トップ地学II>第1部 地球環境の構成>第3章 地球にはたらく力>第1節 重力とは

1節 重力とは

 

正規重力

 重力は万有引力と遠心力の和であるから,重力ポテンシャルも万有引力ポテンシャルと

遠心力ポテンシャルの和であり,地球上の点P(xyz)における重力ポテンシャルW

 WVω2(x 2+y 2)

となる。ここで,P点の地理緯度をψ,経度をλとすると,eは離心率,aは赤道半径である。

Vは万有引力のポテンシャル,ωは自転角速度である。

 近似的に回転楕円体である地球では,楕円体の上に陸地や海洋といった質量の過不

足が重なっている。そこで,重力ポテンシャルWを回転楕円体と自転による遠心力とによ

るポテンシャルUと小さな質量の過不足によるポテンシャルTとに分ける。Uを正規重力

ポテンシャルとよぶ。正規重力ポテンシャルから,回転楕円体表面の地理緯度ψの点の

正規重力が次の式で与えられる。

ここでγEは赤道重力・γPは極重カ,aは赤道半径,bは極半径である。この式は正規重力

を与える式として測地基準系1967に採用され,地球上の標準的な重力を与える式として

用いられている。上式を展開し,abγEγPの値(表T)を用いて

γ978.03185(10.005278895sin 2ψ0.000023462sin 4ψ) gal

を得る。理科年表に記載されている各地の正規重力値はこの式を用いて求められた数値

である。

[スプリング式重力計]  重力の比較測定(場所による重力値の違いの測定)に用いら

れるスプリング式重力計は精密なばねばかりである。質量mのおもりをばねでつるしたと

きのばねの伸びxは,ばね定数をkとすれば,

 mɡkx

となる。2ABにおける重力のɡAɡBは,ばねの伸びの差xAxBから求めることができ

る。現在の重力計は,10-810-9くらいの感度がある。重力の加速度は約

980cm/s2(gal)1000(gal)であり,10-810-9の感度は約101μgal(マイクロガル)に相当す

る。

 

[投げ上げ式重力計]  図Uのように,2つの測定点の間隔をH,落体が下位の測定面

を上昇時に横切ってから再び下降時に横切るまでの時間間隔をΔt1,上位の測定面につ

いても同様な時間間隔をΔt2とする。また,下位および上位の測定面を通過するときの落

体の速さを(上昇時,下降時ともに等しく),それぞれv1v2とする。重力値を高さによらず一

定であるとすれば,座標軸は下向きを正として

2ɡHv1 2v22

v1(v1)ɡΔt1

v2(v2)ɡΔt2

上式よりv1v2を消去して

   

となる。

 

◆脱出速度(参考)

 “上へ行くものは必ず落ちてくる”ということわざは真理ではない。十分大きな速度で発射

すれば,ロケットは地球の引力をふり切って飛んでいくことができる。実際には空気の抵抗

で燃えないようにするため,大気がほとんどなくなった上空で加速するのだが,そのときど

のくらいの速さを与えれば地球の引力圏から脱出できるだろうか。

 地球の引力のためのポテンシャルは,単位質量につき

である。したがって,単位質量を地表(RR0)から無限遠(R∞)まで移動させるために必

要な仕事はGM/R0であり,これを初速度v0によって与えようとすれば,

でなければならない。地表における重力の加速度は

   

であるから,R06400kmɡ9.8m/s2とすると

となる。したがって,地球の引力をふり切って月へ飛ぶためには,少なくとも11.2km/sの速

度で発射されなければならない。この速度はいわゆる地球の引力圏からの脱出速度であ

る。

 実は地球のまわりには,太陽の引力の影響が広がっている。11km/sぐらいの速度で月ま

ではいけても,火星までいくことはできない。太陽の引力のため太陽に向けて引かれるか

らである。太陽の引力にさからって火星まで飛ぶには,少なくとも地球の表面で28km/s

速度が必要である。

 

◆重力異常と地形

 重力のブーゲー異常は,地下の構造,特に地殻の厚さのおおよそを決めるものである。

アメリカ合衆国のブーゲー異常断面が示すように,ブーゲー異常は地形をほとんどそのま

ま逆向きに反映している(教図8)

 地形だけによる重力ɡ0すると,アイソスタシーがなりたつということは,地下のある深さ

に,ɡ 0と大きさが同じで符号が反対の重力ɡd(=−ɡ0)が存在することである。また,ブーゲ

ー異常は,地下の構造による重力異常ɡdを地表において観測した値ɡd(0)である。したが

って,地形だけによる重力ɡ0が高さに比例し,またɡdɡd(0)であれば,ブーゲー異常は高

さに比例する。

 実際には,@波長の短い地形(100km)では地形の重量を地殻の弾性力で受けもち,

アイソスタシーがあまりよくはなりたたない,A地形の波長に比較して,地殻の厚さが厚い

場合にはɡdɡd(0)がなりたたないなどの理由で,両者の比例関係は厳密にはなりたたな

い。

 

◆人工衛星重力異常

 地球の質量がすべてその中心に集まっていれば,人工衛星はケプラーの法則に従っ

て,地球を1つの焦点とする楕円軌道を描くはずである。その軌道面は1つの平面であ

る。しかし,人工衛星軌道は地球に接近した位置にあるために,重力場の乱れや,わずか

な空気の抵抗によって,楕円軌道からはずれる。太陽光の輻射圧,太陽と月の引力,地

球磁場などによっても軌道は影響を受けるが,なんといっても重力場の乱れ,特に楕円体

の影響はずば抜けて大きい。

 

衛星の軌道を決めるには,6個の軌道要素が必要である。すなわち,軌道の長半径a

軌道の離心率e,軌道面の傾斜角i,昇交点経度Ω,近地点引数ω,および近地点通過

時刻である。天球上の人工衛星軌道についてiΩωを図Vに示す。

 地球に接近した衛星では,空気の抵抗によって,長半径aや離心率eが減少する。ケプ

ラーの第2法則である面積速度一定の法則によれば,近地点付近で衛星は特に速く運動

する。しかし,軌道上において近地点付近は空気の抵抗を最も受けやすい場所でもある

ので,面積速度を一定に保てず,aeが減少して円軌道に近づいてしまう。また,ケプラ

ーの第3法則によると,a 3は周期の2乗に比例する。aが減少すれば周期も減少する。こ

れに対して,空気の抵抗によってΩωはあまり変化せず,iもある値のまわりにわずかに

振動するだけである。

 衛星が1公転するごとに生じる軌道要素のずれを観測して,ジオイドの高さと重力異常が

定められる。教図45はその結果である。

 次ページの図Wは,重力異常の分布を示したものである。図Wでは,重力異常の振幅

はせいぜい数十ミリガルである。この振幅は地形から期待される重力異常にくらべて,あま

りにも小さすぎる。地殻の平均密度を2.67g/cm 3(花こう岩の平均密度)として,地形高度から

重力異常を求めてみると,数百ミリガルの振幅を示す。人工衛星重力異常は,地形から推

定した重力異常のわずか10分の1しかないのである。

 海水に浮かぶ氷山の海上に現れている部分は小さくても,海面下に大きい部分がかくれ

ていて,それは浮力によってつり合いの位置を保っている。ちょうど氷山と同じように,地殻

も上部マントルの上に浮力でつり合っている。つまり大陸では地殻は厚く,海洋では地殻

が薄い。大山脈の下では地殻は深くマントルの中にくい込み,大平原の下では比較的浅

い。この状態をアイソスタシー(isostasy)という。

 アイソスタシーが完全に成立していれば,人工衛星重力異常はほとんど0になることが証

明できる。このことは,地形の質量がマントルの起伏による質量の過不足によって,重力の

上で互いに打ち消し合ってしまうことを示している。こうして,地球の地殻はほぼ完璧に近

いアイソスタシーにあることが知れるのである。火星ではアイソスタシーが成立している部分

と成立していない部分とに大きく分かれていることが知られている。人工衛星重力異常はア

イソスタシーからのずれを示す。地殻やマントルの起伏の影響はわずかしか含まれていな

いとみてよい。つまり,人工衛星重力異常はアイソスタシーからのずれ,あるいはマントル

以深の構造を示しているとみられる。

 図Wでは,太平洋をとり巻いて,日本列島,スマトラからニュージーランドまでの弧状列

島,および中央アメリカから南アメリカのアンデス山脈に沿って,正の重力異常が見られ

る。これはプレートの沈み込み帯と一致している。これに対して海嶺では,マントルの温度

も高く,熱膨張によって密度が小さくなるため,負の重力異常が期待できるが,図Wではこ

の関係はあまり明瞭ではない。

 

◆人工衛星重力と地表重力

 人工衛星ジオイドは全地球をカバーする大規模なジオイドの特徴はつかめても,ローカ

ルなジオイドの微細な起伏の11つを示すことはない。ローカルなジオイドの起伏は,や

はり地表における重力測定によらなければ求められない。そこで,地表重力を人工衛星重

力とうまく結合させて,ジオイドの起伏を余すところなく求めようとの試みがなされる。

 

◆日本列島の重力異常

 図Vに東北日本弧,伊豆・小笠原弧を横切る断面で見た重力異常の様子を示す。海上

ではフリーエア異常,陸上ではブーゲー異常をとってある。

多くの島弧で海溝軸付近に負の重力異常,陸側に正の重力異常が対になって存在するこ

とが知られているが,このことは東北日本,伊豆のどちらにも共通している。しかし,くわしく

見ると両者に違いのあることがわかる。東北日本では海溝の負の異常はV字型でその極

大は海溝軸とあまりずれていないが,伊豆ではU字型に近くなっており,また,極小値は東

北日本での−150〜−200mgalに対して,伊豆では−300mgalをこすところもある。陸域で

の正の異常は,全体として150mgal程度の値を示している。重力異常の他のデータにも,

東北日本弧と伊豆・小笠原弧の違いが見られる。このように,日本列島を構成する島弧に

はそれぞれの特徴・個性がある。

 

 

 








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