トップ地学II>第3部 宇宙の探究>第3章 宇宙の広がり>第2節 宇宙の構造

2節 宇宙の構造

 

近距離銀河の距離

 銀河系をこえた天体までの距離を測定するには,脈動変光星(ケフェウス座δ型変光

星,セファイドともいう)の周期光度関係を使用する。このセファイドを使った距離測定法は

1000万光年までが限界である。このセファイド法によって距離の決定されている銀河

は,アンドロメダ銀河を含めて10個程度である。それは地上にある望遠鏡の分解能の制

限からくるもので,宇宙空間に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡では6000万光年程度

のところのセファイドを分解して観測することができる。1994年には,アメリカのフリードマン

(W.Friedman)たちが,おとめ座銀河団のセファイドを測定し距離を決定した。

 地上から2000万光年程度以上6000万光年程度の距離の銀河を測定するためには,

セファイドなどよりも明るい天体の絶対等級を測定する必要がある。そうした天体としては,

銀河の中で一番明るい星や星団とか巨大な電離水素領域(HII領域)などを用いる。これは

恒星として安定に存在できる質量に上限があることや,電離水素領域の大きさにも内部的

な理由で最大のものが存在し,そうしたものがすべての銀河について標準として使用でき

るからである。また,超新星の最大の光度もやはり上限があるので,超新星を標準に使用

することもなされている。しかし,選んだ標準が同じであることを仮定しているので,これら

の観測から得られる距離の精度には大きな不定性がともなう。

 

◆遠距離銀河の距離

 さらに遠方の銀河までの距離を測定するには,銀河全体の特徴を利用して,経験的に

距離を推定する方法が用いられる。たとえば,渦巻き銀河の場合には,銀河円盤の回転

速度の最大値は銀河の絶対光度の4乗に比例しているという経験的な関係がある(タリー・

フィッシャー関係)。銀河円盤の回転速度の最大値は,中性水素の21cm電波のスペクトル

の最大幅から測定できるので,それを使って絶対光度がわかり,その銀河までの距離が求

められる。あるいは,SbScI型の銀河の光度階級から絶対等級を求めたり(II)S0

早期型の渦巻き銀河については,色指数と絶対等級の関係を用いる(XVI)

 

 

 楕円銀河については,銀河中の恒星の乱雑な運動の速度の分散の4乗が銀河の絶対

光度に比例するという経験則がある(フェイバー・ジャクソン関係)。楕円銀河ではその形状

が恒星の乱雑運動による圧力的な作用で支えられているので,その乱雑な速度が渦巻き

銀河の回転速度と同様な役割を果たしていると考えられる。

 

◆ハッブルの法則

 スペクトル観測により,波長λ0の線スペクトルが波長λのところに移動している場合,スペ

クトルの赤方偏移z

                                     (1)

で定義する。この波長のずれが光源と観測者の距離の変化による一種のドップラー効果

によるものとすると,その相対速度をv,光速度をcとして

                                  (2)

なる関係がある。普通の銀河では赤方偏移zは小さいので,

と考えてよい。この関係から赤方偏移を測定することで,天体の視線速度を求めることがで

きる。ただし,求められた視線速度に,地球の太陽に対する運動や太陽の銀河系中心に

対する運動の補正をすることで,銀河系の中心に対するその銀河の視線速度が求められ

る。ハッブル(E.Hubble)1929年に当時までに測定されていた銀河の視線速度を調べ

て,アンドロメダ銀河や三角座銀河のようにわれわれに近い銀河は別として,他のほとんど

の銀河はわれわれから遠ざかっており,しかも,その速さはわれわれからの距離に比例す

るという,ハッブルの法則を発見した。ハッブルの法則を式で表すと

    vHr                                    (4)

ここで,vは銀河の後退速度,rは銀河までの距離,Hは比例定数でハッブル定数という。

(この関係式を使用する場合に注意しておくことは,赤方偏移が1にくらべて小さい場合や

後退速度が光速度にくらべて小さい場合にしか使用できないことである。この式を使って

後退速度が光速になる距離を求めることには意味がない。光速度に近い場合には赤方偏

移と後退速度のもとの関係式を使用しなくてはならないし,また宇宙の膨張の式を考えなく

てはならない。) ただし,ハッブル定数は定数といっても時間の関数で時間とともに変化す

る。ハッブル定数の値は距離の決定の精度の影響を受け,現在のところでは幅のある値と

なっている。多くの研究者によって求められている値は50km/s/Mpcから100km/s/Mpcの間

であるが,近年ハッブル宇宙望遠鏡を用いて,銀河のセファイドを観測して求められたハ

ッブル定数は

     H72±7km/s/Mpc

である。

 このハッブルの法則が遠方の銀河についてなりたつとすれば,その後退速度の測定から

非常に遠方の銀河までの距離を決定することに使用することができる。しかし,ハッブル定

数に幅があるためその距離にはかなりの誤差が含まれていることに注意が必要である。

 

◆銀河の分布

 一般に銀河は単独で存在するものは少なく,数個から数千個の集団をなして存在してい

ることが多い。そこで,集団の中の銀河の数によって銀河群,銀河団という階層が定義さ

れている。

 われわれの銀河(銀河系)やアンドロメダ銀河などは,他のいくつかの銀河とともに局部銀

河群をつくっている。表IIIは,局部銀河群に属する銀河についての諸量である。銀河が

50個以上集まったものが1000万光年程度の領域に密集している集団を銀河団という。た

とえば,5900万光年離れたところには約2000個の銀河からなるおとめ座の銀河団が存在

する。2000個の銀河が約1000万光年の直径の範囲にあるが,その90%は矮小楕円銀河

である。この銀河団の中心にあるのがM87である。われわれの銀河はこのおとめ座の銀河

団に向かって300km/sで運動している。

 

 銀河団をこえる大きな集団については,1950年代から一部の天文学者がその存在を主

張してきた。しかし,その存在はすべての研究者の賛同を得るものには至っていなかっ

た。ところが,1980年代になると,多数の銀河の3次元的な分布を調べることによって,広

い領域での銀河分布が調べられるようになった。その結果,宇宙には次に述べるような大

規模な構造があることがわかってきた。

 

◆宇宙の大規模構造

 宇宙が一様で等方であるという仮定を宇宙原理とよぶ。一様性と等方性は似たような概

念であるが,厳密にはまったく異なっている。一様性とはどこでも同じということであり,等

方性はどの方向も同じであるということである。したがって,一様で非等方であることも,

等方で非一様であるということもある。一様で非等方な例は,流れのような向きのあるもの

が存在する場合である。このときどこでも同じであるが,上流と下流の方向があるということ

で方向によって違いがある。等方で非一様なのは,物質が球対称的に分布して,球の中

心からしだいに減少しているような場合である。球の中心にいるとどの方向も同じである

が,中心からずれた位置とは分布が異なっており一様性が破れている。

 宇宙原理のうちの一様性は1980年代の中頃まではほぼ正しいと信じられてきた。銀河

の分布を観測したとき,あるところに銀河が集中し,別のところに銀河がほとんどないといっ

たことは,大型の望遠鏡を使って写真を撮って見る限りでは起こっていなかったからであ

る。もちろん,写真上には銀河の写ったところと何もない部分とがあるが,銀河を点とみなし

たとき,点の分布に極端なムラがないという意味である。

 銀河は3次元的に分布しているが,この時点での分布は3次元的なものを考えたのでは

なかった。写真に撮るとは,奥行きの情報を無視して写真乾板という2次元面に投影する

ことである。したがって,写真上では一様に分布しているように見えても,3次元的にも一様

であるか否かということはわからない。

 ある限られた範囲内にあるたくさんの銀河について,1986年にアメリカのハクラ(J.Huchra)

とゲラー(M.Gellar)は,その距離を1個ずつ測定して,銀河の3次元的な分布を求めた。

遠方の銀河の距離はハッブルの法則を用いてその赤方偏移から推定する。11個の銀

河のスペクトルを撮りその赤方偏移を測定するという作業を数千の銀河について行った結

果,3次元的な分布にはムラがあることが示された。大ざっぱな構造としては,銀河の集中

した領域と銀河のほとんどない領域とが存在し,銀河の存在する領域をつないでいくと,全

体としては石鹸の泡のような構造をしているというのである。そのの大きさは直径約1

億光年であり,泡の中には何もなく,その領域をボイドという。そのような泡がいくつも連な

って分布している。このような宇宙の構造を宇宙の大規模構造という。この観測は現在地

球から6億光年程度までなされている(教図13)

 1989年には,アメリカのクー(D.Koo)らによって,空のきわめて狭い領域について60億光

年程度まで観測がなされた。その結果,4億光年程度の周期で銀河の密集している

ような構造が見いだされている(教図14)。このような宇宙の大規模構造が発見されると,宇

宙を単純に一様といってしまえなくなる。

 

◆銀河の形

 銀河は外観によって分類されているが,ハッブルの分類法が簡単なのでよく用いられ

る。この分類法では,銀河は楕円状(E),渦巻き状(S),不規則状(I)3つの型に

大別され,渦巻き銀河はさらに普通の渦巻き状と棒渦巻き状(SB)に分けられる。教図

15の銀河の形は,E型は銀河を横から見た図で,S型は上から見た図である。したがっ

て,S0型の銀河は横から見るとレンズ状に見える。

[楕円銀河]  楕円銀河は,その名のとおり楕円状の銀河である。中心部への明るさの

集中の度合は銀河によって異なっているが,内部に微細構造が認められない。楕円銀河

は矮小型と巨大型に分けられる。矮小銀河は主として衛星銀河として存在するが,質量的

にはすべてを合わせても,ごくわずかでしかない。

 楕円銀河の見かけの楕円の長半径をa,短半径をbとするとき,(ab)/aは楕円の偏平

度を表すが,楕円銀河の細分はこの偏平度の10倍にあたる整数をEにつけてE0E1

E2……E7のように表すことになっており,最も偏平なE7ではab31になる。なお,

この細分法は見かけの形に基づくから,E0型であっても実際の偏平度はいろいろのもの

が含まれている。

 楕円銀河には星間ガスがほとんどなく,種族IIの恒星のみで形成されていると考えられ

る。楕円銀河の形を保っているのは恒星の乱雑な運動であって,その大きさは150km/s

度である。

銀河集団の中心部には特に巨大な楕円銀河が存在しており,cD銀河とよばれることが

ある。おとめ座銀河団のM87もその一例である。cD銀河は銀河集団の中で銀河どうしの

合体によって成長し中心付近へ沈んでいった銀河であると考えられる。cD銀河に限ら

ず,巨大型の楕円銀河は小さな銀河の合体によってつくられたという考え方もある。

[渦巻き銀河]  内部に渦巻き構造の認められる銀河を渦巻き銀河という。この渦巻きは

明るい星や星間ガスが特に集中して存在している渦状の腕である。渦巻き銀河は回転し

ており,回転の遠心力で銀河の形状を保っている。中心核を通る棒状の両端部から渦巻

き構造が見られるものを棒渦巻き銀河という。銀河のうちの約6割が渦巻き銀河である。明

るさの中心への集中の度合い,渦巻きの開き方,微細構造への分解の様子などによっ

て,SおよびSBともにabcdmの添字をつけて,それぞれに5つに細分される。Sa

SBaは明るさの中心部への集中度が大きく,渦は密に巻きつき,分解は周縁だけにとど

まるもので,bcdmへと特徴が弱まっていく。Sm型はそれ以外のものの10分の1の質

量しかもっていない小型の銀河である。

 渦巻き銀河の実際の偏平度は,ほぼE7に相当すると思われるが,これを真横から見た

ときE7と異なるのは,長軸に沿う暗い帯状部すなわち星間物質が見られることである(楕円

銀河には星間物質は見られない)

 銀河系に見られるように,渦巻き銀河はハロー,銀河円盤,バルジからできている。それ

ぞれに属する恒星は,ハローが種族II,銀河円盤が種族Iであり,特に腕の部分には生ま

れてから時間のたっていない若い種族Iの星が多くあり,また中性水素および電離水素を

大量に含む。渦巻き銀河に含まれている中性水素ガスの割合は,銀河の形態と関係があ

る。バルジが大きくなるほどガスの量が少なくなるのである(IV)

 SSB型とE型との中間にあたるものをS0(エスゼロ)としている。これは渦巻き銀河の中

心核のような偏平な中心核と円盤部をもつが,円盤部にはガスが存在せず渦巻き構造も

見られない銀河であり,レンズ銀河ともいう。

 

 [不規則銀河]  不規則銀河は楕円銀河や渦巻き銀河のような規則的な外観をもたな

い銀河である。そのため,I型には種々のものが含まれ,銀河全体の数の3%程度存在す

る。一般には暗く質量も小さいものが多い。大小のマゼラン雲は一般にはI型とされている

が,大マゼラン雲の外側の部分は渦巻き構造をしているのでS型とも考えられ,これは特

別にマゼラン型渦状銀河(SdmあるいはSm)やマゼラン型不規則銀河(Im)とよぶことが多

い。大マゼラン雲は回転していて普通の渦巻き銀河と似ているが,渦巻きがはっきりしたも

のでなく形も回転軸対称ではない。

 不規則銀河は他の銀河の近くに存在するものがあり,銀河どうしの相互作用の結果形成

されたものである可能性が高い。

 

◆銀河の進化と色・形

 銀河の形は原始銀河のガス雲から星が誕生した時点でほぼ決まってしまう。原始銀河は

重力により収縮していくが,回転していれば遠心力によって形が偏平になっていく。一方,

原始銀河のガス密度が大きいときは,星の生成率が高く,初期の段階でガスのほとんどが

星になってしまい,残されたガスは少ない。これが楕円銀河となるのであろう。初期の段階

で誕生した星は,重元素が存在しないので,種族IIの恒星であって,現在では進化の結

果,赤い星になっている。したがって,銀河全体が赤く見える。スペクトル型も晩期型にな

る。密度の小さな原始銀河では,中心部で星が多くできるものの,多くのガスはそのまま残

り,回転によって偏平な円盤を形成していく。そして,その円盤部で続々と星が誕生するよ

うになる。したがって,若い星が多く,いわゆる種族Iの星で青色の星が多いので,銀河全

体もやや青く見える。渦巻き構造はこのような青い星の形成される領域である。

 

教図16 いろいろな銀河

(a)M87(E);この銀河(NGC4486)は,おとめ座銀河団の一員であり,α12h28.3mδ+12°40′(l

284°b+74°)の方向約5900万光年のところにある銀河である。露出時間を短くすると,中心核から北

西方向(写真では右方やや北方)1つの噴流が見える。この噴流の長さは銀河の半径の約1/10にあ

たる4400光年ものびており,外側に向かって25000km/sの速さで進んでいる。この銀河は強い電波

を放出しているが,上述のような中心核からの物質の噴流がその原因であろうとみなされている。なお,

この図を見ると,多くの小さい白点がこの銀河をとり囲んで散在しているのが認められるが,これはM87

に付属する球状星団であって,約4000個も観測されている。

(b)M101(S);この銀河は,おおぐま座のα14h01.5mδ+54°36′(l102°b+60°)の方向にある

渦巻きの腕がよく開いたSc型の渦巻き銀河であって,約1900万光年の距離にある。この銀河の内部の

多くの点における視線速度が,21cmの電波で測定され,それらからこの銀河の全質量として,太陽質

量の1.8×1011倍が得られている。なお,この銀河はその近くに見いだされるNGC番号のついた5個の

銀河などとともに1つの銀河群をなしている。

(c)NGC1300(SB):この銀河はエリダヌス座のα3h17.53mδ-19°35′(l208°b=−55°)の方向に

ある棒渦巻き銀河であって,約7500万光年の距離にある。棒渦巻き銀河はその中心核を通る長い棒の

両端部から渦状腕が出ているので,このようによばれる。この棒状構造は中心核のまわりに剛体回転を

していて,棒の各点は中心からの距離に比例する速さで回転している。

()大マゼラン雲(I);大・小のマゼラン雲は銀河系に最も近い銀河であって,銀河系の伴銀河であ

る。両雲についての物理量は表Vに示してある。両マゼラン雲は天空では約20°離れているが,波長

21cmの電波の観測では両者の間が中性水素でつながっていて,物理的に関連した系であることがわ

かる。なお,大マゼラン雲が不規則な形をしているのは明らかであるが,1955年にヴォークルールが視

直径40°の広角カメラでこの銀河を撮影し,その乾板を測光して次のことを明らかにした。すなわち,直

のほぼ円形の中心核のまわりに,非常に長い1本と短い数本の渦状の腕が中心から約10°の範囲

に存在し,小マゼラン雲があたかもその伴銀河のような位置関係にあることである。図の横幅は約

あるので,大マゼラン雲の中心核の広がりはこの範囲ぐらいである。

 

◆電波銀河

 

 

普通の銀河も弱い電波を出しているが,特に強い電波を出している銀河を電波銀河とよ

ぶ。たとえば,3C405(はくちょう座A)は,銀河系の全放射エネルギー(4×1037J/s)の約6

のエネルギーを電波の領域だけで出している。電波銀河で特徴的なのは,中心から外向

きに1方向または正反対の2方向にジェットが噴出しているような外観をしていることであ

る。この銀河の電波像は,一般に可視光で見える銀河を中央にはさんで約100万光年離

れた2つの電波源からなり,それぞれの電波源の直径は30万光年程度と見られる。おそ

らく銀河の可視光領域で爆発が起こり,2つの巨大な物質塊が噴出し,互いに反対の方向

に急激に膨張したのであろう。銀河には磁場があり,これらのジェットには大量の自由電子

が存在したであろうから,電子の運動によっていわゆるシンクロトロン放射となって,強い電

波を放出していると考えられている。

 

教図17 電波銀河(NGC5128)

この銀河は,ほぼ円形の楕円銀河の中央を,暗い不規則状の吸収帯がおおうかのように見えるの

で,E0p(pは特異性のあることを示す記号)と分類されている。ケンタウルス座の方向13h22.5mδ

=−42°46′l310°b=−19°)で,距離が約1400万光年のところにある。この銀河が,ケンタウルス座

Aと名づけられていた強力な電波源であると同定されたのは,1969年になってからであった。図XVIII

はこの銀河のまわりの電波強度分布を示したものであるが,電波銀河の多くに現れている双対型の変

形とも見られる分布になっている。銀河の中心核で起こった大爆発にともなう物質の移動や膨張が,電

波銀河の奇妙な形や強力な電波放射をもたらしていると考えられている。ただし,なぜそのような大爆

発が起こったかについてはよくわかっていない。

 

教図18 電波銀河(M87)に見られるジェット

α12h28.3mδ12°40′。中心核から光や電波のジェットが飛び出し(教図21)さらに中心から強いX

線を放出している楕円銀河(E0)である。中心の狭いところに膨大な数の星が集中し,中心核では異常

に重力が大きくなり,核は他の銀河にくらべて特別明るく輝いている。中心核の大きさは150光年ぐらい

で,その中に太陽の10億倍くらいの質量がある。高密度星(白色矮星・中性子星・ブラックホール)の集

合か,1個の巨大なブラックホールがあると考えられている。

 

教図19 セイファート銀河(NGC4151)

α12h08.0mδ39°41′にある。水素のバルマー線(特にHα)の幅広いスペクトルをもつセイファート

銀河。クェーサーとよく似たスペクトルをもち,中心核が変光しているのでミニクェーサーとよばれること

がある。このタイプの銀河はS型が多い。

 

◆セイファート銀河

小さく明るい中心核(直径約10光年)のまわりを,短時間露光では写らない微光の渦巻

きの腕が小さくとり巻いているが,その放射エネルギーは普通の銀河の約百倍に達する銀

河である。中心核のスペクトルには吸収線はなく,幅の広い強い輝線が認められる。その

線幅は運動速度500km/sから5000km/sに対応している。速度幅が500km/s程度の輝線を

放射する領域を狭線領域といい,速度幅が5000km/sに対応する輝線を放射している領域

を広線領域という。狭線領域は中心核から数百光年まで広がった領域で,中心核の光に

よって電離されたガスが光っている。広線領域は中心核から1光年程度の領域で,中心

核にあると考えられるブラックホールに落下していくガスが光っている領域である。

 狭線領域からのスペクトル線のみが見えている銀河を2型セイファート銀河,狭線領域と

広線領域の両方のスペクトルが見える銀河を1型セイファート銀河と分類する。

この1型と2型の違いは,中心領域の構造と関連している。セイファート銀河の中心には巨

大なブラックホールがあって,そのまわりに落下したガスのつくる降着円盤がまわってい

る。ここが広線領域である。また,そのまわりにはダストの雲がドーナツ状にとり巻いている

と考えられる。セイファート銀河を横から見ると広線領域がダストによって見えなくなるので

2型のセイファートとして観測され,上方から観測すると狭線・広線の両方の領域が見える

ために1型のセイファート銀河として観測できるのだと考えられるようになってきている。

 

◆クェーサー

 1960年から1963年にかけて,未知の電波源が新たに発見された。そのときに見いださ

れた電波源について可視光線による観測がなされた。その結果わかったことは,電波源

の位置にある天体は恒星と同じように点状であること,およびそのスペクトル中には輝線が

ありその輝線が地上で測定される元素のどれとも一致しなかったことである。恒星のように

見えたことから,この天体は恒星状天体(quasi-stellar-object)とよばれ,略してクェーサーと

いわれるようになった。

 第2番目の観測事実は地上にない元素の存在を意味しているようでもあり,この天体を

観測した研究者を悩ませた。しかし,スペクトルの輝線の分布の様子が地上の元素による

線スペクトルの分布と非常に似ていることが解明の糸口となった。地上で測定される線スペ

クトルが長い波長の方向へ系統的に偏移していると見なすことによって対応がつくのであ

る。スペクトル線の偏移の原因にはいくつかの可能性があるが,一番考えやすいのは天体

が地球から遠ざかる運動をしていることによるドップラー効果である。

 ところが,クェーサーのスペクトル線の偏移はそれまでに知られていたどの天体の偏移に

くらべても大変大きく,その偏移からでてくる後退速度は光速度の数パーセントにも達す

る。ハッブルの法則を使うと,光速度の数パーセントというような高速で後退する天体はき

わめて遠方にあることになる。遠方にある天体から観測するのに十分なエネルギーが地球

まで到達するということは,その天体の放出しているエネルギーがばく大なものであることを

意味する。実際,この天体が遠方にあるとしてそのエネルギーを推定してみると,1秒あた

りおよそ1039Jという値となる。この値がいかに大量であるかは,太陽が1秒に出しているの

が約1026Jであることとくらべるとわかる。もちろん,この1秒間に1039Jという値は,銀河から

放出されているエネルギーが1秒間あたり10371038Jであるのとくらべると,宇宙にありえ

ない値ではない。

 ただ考えなくてはならないのは,そのばく大なエネルギーを放出している領域の大きさで

ある。クェーサーの大きさは数光週から1光年程度である。これは銀河が10万光年の大き

さをもっていることと比較するときわめて小さい。このようにきわめて小さい領域から,銀河

全体と同程度かそれよりも大きいエネルギーを出していることが問題となる。

 このクェーサーの大きさは,クェーサーの明るさの時間変動から推定した値である。クェ

ーサーの明るさは数週間から1年程度の変動を示している。このような変動が起こるため

には,光の変動領域が光が数週間から1年程度以内で到達できる範囲より小さな領域で

なくてはならない。それは,情報の伝達の速度は光速度以上になり得ないという制限があ

るからである。したがって,変動の時間内にその変動の情報を光で伝達できる距離内のみ

が相互に関連をもつことができる。情報伝達がなされない領域では,変動が起こっていると

いう情報が伝わってきていないのであるから,その変動と関連するような状況になっていな

い。こうして,変動している時間からその領域の大きさの上限を推定できるのである。

 クェーサーはその後もたくさん(強い電波を出している電波銀河と合わせて4000個以上)

発見されている。このクェーサーが何であるかについての最終的な結論は得られていな

い。しかし,最近の観測からすると,銀河には中心領域に非常に重いブラックホールが存

在する可能性がきわめて高い。クェーサーの場合も,そのようなブラックホールが中心に存

在し,周辺のガスとの相互作用が大変に激しい状況にあるのではないかと考えられるよう

になってきている。

 

◆活動銀河の中心核

 活動銀河の活動性をもたらす原因は,その構造にあると考えられている。われわれの銀

河系を含め,銀河の中心部を電波や赤外線で観測すると,そこにあるガスや星が非常に

特異的な運動をしていることがわかる。たとえば,運動速度が数百km/sをこえるような速度

が観測されたり,ガス雲が膨張していたりという観測がある。こうした観測からわかることは,

銀河中心には非常に小さな領域(1光年以下)に太陽の数百万倍以上の質量が存在する

ことである。

 質量が狭い領域に存在するということは,恒星が非常に高密度に存在するか,ブラックホ

ールが存在しているかのいずれかしか考えられない。しかし,恒星が超高密に存在する場

合には,その起源や安定性が問題となるし,またそのまわりの物質の運動などが説明しが

たい。したがって,消去法的にはブラックホールが考えられる。

 ブラックホールの大きさはその質量に比例しており,大きさをR,質量をMとすると,

    km

となる。ただし,Mは太陽質量で測った質量である。したがって,ブラックホールであること

を観測的に確認するためには,太陽質量の数百万倍の質量が太陽の数倍の半径の中に

存在することを示さなくてはならない。そうした観測は大変にむずかしいので,現在のところ

は間接的な証拠による推定でしかないが,ブラックホールが存在すると考えることで,観測

事実が統一的に説明できる。

 ブラックホールは物質を吸い込むだけなので,エネルギーを放出したり爆発的な物質の

放出とはそのままの形では結びつかない。しかし,物質がブラックホールに落下する際,

物質の角運動量のためにブラックホールのまわりに降着円盤とかアクリーションディスクとよ

ばれる円盤が形成される。この円盤はブラックホールのごく近くまでのびており,ブラックホ

ール近くの円盤は高温になったり,円盤に垂直な方向にジェットを放出したりすると考えら

れる。そうしたエネルギーはもともとブラックホールが重力の強い天体であるので,ブラック

ホールの重力エネルギーを起源とするものである。この考え方によると,銀河中心部の活

動性の違いはブラックホールに落下していくことのできる物質の量の違いであると考えられ

る。落ちていく物質がなくなると,ブラックホールが存在していてもエネルギーの放出量は

減少してしまうのである。

 現在の時点では,この巨大ブラックホール+アクリーションディスクのシステムがクェーサ

ー,セイファート銀河などの活動銀河や普通の銀河の中心核の真中に存在していると考え

るのが一般的である。そして,活動銀河と普通の銀河の違いは,その中心部付近の物質

の量の違いによるものなのであろう。

 

◆宇宙膨張の観測

 現代の宇宙論を考える際に最も重要な観測は1929年にハッブルによってなされた。ハ

ッブルの観測で重要なことは,赤方偏移が銀河までの距離に比例しているという定量的な

発見であった。ハッブルの赤方偏移-距離関係とドップラー効果による赤方偏移-速度関

係を合わせて考えると,銀河の速度は距離に比例しているというハッブルの法則が求めら

れる。

 ハッブルの法則は,銀河が距離に比例した速度でわれわれから遠ざかっていることを意

味する。宇宙の一様性からすると,宇宙の構成要素である銀河と銀河の間隔が,宇宙のど

こでも時間とともに広がっていることになり,別のことばでいえば宇宙が膨張しているといえ

る。ハッブルは宇宙が膨張していることを発見したのである。ハッブルが実際に測定した銀

河の数は数十でその距離も200万パーセク程度の領域のものであった。

 地球上で観測して遠方のすべての銀河がわれわれから遠ざかっていくことは,一見する

とわれわれが宇宙の中心にいるような感じをいだかせるかも知れない。しかし,遠方の銀河

の後退は地球が宇宙の中心に位置することを意味しない。宇宙が一様であることを仮定し

て,どの銀河も同じ立場であるとすると,ある銀河から観測したとき,太陽系の属しているわ

れわれの銀河はその銀河から遠ざかっていることになるし,他の銀河も遠ざかっているの

である。

 もう1つ注意が必要なことは,宇宙の膨張は遠方の銀河との間隔が開いていくということ

であって,近くの銀河との距離とか銀河の中の物質間の距離は広がっていくわけではない

ことである。宇宙が膨張しているのは,宇宙の初期条件が宇宙空間を広げるというものであ

ったことに由来しており,その膨張は宇宙の中の物質の重力によって減速されている。とこ

ろで,宇宙全体としてみたとき,宇宙にある力は宇宙の中の物質全体からの重力なのであ

るが,その力は宇宙初期の膨張速度を徐々に小さくする程度のものでしかないのである。

いいかえると,弱い重力しか作用していないため,宇宙膨張の初期の速度による運動が

観測されているのである。しかし,この宇宙全体からの重力は銀河や恒星をまとめている重

力や物質を形成する力にくらべて格段に小さく,したがって銀河そのもの,恒星そのもの,

物質そのものなどを考える際には膨張の効果はなくなってしまっていて,宇宙膨張から

は切り離されてしまっていることになる。

 

◆膨張宇宙のモデル

 観測的に得られたさまざまなデータを理解するためには,理論的な宇宙モデルをつくる

ことが役にたつ。宇宙には大量の物質があると考えられるので,宇宙全体を考える際には

物質間にはたらく引力である重力を考慮してモデルをつくらなくてはならない。強い重力を

扱うためには,ニュートンの発見したニュートン重力では不十分で,アインシュタインの一

般相対論を使う必要がある。一般相対論では,物質の存在が時間と空間に影響を及ぼす

ことになる。

 

 一般相対論を使った動的な宇宙モデルは,1922年に旧ソ連のフリードマン(A.Friedman)

によって求められた。フリードマンは宇宙が一様で等方であると仮定し一般相対論の方程

式を解いた。動的な宇宙論において,膨張や収縮を表すのに特別の方法を使う。膨張や

収縮は2つの銀河間の距離の変化によって表現できる。しかし,たくさんの銀河があって,

お互いに距離を広げていく場合には,どの銀河の距離を使うべきかがわからなくなる。そこ

で,時刻tと時刻Tで何倍に変化したかを考えることにすると,宇宙原理によって一様性を

仮定するから,その値は選んだ銀河によらない。この何倍になるかのファクターをスケー

ルファクターといい,a(t)と表す。ここでスケールファクターの値は時間とともに変化するの

で,時間の関数として書いてある。一般に,フリードマンモデルは宇宙原理を仮定している

ので,すべての量が場所の依存性をもたないで時間のみの関数となる。

フリードマンが求めた解は3種類に分類される。実際には時間と空間を合わせた4次元の

世界なのであるが,4次元的なゆがみを想像することや視覚化することは不可能であるの

で,ここではゆがみ方を2次元の面のゆがみで考えてみる。面が2次元であるので,その

ゆがみ方は3次元的な空間の中でみるとわかりやすい。面のゆがみには,球面のようにど

の方向をとってみても同じようにゆがんでいる場合がある。もう少し正確にいうと,球面のあ

1点を考え,その点で球面に接する平面を考えたとき,球面はその平面の片側に存在

するので,ゆがみ方が同じなのである。このような面を曲率が正の曲面という。それに対し

て,馬の鞍のような面を考え,ある点で接する平面を考えたとき,馬の鞍の曲面はその平

面の両側に出てくる。これは馬の鞍を馬にのせたとき,曲がり方が上に凸なところと下に凸

なところがあるためであり,このような面の曲率は負であるという。曲面の種類をこのような

曲率という概念で分類すると,もう1つが曲率のない面,いいかえると平面あるいは平たん

な面というものがある。フリードマンの3つのモデルはちょうどこの3つの分類に対応してい

て,普通はk=+1k0k=−1なるパラメータで表現される。このkの値の正,0,負が

それぞれ時空の曲率の正,0,負に対応する。この3つのフリードマンのモデルでは,その

スケールファクターのふるまいが異なる。k1k0のモデルでは,スケールファクタ

ーは時間とともに増大する一方である。ところが,k=+1のモデルでは,増大と収縮をくり

返す振動的なふるまいをする。kの違いはこのように,時空のゆがみ方の違いと,スケール

ファクターの時間的変動の違いを表している。さらに,k=+1のモデルは,球面のようなも

のなので有限の大きさあるいは体積をもっている。そのため閉じた宇宙といういい方をする

こともある。それに対し,k=−1k0のモデルでは,宇宙は無限であるので開いた宇宙

という。

 

◆宇宙の平均密度

 重力は引力であるので,引力のみで膨張する宇宙のモデルができるということは不思議

に思えるかもしれない。しかし,これは地上でボールを投げ上げた場合の現象と大変よく

似ている。投げ上げられたボールに作用している力は地球からの重力で,その向きは地

球の中心の方向を向いている。したがって,投げ上げられたボールはその引力によって

減速しながらも地球から遠ざかっていく運動を行う。こうした運動は,最初に投げ上げると

いう操作を行っているために可能となる。このような最初の運動状態は,自由に決めること

ができて,その状態を初期状態,そのときの位置や速度を初期条件という。つまり,運動は

運動の法則に従うのだけれど,初期条件の違いによってさまざまな運動が可能となる。地

球から投げ出したボールの運動の場合には,3種類の運動が可能である。1つは減速され

て速度が0となりその後地球に落下してくる場合であり,もう1つは減速されつつもどこまで

も飛んでいく場合,3番目はそのちょうど境目の状態である。それぞれ,地球の重力が初

速度にくらべ強いために減速が十分に効いて,運動の方向が逆転する場合と,重力が初

速度にくらべ弱いために十分な減速ができないので,いつまでも同じ方向の速度をもち続

けることができる場合である。

 宇宙の膨張運動は,このボールの運動と本質的には同じである。宇宙の膨張も,重力の

強さによって変わるのである。宇宙全体からの重力が強い場合,初期条件で与えられた速

度を減速させ,さらには収縮に転じさせることができる。一方重力が弱い場合,初期の速

度を逆向きに転じさせるだけの減速が不可能で宇宙は永遠に膨張を続けることになる。

 重力の強さは,宇宙にある物質の量と宇宙の大きさによって決まる。特に,密度を考える

ことで重力の強さを分類することができる。10 -29/cm3の密度をρcと書き,宇宙の臨界密度

という。実際の宇宙の密度が臨界密度より大きければ,それは宇宙に物質がたくさんある

ことを意味するので強い重力となり,k=+1のモデルとなる。また,宇宙の密度が臨界密

度よりも小さければ,重力が弱く膨張を収縮に転じさせることができない。したがって,k

1のモデルに対応する。宇宙の密度が臨界密度と同じ場合,k0のモデルに対応する

のである。

 それでは現実の宇宙,つまりわれわれの地球や太陽系の存在する宇宙の密度はいくら

であろうか。宇宙の密度を観測的に求めるためには,基本的には恒星や銀河がいくつあ

るかを数えればよいはずである。実際には,明るさと質量に関係があるので,質量そのも

のではなく,銀河の明るさからそこに何個の恒星があるかを推定し,また宇宙の中の銀河

の総数から,全体の物質量,この場合には光を出している物質の量を求める。このようにし

て求めた質量を使って宇宙の密度を出してみると,臨界密度のだいたい数%から10%の

値が得られる。この値からいうと,宇宙は開いた馬の鞍型のモデルに対応する。

 

◆ダークマター

 宇宙全体の密度というのは光を出している物質のみで決まるわけではない。光を出さな

い天体や物質が存在するかもしれないからである。そして,光を出さない物質の存在がなく

ては説明できない現象が多くある。

 たとえば,宇宙の中には銀河がいくつも集まって1つの系をなしている銀河集団というも

のが存在する。銀河集団中の銀河はそれぞれ乱雑な速度をもって銀河集団中を運動して

いる。もし,そのときの速度がきわめて大きければ,地球からきわめて大きな速度で投げ出

したボールのように,銀河集団の系から飛び出していってしまうので,そうした高速の銀河

は銀河集団のところに存在することがあったとしても,その滞在時間は大変に短い。したが

って,銀河集団を観測した場合,そうした高速運動する銀河が銀河集団のところに滞在す

る確率は大変に小さいと考えられるので,銀河集団の銀河はそこから飛び出すだけの速

度をもっていないと考えられる。こうして,観測される銀河集団に属している銀河にはその

速度に上限があることになる。その速度の上限は地球から投げ出したボールのように,そ

の運動をひきとめ得るだけの重力,あるいは物質の量の多さによって決まる。そこで,銀河

集団を構成する銀河の速度を測定し,その最大のものからその銀河集団のところにある質

量を推定できる。このようにして推定された質量を使って宇宙の密度を出してみると,臨界

密度と同程度になる。ここで考えた質量は光を出している物質のものではない。光を出さ

ない物質(ダークマター)が,光を出している物質の9倍も10倍も存在する可能性があると

いうことになる。

 このダークマターの存在は,前に述べたように,渦状銀河の回転速度の分布からも要請

される。回転速度が一定の領域が光で見える領域の外にまでつながっていることから,銀

河には光っている物質の存在する領域より外側まで,光を出さない物質が多量に存在して

いなくてはならないからであった。

 

◆宇宙の年齢

 宇宙が膨張していることは,過去にさかのぼると,宇宙が1点から始まった時期にたどり

着く。その間にハッブル定数が一定で,現在の値と同じであると仮定すると宇宙の年齢を

推定することができる。ハッブルの法則は

    vHr

であるので,宇宙の年齢t

  

である。1光年=9.46×10 12km1年=3.156×107秒であり,またH22km/s/106光年とする

と,  

    

したがって,宇宙の年齢は約140億年となる。しかしこの値はハッブル定数の値に幅があ

ること,またハッブル定数は時間とともに変化することから,宇宙の年齢の目安と考える必

要がある。

 

[宇宙の地平線]  宇宙の年齢というものが定義され,また有限の値が与えられると,宇

宙の大きさにも特徴的な長さが存在することが明らかとなる。それは,情報の伝達の速度

の最大のものが光速度であることを使う。宇宙の中に光速度をこえる速度がなく,また宇宙

の年齢が140億年程度であると,光を使って観測できる原理的な限界は光速度×宇宙年

程度の半径の内部に限られる。この領域の外側とこの領域の境界を宇宙の地平線とい

う。その外側は原理的に観測不可能であるからである。もちろん,この地平線までの距離

は宇宙年齢に比例しているから,時間に比例して増大していくものである。正確には,地

平線の半径をRH,宇宙年齢をtHとすると

RH2ctH

となっている。

宇宙の地平線に関して注意が必要なのは,宇宙膨張との関係である。図XXIIのように宇

宙膨張はスケールファクターのふる舞いで決まり,地平線の大きさは時間に比例して大き

くなる。ある時点での宇宙の大きさは,そのときの宇宙の地平線の大きさである。宇宙の

地平線のところでの宇宙の膨張速度は光速になっているわけではない。したがって,ハッ

ブルの法則を適用限界をこえて適用して,後退速度が光速度になるところが宇宙の地平

線であるという解釈は間違っている。その時点で宇宙の膨張速度が光速をこえるところは

地平線の外側にあるのである。

 

3K黒体放射

 アメリカのペンジアス(A.Penzias)とウィルソン(R.Wilson)は,われわれの銀河からの21cm

電波による精密な観測を最終目的として,電波アンテナや測定装置を改良し雑音をできる

かぎり押える努力をした。その際に,彼らは7cmの波長で測定することによって改良した装

置やアンテナからの雑音がどの程度あるかを調べた。7cmの波長の電波は天体からはほ

とんど出ていないと予想された。したがって,空に向けられたアンテナには,地球大気から

雑音のみが受信されると考えたのである。確かにその波長での観測によって雑音が測

定できたが,その大きさはアンテナの方向によらないでほぼ一定であった。雑音源が地球

の大気ならば,アンテナの方向を変えることで大気の厚みが変化し,電波の強さも変化す

るはずであった。しかし,観測結果はその依存性を示していないのである。

 電波の観測で得られた強さを表現するのに温度を使うことがある。その温度の1つの定

義は,その電波が黒体放射であると仮定したときに何度の黒体に相当するかで定義され

る。彼らの測定した電波から得られた温度は絶対温度で3度であった。

 現在の宇宙がある温度の黒体放射で満ちているということは,1940年代にガモフ

(G.Gamow)が予想していた。ガモフは宇宙の中のさまざまな元素が存在することを説明す

る理論を考えた。宇宙の初期には単純な元素のみが存在し,そのときには高温高密状態

であったと仮定すると,核反応によって次々と重い元素が形成されるという理論である。最

初に中性子の存在ときわめて高温を仮定すると,まず陽子そしてヘリウムが形成される。く

わしく検討してみると,ヘリウムより重い元素はほとんど形成されないことがわかった。した

がって,ガモフの理論は宇宙の元素の起源をすべて解明するものではなく不十分なもの

であったが,ヘリウムは宇宙初期につくり出しておかなければ,観測量を十分に説明でき

ないのも事実であり,その意味ではガモフの理論は宇宙におけるヘリウム形成の理論とし

て生き残っている。

宇宙初期に高温度を仮定することで元素合成ができることを示そうというのがガモフの理

論の主目的であったが,副産物として初期の高温状態のなごりが7Kの黒体放射として存

在することも予言していた。宇宙が断熱膨張しているために,最初の高温状態からしだい

に温度が低下していくというのである。したがって,ペンジアスとウィルソンの測定した3K

相当する電波は,ガモフの考えたように宇宙初期の高温状態の存在を示す証拠となり得

るもので重要な意味をもつ。ただ,このことが事実であるためには,7cmの電波だけでな

く,その放射が黒体放射のスペクトルをもつことを観測する必要がある。その観測はいろい

ろな手段でなされていたが,1989年末に打ち上げられた観測衛星(COBECosmic

Background EXplorer)によって,すべての波長にわたって2.7Kの黒体放射に一致すること

が最終的に確認された。この放射のことを3K宇宙背景放射という。

宇宙の等方性は3K黒体放射の観測からきわめて精度よく示されている。この電波は発見

当初からどの方向からもほぼ同じ強度でやってくることがわかっていたが,さらに1992年に

なって,この3K黒体放射の非等方性は10万分の1程度であることが見いだされた。この

観測もCOBEによるものである。10万分の1の違いというのは,富士山の高さが3cm高い

か低いかを問題とするレベルの精度である。したがって,非等方性は0ではないがきわめ

てよい精度で等方であるというべきである。つまり,宇宙の中の黒体放射から宇宙の等方

性が観測的に示されているのである。

 ところで,3K黒体放射は何から出てくる放射なのであろうか。ヘリウム量の観測から宇宙

初期は非常な高温高密状態であることがわかっている。高温状態では放射が重要な役割

を果たす。宇宙初期は光の支配する宇宙であったと考えてよい。宇宙の断熱的な膨張とと

もに温度が低下してくると,しだいに物質の役割が重要となってくる。高温状態で存在する

物質は,物質どうしや光との相互作用によって,最初は中性子や陽子や電子といった素

粒子の状態であるものが,温度が低下して109K程度になると,ヘリウムの原子核をつくる。

さらに温度が低下して数千度になると,電子と陽子が原子の状態である中性の水素に結

合する。ここで重要なことは光と物質の相互作用の強さは,自由な電子の存在する場合と

中性の水素になってしまった場合とではまったく異なってしまうことである。光と自由電子と

の相互作用は大きく,光は自由な電子によって散乱されて方向を絶えず変え続ける。たと

えば,太陽中心部では光は数cmしか直進できない。数cm進むごとに電子と衝突して方向

が変わるからである。ところが,電子が陽子にとらえられて中性の水素原子になってしまう

と,光との相互作用はきわめて小さくなって,光は散乱されることなく直進ができるようにな

る。いったん直進できるようになった光は宇宙の中を進み続ける。宇宙膨張の中で水素原

子が形成される(水素の中性化)のは数千度の温度になったときで,このときに宇宙の中の

光が以前の不透明な状態から直進を始め,宇宙は透明になって晴れ上がる3Kの黒体

放射はこの晴れ上がりの時点で放出された光が現在観測されたものである。つまり,数千

度の不透明な光と物質のかたまりからもれはじめた黒体放射である。

 さて,黒体放射というのは,熱した物体から出てくる光で,温度のみですべてが決まって

しまう。たとえば,黒体放射のスペクトルでの最大の強さをもつ波長は温度に反比例してい

る。膨張宇宙で波の波長がのびていくと,黒体放射での最大強度をもった波長ものびてい

く。黒体放射での最大強度の波長は温度に反比例していたから,温度が低下していくこと

になり,しかもそれはスケールファクターに反比例することになる。こうして黒体放射の温度

は,膨張宇宙の中では「温度×スケールファクター=一定」という関係を満たしながら変化

するために,宇宙初期の高温状態が現在では低温として観測されることになる。

 3K黒体放射は宇宙のきわめて初期の状態が観測されているものではない。宇宙は

れ上がる以前は不透明であって,そこからの光は現在のわれわれに到達することはな

い。宇宙が晴れ上がって光が直進できるようになって初めて,その光が現在のわれわれの

ところまでやってくることが可能になったのである。3K黒体放射は宇宙が30004000K

度の温度に低下したときに発せられた光を見ていることになる。このことは温度が1000

程度であるので,宇宙のスケールファクターが現在の1000分の1の頃の光であることを意

味する。スケールファクターの時間依存性を調べると,これは宇宙膨張の開始から数十万

年後であることになる。

 

◆火の玉宇宙

 宇宙初期に高温高密度状態を仮定して元素の形成を考えようとしたのが,ガモフであっ

た。ガモフ自身の最初のもくろみは宇宙のすべての元素を宇宙初期につくり出すことであ

ったが,ベリリウムやホウ素が形成されてもすぐに壊れてしまうために,炭素や酸素といっ

た重い元素をつくり出すことはできなかった。しかし,この考えによればヘリウムは必ず形

成されるので,理論的な値と観測値とを比較することで,高温高密度状態が存在したか否

かの別の証拠とすることができる。観測的にはヘリウムは宇宙の物質の重さのうち約25

を占めているということが,種々の天体の観測からわかっている。

 理論的にどれくらいのヘリウムが形成可能かを考えてみる。最初に中性子のみがあった

と考える。中性子は単独で放置しておくと15分程度で陽子と電子およびニュートリノに崩

壊する。もちろん高温高密度状態では陽子と電子やニュートリノとの衝突によって,中性子

の形成という崩壊の逆反応も起こる。宇宙の初期にたくさんの中性子があったとすると,宇

宙が膨張して温度が低下した際に,中性子の崩壊と形成の過程のうちで,崩壊のほうがま

さってきてしだいに陽子の数が増えてくる。どれくらい増えるかは温度が何度になるかで決

まる。

 その温度を考えるには,ヘリウムの形成の詳細を考えなくてはならない。ヘリウムは陽子

2個と中性子が2個からなる原子核である。原子核の反応では2個の陽子と2個の中

性子のように4個の粒子が1か所で衝突してヘリウムを形成することは大変にむずかしい。

実際には,1個の中性子と1個の陽子が反応して重水素という水素の一種を形成する。こ

うして形成された重水素がもう1個の重水素と反応して3重水素や中性子を1個のみ含む

ヘリウムを形成する。この重水素の反応が起きるためには,十分な重水素が形成されてい

る必要がある。重水素ができるためには中性子が崩壊してしまっていては困るので,中性

子が崩壊しないうちにしかも,衝突の反応が十分起きるだけ多くの重水素ができるというこ

とを考えると,温度が約10(109)K程度であることが必要となる。温度がこれよりも高すぎ

ると,重水素が十分に形成されないし,温度が低くなる時点では中性子が崩壊してなくな

ってしまっているからである。

最初中性子のみであったとしたとき,約10K程度の温度では,陽子が中性子の約7

程度の個数になることが導かれる。このことを使うと,形成されるヘリウムの量を計算するこ

とが可能となる。中性子と陽子の質量はほぼ等しいのでこれをmとすると,ヘリウムの質量

4mとなる。形成されるヘリウムはその時点で存在した中性子の数の半分である。なぜな

ら,陽子のほうが多いので少ない中性子がすべて使われたところで反応が終了し,中性子

2個からヘリウム1個の割合で形成されるからである。したがって,中性子の数をNとして

みると,陽子の数は7Nであり,形成されるヘリウムの数はN/2個となる。このことから,形成

されるヘリウムの重さは4m(N/2)2mNであり,宇宙の全質量はm(N7N)8mNとなって

いる。したがって,その比は2mN/8mN0.25となり,宇宙の全体の約25%がヘリウムであ

ることがいえる。この値は観測的にわかっている値とほぼ同じであるので,宇宙初期の高温

状態の存在を強く支持する根拠と考えられる。こうした高温状態の宇宙を火の玉宇宙とい

う。

 

◆ビッグバンモデル

 宇宙の過去を考えるときにはフリードマンモデルに現れた3つのモデルはほとんど同じ

ふるまいをしているので,いろいろなことがわかる。宇宙が膨張していることを考えると,現

在の銀河間の距離とその膨張速度から何年前に膨張が始まったかを推定できる。距離を

速度で割れば,膨張を始めたときから何年たったかが求められる。

 特に,ハッブルの法則を使うと,速度は距離とハッブル定数の積で表されることから,宇

宙の膨張の時間はハッブル定数の逆数になることがわかる。この値が宇宙の膨張開始か

らの時間のおおざっぱな値で,宇宙年齢といわれる。この年齢は,ハッブル定数が

50km/s/Mpcから100km/s/Mpc(Mpcはメガパーセク)であることを使うと,およそ100億年か

200億年となる(H72km/s/Mpcを用いると約140億年)。宇宙はいまから100億年〜200

億年前に大爆発によって膨張を開始したのである。そこで,このモデルをビッグバンモデ

ルという(教図23)

 

 

 








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