は非保存力である。

 このような非保存力のする仕事が0でない場合は,力学的エネルギーが保存されない。このような場合は,運動方程式を積分して得た式(教科書p.135(7))に戻って考えなければならない。すなわち,重力,垂直抗力,動摩擦力以外の力がはたらかないとき,

 (物体の運動エネルギーの変化)(動摩擦力のした仕事)

               =(動摩擦力の大きさ)×(距離)×cos180°

               =−(動摩擦力の大きさ)×(距離)0

このように,動摩擦力が加わると,普通,運動エネルギーが減少する。一般に,動摩擦力のほかに,重力などの保存力がはたらいている場合は,力学的エネルギーが(動摩擦力)×(距離)に等しい分だけ減少する。したがって,

  (力学的エネルギーの変化)(動摩擦力のした仕事)

すなわち,

  (力学的エネルギーの減少分)(動摩擦力の大きさ)×(距離)

という関係が成り立つ。

 

衝突とエネルギー

 速度v1で運動していた質量mlの物体が,速度v2で運動していた質量m2の物体に衝突し,衝突後の速度をそれぞれv1¢v2¢,反発係数をeとすると,

@Aより, 

 

このv 1¢v 2¢を用いて,衝突後の運動エネルギー を計算し,衝突前の運動エネルギー との差を求めると,

 

 この結果からも,e1の弾性衝突に限ってKK¢となり,衝突の前後で運動エネルギーが保存され,e1の場合には必ずK¢Kとなり,運動エネルギーが失われることがわかる。

 

 エネルギーと運動量――2つの保存量の発見

 力学における保存の法則の確立という点で歴史的な興味があるのは,デカルト(R.Descartes1596-1650)とライプニッツ(G.W.Leibniz1646-1716)の主張である。デカルトは,運動物体に含まれる「力」(vis motrix動力)が,その物体の質量mと速度vとの積mvで与えられると考えた。ところが,ライプニッツは,自由落下する物体の運動において,物体をある高さだけ持ち上げるときに要する仕事が同じなら,逆にその物体が地上に到達したときに得る「力」が等しいはずだと考えた。ガリレイの落体の法則より,この仕事がmv 2に比例するので,mv 2が「力」(visviva活力)を表すものと主張したのである。

 これから,運動物体に内在する「力」の表現についての長い論争が始まった。しかし,今からみれば,この論争には,2つの違った内容があることが明らかである。そして異なったものを同じような名前でよぶことに混乱の原因があった。デカルトの考えた「力」と,ライプニッツの考えた「力」とは本来違う量である。さらに,現在ニュートン力学の意味でわれわれが力とよぶ量は,両者のいずれとも異なる量である。デカルトの導入した量を運動量とよび,ライプニッツの導入した量に相当する量を運動エネルギーとよぶことは,今日の常識になっている。

mv 2のかわりに1/2mv 2という量を導入して,それを活力とよんだのはコリオリ(G.G.Coriolis1792-1843)である。19世紀半ば,熱力学の第1法則が確立された当時も,エネルギーに相当するものを力とよぶ習慣が強かった。

 以上の説明で,運動物体のもつ量とか,運動物体に内在する量とかいう言葉は,これを適当に解釈すれば,保存する量を意味することになる。そして運動量もエネルギーもそれぞれ保存の法則を満たす量である。ニュートン力学が確立する以前に,運動量の保存とエネルギーの保存とが,あいまいな形であるが,ある程度予想されていたということは,歴史的にみてまことに興味深い。

参考文献;「初等物理学講座4(小山書店)

 



 








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