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第3節 運動方程式の応用

 

糸が引く力と張力

糸が滑車に及ばす力

摩擦力

静止摩擦係数と動摩擦係数

静止摩擦係数の測定

摩擦係数と制動距離

紙の落下運動

空気の抵抗力

空気の抵抗力と終端速度

自動車の空気力学


 

糸が引く力と張力

 一般に,物体の内部に考えた任意の単位断面を通して,その両側の物体各部分が互いに相手に及ぼす力を応力という。応力の面に垂直な成分が,面の両側の部分で互いに押し合う向きにはたらく場合には圧力,互いに引き合う向きの場合には張力とよぶ。このように,本来,張力は糸が物体を引く力という意味ではないが,類似したところがあるためか,高校物理では糸が物体を引く力のことを張力ということが多い。教科書では,生徒がそのような表現をする問題集を使うことを考慮して,教科書p.93の脚注に示したのである。

 右図のように,おもりを糸でつり下げ,手で引き上げる場合について考えてみる。手が糸に力Tを加えれば,それが糸の張力になる。質量が無視できるような軽い糸であれば,その糸には,他端(おもりと接触している点)に張力がはたらいているはずである。その大きさもTである。その反作用として,糸がおもりに及ぼす力(大きさT)が存在する。おもりには重力が下向きにはたらき,おもりの質量がmならば,重力はmgである。したがって,運動方程式 maTmgが成り立つ。生徒の実状によっては,「手を使って力Tで糸を引いたので,糸は同じ力でおもりを引く」ということでもよいだろう。

 つながれた物体の運動で,糸(ひも)が質量をもつとすれば,糸(ひも)についても運動方程式を立てる必要が生じる。このことは,問題を難しくするばかりなので,高校物理では深入りを避けたい。

 なお,下図のように軽い糸でつながれた2つの物体ABに対しては,Aが糸を大きさTの力で引くとき,それが糸の張力となり,糸はAを大きさTの力で引く。糸の反対側では糸はBを大きさTの力で引く。すなわち,ぴんと張った軽い糸はその両端につながれた物体をそれぞれ大きさTの力で引くことになる。このことを,糸を仲立ちとしてABが大きさTの力で引き合うという作用・反作用の関係と見ることもできる。

 なお,糸が両端につながれた2物体を同じ大きさの力で引くことは,次のように「質量の無視できる糸」という物体の運動方程式から説明することもできる。

 

 糸がAを大きさTAの力で引き,Bを大きさTBの力で引くとする。これらの力の反作用として,Aは糸を大きさTAの力で引き,Bは糸を大きさTBの力で引く。糸の質量をm,加速度を右向きにaとして,糸という物体の運動方程式は,

     maTATB

である。ここで,m0 とすると,TATB となる。

 

糸が滑車に及ぼす力

 糸の張力がTのとき,下図のように糸が架かった滑車には,糸から下向きに2Tの力が及ぼされることは,おもり全体が滑車を引く力として説明できる。

 2つのおもりの質量が異なり,おもりが加速度運動しているときは,この説明は成り立たない。しかし,糸が滑車に及ぼす力は2Tである(このとき Tmgではないが)ということは正しい。これを,糸が滑車の端を引く力の合力であるという説明をしても,納得されにくい。滑車と糸が接する面が滑らかであればそのような力は存在しないという反論も出てくる。

 糸が滑車に及ぼす力を,一般的に説明しておこう。

 図のように滑車に接した部分で糸は滑車に力を及ぼす。糸の滑車に接する部分にはたらく力は,これらの力の反作用としての垂直抗力, 

と両端での張力である。

軽い糸とすると,糸の滑車に接する部分にはたらく力はつり合っているから,

 

となる。したがって,糸が滑車に及ぼす力の合力は,

    

 

となる。この結果は,糸が動いているときや,糸が滑車の両側で平行でないときにも適用できる。

 

摩擦力

 教科書に書かれているような摩擦の法則は,200余年前にクーロンが発見したものとされているが,ほぼ同じ内容のことをアモントンが300年足らず前に見いだしていたといわれ,さらにさかのぼれば,レオナルド・ダ・ピンチも400年ほど昔に,すでに摩擦について本質的ないくつかの点を発見していたようである。

 摩擦の法則は経験的にかなり確かめられた法則ではあるが,物理学の基本法則を用いて摩擦力の原因を分子間力であるとして,正しく説明できるようになったのは,ようやく20世紀の半ばを過ぎてからである。クーロン以来20世紀の初頭頃までは,接触面の目に見えない凹凸に沿って動く物体の上下動が,重力に逆らう動きから摩擦力が生じるものと考え,それで摩擦力の大きさのオーダーは説明可能であるとされていた。しかし,固体表面の数mmの凹凸よりさらに千分の1も小さい単分子膜の存在による境界潤滑効果による摩擦力の変化が確認され,凹凸説は完全にその根拠を失った。さらに,表面の接触をよく調べてみると,本当に接触しているのは不規則な凹凸した面どうしのごく限られた部分(真実接触面)のみで,大部分は隙間になっていると考えられ,この真実接触面の面積が強く押しつけられると,その押しつける力に比例して増えると考えれば,摩擦の法則をうまく説明できることがわかった。そして,真実接触面には摩擦力がはたらき,それは分子レベルで接近したときにのみ有効な力が生ずる。このような分子レベルで主役となる力の源泉は,電磁気力しかあり得ず,重力は小さすぎて問題にならない。こうして,摩擦力の原因は分子間力であることがわかった。ファン・デル・ワールスは,弱い引力が中性の分子の間にいつも作用しているとして,実在の気体の状態方程式を現象論的にうまく導き出していたが,1930年頃になって,量子力学を用いてこの分子間力をみごとに基礎理論から説明できるようになった。量子力学による解明をおおざっぱに直感的に説明すれば,分子は全体として中性であっても,その中には核や電子等の電気を帯びた粒子が存在し,電荷分布にゆらぎが生じ,時間的な平均はほとんど打ち消し合ってゼロになるが,距離の7乗に反比例する小さな引力が残って,分子間力またはファン・デル・ワールス力が生じるのである。分子間力はその作用の範囲が短いので,真実接触面でしか作用しない。上述のように,垂直方向に面を押す力が作用しているときには,真実接触面はそれに比例した大きさをもち,そこでは分子間力の効果が作用して摩擦力を形成する。しかし,摩擦を止めて垂直方向の力を取り除くと,真実接触面はほとんど消失し,もはや分子間力は作用しなくなり,摩擦力も生じない。この考え方でさらにその後,分子とコロイドの微粒子の間のふるまいなどもうまく説明できた。現在では,分子間力という量子力学に基づく物性論的な考え方と,接触変形論(硬さの科学)という材料力学的な考え方

から発展した真実接触面という考え方の双方の発展を土台として,摩擦力は正しく

理解できたものと考えられている。

参考文献:河野彰夫「摩擦の科学」(裳華房)

 

静止摩擦係数と動摩擦係数

 摩擦力に関して,生徒はよく,

最大摩擦力=静止摩擦係数×垂直抗力

という関係を,

静止摩擦力=静止摩擦係数×垂直抗力

というように間違って覚えている。

動摩擦力=動摩擦擦係数×垂直抗力

というのは正しいので,これと混同してしまうのである。

最大静止摩擦力=最大静止摩擦係数×垂直抗力

というのなら,生徒は覚えやすいのであろうが,現実の用語はそうはなっていない。最大摩擦力という用語は,静止摩擦力の最大値という意味であり,そういう意味で最大静止摩擦力というべきである(そういう用語を使っていた書物もかつてはあった)が,静止摩擦力の最大値は動摩擦力より大きいので確かに摩擦力の最大値でもある。そのため,単に最大摩擦力という習わしとなっている。また,静止摩擦係数という言葉としては「最大値のときの」というニュアンスがない。このように,確かに生徒の誤りを誘う表現になっているので注意深く指導されたい。

 

◆静止摩擦係数の測定

 最大摩擦力が垂直抗力に比例することを確認し,静止摩擦係数の大きさを求める実験である。ばねはかりは,水平方向に引いたときに正しい値を指すようにあらかじめ調節しておく。あるいは,定滑車1個を使って,ばねはかりを鉛直方向に引いても良い。また,ばねはかりを引くのではなく,木片をのせた板を引く方法もある。いずれの方法にしても,徐々に引く力を大きくすることは難しいので,何度か繰り返し測定することが望ましい。

 また,摩擦角を測定する方法でも静止摩擦係数を求めることで,理解を深めることができる。

 

摩擦係数と制動距離

 摩擦は日常生活の様々な場面で有用なはたらきをしているが,中でも自動車のタイヤと路面との間の摩擦は重要なものの一つである。交通安全という実用的な面から摩擦を考えてみることで,認識を深めることも期待できる。

 制動距離が初めの速さの2乗に比例することは,加速度a=−mgの等加速度運動を考えれば容易に導くことができるので,生徒に考えさせても良い。また,図には,路面が雨で濡れた場合の摩擦係数の変化を示したが,積雪がある場合や路面が凍結している場合などは,濡れている場合以上に摩擦係数が小さくなり滑りやすい。

 関連して,タイヤの表面にある溝や切れ込み(トレッドパターン)に注目してみるのも生徒の関心を高めると思われる。自動車のタイヤについてインターネットで検索したり,下記の文献などにあたるなどして,生徒に自由に調べさせても良いだろう。

 

〔参考文献など〕

「タイヤのおはなし(乗用車用タイヤ編)」社団法人日本自動車タイヤ協会

「安全運転の知識」警察庁交通局運転免許課・監修

「タイヤ博士の部屋」 http://www.yokohamatire.jp/yrc/japan/tire_professor/index.html

 

紙の落下運動

ねらい この実験を通して,同じ重さのものでも,落下するときに受ける空気の抵抗力の大きさが形によって異なるために,落下する速さが異なることを確認することができる。生徒に「ゆっくり安定して落ちる形」を工夫させると,興味を持って取り組む。

 また,1枚の紙を丸めたものと,2枚の紙を重ねて箱形に折ったものを同時に落下させることによって,「重い物ほど早く落下する」という認識が誤りであることに気づかせることも可能である。

準備 新聞紙や不要になった印刷物など。

 

空気の抵抗力

 空気中を物体が動くとき,その運動を止めようとする力がはたらき,その力は物体の速さ,形のほかに温度や密度その他いろいろな要素の関数であろうが,まず一番決定的な要素は空気との相対的な速度vと形であろうことは明らかだから,さしあたり同じ形とすれば速さのみの関数f(v)と考えてよいだろう。そうすると,純粋に数学的に考えて,f(v)vが小さいと考えてテイラー展開すれば,

 

と書けよう。v0では抵抗力ははたらかないから,f(0)0。よって,速さが小さければ,f(v)vに比例し,vが小さくなければv2に比例する項が効いてくる。ここまでは数学的の話であって,物理以前である。物理はvが小さいといったときに何に比べて小さいか,つまり次元をもたない数を導入するときに効いてくる。まず,定性的に話を始めれば,抵抗のはたらき方は二通りあり,低速で空気の流れが層流となる範囲では,空気の粘性による摩擦抵抗がはたらいて,その大きさはvに比例する。これを粘性抵抗という。vが大きくなって層流がくずれだすと,物体の背後に渦が発生し,抵抗力はv2に比例して大きくなる。このときの抵抗は,もはや粘性とは関係なく,物体が空気に及ぼす力の反作用によって空気から受ける力で,これを慣性抵抗または形状抵抗という。層流から乱流への遷移は,流れの慣性力の大きさと粘性力の大きさの比を表すレイノルズ数という無次元数Reの定まった値で起こることが知られている。20℃の空気の中を雨滴が落下する場合,雨滴の直径を0.1mm,落下速度を0.3mm/sとしたとき,Re2,直径を1mm,落下速度が3.7mm/sではRe250程度になる。

 空気の抵抗力は,乱流領域ではrv2Sに比例する。ただし,r は空気の密度,Sは物体の断面積である。人が疾走するとき,身体が受ける空気抵抗力は0.012v2Aで与えられるという。ただし,Aは走者の正面面積〔m2〕である。

 さらに,高速の飛行体については,音速(マッハ)以下では空気は非圧縮性流体と考えてよく,亜音速空気力学としてよく研究されている。速度がマッハ1からマッハ5.5の範囲では,超音速空気力学の領分で,亜音速との主な違いは,空気が圧縮流体とみなされることである。亜音速と超音速の間の狭い遷移領域では,急激な抵抗の増加を伴い,しばしば音の壁といわれている(ソニックバリヤ)

 速度がマッハ5.5以上になると,超音速流とはまったく異なる現象が現れ,極超音速空気動力学を形成する。ここでは飛行体の周りの空気の性質は,低速での空気の性質とは著しく異なり,高温気体の現象もとり入れなければならなくなる。

 

空気の抵抗力と終端速度

 空気の抵抗力Rvに比例し,Rkvの場合の鉛直落下運動について調べる。

運動方程式は,

@式より,

 

A式を積分して,

 

tのとき  これが終端速度vfである。

 終端速度の大きさは,@式でとおいても求められる。すなわち,

のとき  とおいて となる。

 

 実際の雨滴の場合の直径と終端速度との関係は次表のようになるといわれる。

 

直 径mm

0.02

0.08

0.2

1.2

2.0

終端速度m/s

0.012

0.2

0.72

4.64

6.49

 

 

 

 

自動車の空気力学

 直線コースを300km/h以上の速さで走る自動車レース。走っているレーシングカーには当然,空気抵抗がはたらいている。しかし,意外なことには,レーシングカーは必ずしも街中を走っている自動車よりも空気抵抗の少ない構造にはなっていない。それは,ウイングという飛行機の翼を裏返しにしたような形の部分などで,上下を流れる空気に圧力差が生じることを利用して,ダウンフォースとよばれる下向きの力を得ることに重点を置いているからである。ダウンフォースを大きくすると,タイヤの受ける垂直抗力が増し,タイヤが滑りにくくなる。これは強力なエンジンの駆動力を無駄なく路面に伝えるには大変有効であり,車体にはウイング以外にもダウンフォースを得るための様々な工夫が凝らされている。

〔参考文献〕

檜垣和夫「F1・最新マシンの科学」講談社

 

 

 

 








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