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第2節 運動の法則

 

慣性の法則と運動方程式

慣性の法則の意義

カーリング

運動の法則の実験

力の単位

運動方程式

重さと質量

慣性質量と重力質量

 ニュートンの生涯

 フックとニュートン

 プリンキピア

次元

次元解析

SIと計算法

物理量の計算における単位の表記について


 

慣性の法則と運動方程式

 アリストテレスは,力を加えて動かすという運動は,物が落ちるという物体の本性に逆らう運動であり,強制された運動であると考えた。したがって,この強制運動をさせるには物体に力を作用し続けていなければならないと考えた。慣性の法則が発見されて400年が過ぎても,物体の運動についてこのような考えがもたれ続けている。たとえ物理学で慣性の法則を学んでも,しばらくするとこの考えに戻ってしまう。幼い頃から,力という言葉を,forceの意味だけでなく,powerenergymomentumabilityなどが混然一体となったニュアンスをもつ言葉として使い慣れているためであろう。ましてや,これまで使っていたkgwという単位でならまだしも,Nという単位で表された量には全く現実感がもてないのであろう。

 現状をこのように認識し,何度も何度も執拗に力という量の理解を求めていく必要がある。印象深い実験をすることも大切で,慣性の法則ではエアレール,だるま落としなどを見せることは効果的である。

 

慣性の法則の意義

 近代物理学の基礎となったニュートンの運動に関する3つの法則のうち,第1法則は,すでにガリレイやデカルトによって発見されていた。しかし,彼らは,ニュートンほどしっかりした力の観念を与えていなかった。

 ところで,これらの三法則のうち,第1法則は,第2法則で加速度が0の特殊な場合であるという考え方をよく聞くが,これはむしろ誤った考え方であり,第1法則の重要な意味を見落としているというべきであろう。第1法則で,力がはたらかないという言葉があるが,自然界には万有引力その他の作用があり,力が全くはたらかない物体などあり得ない。したがって,この第1法則は,思考実験の結果なのであって,ニュートンがこれを第1法則に掲げたのは,慣性の法則が成り立つような座標系においては,第2法則および第3法則はいつでも適用できると考えたからである。

 このように,第1法則は,ニュートンの運動の法則が成り立つために,特別な基準となる座標系が必要であるということを述べている。この基準となる座標系を慣性系といい,そこでニュートンの運動の法則が成り立つ。

 以上のように,第1法則は,ニュートンの運動法則について考察するとき,つねに念頭に置かなければならない基準となるものについて述べたものである。ただ,生徒の実状によっては,以上のことをことさら理解させようとしなくてもよいであろう。

 なお,地上は近似的にこのような慣性の法則の成り立つ系と考えてよい。

              参考文献:原島 鮮「続・物理教育覚書」(裳華房)

 

 

カーリング

 カナダでもっとも普及しており,92年の冬季オリンピックで公開競技に採用された氷上のスポーツ。長さ44.5m,幅4.32mのレーンに描かれた円の中に,質量19.96kgの花こう岩の石(ストーン)をすべらせて入れることを競う。ブルームとよばれるほうきでストーンの進路の前方を激しく掃き,進路や距離を調節する。

 

運動の法則の実験

 実験の内容は教科書にも詳しく記述しているが,運動の法則が実験によって得られる関係であることを認識するためにも,実験を中心とした授業展開が望まれる。

 この実験を成功させるためには,台車を一定の力で引くことが重要である。実験に先立ち,記録テープをつけずに何度か練習すること。質量最小,ゴムひもの本数最大の最も難しい条件でも練習しておく。

 a-Fグラフが原点を通らず,F軸と正の部分で交わるなら,そのFの値が台車,記録タイマー全体の動摩擦力を表していると考えられる。

 a-mグラフからはamの関係が詳しくはわからない。このような場合,どうすればいいのか,なぜa-1/mグラフなのか,a-√1/mグラフではいけないのかを,十分に考えさせたい。ポイントは,縦軸・横軸にとった2つの量の関係が推定できるのは,描いたグラフが直線になる場合だけということであろう。やや高度ではあるが,両対数グラフの傾きから,am=一定を導くという方法もある。

 

力の単位

 中学校では,力の大きさはばねはかりではかり,その単位はN(ニュートン)であると学習しているが,単位Nについての定義は一切学んでいない。物体をばねはかりにつるすと伸びることから,物体に重力がはたらいていることを示し,100gの物体にはたらく重力の大きさが約1Nであるとしている。従来,中学校では物体にはたらく重力の大きさを力の単位として用い,kgwなどの単位を用いていたが,現行の学習指導要領でこの点が変更されていることには注意が必要である。

 また,中学校で単位Nを使うようになっても,「力とは,ばねはかりを伸ばすはたらきであり,その大きさは物体にはたらく重力を参考に測られる」という扱いは従来とほぼ同様である。よって,生徒にとっては,教科書p.89(10)の比例定数k1となるように力の単位Nを定めるという展開は理解しやすいものではない。運動の法則から,すでに学んでいた力を「力とは,物体に加速度を生じさせるはたらきである」と再定義することは,高校物理の学習の中でも最も理解が難しいところの一つである。この認識を持ち,生徒の実状に応じて指導することが必要である。

 

運動方程式

 運動方程式はベクトル式であるので,座標軸の取り方に関わらず,成分表示して,

  maxFx  may=Fy

と表せることは明らかである。しかし,「物理T」では,物体の運動として,直線上の運動を中心に扱うことから,平面上での運動については深入りしないことが望ましい。

 物体が一直線上を動くときは,多くの場合,解析を簡単にするために,物体が動く方向について運動方程式を立て,これに垂直な方向については必要に応じて,力のつり合いを考えるとよい。

 また,曲線運動の場合でも力の向きと加速度の向きが一致することについては,水平投射や斜方投射を例にして説明するとともに,水平方向と鉛直方向のそれぞれの方向について,運動方程式が成り立つことに触れておくとよい。

 

重さと質量

 質量と重さの意味の違いは,中学校理科で一応学んできているはずであるが,ここで質量と重さについて,あらためて明確にさせたい。

(1) ある物体にを加えて生じた加速度をとするとき,このとの関係式の比例定数mを質量と定義する。これは慣性質量に対応する。

(2) 物体にはたらく重力の大きさをもって重さと定義する。重力加速度の大きさをgとすると,質量mの物体にはたらく重力の大きさmgが重さである。

(3) 実測するgの値は場所によって変化するため,重力の大きさ,すなわち重さは場所によって変化する。しかし,質量は場所に関係しない物質固有の量である。

(4) 同じ場所であれば,どの物体についてもgの値が一定であるから,重さmgと質量mとは比例する。それで重さを比較することによって質量m を求めることができる。天秤では,左右の皿に載せた質量例の物体と質量m¢の分銅にはたらく 重力およびm¢gが等しいとき,うでは水平になってつり合う。すなわち, mg = m¢gより,m = m¢であるから,その物体の質量は,分銅の質量で表される。この意味で,天秤は質量(重力質量)を測る器具であるといわれる。

(5) 重さは重力の大きさであるから,その単位はkgwgwNのような力の単位を用い,質量の単位kggと区別しなければならない。

 

慣性質量と重力質量

 日常的には,まず重さを表す概念として質量があるが,これはなにか基準となるもの,たとえば国際キログラム原器と比較して定められる。この質量は物体の地球による引力の大きさによって測られるので,重力質量mGとよばれる。この重力質量は物体に固有の量であるが,重さは地球上でも赤道と極では0.6%ほどの差があり,月面では地球での重さの約1/6になることなどはよく知られている。2物体間の万有引力の式

 

に現れるのが重力質量mGで,一般にmGは天秤によって測るものと考えられているが,正確には地球の自転による遠心力を通して,次に述べる慣性質量mIの影響が混じってくるので,正確に議論しようとすればことはそれほど単純ではない。

 質量にはもう1つ,ニュートンの運動方程式で加速度の係数として定義されるものがある。ある物体にはたらいた力の大きさと,それによって物体の得た加速度の大きさの比は,力の大きさに無関係な定数であり,その数値はその物体に固有の加速されにくさ,すなわち慣性の大きさを示す指標として用いることができる。これをその物体の慣性質量mIという。

 上記のように,重力質量mGと慣性質量mIとは概念的にまったく別の量であり,われわれは経験的に両者がおよそ正比例の関係にあることを知っているだけのことである。地球が2倍の引力で引っ張るものの慣性がなぜ2.0000……倍であって,2.0000001倍ではないのか? 正確に2倍でなければならない必然的な理由があるのか? ニュートン力学の枠内では,両者が正確に正比例の関係にあることは,たまたま実験の精度内で確かめられた結果ではあっても,そうでなければならない必然性はない。両者が概念的に異なるものであることは,ニュートン自身もすでに気づいており,両者が正比例の関係にあることを約1000分の1ぐらいの精度で実験的に確かめている。それでは,どうすれば両者の関係を実験的に確かめられるか?たとえば微小振動する振り子の場合で考えると,から,周期T

であり,Tに関係する。いま,同じ長さの振り子に物質ABからつくられたおもりをつけたときの周期をそれぞれTATBとすれば,

 

いま,mT/mGが物質ABにより少し異なるために上の比が1から少しずれると考えて,

 

 

 

すなわち,hmT/mGの物質ABによる相対偏差を表し,周期TATBの測定値を用いて右辺によりhが算定できる。hが物体の種類によらず0であることが(測定の精度内において)実験的に確かめられれば,

    

 

が成り立つから,上式を(物体によらない)定数kとおけば,mIkmGとなり,したがって,単位を適当にとって,k1となるようにすれば,mImGは一致させられる。ニュートンは当時の実験よりテストした任意の物質ABに対して,η103であることを示し,ベッセルやポーターは,h105であることを確かめた。さらに,エートヴェッシュは精密なねじれ秤を用いてh108であることを示した(1896)。最近では,デイッケ(1964),ブラジンスキー(1971)らがさらに精度を上げて,h1012を得た。

 ところが,1915年アインシュタインは,「慣性質量と重力質量は本来同一のもので,加速度によって生じる見かけの力と重力とは原理的に区別ができないものである。」という等価原理を彼の一般相対性理論の基本原理として重力の理論を展開した。最近のビッグバン宇宙論や非常に多くの宇宙に関する観測結果による一般相対性理論の予言の確認は,重力に関するアインシュタイン理論の正しさを示し,理論の土台となっている等価原理の正しさを裏書きするものといえよう(喜多,山崎「基礎物理コース力学」学術図書出版社)

 なお,教科書では運動方程式を基に展開するため,慣性質量を用いている。教科書p.90(13)は,であり,ここでは測定された重力加速度である。慣性質量と重力質量の区別をしていない理由は,慣性質量と重力質量の違いについての認識は教師には必要な知識であっても,高校生に求める必要はないと考えるからである。

 

 ニュートンの生涯

 ニュートン(Sir I.Newton1642-1727)はユリウス暦の16421225日に英国リンカーン州ウールスソープの小地主の子として生まれた。しかし,父はニュートンの生まれる3ヶ月前に死去していた。また,母がニュートンの3歳のときに再婚したため,その後11歳まで母方の祖母に育てられた。この幼児期の孤独な体験が,その後のニュートンの人生に大きな影響をあたえ,数多くの偉大な発見の鍵をにぎっているとの指摘もある。

 ニュートンは1661年ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学し,1665年に卒業。1667年にはトリニティ・カレッジのフェロー(特別研究員)となり,翌年に修士の学位を取得した。166910月には27歳でルーカス教授職に就任した。このようにニュートンのケンブリッジ大学における経歴は,大変順調なものであった。

 この間,16656月ペストの流行のため大学が閉鎖され,郷里のウールスソープに帰り約2年間を故郷で過ごした。この間に3大発見といわれる,光のスペクトルの分解,万有引力の発見,微積分法の発見がなされたといわれている。1672年には王立学会員となり,同年「光と色についての新理論」を発表。フックとの間で光についての論争が始まり,1676年まで続く。また,微積分法の発見に関しても,ライプニッツとの間で発見の先取権をめぐり,1676年から十数年にわたって論争があった。16878月には,「自然哲学の数学的諸原理」(プリンキピア)の初版が出版された。この中に「万有引力の法則」や「運動の三法則」が述べられている。

 その後,1699年には造幣局長官に就任,1701年ケンブリッジ大学選出の国会議員,1703年王立学会会長に就任している。172732084歳で他界し,328日ウエストミンスター寺院に葬られた。終生独身であった。

     参考文献:荻原明男「ニュートン」(講談社)「理化学辞典」(岩波書店)

 

 フックとニュートン

 宿命のライバルといわれるこの二人は,いくつかの共通点と多くの際立った対立点をもっている,1963年生まれのフックの方が7歳年長であるが,ともに幼少時は決して恵まれたものではなかった。フックは生まれたときから虚弱で,ミルクとプディングと果物だけで育ったといわれ,始終病気がちで頭痛に悩まされ,父母は育ちさえすればよいとして,なすがままに任せたが,幼い頃から精巧な機械的なおもちゃをつくることがとても上手だったという。その上愛する父を13歳で亡くしている。他方,ニュートンも,未熟児で弱々しく,長い間首が座らなかったほどで,とても長生きするとは思えなかった。それが84歳まで生き,死んだときでも歯は1本しか抜けていなかったというから,人生はわからない。ニュートンの父は彼の生まれる3カ月前に死に,母は,3歳のニュートンを祖母に託して再婚したが,その再婚相手の死によって,ニュートンの11歳のとき,3人の異父弟妹をつれて戻ってきた。彼は,こんなことからか,ついに一生涯女性を寄せつけず,結婚もしなかった。フックの方は長じてからは多方面に関心をもち,後述の各種の多様な発見のみならず非常に社交的で,また女性から女性へと愛を求めて渡り歩きながら,孤独にさいなまれた。そして,ニュートンの『プリンキピア』の刊行された1687年頃を境として,急激に光を失い,66歳で骨と皮になって死んだという。

 物理に話を戻すと,二人の共通点は,偉くなって大論争をする以前の20歳代に一番よい仕事をしていたことだろう。ニュートンが「驚異の年1666年」とよばれた24歳の時に,微積分法と光学と万有引力の法則という3つの大発見を実質上成し遂げていたことはよく知られている。フックは,剃刀の爪先で光が折れ曲がる回折現象の発見,重力理論,燃焼理論の最初の輪郭をつくり,顕微鏡で植物の細胞組織を解明し,それはガリレイの望遠鏡による天上の世界の新発見に対比されるほどの地上での大発見であった。彼の主著『顕微鏡観察誌(ミクログラフィア)(1665)は,ガリレイの『星界の報告』(1610)に匹敵する名著であり,生物学研究における顕微鏡の威力を示したもので,「細胞(セル)」はフックの造語である。その他機械に強い彼は,多くの独創的発明,たとえばゼンマイ時計,浮秤,幻灯,温度計の基点としての零点の設定,さらにロンドン大火後の都市計画と建築物の設計などを挙げればきりがないほどである。今日唯一彼の名を留めている弾性体のフックの法則も,23歳頃の発見である。

 二人を対比させる言葉としては,フックを「開拓者」,ニュートンを「完成者」とも表現し得ようが,フックは多忙な中で次々と新しいテーマを追究し,それらを素早く器用にこなした才人であり,彼の仕事は豊饒だが,雑駁な面もある。ニュートンも数学,光学,動力学,化学と多方面名研究を行ったが,1つのことに集中すると,徹底的にやりぬき,その数学的統一原理を追究した。ニュートンがいわば一匹狼であったのに対して,フックのベーコン流の集団協力といった研究スタイルも,対照的であった。フックは生まれて間もないロンドン王立協会の中心人物として,年間150200の実験教示を死ぬまでの40年間,王立協会のために続けた。フックの実験が毎週のこの会合の目玉であった。

 さらに二人の対比を続ければ,アリストテレス主義(フック)とピタゴラス・プラトン主義(ニュートン)ともいえようし,それはオックスフォードの「実験者」に対するケンブリッジの「数学者」の伝統,もしくはオックスフォードの「ベーコン」的実験主義に対するケンブリッジの「デカルト」的数学主義の対抗ともいえよう。1672年,ニュートンが「光と色についての新理論」を王立協会に書き送ったとき,フックが最初の鋭い批判者として登場する。ニュートンの粒子論に傾くその色彩論も,自分の1665年の主著『ミクログラフィア』ですでに波動論的解釈で説明し得たものとフックは考えたからである。両者は王立協会の書記オルデンバークを経て,4年間も手紙を通して主張し合った。ニュートンの自然に対する数学的方法とは,自然の運動,物体のはたらきは「いかにして」行われるかであり,それが「何」であるか,または「なぜ」行われるかを問わない数学的記述をめざしたものであった。フックのほうは,アイデアは豊富で,鋭い直観力で現象の正しい把握はおそらく彼の主張するように,ニュートンより先であったものが多かったかもしれないが,数学的,論理的な詰めの甘さがあり,その点では,ニュートンの敵ではなかったといえよう。微積分法の発見についても,ニュートンはライプニッツとの間で,フックの場合と似たようなプライオリティの争いをしているが,なにかニュートンの人間性を示すものかもしれない。

 

 プリンキピア

 ニュートンの主著『自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア・マテマティカ・フィロソフィア・エ・ナチュラリス)(初版1687年,通常「プリンキピア」と略称される)が出版されて300年あまりになる(300年を記念して,1987年にイギリスで4種の記念切手が発行された)。これは,ユークリッドの『幾何学原本』と並んで,いわば精密自然科学の手本とみなされてきた。それは多くの学問分野に多大の影響を及ぼし,19世紀末までの物理学的な世界観を支配した「力学的自然観」のバックボーンをなすものであったことは周知の通りである。ラテン語で書かれたここの本の邦訳も5種類ほど刊行されているが,かなり分厚い第1部「物体の運動について」と第2部「物体の運動について(抵抗のある媒質中における)と第3部「世界体系について」から成り,ニュートンとフックの間の1679年から80年にかけての7通の往復書簡が,ニュートンにこれを書かせた決定的な動機になったという。これらは,1684年頃からケンブリッジで講義されたものが骨子になり,ニュートンはこれを書き上げるのに18カ月を要し,驚異の年1666年にも匹敵する精神的集中を再現させている。ニュートンは,この書物の中で,読者の理解を考えて,自身で開発したばかりの微積分法を用いず,もっぱら幾何学的な証明法によっているので,今日のわれわれにはむしろまだるっこいところもある。フックが長年にわたる惑星運動と重力の研究から得たアイデアには「プリンキピア」の重要な結論のほとんどが含まれていたといえないこともないそうだが,数学的に完成させたのはもちろんニュートンであった。両者の才能を高く評価していて友人ハリーが,プリンキピアの序文の中に,フックに対する謝辞を入れることをニュートンに勧めたが,ニュートンはそれをきっぱり断った。

 ちなみに「プリンキピア」には上述の第1部,第2部,第3部の前に,定義と,公理または運動の法則という部分があり,有名な運動の三法則はここに書かれている。定義の部分の最初に質量についての「物質の量」という説明がある。このあたりのスタイルは,ユークリッドの「幾何学原本」を踏襲しようとしているようである。

 

次元

 次元という概念は抽象的で,難しいという印象を与えるので,導入に注意すること。物理量には種類があり,同じ種類の量どうしでしか,足したり,引いたり,大小を比べたりすることはできない。しかし,種類が同じなら,単位は違っていてもよい。例えば,3m5sは,足したり,引いたり,大小を比べたりすることはできないが,3m150cmならできる。このような種類の違いを表すのが次元であり,たとえば,「力の次元は[MLT2] (これを次元式という)である。」,あるいは,「力の次元は,質量,長さ,時間に関してそれぞれ11,−2である。」といういい方をする。

 なお,力のモーメントと仕事(エネルギー)というように,次元は同じであるが異なる物理量であるという例もある。

 

次元解析

 次元式にはいろいろな用途がある。たとえば,物理量の間にある関係式が成り立つとき,その左右両辺の次元は等しくなければならない。また,いくつかの量を加えたり引いたりするときにも,その次元がすべて等しくなければならない。次元を比較すれば,成り立つと考える関係式が正しいかどうかの判定ができる。また,物理量間の未知の関係を推量するのにも用いられる。これらのことを次元解析という。

 単振り子の周期Tが単振り子の糸の長さlと重力加速度gの関数であることだけがわかっていて,Tglとでどのように表されるかを知りたいとき,今,Tが式( k:比例定数で次元0)で表されるものとする。

周期Tの次元は [T]gの次元[LT2]は,lの次元は[L]であるから,これらを上の関係式に代入すると,

 

となる。この左右両辺を比較すると,xy01=−2xより,

  が得られ,

 

となる。ただし,この方法では比例定数(無次元)は求められない。

 

SIと計算法

 1960年の国際度量衡総会では,あらゆる分野において広く世界的に使用されるべき単位系として,MKSA単位系を拡張した国際単位系(Systeme International d’Unite’s)略称SIを採択した(フランス語が原語)。わが国の計量法もこれを基礎としている。SIは,教科書に書かれているように,長さ(m),質量(kg),時間(s),電流(A)を基本とし,これに温度の関連する分野である熱力学的温度の単位ケルビン(K),物理量を表す単位モル(mol),および測光の分野で基本量である光度のカンデラ(cd)を加えた7個を基本単位としている。これらの個の基本単位のほかに平面角ラジアン(rad),立体角ステラジアン(sr)2個を補助単位として構成されている単位系がSIである。

 今日でも各学問分野ごとにそれぞれ固有の単位系が併用されている場合もあるが,徐々にSIが浸透しつつあるといえよう。

 次に,SIの基本単位の大きさの定義を示そう。

時間1(s)は,133Cs原子の基底状態の2つの超微細準位(F=4M=0およびF=3M=0)の間の遷移に対応する放射の9,192,631,770周期の継続時間である。

  よく知られているように,古くは平均太陽日の1/(24×60×60)とされていたが,毎年わずかながら時とともに変化する(毎年0.005秒ずつ短くなる)ので,1967年に原子的標準による現在の秒の定義が採用された。

長さ1メートル(m)は,光が真空中で1/(299,792,458)sの間に進む距離である。これも元来メートルは,地球の子午線の北極から赤道までの長さの107から出発してメートル原器の長さ基礎としたが(1889),光の速度の測定精度の向上に伴って現在の定義となった(1983)

質量国際質量キログラム原器の質量をキログラム(kg)とする。

これも,もとは1気圧,最大密度における水1Lの質量とされていたが,今日では上記のものを基準にとることに定義された(1889)

電流1アンペア(A)は,真空中に1mの間隔で平行に置かれた,無限に小さい円形断面積を有する,無限に長い2本の直線状導体のそれぞれを流れ,これらの導体の長さ1mごとのに2×107 Nの力を及ぼし合う一定の電流である。

温度熱力学的温度の単位ケルビン(K)は,水の三重点の熱力学的温度の1/273.16である。温度間隔にも同じ単位を用いる。

物質量1モル(mol)は,0.012kg12Cに含まれる原子と等しい数(アボガドロ数NA=6.0221367×1023)の構成要素を含む系の物質量である。

光度1カンデラ(cd)は,周波数540×1012Hzの単色放射を放出し,所定の方向の放射強度が1/683Wsr1である光源の,その方向における光度である。

 なお,SI単位では,10n 10n (nは正の整数)の単位をつくる場合に,SI単位名の前につける接頭語で,教科書後見返しにある10nを表す16個の接頭語とそれらの記号が定められている。それらは表にあるように,101102101102については各桁に,103以上および103以下では3桁ごとに定められている。SI接頭語の記号は立体で書き,単位記号と接頭語とは間をあけない。2つ以上の接頭語をつけてはならない。たとえば,1mm mではなく,1nmとする。また,kgは接頭語kがすでに付いているので,たとえば1kkgとせずに,1Mgというように,gに直接接頭語をつける。

 

物理量の計算における単位の表記について

物理量は数値×単位で表現され,単位はある基準の量を表している。長さについていえば,メートル原器の長さをメートルと名づけ(もっとも現在ではメートルの定義は異なるが),その基準の長さを単位と称している。たとえばx=5mとは,m×5すなわちメートルという基準の長さの5倍ということを意味している。

物理における計算は,このように数値×単位で表される物理量を扱っているのであるが,従来は単なる数値の計算と,物理量の計算とがあまり明確には区別されないできた。等速直線運動について例を挙げてみる。

 

x=v t=5×3=15

(1)

x=v t =5×3=15m

(2)

x=v t =5×3=15m

(3)

x=v t =5m/s×3s=15m

(4)

x=v t =5m/s〕×3s=15m

(5)

 

(1)式は数だけの計算であり,したがってxvtは物理量ではなく,単なる数値である。(2)式は途中まで数値の計算できているが,最後に単位がついているため等号が成り立たなくなっている。(3)式ではそれをさけるために,メモ的に[ ]内に単位がつけられているが,基本的には数値の計算である。(4)式は物理量間の計算式ということができる。(5)式は数値の計算式にメモ的に単位がつけられているのか,物理量の計算式で単位を強調するために[ ]をつけているのか,はっきりしない。従来の日本の教科書では(1)式または(3)(5)式が多く使われてきたが,諸外国のほとんどの教科書では,物理量の関係が明白な(4)の表記方法が,採用されている。こちらの方が国際的な標準といえる。

さらに,学習者にとっても,ただ単なる数値だけの計算よりは,単位のついた計算式の方が,式の物理的な意味が把握しやすいと考えられる。教科書p.66例題1を見れば,それぞれの数値が何を表しているのか,xv tat2とがなぜ等式で結べるのか,などがわかりやすくなっている。また,m/scmなどの単位が混在している場合や,両辺の単位があわない場合にも間違いを発見しやすくなっている。

以上の理由から,本教科書では単位をつける計算式を採用した。最初のうちは単位が煩わしいと感じられるかもしれないが,その意味するところをくんでいただきたい。なお,avFなどの量記号とm/s2m/sNなどの単位記号とは紛らわしい。従来の教科書でも前者はイタリック体(斜体),後者はローマン体(立体)と区別されているが,生徒は書体の違いについて気づいていないことが多いので,授業でしっかりと説明しておきたい。また,avFなどの量記号は物理量を表しているので,本来単位はつけないのが正しいのだが,初学者にとって文字が何を表すかをすぐにイメージできないことも多いので,便宜的にam/s2〕やvm/s〕,FN〕のように〔 〕をつけて単位を表記した箇所もある。なおこの表記方法は,生徒が計算用紙に計算するときにまで強要されるものではない。

参考文献

1) 根本和昭:教科書に単位をつけた計算を! 物理教育,47-6(1999)385-386

2) 小林幸夫:物理量の概念の誤解と混乱 物理教育,47-6(1999)338-340

 

 

 








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