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1節 われわれの銀河

 

銀河系の発見

 恒星や星雲といった天体は古くから知られていた。特に星雲に関しては,フランスのメ

シエ(Messier)がカタログをつくり,その分類は現在でもM1(かに星雲)M31(アンドロメダ

銀河)のように使用されている。しかし,これらの星雲のなかには,かに星雲のような現在

ではガス状の星雲で銀河系内にあることがわかったものと,アンドロメダ銀河のような銀河

系外の恒星の集団であるものとが混在していた。これは銀河系という概念が見いだされて

いなかったことによる。つまり,天体がすべて1つの系をなしており,その中に個々に分離

される恒星と広がった星雲が存在していると考えられていたのである。これは,天体まで

の距離が測定できなかったことにも原因がある。

 しかし,ハーシェル(W.Herschel)は特定の等級までの恒星の数の方向依存性を調べ,恒

星がレンズ状の集団をなして存在していることを見いだした。これによって,宇宙の中に

は,恒星以外に多数の恒星の集団という別の階層が存在することを示したわけである。も

ちろん,ハーシェルはその集団の大きさや星雲までの距離を測定することができなかっ

たので,宇宙には銀河系だけでなくその外部に多数の銀河が存在するという描像が得ら

れたのは,シャプレー(H.Shapley)によって銀河系の大きさが測定されてからである。

 

◆変光星による銀河系の大きさの測定

 天体からの光は星間物質によって吸収されるため,銀河面内では3kpc(kpcはキロパー

セク)より遠くの星は可視光線では観測できない。したがって,銀河面から離れた天体を観

測することによって,銀河系のスケールを知ることができる。

 近傍の恒星までの距離は,年周視差を測定したりスペクトル型を観測することで知ること

ができるが,遠くの星団については,年周視差やスペクトル型を使うことはできない。しか

し,星団の中に変光星があると,その絶対等級を推定でき,それを使って距離を求めるこ

とができる。

 変光星のうちで周期的に変光する脈動変光星は,その変光周期と絶対等級の間に,は

っきりとした相関が認められている。この関係を周期光度関係という。ケフェウス座δ星のよ

うな変光星をケフェウス座δ型変光星(古典的セファイド)といい,その変光は図Iのようにな

る。その変光周期と絶対等級の関係は図IIの中に示してある。

 

 

 

それを式で表すと,

 Ma logPb     (M;絶対等級,P;変光周期)

となる。ここでabは定数であるが,観測者によって幅をもった値である。

おとめ座W型変光星は,ケフェウス座δ型変光星とよく似ているが,ケフェウス座δ型よ

12等級暗い。ケフェウス座δ型変光星は種族Iの恒星であるのに対し,おとめ座W

型変光星は種族IIに属する。こと座RR型変光星は星団型変光星ともいわれ,種族II

恒星で,その変光周期は短く絶対等級はほぼ一定である。こと座RR型変光星の周期光

度関係は,おとめ座W型変光星のほぼ延長上に連なる。

 表Iは種々の脈動変光星の特徴を示したものである。図IIIは,これらの変光星のHR

上の位置を示したものである。これを見ると,脈動変光星はHR図上の限られた領域に存

在し,恒星の進化のある一段階にあると考えられる。主系列から離れるほど,周期は長く

光度が大きくなっていくこともわかる。

 

 

 

 

 

◆球状星団の分布

 現在までに約130個の球状星団が発見され,約110個の星団の空間分布が求められて

いる。図IVは銀河面に垂直な面に投影した球状星団の分布図である。これを見ると,太

陽が銀河の中心からかなり離れた位置にあることがわかる。この球状星団の分布から求め

られた銀河系の半径は,恒星が密に分布している銀河系の円盤部の半径よりも大きい。こ

のような銀河の円盤部をとり囲む大きな球状空間を銀河のハローとよんでいる。

 

◆銀河系内の恒星の分布

 銀河系は,半径5万光年程度の銀河円盤部分,半径1万光年程度のバルジ,半径7.5

万光年程度のハローからなる。恒星はこの3つの領域に分布しているが,それぞれの領域

で特徴をもっている。

 

ハロー部分には球状星団があり,1つの星団に数十万から数百万の星が存在している。

この星団の星の特徴は,年齢が150億年程度と古く,その化学組成は水素とヘリウムとが

ほとんどを占めて,それらより重い金属元素がきわめて少ないことである。つまり,恒星と

しては種族Uに属す古い星である。星団中では恒星と恒星の相互作用が大きいため,中

性子星などのコンパクト星が多く観測されている。またハローに属する星は銀河面に対し

て大きな速度で運動している。

 バルジの恒星の質量は小さいものが多く,その年齢は球状星団のものと同程度である。

のため,進化して赤色巨星の段階にあるものが多いので,橙黄から赤い星として観測さ

る。

 円盤に属する恒星は主として種族Iの星で,銀河面に対する速度は小さく銀河面内にと

どまっている。特徴的なことは年齢の若い星が多いことで,それは恒星が銀河面内で誕生

していることを意味する。恒星は銀河円盤中でも特に渦巻きの腕のところで誕生するもの

が多い。渦巻きの腕のところには大量のガスやダストが存在し,銀河の回転と重力の作用

で恒星を生み出しやすい環境になっている。また,銀河面の外側の領域には大質量の若

い星が多く,高温の青い色の星として観測される。

 

 

◆銀河系内の水素の分布

 中性の水素原子では,中心の陽子とそのまわりを回っている電子がそれぞれ自転してお

り,その自転の方向が同じ向きのものと逆向きのものとの2つの状態が存在する。その2

の状態の間を遷移する際に,電波を放出したり吸収したりする。この遷移で放出されるエ

ネルギーに対応する電波の波長が21cmである。したがって,波長21cmの電波を観測す

ることで,中性水素の存在とその運動や密度を知ることができる。

 

 この21cmの電波を使って銀河系内の中性水素原子の分布や密度が測定され,それを

もとにして銀河系の構造を推定することがなされた。ある銀経lの方向で電波を観測する

と,その方向に沿う各点の放射が重なり合って,図VIのような波長に対する電波強度の分

布が求められる。ただし,この図では波長の21cmからのずれΔλのかわりに,それに相当

する視線速度(cΔλ/λc;光速度,λ;電波の波長=21cm)で表してある。ここで,銀河回転

が円運動であり,この波長のずれがその回転運動の視線方向の成分に起因すると仮定す

る。すると,たとえば図VIの曲線上の点Aでは電波強度がaであり,また視線速度はv

であるから,観測した方向がlであったとすると,

    

であり,V0R0はわかっているからV/Rが求められる。ただし,VRA点での速度と銀

河中心からの距離,V0R0は太陽の位置での速度と銀河中心からの距離である。したがっ

て,電波強度のピークを示す中性水素原子がどこにあるかがわかる。一方,電波強度a

どれだけの数の水素原子によって放射されたかは理論的に計算できるので,水素原子の

密度も推定できるのである。

 

◆銀河系中心部

 アメリカのジャンスキー(K.G.Jansky)は,天の川に沿って帯状にとり巻く領域から電波がや

ってくることと,その電波強度のピークが赤経18h,赤緯-10°の方向にあることを発見した。

これが銀河系の中心部の最初の観測であった。現在では,銀河系の中心は赤経

17h45.7m,赤緯−29°00′にあるいて座Aであることがわかっている。波長の長い電波は主

にシンクロトロン放射によるものであり,これは強い磁場と高エネルギー電子の存在を示し

ている。一方,波長3.75cmの電波は熱放射が優勢であり,これによって銀河の中心部に

はガスが密集していて,盛んに星が誕生していることが推測できる。また, CO2.6mm

のドップラー効果からガスの運動についても調べられている。これによると中心部には高速

のガスがあり,大規模な爆発か高速のジェット現象があると考えられている。このジェット現

象は,スケールは小さいがクェーサーや電波銀河に見られるジェットと共通の性質をもって

いる。このようなことから,銀河系の中心部でも,非常に活発な活動があることが考えられ

る。

 

◆銀河系の活動性

 銀河系はその形成後に進化して現在の姿になったものである。銀河の進化の理論は現

在でも未知の部分が多く残されている。それは銀河系を含め銀河では数千億個の恒星と

大量のガス雲を扱わなくてはならないため,理論的な計算ができないためである。

 しかし,観測的には現在の銀河系もさまざまなレベルで活動していることがわかる。可視

光線で観測される典型的な活動性は渦巻きの腕における恒星の形成である。渦巻きの腕

は,その腕の中にある恒星とガスは不変ではなく,時間とともに流れ込み流れ出している。

その流れは銀河系の回転運動によるものであるが,腕そのものは流れの中にできたパタ

ーンである。そのパターンが可視光線で目だつのは,そこで恒星が生まれ明るく輝いてい

るためである。この腕の部分には物質が集まっていて重力ポテンシャルのくぼみになり,銀

河回転によって運動しているガスが音速をこえた速度で流れ込むために,そこに衝撃波が

形成される。その衝撃波によって重力的に不安定なガス雲が収縮を始め,原始星をつくる

と考えられている。

さらに,電波の観測が可能になってくると,銀河系の中心部にある分子雲の観測がなさ

れ,中心部では激しい活動があることが示された。そうした観測はオランダのオールト

(J.H.Oort)たちが1950年代の終り頃に最初に行った。その際に見いだされたのは,銀河中

心から2000光年程度のところに200km/s程度の運動速度をもった中性水素雲で,回転し

ている円盤であると考えられている。また,中心から50km/sの速度で膨張しているガス雲も

観測されており,それは中心から1万光年程度のところにある膨張するリングで,3kpcアー

ムとよばれている。

 

 その後分子雲の観測が進むとともに,一酸化炭素(CO)やホルムアルデヒド(HCHO)を使っ

た観測から,半径が800光年程度のところに130km/sの速度で膨張しつつ50km/sの回転

速度で回転している膨張分子リングが発見され,銀河中心でのなんらかの爆発的な現象

によって形成されたと考えられるようになってきた。

 さらに中心に近い領域でも活動性が見られる。最近の赤外線と電波の観測からは銀河

系の中心から5光年程度のところまで3本の電離ガスの流れがあることが見いだされ,ミニ

スパイラルとよばれている。またそのミニスパイラルをとり巻く半径6光年のリングも存在して

いる。ネオンを使った赤外線の観測からは,銀河系中心付近の電離水素ガスの運動速度

700km/s以上という高速度であることが示された。そのことは,銀河系中心から1光年の

距離の内側に,太陽の100万倍の質量が必要であることを意味する。そのような狭い領域

に大質量があることは,それが巨大なブラックホールであると考えてよいのかも知れない。

 

◆恒星の固有運動

 恒星の天球上の動きを固有運動という。固有運動は,天球上を1年間で動く角度()

表す。固有運動は1718年,ハレーによって発見された。実際の測定は,数十年を隔てて

とった2枚の写真をくらべることによって,より小さな固有運動をもつ暗い星を基準として,

相対的な固有運動を決定できる。いくつかの星の絶対位置を子午環を使って測定してお

くと,絶対固有運動への変換が可能である。

 ここで子午環というのは,1704年にレーマー(Roemer)によって最初につくられた特別の

望遠鏡である。子午環の望遠鏡は東西方向に固定した軸のまわりを子午面内で動く。望

遠鏡の焦点面には十字線があり,その縦糸が子午線に一致している。星がこの子午線を

通過する時刻を精密な時計で測定して,星の赤経を定める。視野中の水平の糸から,子

午線通過高度がわかり,星の赤韓が求められるのである。

 星の視差をp(角度秒)とすると,固有運動μは星の速度の接線成分Vtkm/s〕と

    Vt4.74

の関係がある。

 

◆運動星団

 1908年にボス(L.Boss)がおうし座のヒアデスのまわりの星のグループが,天球上である点

に向かって収束していくことをみつけた。これはこの運動星団がある一方向に並進運動し

ているのを太陽から観測したときに観測されるパターンである。運動星団の太陽に対する

速度をV,天球上での星と収束点との角度をθとすると,星団中のある星の固有運動μ

視線速度Vrの間には

   VrV cosθ                

     VtV sinθ4.74

の関係があり,星の視差は

     

と求められる。こうして固有運動・視線速度・収束点の観測によって,運動星団までの距離

を推定することが可能となる。この方法による距離測定は,長時間の観測によって固有運

動の測定の精度が上げられるので,三角視差による方法より高い精度をもつ。

 

◆離散していく星

 O型やB型の若い星はかたまって存在していることが多く,OBアソシエーションといわれ

るが,アソシエーションに属する星は同じ星間ガス雲から生まれた星々であると考えられ

る。しかし,こうした系は力学的には不安定な系なので,それぞれが離散していき,誕生か

ら数千万年程度たつと1つの系としては存在しなくなってしまう。逆にいうと,アソシエーショ

ンが若い星から構成されているのは,系として壊れる以前の誕生後間もない時期にあるた

めである。

 

◆太陽運動

 太陽近傍の恒星は全体としてほぼ同じ運動をしているが,それぞれの星については多

少のばらつきがある。太陽近傍の恒星の集団運動と太陽の銀河中心に対する運動の差を

太陽運動という。太陽運動は,太陽から100光年程度以内の恒星の空間運動を調べるこ

とによって求めることができる。これによると,太陽は赤経272°,赤緯+30°(銀経56°,緯+

23°)のヘルクレス座の方向(太陽向点)に速さ19.5km/sで動いている。

 

◆恒星の空間運動

 恒星の見かけの空間運動は,固有運動と視線方向の動きに分けて観測されている。後

者はドップラー効果によって視線速度として求められる。このような恒星の見かけの運動

は,太陽の運動と恒星自身の運動の両方の結果である。恒星の実際の速度,その視線方

向と接線方向の速度をそれぞれVVrVtとすると,

  V 2Vr 2+Vt 2

である。ここで星の固有運動をμ,星の視差をpとすると,

  Vt4.74km/s

となる関係があるので,距離がわかった星の場合には恒星の運動がすべてわかってしま

う。

 

◆銀河系の回転と形

 銀河系は偏平な恒星集団をなしているが,重力によってつぶれないのは,恒星が銀河

系の中心のまわりを回転しているからである。これを銀河回転といい,その回転の速度は

銀河中心から銀河面に沿った距離Rだけに関係すると見られている。それぞれの恒星の

実際の運動はこの銀河回転にそれぞれに特有の運動が加わったものと考えればよい。し

たがって,銀河系の中心からの銀河面に沿う距離がRのところにおける銀河回転は,その

近くに存在する多数の恒星の実際の運動を平均したものにほかならない。銀河系が回転

していることが実証されたのは,1927年オールトが,銀河面近くの恒星の平均的な運動

に,図XIIに示されたような系統的な傾向を見いだすことができたからである。

 銀河面内の星は,太陽系の惑星と同様,銀河の中心に近い星ほど大きな角速度で回転

していると考えられている。このような星を,同様に回転している太陽から見ると図XII(a)

ように動いて見えるはずである。図XII(b)において,太陽に相対的な視線速度は

    Vrsin(lωω0)R0ω0 sinl

     =R0(ωω0) sinl       ……(1)

    Vtcos(lωω0)R0ω0 cosl

     =R0(ωω0) coslωr      ……(2)

これらの式をrR0として考えると,  ((1)(2)をテイラー展開して)

    VrAr sin2l          ……(3)

    VtBrAr cos2l        ……(4)

となる。ただし,ABはオールト定数とよばれていて,最近では

    A0.015〔km/s/pc〕  B=−0.010km/s/pc

が用いられている。

 また,理論からオールト定数ABは,銀河の回転速度をVとすると,

    A      B=−

で表される。したがって,銀河系の中心から太陽までの距離Rがわかると,

    AB    =−(AB)

によって,太陽付近における銀河回転の速さや,銀河中心からの距離による銀河回転の

速さの変化を求められる。太陽から銀河中心までの距離を10kpcとすれば,

    AB0.025〔km/s/pc

    AB=−0.005〔km/s/pc

であるから,

    V250〔km/s

    =−0.005〔km/s/pc

となって,太陽付近での銀河回転速度は250m/sで,太陽から銀河系の中心に対し100pc

離れたところの銀河の回転速度は,0.5km/sだけ変わることがわかる。

 銀河回転の分布を知るためには,いろいろな星について角速度ωを求めればよい。

(1)(2)式によりrlが求められるとωを知ることができる。観測可能な光学天体は,銀河面

に集中するOB型星,セファイド,散開星団と星間ガス(HII領域)である。光学的には太

陽からkpcの範囲ぐらいしか観測できないが,これからわかる銀河回転は,ほぼ一定で

250m/sとなる。

 遠くの銀河回転を知るためには電波が用いられる。中性水素原子(HI)が放射する波長21

cmの電波は,星間吸収を受けにくいため,銀河回転によって生じるドップラー効果を遠くま

で観測できる。

 HIガスが,恒星と同じ銀河回転をして,さらに銀河の中心から離れるほど回転速度が小

さくなると考える。ある銀経lの方向にあるHIガスの視線速度を調べたとき,(1)式からR

最小(RR min)のときωが最大になり,Vtが最大値をとることがわかる。(1)式は

    Vrsinl         (V0ω0R0VωR)

とかける。また

  R minR0 sinl

なので,Vrの最大値は

    VrmaxVV0 sinl

となる。したがって,銀河面のいろいろの方向で視線速度が最大になるVrの値を観測する

と,R0V0の値が知られていれば,銀河面に沿う距離RR0 sinlにおける銀河回転の速さ

を求めることができる。

 

◆銀河系内の恒星の軌道

 銀河系の中の恒星の大部分は銀河円盤の中にあり,銀河円盤内を銀河回転している。

銀河回転の周期はほぼ2億年程度である。もちろん円盤内の恒星にも銀河回転の運動だ

けでなく,15m/s程度の乱雑な速度の成分をもっており,そのために銀河円盤に厚みがで

きている。しかし,乱雑な運動の銀河円盤に対して垂直な方向の成分はあまり大きくないた

め,銀河円盤の厚みは,数千光年程度にしかならない。

 

 

一方,球状星団に属する星は,平均的な運動としては球状星団の運動を行うことにな

る。もちろん,球状星団内では乱雑な運動速度をもって運動しており,そのために球状星

団が球的な形状を保っている。球状星団は銀河円盤より少し大きい半径をもったハローに

ほぼ一様に分布しているが,それは球状星団の運動が銀河面や銀河円盤内に限定され

ていないで,その球の中を銀河中心を焦点とする楕円軌道で運動しているからである。た

だし,その楕円軌道の長軸も時間とともに移動していき,図XIIIのようなロゼット運動をして

いる。球状星団の太陽に対する相対速度の大きさは100200m/s程度の大きなものであ

る。また,球状星団に属していなくても高速度星という星は銀河面に対して75km/s程度の

速度をもって銀河面に垂直な運動をする。この高速度星も種族IIに属する。

 銀河面内にある恒星は種族Iで比較的若いものであり,一方,球状星団の星は種族II

に属している年齢の古いものである。つまり,若い星の運動は円盤内にあり2次元的で,古

い星はハロー内を自由に3次元的に運動している。このことは星の運動形態が,銀河系の

形成過程を大よそのところ反映していると考えてよい。銀河系は原始銀河系星雲から収縮

しながら誕生したと考えられる。そのため,初期に形成された球状星団は,その時点のガ

ス雲の形状つまり球的な形状内を運動することになる。一方,銀河円盤内の星は,原始銀

河系星雲が赤道面方向につぶれてできた銀河円盤内で形成されるため,円盤の運動状

態を保持するのである。

 

◆太陽付近の質量

 質量の測定には大きく分けて2通り考えられる。

 1つは天体をすべて計測して和をとるという直接的な方法である。太陽近傍の星を太陽

から約20pc以内ですべて数え上げたものに,グリーゼのカタログ(1969)がある。そのカ

タログには約1500個の星がのせられている。このカタログを使うと,太陽近傍の質量密度

1立方パーセクあたり0.06Mとなる。これに星間ガスの密度0.02M/pc3を加えると,

0.08M0/pc 3となる。

 しかし,太陽近傍の天体がすべてこのカタログの中に含まれている保証はない。それ

は,太陽近傍の星として選ぶ際に,固有運動が大きいものを選んでいるためである。つま

り,近い場合には固有運動が大きいであろうと考えて,それを選択の基準にしているので

ある。近くにあっても固有運動が小さければ,このカタログに含まれていないことになる。し

たがって,上の数値は密度の下限でしかなく,実際の密度はもっと大きい可能性がある。

 その欠点を補うものに,別の方法がある。それは質量の分布が重力分布から見いだされ

るということを使う。太陽の近傍のみを考える場合には,銀河円盤の一部のみが問題にな

るので,天体は銀河面に平行に分布していて,それによる重力分布は銀河面からの高さz

のみの関数であると考えてよい。この高さの方向に物質がつり合い状態にあるとする。これ

は,銀河円盤内にある物質による重力と,恒星の乱雑運動による圧力がつり合っているの

である。この乱雑運動は明るい星に着目して銀河円盤からできるだけ離れたところまで観

測して求める。

 その観測によって求められた星の乱雑運動の速度とその星の密度を使うと,重力の分布

を求めることができる。重力の分布はいま着目した特別の星の密度のみでなく,円盤内の

天体すべての密度と簡単な関係をもつ。それは,重力分布をF(z),密度分布をρ(z)とする

と,

    =−4πGρ(z)

 

である。したがって,重力分布から質量をもつすべての天体の密度を求めることができる。

こうして得られた太陽付近の物質の密度は0.15M/pc 3である。これは直接見える天体だけ

の計測の約2倍の値をもつ。したがって,太陽系の近傍に見えない質量であるダークマタ

ーが存在しているのかも知れない。

 

◆銀河系の質量

 銀河系が自らの重力で収縮したり,逆に飛散したりしないのは,力学的につり合いが保

たれているからである。すなわち,重力と銀河回転による遠心力および銀河系内の物質の

無秩序な運動による反発力とがつり合っていることになる。したがって,われわれが知りうる

銀河系の力学的情報をもとにして,銀河系の質量分布を求めることができる。銀河系の全

質量は太陽質量の2.7×1011倍でその密度分布は図XVのようになっている。ここで注意が

必要なのは,このときに使用できる力学情報は銀河面内では太陽位置より内側の情報で

ある。その情報のみからは,質量は一意的には決定できないので,球状星団の運動の情

報も加えることによって上記の値が求められている。

 ところで,銀河系以外の銀河に関しては,銀河の明るさからその質量を推定する。そこで

は,恒星の質量光度関係を使う。明るさの測定は比較的容易であるので,銀河の質量も

求められるのである。また,銀河内の星の分布は,銀河の表面輝度分布で推定することが

できる。銀河の外側のほうは中心にくらべて暗いので,星が少なくなっていることがわかる。

 ところが,渦巻き銀河の場合,その回転曲線は銀河系と同じように,あるところからほぼ

一定の値を保っている。光で観測される銀河の領域をはるかにこえたところまでこの一定

値が続いている。つまり,銀河の中心から遠く離れているところも,回転速度は減少しない

のである。遠くの天体もー定速度の回転運動をするためには,銀河中心からの距離がR

ところより内側にある質量M(R)は,Rに比例していなくてはならない。なぜなら,

     

で,Vが一定であるからである。しかし,銀河表面の明るさから推定した質量分布はそうは

なっていない。このことは,光で見えていない領域に大量の質量が存在することを意味す

る。このようにして求めた質量を力学的質量という。しかし,この質量をになう天体は光で観

測されないので,ダークマターとよばれる。

 

199310月に,ダークマターの1つの候補となり得る質量が見いだされた。それは重

力レンズ効果を使って見いだされた。重力レンズ効果とは,アインシュタインの一般相対論

によって予想される現象で,重い質量の天体の近くを光が通りすぎると,あたかもレンズが

あるかのように光の進路が曲げられることをいう。重力レンズは,光を集めるという効果もあ

るため,光源から出た光が強められて観測される。たとえば,光源と観測者の間を重力レ

ンズ天体が運動して通りすぎると,光源からの光の強さは時間とともに増大し再び減少して

いく。ただ,重力レンズとしてはたらいた天体は,光では観測されていない。つまり,質量

はもつが光を出さないダークマターである可能性が高いのである。1997年までに数百個

の重力レンズが発見されており,それらの光の明るさの変動の様子から,重力レンズ天体

の質量は太陽の50%程度の質量であることはわかる。しかし,この天体が何かは未だにわ

かっていない。

19971998年に,神岡にあるスーパーカミオカンデというニュートリノ検出装置によっ

て,入射するニュートリノの方向性が測定された。その結果,神岡の上空からのニュートリノ

と地球の反対方向の地下からのニュートリノに有意な差が観測され,それはニュートリノに

質量があることを意味している。銀河系も含め宇宙にはニュートリノが満ちていることもあっ

て,ダークマターの質量のある部分を担っている可能性が大きくなってきた。ただし,ニュ

ートリノの質量が正確に決まったわけではないので,量的な問題は今後の研究によるが,

ニュートリノや上記の重力レンズ天体ですべてのダークマターが説明されるとも限らない。

 

 

 








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