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第1節 仕事

 

仕事

仕事の表現……“何が”仕事をした,というか

ものを手で支えるときの仕事

仕事の原理

仕事率

階段をかけ上がる仕事率


 

仕事

 従来は,仕事の定義から入っていくことが多かったが,その必然性が理解されにくい。ここでは,まず「力の大きさ×距離」という量のもつ性質を考えていくという展開をとる。「仕事」の定義,「仕事の原理」から入るのではなく,「力の大きさ×距離」という量のもつ性質仕事と命名仕事の原理という展開である。

 仕事という言葉は,日常語としてもよく用いられているので,混同しないように十分に指導する必要がある。日常語の仕事は,頭脳労働も含まれている。しかし,物理では,仕事という言葉をいわゆる力仕事の意味に限定して用いている。また,力仕事のうちでも,ものを動かないようにじっと支えている場合や,ものを手でぶら下げて等速で水平に運ぶ場合も,日常語では仕事をしたというが,物理では仕事をしたことにならない。このように,物理で定義された仕事は,日常語の一般的な仕事とは,必ずしも同じではないことを十分に知らせる必要がある。

 

仕事の表現……“何が”仕事をした,というか

 「仕事をした」という場合の主語は,一般に力と考えてよい。しかしときには,「人が」などと表現する場合があり,生徒に混乱を与えないように意味をはっきりつかませる必要がある。たとえば,下図(a)のように0゚≦q 90゚の場合には,「力Fは物体にWだけの仕事をした」とか「物体は力FからWだけ仕事をされた」という。

 

 

 一方,図(b)のように90゚<q 180゚の場合には,cosq 0 であり,W0となり,「力Fは物体に負の仕事をした」とか「物体は力Fに逆らって仕事をした」という。 図(a)で,力Fを物体に及ぼしているのが,たとえば,人間であることが明らかで,混乱する恐れのない場合は,「人間が物体にWだけの仕事をした」といってもよい。このとき,物体が人間に及ぼす力は,Fの反作用である−Fで,Fと大きさが同じで逆向きだから,物体は人間に負の仕事−Wをしたことになる。

 なお,物体にいくつかの力がはたらいているときは,それぞれの力がする仕事を,また,それらの合力がする仕事を考える。

 

ものを手で支えるときの仕事

私たちが手でおもりを持っているとき,物理的には仕事をしていなくても,生理的にはエネルギーが必要である。長く持ち続けると,汗が出たり,震えたり,呼吸が荒くなったりして,階段をかけ上がったときと同じになる。

 机の上におもりを置いておくときは,エネルギーを供給しなくても,おもりを同じ高さにいつまでも支えることができるのに,人がおもりを持つ場合は,からだの仕掛けがエネルギーを必要とするのはなぜだろうか。

 人の腕の筋肉(骨格筋)1つの繊維に神経の刺激が達すると,その筋肉はピクリと動いては縮む。だから,人が何かを手に持っていると,神経の刺激が次々とたくさんやってきて,ピクリ,ピクリが何回も起こっておもりを支えている。このことは,重いものを持っていて疲れてくると,手がわなわなと震えだすことでもわかる。これは,刺激がやっているのが規則的でなく,その上,筋肉が疲れてきて,速く反応しなくなるからである。

 このような筋肉のはたらきがあって,人はものを支えることができるのであるから,物理的に仕事をしていないときも,生理的なエネルギーが必要であり,エネルギー消費が起こるから,発熱・発汗することになる。

 筋肉には,腕の筋肉のように,神経の刺激にすばやく応じ,思ったとおり動かすことのできる筋肉(骨格筋または黄紋筋)のほかに,腸の筋肉のように平滑筋といわれ,はたらきの非常に遅い筋肉がある。この筋肉は力がかかっても,何時間もその位置を保って疲れない。貝殻を閉ざしている筋肉(貝柱)もそれにあたる。

 

仕事の原理

 てこ,斜面,輸軸,動滑車,ジャッキなどを用いると,小さな力で仕事をすることができるが,動かすべき距離が長くなり,仕事は変わらない。これを仕事の原理という。ただし,道具の各部の摩擦が無視できる場合のことである。仕事という量をFscosθ と定義したことにより,仕事の原理やエネルギー保存の法則が成り立つことになり,物理的に意味のある量となったということもできる。

 教科書で例に挙げた動滑車以外にも,次のような例を用いて説明することができる。     

《てこ》支点までの長さをl1l2とすると

 

《斜面》斜面の傾きの角をqとすると,

 

 

《輪軸》軸の半径をRrとすると,

 

 

 

仕事率

 「エンジンの出力が100馬力である。」というような表現は今でもテレビなどで耳にする。馬力も仕事率の単位であり,自動車のカタログなどでは,以前はこの馬力という単位を使っていた。現在ではkWを使う。1仏馬力(PS)735.5Wである。かつては,1英馬力(HP)=746Wも用いられた。

 人間のする仕事率は平均すると100W程度,馬のする仕事率は1馬力(740W)程度といわれる。バイクも馬と同じ程度,オートバイは10 kW程度,小型自動車は約100 kW,電気機関車は約3000 kW,大型船は約10kW)である。

 

◆階段をかけ上がる仕事率

人が階段をかけ上がる場合の仕事率を求めてみよう。階段をかけ上がる場合,等速で上がるとすれば,力がつり合っていると考えられる。したがって,引き上げるときの力は重力に等しいとしてよい。

質量mkg〕の人が高さhm〕の階段をかけ上がるのに要した時間をts〕とすると平均の仕事率はmgh/tW〕となる。

 男女数名を階段をかけ上がらせ,仕事率の違いを比較するとよい。もちろん,個人差はあるが,およそ300700Wである。

 

 

 








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