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第3節 位置エネルギー

 

仕事と位置エネルギー

重力による位置エネルギー

位置エネルギーの担い手

弾性力による位置エネルギー


 

仕事と位置エネルギー

 本来,エネルギーとは仕事をする能力のことをいい,なしうる仕事の量によってその大きさが表される。位置エネルギーとは,ある力の場で,物体が現在の位置から適当に選んだ基準の位置まで移動する間に,物体がその力からなされる仕事が道すじによって変わらないとき,その仕事量を,その物体が初めの位置でもっていた位置エネルギーとする。したがって,重力の位置エネルギーについていえば,物体がある高さから基準の高さまで移動するとき,重力が物体にする仕事の量が,物体が初めの位置にあったときにもっていた位置エネルギーである。

 一般に,ある力の場の中で物体が移動するとき,移動の道すじによってその力のする仕事が変わらないとき,その力は保存力であるという。位置エネルギーが定義できるのは,力が保存力の場合だけである。保存力の例としては,重力(万有引力)のほかに,ばねの弾性力,静電気力などがある。摩擦力や空気の抵抗力は,出発点と終点が決まっても,移動する道すじによって仕事が変わってくるので,保存力ではない。すなわち,これらの力は位置エネルギーを定義できない。

 

重力による位置エネルギー

 位置エネルギーが,その物体の動く速さや動いた経路,動いた時間や時刻によらず,物体の占める位置だけによることから,「物体がもつ」という表現では実感的に捉えにくい。その量が物体の位置によるのであれば,当然,物体のみを考えるのではなく,物体の空間的な位置が問題であり,物体を含む重力のはたらく空間(場の考え)1つの系として考えなければならない。物体を持ち上げるとき,仕事が必要ではない空間では,位置エネルギーは考えられない。「持ち上げる」という表現には,物体にはたらく重力がいつも真下を向いているという空間(重力場)が物体をとり巻いているという事実がその前提としてある。重力による位置エネルギーは,その物体の中に蓄えられているのではなく,物体と,それをとり巻く重力場を一体と考え,地面と,持ち上げられた物体との間の空間(重力場)の中に蓄えられていると考えるべきものである。

 

位置エネルギーの担い手

 教科書p.133L23で「ある物体が他の物体に仕事をする能力をもっているとき,その物体はエネルギーをもっているという。」と記した。この定義は初学者にとっては入りやすい定義であるが,「物体がエネルギーをもつ」という表現を引きずると,後で混乱が生じる。

 物体のもつ運動エネルギーは,その物体の動きから容易に「物体がもつエネルギー」として実感できる。しかし,重力による位置エネルギーの場合は,位置エネルギーを物体がもつとしたのでは,重力落下の際には自分で自分に運動エネルギーを与えたことになり,「他の物体に仕事をする能力」といえなくなり,生徒に混乱をきたす。かといって,初めから「重力場のエネルギー」という考えを導入するのは,初学者には把握しにくい概念であるので避けたい。それで教科書では,「高所の物体が下降すると,mghだけ他に仕事をする能力(=運動エネルギー)が増すので,高所にあるということでエネルギーがある」という。「高所にある物体自体がもつエネルギー」ともとれる表現ではあるが,担い手をぼかす表現をとり,次いで「エネルギーが蓄えられている」という「重力場のエネルギー」につながる表現にした。しかし,いずれは(最も早い段階としては力学的エネルギー保存の法則を学んだあたりで),重力場のエネルギーとして理解し直すべきものである。

 一方,弾性力の位置エネルギーの場合は,ばねという実体のあるものの変形から「ばねがもっているエネルギー」として容易に想像できる。そこで,弾性力による位置エネルギーを「縮んでいる,または伸びているばねは他に対し仕事をすることができる,すなわち,弾性エネルギーをもっている。」という進め方をした。

 このように,弾性力の位置エネルギーを「ばねに付けられた物体がもつエネルギー」とはせず,「ばねに蓄えられたエネルギー」として,弾性エネルギーを同義語としたのは,2つの用語を区別し,両者の担い手が異なるかのような表現をすることは,生徒に2つの種類の異なるエネルギーが存在するかのような誤解を与える恐れがあると考えたからである。

 

弾性力による位置エネルギー

 ここでは,話の流れとしては,縮んでいる,または伸びているばねの弾性力は仕事をすることができるので,弾性力による位置エネルギーが定義されるということになろう。

 縮んでいる,または伸びているばねがする仕事を求める過程は,力の大きさが一定でないときの仕事を求める過程の始めての経験になるので,F-sグラフの面積となることをよく理解させたい。

 まず,力の大きさが一定のときの仕事WFsは,縦軸に力を横軸に変位をとってグラフを描くと,グラフと座標軸で囲まれる面積が仕事の量Wを表すことを説明する。次いで,教科書p.13812のように,区分求積の考え方を用いて,

    

 

説明することになる。ただし,生徒の実情によっては,「平均の力」を使って,

    

 

というおさえ方でもよい。また,この扱い方の理解を教科書p.139例題2で確認しておきたい。

 

 

 








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