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第3節 落体の運動

 

 落下運動の解釈の歴史

落体の運動と運動の法則……どちらを先に指導するか

自由落下と鉛直投射

標準の重力加速度

放物運動


 

 落下運動の解釈の歴史

 アリストテレス(B.C.350ごろ)によれば,「重いものほど下の位置,軽いものほど上の位置が本来の位置であり,本来の位置に帰ろうとするのが本来の運動である。重いものほど本来の位置に戻ろうとする性質が強いから,重いものほど速く落ちる。」身の回りにはこの説明のように落下するものが多く,この説は教会の権威によって長い間正しいとされた。これに対する反論も提出されたが,その誤りをはっきりと示し正しい考え方を提出したのはガリレイである。重いものと軽いものを連結して落下させると中間の速さで落下するのか,それともより重くなったのでより速く落下するのかという思考実験や,ピサの斜塔から重さの違う2つの物体を同時に落下させる実験などが伝えられるが,後者については実際に行ったかどうかは確認されていない。彼は,斜面を用いた実験によって,落下距離が時間の2乗に比例することを明らかにした。この実験は彼の「新科学対話」(1638)に詳しく述べられている。

参考文献:ダンネマン「大自然科学史1」安田徳太郎訳編(三省堂)

 

落体の運動と運動の法則……どちらを先に指導するか

 教科書では,落体の運動を指導してから,運動の法則を扱うようにしている。その理由は,落体の運動を等加速度運動の1つの例として指導しようとする立場に立つためである。自由落下,鉛直投射の諸公式が,等加速度運動の公式からただちに出てくること,また,水平投射,斜方投射などは曲線運動であるが,成分に分けて考えるとよいことなどを,指導しやすいからである。関連のある学習項目は,引き続いて指導するほうが効率的で定着がよいともいえよう。

 確かに,落体の運動は,重力による加速度(重力加速度)によるものであり,運動の法則を理解させてから,落体の運動を取り扱う考え方もあり,そのような指導もある。しかし,落体の運動を,純粋に物体の運動として見,観察し,法則を発見していくという帰納的な方法は,自然科学の方法に適っているといえる。

 これを受けて教科書p.90では,質量に無関係な加速度で落下するという事実と,運動の法則から,重力がと表され,質量に比例することを述べている。このことからも,落体の運動を先に指導するほうが都合がよいと思われる。

 

自由落下と鉛直投射

 普通,自由落下と鉛直投げおろしではy軸を鉛直下向きにとり,鉛直投げ上げでは逆に鉛直上向きにとる。習熟した者にとっては当然であっても,この点に戸惑いを感じる生徒もいる。原因の一つは,数学でグラフを描く場合にy軸を上向きにとることが多いことによる。また,鉛直投げ上げでは鉛直上向きを正にとることで,重力加速度が負になることに違和感を感じる生徒もいる。鉛直投射を例にして,直線運動の場合,初めの速度の向きを正の向きにとることが多いことや,正の向きをどうとるかは固定的ではないことに触れておきたい。

 また,自由落下や鉛直投げおろしの場合,y軸は距離を表すとしてもよいが,鉛直投げ上げの場合は距離ではなく位置としないと不都合が生じるので,この点に配慮した指導が必要である。

 

標準の重力加速度

 「標準の」という意味は,決して「平均した」という意味ではない。1901年の国際度量衡委員会で,北緯45°の平均海面での重力加速度として,9.80665m/s2を「標準の重力加速度」とすることが約束された。1968年の同委員会では,実際にはこれより0.00014m/s2だけ小さい値であることが承認されたが,現在でも,1kgwを重力加速度が9.80665 m/s2の地点といういわば架空の場所で質量1kgの物体が受ける重力の大きさに等しい力9.80665Nと約束している。これは,この値が約束にすぎず,このように約束しても,物理的な自然認識になんら影響しないからである。

 

放物運動

 物理Iでは,水平投射や斜方投射についてはベクトルの分解・合成などを伴った平面運動としての扱いをしないことになっている。ここでは,それぞれの運動が,水平・鉛直の2つの方向に分けて考えることによって理解できる,ということに指導の力点をおくことが望まれる。

 しかし,教科書の図1718のストロボ写真を使うことによって,定量的な説明を行うことも可能であるので,生徒の実状に合わせて,発展的な扱いを指導することも可能であろう。

 

 

 








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