トップ物理I 改訂版>第2部 運動と力>第2章 力と運動>第5節 大きさのある物体にはたらく力

節 大きさのある物体にはたらく力

 

剛体の力学の展開

力の作用線上の平行移動

合力のモーメント

3つ以上の力のモーメントがはたらくときのつり合い

物体のつり合い

物体に互いに平行でない3力がはたらくときのつり合い

物体の重心


 

剛体の力学の展開

 平行な2力の合成,偶力,重心の学習は,物体のつり合いとの関係が希薄に思われがちである。展開の必然性を次に示す。

@ 剛体の回転を考える。このとき,物体は質点ではなくなり,大きさを考えることになる。

A これまでは質点であったので,力を平行移動して考え,すべての力はその点にはたらくと考えていた(質点にはたらくすべての力の作用点)が,大きさを考えるとき,回転に対する影響から,力の平行移動は作用線上に限られる。

B (固定回転軸で)力のモーメントのつり合いを定義する。

C 固定回転軸がない場合の物体のつり合いを考えたいが,そのためには準備が必要である。というのは,

(a) 回転については任意の点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えればよいが,すべての点について式を立てる必要があるのではないか?

(b) 並進については,作用線上の平行移動だけでは作用点を1点に集めることはできない。とくに,平行な2力は作用線が交わらない。どうすれば,すべてのはたらく力の作用点を1点に集めて,つり合いの式を立てることができるか?

これに対して,

D 平行な2力の合成について考えてみる(平行同じ向き,平行逆向き)。

 平行な2力の特別なケースである偶力について,そのはたらきを考える。

E 大きさのある物体ではそれの各部分にはたらく重力の合力を考える。

F 偶力の性質を用いて,物体にはたらくすべての力を,任意の1点にはたらく力とその点のまわりの力のモーメントに置き換えることにより,物体のつり合いの条件が得られる。この結果,力のつり合いについては結局,質点の場合と同じく,自由に力のベクトルを平行移動して考えた「力のベクトルの和=」に帰着することがわかる。回転については力のモーメントのつり合いをある1点のまわりでだけで考えてそれで済ませてよいことがわかる。

G 重心は重力のみならず物体にはたらくすべての力に対して物体を代表する点であり,一般的な物体の運動は,重心の並進と重心のまわりの回転に分けて考えてよい。

 Fの証明(後述)は高度であるので,生徒には証明を示さずに結論を納得させるような指導が望まれる。上記Gも必要に応じて結論を紹介する程度にとどめるとよい。

 

力の作用線上の平行移動

 教科書では,実験で確認した事実として,「力の作用点を力の作用線上で移動させても同様である。」とし,「剛体の力学の展開」のAの,力を作用線上で平行移動しても剛体に与える影響は変わらないことを説明している。このことは以下に示すように,理論的に説明することができる。

図で,剛体の点Pに力が作用するとき,この力の作用線上の別の点Qに,と同じ大きさ・向きの力と,につり合う力とを付け加えてみる。ここで,とは剛体ではうち消し合うことを考えると,力だけが残ることになる。したがって,とははたらきが等しい。

 

合力のモーメント

 平行でない2力について,合力のモーメントが,分力のモーメントの和に等しいことは,簡単には次のように示される。

 まず,「力のモーメントの大きさ=力の大きさ×うでの長さ」であるが,これを「力のモーメントの大きさ=回転軸〜作用点の長さ×力のその線分に垂直な成分」ということができる。

 2力の作用線の交点に作用点がくるように,作用線上で平行移動させる。回転軸〜作用点の線分に垂直な方向にx軸をとり,力 x成分をそれぞれ,f1xf2xとすると,合力のx成分=f1xf2xであるから,

   合力のモーメント=(f1xf2x)l

である。力の力のモーメントは,それぞれf1x lf2x lであるから,

分力のモーメントの和=f1x lf2x l(f1xf2x)l

となり,合力のモーメントに等しい。

 

3つ以上の力のモーメントがはたらくときのつり合い

 2つの力のモーメントのつり合いの式は,小学校以来の実験的事実である。これに対して,3つ以上の力のモーメントがはたらくときのつり合いの式は,上記の,「合力のモーメントは分力のモーメントの和に等しい」ことを用いて証明できる。これは,3力のつり合いをそのうちの2力の合力と残りの1力のつり合いと考えることと同様である。

〔証明〕1つの物体に力……が同時に作用する場合に,注目した1つの軸のまわりの力のモーメントをそれぞれM1M2M3,……とする。……の合力のモーメントをNとすると,M¢M2M3+……であるが,M1M¢0のとき力のモーメントはつり合っている。したがって,

   M1M2M3+……=0

 

物体のつり合い

 物体のつり合いを表す式(教科書p.114(35)(36)において,物体にいくつかの力がはたらき作用線が1点で交わらないときでも,力のベクトル和が0()なら並進し始めないとしてよい((35))のか,あるいは,ある1つの回転軸のまわりの力のモーメントのつり合いを考えると,任意の回転軸のまわりの力のモーメントがつり合っているといえる((36))のかという疑問をもつ生徒も現れるであろう。これらについては,混乱を避けるため教科書では触れていないが,次のように証明できる。

【証明】

 剛体の多くの点にはたらく力は,任意の点にはたらく1つの力と1つの偶力とで置き換えることができる。

 いま,剛体の点Pに力がはたらいているとする。任意の点Oをとり,これにと等しい力と,に等しい力とを作用させる。この3つの力の組は,ただ1つの力と力の効果においてはなんら異なるところはない。この3つの力は,なる1つの力と,とからなる偶力との組み合せとみることもできる。lの作用線間の距離である。(したがって,偶力を考えることによって,力の作用線を移すことができたことになる。)

 他の力についても同様なとり扱いをすると,すべての力が点Oに移されることになる。と同時に,11つの力が1対の偶力(偶力には並進作用はないから,力のモーメントだけを考えればよい)をつくることになる。

 ここで,剛体にはたらく力の和なら,点Oにはたらく力の和となり,並進に対して力はつり合っている。また,ある点Qのまわりの力のモーメントの和M0なら,上のようにして得られた偶力の点Qのまわりのモーメントの和(Mと同じ回転作用をもつ)0であり,したがって剛体は回転しない(角加速度が0)。ところで,偶力のモーメントは任意の点のまわりで一定である。したがって,任意の点のまわりで上のようにして得られた偶力のモーメントの和は0であり,任意の点のまわりの力のモーメントの和は0である。

 なお,ある任意の1点のまわりに剛体が回転しないときには,任意の点のまわりにも回転しないことがわかるから,このことからも,ある1つの回転軸のまわりの力のモーメントのつり合いを考えるだけで,剛体が回転しない条件を押さえている(任意の回転軸のまわりの力のモーメントがつりあっている)ことがわかる。

 

物体に互いに平行でない3力がはたらくときのつり合い

 物体に互いに平行でない3つの力がはたらいて,つり合っているときは.3力の作用点は1点で交わる。このことは次のように証明できる。

〔証明〕

 3力の内の2力の作用線の交点のまわりの2力のモーメントの和は0である。したがって,その点のまわりの3力のモーメントの和が0であるなら,残りの1力のモーメントも0である。すなわち,その力の作用線はその点を通る。

 

物体の重心

 教科書p.112(33)(34)を発展させると,次のことがいえる。

 質量m1m2m3,……,mnn個の質点がxyz座標系上の座標(x1y1z1)(x2y2z2)(x3y3z3),……,(xnynzn)の位置にあるとき,この質点系の重心の座標(xyz)は,

 

 重心の座標を原点にとれば,x0y0z0 であるから,

   

 

となる。このとき,x-y面内で物体を原点のまわりに角qだけ時計回りに回転させると,点(xyz)にあった質点が点(XYz)に移るとする。xyXYの間には次の関係がある。

   XcosqysinqYxsinqycosq

 したがって,@の関係が満たされるとき,

 

となり,重心の位置は変わらない。このようにして物体を任意に傾けても重心の位置は変わらない。すなわち,重心は質量中心というべき点で,物体の姿勢によらず,質量の分布によって決まる物体の固有の点であることがわかる。

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.