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3節 さまざまな観測法

 

人工衛星による観測

[赤外線の観測] 黒体放射の場合,温度によってスペクトルが定まっているが,その強

度が最大となる波長と温度の積は一定である(ウィーンの変位法則)。したがって,温度の

低い物体からの電磁波では波長の長いものの強度が強くなる。実際,3Kから3000K

度までの低温度の恒星や,星間雲や星間塵に囲まれた星からの放射では,赤外線が重

要となる。また,可視光線は天体と観測者の間にある星間塵などで散乱・吸収されるの

で,天体と観測者の間に物質の多い方向は遠くまで見通すことができないのに対し,赤

外線はこうした散乱・吸収を受けにくく,可視光線で見えない領域を観測することができ

る。また赤外線のエネルギーは0.001eVから1eVで,分子の回転のエネルギー,固体の

振動のエネルギーに対応しており,赤外線を使って宇宙の分子や固体を調べることがで

きる。

 ところが,赤外線は大気中のH2OCO2などの分子の振動と回転のエネルギー遷移で吸

収を受ける。そのため20μmから1mmの間の波長の赤外線はすべて吸収されて地上に

到達しない。さらに,地球大気の温度が200300Kであるので,赤外線を強く放出する。

したがって,地上で観測することのできる0.7μm20μmの範囲の赤外線にしても観測は

大変にむずかしい。その範囲外の赤外線の観測は,気球・飛行機・ロケット・衛星によっ

て上空や大気圏外で行われてきた。

 そうした赤外線の観測の結果,赤外線源がたくさん発見された。赤外線星は恒星のま

わりに大量の星間塵(ダスト)がとり巻いたものである。中の恒星からの光がまわりのダスト

によっていったん吸収される。このダストは温められることになるが,温度の低い熱放射と

して赤外線を放出するのである。

 中心にある星は大きく分けて2とおりの場合がある。1つは,M型やC(炭素星)とい

った晩期型の星である。これらは赤色巨星や巨星で,希薄な大気が広がっていてガスを

流出している。放出されたガスが膨張とともに冷却して固化して星間塵を形成したと考え

られる。もう1つのタイプでは,O型星やB型星の存在しているところと密接に関連してい

る。これは赤外線星が原始星であって,その内部で恒星が誕生している段階であり,まわ

りのダストはそれから原始星が形成された残りのガスとダストであろうと考えられている。

また,赤外線が散乱や吸収を受けにくいことから,銀河の中心部や全体の構造を観測

することができる。星間吸収があるため,0.55μmの可視光線で見える範囲は太陽系から

1万光年程度でしかない。波長2.2μmの赤外線を使うと,10万光年程度を見通すことが

できる。そこで,1968年にアメリカのノイゲバウアー(Neugebauer)たちは,赤外線を使って

銀河の中心部を観測し,そこに強い赤外線源を発見した。その赤外線が4000K程度の

表面温度の恒星からのものであるとすると,銀河中心から数光年の範囲の中に1千万個

から1億個の恒星が密集していることを意味する。また,この領域には大量のダストやガ

スも存在することが,別の波長を使って示されている。さらに,2.4μmの波長を使ってわれ

われの銀河(天の川)の全体の構造も観測され,銀河系が渦巻き銀河を横から見た分布

をしていることが明確に示されている。

[X線の観測] 可視光線よりかなり短い波長の電磁波がX(10-8cm程度)γ(10-10cm

程度)である。電磁波は波長が短いものが高エネルギーである。したがって,X線は高エ

ネルギー状態と関連して放出される。宇宙には地上にない極限的な状況があるので,宇

宙からX線がやってくる可能性がある。高エネルギーを生み出す機構としては2つ考えら

れる。

 1つは,重力エネルギーの利用である。重力エネルギーは,天体の質量と天体からの

距離に依存する。粒子を天体に落下させるとき,天体の質量が大きいほど,また,天体の

中心に近づくほど大きな重力エネルギーをとり出しうる。高エネルギーをとり出すには,質

量が大きくてしかも半径の小さな天体が有利である。そのような天体としては中性子星と

ブラックホールがある。太陽程度の質量のブラックホールは半径が約3km程度であり中

性子星よりも小さい。この点からすると,ブラックホールはエネルギー源として大変に重要

な天体である。

 一方,高エネルギーは高温状態とも関連しているから,宇宙の中の高温状態の領域か

X線が発生する。したがって,超新星爆発や中性子星の表面での核爆発(核燃焼)から

X線が発生する。もちろん,普通の恒星の内部でもきわめて高温状態が実現されており,

そこではγ線が発生し,それが周囲の物質と相互作用しながらエネルギーを失いX線に

なるが,そのX線はさらに相互作用によって最終的には可視光線やそれに近い波長の

電磁波として表面から放出される。そのため,普通の星の中心部での核反応からの直接

X線は観測されない。しかし,太陽のような普通の恒星の表面でも,ときどきフレアとい

う爆発的な現象が起こり,そこからX線が観測される。

 もちろん,重力エネルギーが直接X線のエネルギーになるわけではない。重力エネル

ギーを電磁波のエネルギーに変えるメカニズムとしては,ガスの摩擦によってガスが高温

になり,その高温領域からX線が放出されたり,落下したガスが天体の硬い表面に衝突し

て,そこに高温領域をつくりX線を放射するような過程が関与している。しかし,エネルギ

ー源としてはあくまで重力エネルギーであって,天体現象での重力エネルギーの重要性

は忘れてはならない。

 X線は地球大気で吸収されるため大気の外で観測を行う必要があり,ロケットや人工衛

星を使用する。1962年にアメリカのロケットによる最初の大気圏外での観測がなされた。

そのとき非常に強いX線源が観測されたが,位置がわからなかった。そこで東京大学航

空宇宙技術研究所(当時)の小田稔教授は19631964年頃「すだれ」の原理を使ったす

だれコリメータという装置をつくりだした。すだれコリメータは,細い金属を使った目の細

かい「すだれ」を2枚適当な間隔におくことで,入射するX線が点状の源か広がった源か

を区別し,さらにその方向についての情報を得ることのできる装置である。この装置を使

って,ロケット観測で発見された強いX線源が点状であること,そしてさそり座にあることを

見いだした。

 

1970年代になるとX線観測用の人工衛星も打ち上げられるようになり,次々に新しい

観測がなされるようになってきた。特に,はくちょう座に発見されたX線源は,ブラックホ

ールである可能性がきわめて高い。

 X線はこのようにコンパクト星からの情報を取得したり,宇宙の高温状態の領域のデー

タを得るのに不可欠である。特に,X線はかなり短い時間変動をしていることが多く,宇宙

のなかの動的な姿をわれわれに見せてくれる。最近ではX線写真をとることのできる望遠

鏡をのせたX線観測衛星がアメリカ,日本,ドイツなどで打ち上げられ多くのデータを地

上に送ってきており,そうしたデータによってさらに宇宙の姿が解明されている。

 

◆探査機による観測

[惑星探査機] 探査機による惑星の探査は,1962年にマリナー2号が金星から3

5000kmのところを通過して金星を観測したのが最初である。その後マリナー4号が火星

から1kmのところから火星表面のテレビ撮影を行ったり,大気の主成分が二酸化炭素

であることを発見した。その後,ソ連は主として金星に探査機を送り,ヴュネラは金星への

軟着陸に成功した。アメリカは火星を中心に探査機を打ち出し,火星表面の全面の地図

の作成を行った。1973年のマリナー10号は,金星を通過した後,水星の近傍を飛行して

その表面の観測を行った。その年には,パイオニア10号が木星に接近しその磁気圏の

性質や上層大気を調べ,木星の詳細な写真を撮影した。

 1976年にはバイキング12号が火星に着陸し,大気や地表の成分を測定し,また生命

探査も行った。1977年に打ち上げられたボイジャー12号は長期間の飛行を続け,木

星・土星・天王星・海王星の近くを飛び,外惑星にリング()が共通して存在することや,

その衛星の活動など,多くの新しい情報をもたらした。最近では,19909月にマゼラン

探査機が金星の極軌道を周回しはじめ,金星の表面の詳細な観測を行っている。

[ボイジャー探査機]  ボイジャーの動力源は3つの原子力電池(放射性同位元素熱

電気発生源)である。この原子力電池により,木星・土星・天王星・海王星の写真を多数

送ってきたのである。その他,教図27のようにボイジャーには11種の観測装置が積まれ

ているが,総重量はわずか815kgしかない。直径3.66mのパラボラ反射鏡は,つねに地

球の方向を向き,地球との通信に使われている。また,この探査機は,木星や土星の重

力加速を利用して飛行するため,それを利用しない場合より20年も早く天王星に到達す

ることができ,天王星接近時の探査機の速さは毎秒28kmであった。

 

 

 

◆電磁波以外の観測

[ニュートリノ] 可視光線・電波・X線はすべて電磁波であった。これらの電磁波を使

って宇宙のさまざまな異なった状態を調べることができた。しかしそれらの情報は天体の

「表層」の情報であって,たとえば恒星の中心部のような高温度で高密度な領域そのもの

を「見る」ことは不可能である。それは,そうした高温高密度領域で発生した電磁波は,

周囲の物質と相互作用して中心付近でもっていた情報をしだいに失い,低温低密度領

域に達して物質との相互作用が弱くなったときには,黒体放射のような温度という情報し

かもたなくなってしまうためである。

 ところで,恒星の中心部の状態は理論的には予想されている。そうした予想を直接的

に観測と結びつけるためには中心部を「見る」手段が必要となる。それに適した観測手段

がニュートリノである。ニュートリノは素粒子の一種であり,電気的に中性で質量がゼロか

ほとんどゼロの微粒子である。ニュートリノは物質との相互作用がきわめて小さい。そのた

め天体の奥深くで発生したニュートリノは,まわりの物質とほとんど相互作用をしないで,

中心部の情報をもったまま直接宇宙空間へと出ていく。しかし,相互作用が小さいこと

は,同時にニュートリノを測定することがきわめて困難であることも意味する。

 このようなニュートリノの観測はアメリカのデービス(Davis)1960年代から行ってきた。

デービスは,太陽からくるニュートリノの観測を行った。太陽中心部では4個の水素が反

応を起こして1個のヘリウムが形成される際に,ニュートリノが生成する。デービスは地下

3000m程度の金鉱の坑道で,ニュートリノによって塩素がアルゴンに変わる反応を利用し

てニュートリノを測定した。その測定値は理論から予想される値の1/41/5でしかなかっ

た。

ところで,自然界の基本的な4つの相互作用,すなわち重力相互作用,電磁気相互作

用,弱い相互作用(素粒子の崩壊現象に関与する作用),強い相互作用(原子核の中の

陽子や中性子が引き合っている力)の,いくつかを統一しようという試みがあり,重力を除

いた統一理論を大統一理論という。この理論は,素粒子のレベルでいうと,陽子や中性

子などを結合させる核力と,素粒子の崩壊に関与する相互作用を統一しようとするもので

あるので,陽子が崩壊する可能性を予言する。この崩壊は,陽子の寿命が10321033

程度かそれ以上という非常に長いものである。特定の1個の陽子の崩壊を観測するに

は,10321033年程度観測をしつづけなくてはならないが,10321033個程度の陽子を観

測していれば,その中の1個の陽子が1年程度で崩壊する。大統一理論によると,その

陽子の崩壊にともなって荷電粒子が発生する。そこで,大統一理論の検証を目的として,

崩壊した荷電粒子を測定する装置の建設が行われた。大量の純粋な水(3000トン程度)

をタンクに入れ,水分子を構成する原子中の陽子を1032個程度確保する。水中で荷電

粒子そのものを測定することは困難なので,荷電粒子が高速で水中を走る際に出すチェ

レンコフ光とよばれる光を測定するものである。この実験は,アメリカや日本で1980年代

初期からなされているが,現在までに陽子が崩壊したことにともなう荷電粒子の測定の報

告はない。つまり,現在のところ大統一理論の検証はなされていないことになる。

 1987223日に,南半球から見える大マゼラン雲という,われわれの銀河から16

光年程度離れた銀河で超新星が爆発したのが光で発見された。光で超新星が発見され

た後になって,アメリカと日本のニュートリノ観測装置で測定していたデータを解析してみ

ると,光の観測の数時間前に数個のニュートリノが観測されていたことが明らかになった。

ニュートリノは恒星進化の理論で超新星爆発の際に放出されることが予想されていた。し

たがって,大マゼラン雲の超新星からニュートリノが測定されたことによって,恒星進化の

理論が大すじで正しいことが確認された。この1987年の超新星を超新星1987Aとよぶ

が,この超新星1987Aによってニュートリノが天文学の1つの観測手段として利用できる

時代になったのである。

さらに,日本のニュートリノ観測装置では太陽からのニュートリノを測定することによっ

て,デービスの観測と独立な観測を行い,理論値とくらべ観測値が50%程度となることを

示した。その後太陽からのニュートリノについてはロシアやヨーロッパなどで観測がなさ

れ,理論的な値との差はかなり小さくなってきてはいるが解消されてはいない。このよう

に,太陽からのニュートリノ問題は完全な解決にはいたっていないが,太陽以外の天体

からのニュートリノによって,さまざまな情報が提供され,ニュートリノ天文学が今後は重要

な役割を果たすことになる。

 

 

 








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