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2節 地磁気

 

地磁気の要素(教図11)

 与えられた地点における地磁気の力を完全に測定するためには3つの要素,すなわち

方位角・伏角,および強さを必要とする。

 人々は航海に対する重要さのために,方位角に最大の注意をはらった。伏角はさほど

注目されなかった。第3の地磁気の強さは最初の頃は見過ごされていた要素であったが,

これには特にアレキサンダー・フンボルトが注意を向けた。彼は同一の磁針の振動が,土

地が変わると,速くなったり遅くなったりすることを確証した。彼はこのことから振動を起こす

地磁気の強さは,大きくなったり小さくなったりするもので,一般に磁極に近づくにしたがっ

て増加すると推論した。

 ガウス(17771855年,ドイツ)は,針の振動数は地磁気の強さ,針がもっている磁気能

率,針の慣性能率の3つに依存することから,地磁気を精密に測定する器械と,磁気の単

位とを同時に完成させた。

 地磁気の大きさの単位としては一般にnT(ナノテスラ,10 -9T10 -9Wb/2)を用いる。日

本列島における水平分力の分布図を図VIに示す。地磁気の三要素としては普通,偏角・

伏角・水平分力の3つを用いる。表IIに,日本各地の三要素を示す。

 

 

 

◆偏角と伏角

 磁針の方向は地球の回転軸を基準とした南北とは一致しない。この事実が発見されたの

は中国が最初である。紀元720年には,西安ですでに偏角の測定がなされ,3東偏で

あるという結果が得られている。ヨーロッパで偏角が測定されるようになったのは,ずっと遅

れて16世紀の頃である。

偏角が場所によって違う事実は,15世紀にすでに船乗りの間では,ある程度知られて

いた。1617世紀は,航海術の進歩にともない,西欧諸国がアジアや新大陸にその勢力

を伸長した時代であり,このときに地磁気に関するデータや知識が飛躍的に増大した。

 ポルトガル海軍のカストロ(Joao de Castro)1538年から1541年の間に,インドおよびそ

の周辺への航海において,いろいろの観測を行ったが,同時に43点での偏角の測定を

実施した。17世紀末,英国のハレイ(E.Halley)は地磁気の偏角を測定するため,国王ウイリ

アム三世の特別の援助を受け,1698年から1700年にかけて,南北大西洋を航海して測

定を行った。地磁気の観測を主目的とした最初の航海である。その成果は1701年に世界

最初の地磁気偏角図として出版された。

 伏角の現象は16世紀には,すでに知られていた。しかし,その測定は偏角とくらべると

数は少なく,ハレイの航海でも偏角だけが測定されたらしい。

 現在では,陸上・海上・航空機・人工衛星,および各地の観測所のデータをもとにして,

地磁気成分についての磁気図が作製されている。

 

◆地球磁気圏と太陽風

[太陽風]  太陽のコロナから,太陽の重力をふり切って吹き出す電子とイオンの

太陽風とよばれる。太陽風の吹き出しやすい場所は,X線では黒い穴として映り,コロナホ

ールとよばれる。100Kのコロナの中で毎秒数百キロメートルにまで加速された粒子

は,数日で地球に達してバンアレン帯の形成やオーロラ現象に関与するほか,外惑星の

領域まで流れ出る。太陽風の流出エネルギーは太陽放射の100万分の1程度である。

 太陽風は,1962年マリーナ2号の金星探査の際に確認された。

[バンアレン帯]  バンアレン帯は地球を帯状にとり囲む高エネルギー荷電粒子の運動

領域であって,地上1000kmから地球半径の10倍に及ぶ。地球半径の23倍を境に,

内帯と外帯に分かれる。バンアレン帯は,米国の人工衛星エクスプローラー1(1958)

の観測をもとにして,バンアレン(Van Allen)が発見した。放射線帯ともよばれ,放射線強度

は地上の1億倍にも達する。バンアレン帯の粒子は数万電子ボルトのエネルギーをもつ

陽子と電子が主で,地球の磁場に捕らえられ,磁力線に沿って南北に往復運動をしながら

地球を周回している。

 

◆ダイナモ理論

 地球磁場がどのようにして発生しているかにについては,これまでに多くの説が出され

た。しかし現在では,地球の流体核内での電磁流体力学的なダイナモ作用が原因である

と一般に認められている。ダイナモ作用は,太陽の一般磁場を説明するために1919年に

ラーモア(Larmor)によって提唱されたもので,1940年代以降,ブラード(Bullard),エルザッ

サー(Elsasser),竹内,島津らによって,地球磁場をダイナモ作用で説明しようとする試みが

なされてきた。

ダイナモ作用を理解するためには,1949年にブラードが示した円板ダイナモの例を考

えるとわかりやすい。円板ダイナモでは,金属の円板が軸のまわりを回転している。いま,

軸方向に磁場Bがあるとすると,円板の回転によって軸から円板周辺へ向かう半径方向に

v×Bで表される起電力が生じる。円板と軸の間には,ブラシを通じてコイルで電気的につ

ながれているので,この起電力は電流をコイルに流すことになるが,この円電流のつくる磁

場はもとあったものと同じ方向を向いている。したがって,円板の回転が十分速ければ,磁

場はどんどん成長することができる。このことは,最初に小さな磁場がたねとして与えられ

れば,円板の回転運動からエネルギーを得て磁場をつくることができ,後でたねの磁場が

なくなっても,自己励起的(self-exciting)につくられた磁場が保たれることを示している。円板

ダイナモのふるまいは,1955年にブラードによってくわしく調べられているが,それによると

磁場は特徴的な時間変化をするが,逆転は起こさない。

 

◆地磁気の永年変化

 地球磁場が時間的に変化するのがはっきり確認されたのは,17世紀の中頃である。ゲリ

ブランド(Gellibrand)は偏角がロンドンで,1580年に11.3°Eであったものが,1634年には

4.1°Eに変化しているのに気がついた。ロンドンでのこの永年変化は,地球磁場の西方移

動によってひき起こされたものであると考えられている。教図15は,図VII (a)の破線を示し

たものである。実際のデータの変動は大きい。

 

◆磁場の西方移動

 双極子磁場を除いて,2n8の球関数級数[波長4km/(28)]の地球磁場は,次ペ

ージの図VIIIのようになっている。このような磁場は地球核に原因するもので,双極子磁

場をつくるときのダイナモ作用の1過程としてつくられていると考えられている。地球全体が

数個の大きな正と負の磁気異常でおおわれている。モンゴル地方に中心をもつ正の異常

は,アジア大陸全体をおおうほど巨大なものである。北アメリカ大陸も大きな正の異常にお

おわれている。これに対して,アフリカ西岸やオーストラリア南岸には顕著な負の異常が存

在する。これらの磁場は数百年のスケールで大きく時間変化している。過去数百年の変化

をたどってみると,現在アジア大陸をおおっている正の異常は,16世紀にはまだあるかな

いかの微弱な存在であった。またアフリカ西岸の負の異常は,当時インド洋にあり,年間約

0.3°の速さで西に向かって移動しアフリカ大陸を通過して現在の位置に到達した。

 このようにみると,非双極子磁場がそれぞれ勝手に変化しているように見えるが,くわしく

調べると,強さは時間的にあまり変化せず,0.3°/年の速度で西方移動している磁場と,数

百年間ほとんど同じ場所に停滞して動かない停滞磁場とがあって,両者の重ね合わせで

複雑な地球磁場の永年変化がひき起こされていることがわかる。

 

◆松山基範

 19263月,京都大学地質鉱物学教室教授の松山基範は,柱状節理で有名な玄武洞

の玄武岩の磁性の測定を行い,その磁性のもつ方向が偏角・伏角とも現在の地磁気の方

向と正反対であることを発見した。彼はただちに玄武洞と京都府の兵庫県境に近い夜久

野の玄武岩の資料を採集し,それらの磁性を慎重に測定した。玄武洞のものは前回と同

じで逆であり,夜久野のものは地磁気の磁場と同じ正帯磁であった。これは噴出した時期

が違い,玄武洞の溶岩が噴出した時期には地球の磁場が南北逆であったのではないかと

推論した。そこで,日本列島・朝鮮半島・中国東北地方の36産地からの玄武岩資料につ

いて磁性を測定し,各資料の噴出時代について吟味した。その結果の要約は,1929年の

学士院記事第5203205ページに「日本・朝鮮・満州の玄武岩の磁性について」と題し

て発表された。玄武岩の磁性測定結果は,現在の地球磁場と一致する群と逆になってい

る群に分けられ,逆帯磁の群は第三紀末〜第四紀始めに噴出したものであり,第三紀末

ないし第四紀の初めには,地球磁場の方向が現在と反対であったが,その後現在の状況

になったものと考えられるというきわめて重要な結論を得ている。

 松山基範は,日本海溝・西太平洋の,海洋での重力測定にも大きな関心をもち,1934

1935年に潜水艦を用いて日本海溝および南方海域の重力を調査し,この研究で学士院

賞を受け,学士院会員に列せられている。

 

◆地磁気の逆転

松山基範は京大を定年退職後,山口大学学長をつとめ1958年に亡くなられたが,この

頃から,世界各地の火山岩について残留磁気の測定が精力的に行われるようになってき

た。この頃には19201930年代と違ってK-Ar法などにより岩石の年代(噴出時期)の信頼

できる測定が可能になり,地質時代も年数で表せるようになった。コックス,ドエル

(R.R.Doel),ダルリンプル(G.B.Dalrymple)の米国地質調査所地磁気研究班は北米・ハワイ・

欧州・アフリカの64の玄武岩の資料を測定し,検討・整理した結果を1964年に発表した。

彼らは岩石磁性の研究から,ブルンヌ(Brunhes)正磁極期(現在〜約100万年前)・松山逆

磁極期(100万年前〜250万年前)・ガウス(Gauss)正磁極期(250万年前〜340万年前)

などの地磁気の変遷史を認めた(ここにあげた年数は最初に発表されたもので,現在は改

訂されている)。逆転の時期は第三紀末〜第四紀初めで,松山の1929年の結論と一致し

ているのでこのように名づけられた。

 その後,年代のわかった火成岩・堆積岩,また,海底での地磁気の縞模様などの膨大な

資料をもとに,地球磁場逆転の歴史が年表として編纂されている。

 

◆岩石の磁気

 岩石中の主要造岩鉱物(ケイ酸塩鉱物)は,鉄を含むものであっても,いずれも常磁性で

ある。強磁性を示すのは,鉄・チタンの酸化物,鉄の硫化物,水酸化物などである。このな

かで普通の岩石中には鉄・チタンの酸化物が最も多く存在する。

 鉄・チタンの酸化物には,マグネタイト(Fe3O4)とウルボスピネル(Fe2TiO4)を端成分とする

固溶体,へマタイト(Fe2O3)とイルメナイト(FeTiO3)を端成分とする固溶体,Fe2TiO5

FeTi2O5を端成分とする固溶体の3種が存在する。このなかで最後のものは常温で常磁性

であるので,岩石の磁化に寄与するのは,マグネタイト系とへマタイト系とである。

[熱残留磁気]  強磁性鉱物をキュリー温度以上の温度から,磁場の中で冷却すると磁

化する。これを熱残留磁気といい,火山岩の残留磁気の原因となっている。

[堆積残留磁気]  水中に積もった堆積物は弱い残留磁気を獲得する。これは,水中で

沈殿してくる強磁性鉱物粒子の磁気がそのときの磁場の方向に統計的にそろうためと考え

られる。粒子の大きさが大きい場合には,粒子が着底する際に回転するために誤差が生

じるが,粒子が十分に小さい(深海底堆積物の場合など)ときには誤差は見られない。

[化学残留磁気]  へマタイトを350℃で還元してマグネタイトにすると,強い残留磁気が

生じることが知られている。これは,結晶成長にともなって,緩和時間が急速に長くなるた

めに磁気が固定されると考えられる。

 水酸化鉄からへマタイトが生成するとき,すなわち

 2FeOOHFe2O2H2O

の反応で,結晶が0.1μmになったときに磁気が固定されるようになる。この反応は赤色砂

岩中のへマタイトの生成の原因と考えられている。

 古地磁気学では,火成岩や堆積岩が,そのできたときの磁場を記録していることを仮定

し,岩石の磁気を測定して当時の地磁気の方向・強度を求める。岩石の自然残留磁気を

地球磁場の化石として扱っていることになるわけである。

 

 

 

 








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