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3節 地球の気候

 

【参考】古代人は水の循環を知らなかった


現在ではだれもが,水が循環していることを知っている。古代の人は,雨や雪の量と湖

水や川の水との関係がわからなかったので,水の分布が均等でないことがなぞであった。

砂漠のように乾いたナイル川周辺に住む人々にとって,毎年起こる洪水が,何千kmも離

れた山に降る雨や雪のためであるとは,とうてい考えられなかった。

水は,海や陸から蒸発して大気にもち込まれ,雨や雪となって降り,川の流れとなって,

再び海にもどるという水の循環論は,一部の研究者に注目され,支持されていたが,それ

を証明することがむずかしかったので,一般には受け入れられていなかった。

17世紀の中頃,フランスの科学者が,川の流域の降雨量と,一定の期間に海に注ぐ水

量を測定し,川の流れが降雨によって生じることを示した。

この後,イギリスのハレーは,実験によって得た水の蒸発率を地中海の推定水量にあて

はめて,地中海からどのくらいの水が蒸発するかを正確に求めた。その結果,蒸発量は

各地の川から地中海に注ぎ込まれる水量にほぼ等しいという答えを得た。水が循環すると

いう考えは,こうして一般にも認められるようになった。


 


◆海洋・大気間でのエネルギーの流れ

 温度の異なる2つの物体が接触すると,熱は暖かいほうから冷たいほうへと移動し,それ

ぞれの温度は変化する。冷たい空気が暖かい水によって熱せられると,熱せられた空気

は密度が小さくなって上昇し,その下層へ冷たい空気が流れ込む。同時に水は冷たい空

気によって冷やされ,その密度が大きくなって沈降し,より暖かい低密度の水によっておき

換えられる。このようなメカニズムで風がつくられ,海の流れがつくられ,風はまた海水を

動かす。海水の動きにより海水の温度分布が変わり,大気の温度分布も変わる。この温度

分布が,大気と海洋との熱の移動の様子を変え,また異なった風,海の流れができる。こ

のような過程のくり返しによって,われわれがみる定常的な風や海流がつくり出されてい

る。もし,地表の風系を変えるような外からの影響(たとえば太陽活動の変化)があったとす

ると,それに対応した海の流れと風系がつくり出され,世界的な気候変動のもとになる。現

在のところ,そのような気候変動を予想できるまでにはいたっていない。

 雪や雨を降らせるとき雲の中に放出される熱は,もとは海水が蒸発するときに海から失

われた気化熱である。水蒸気は潜熱という形でエネルギーをとり込んだまま蒸発し,この

水蒸気が凝結して雲や雨になるとき,エネルギーは熱として大気中に残る。これが低気圧

のエネルギー源の大部分を占めている。

大気にとって海洋は巨大なエネルギー源である。海全体の熱容量は大気全体の熱容

量の1200倍もあり,世界の海洋の上層3mで,大気全体とほぼ同じ熱量を保持することが

できる。大気中の熱は,数日か,長くて数週間しか保たれないが,一方,海洋は何年も,

深海の場合には熱を放出するのに何世紀もかかる。

 

◆海洋・大気間での物質の循環

 海洋・大気間の物質の循環においても,重要な役割を演ずるのは水である。大気は海

洋からの蒸発量の約80%を吸収する。蒸発した水蒸気は大気中で凝結し,降水として海

水に還元されるが,一部は陸上に降水をもたらし,それが河川を通って海に達する。年間

3000mmの降雨量をもつ地域の大部分は,北緯015°の範囲の海上であり,降雨のもとと

なる蒸発の著しい地域は緯度1030°の貿易風帯であるから,大気から海,海から大気へ

の水の移動の大部分は低緯度の海上で行われる。

 陸上での降水が河川となり海にもどるとき,多量の土砂を海に運搬し,沿岸の海底地形

を形成する。また,何億年もかかって河川が溶かし込んで運搬した地殻物質は,深海底

にもち込まれ,海底鉱物資源のもととなっている。

 海水が蒸発するとき塩分は海水中にとり残される。しかし,波が砕けて水滴が大気中に

飛び散るときには,小さな水滴が大気中で蒸発し,塩分は大気中にとどまり結晶となって

風で運ばれる。この海塩粒子は水蒸気が凝結する際の凝結核となる。

  海洋と大気との間では,気体成分の交換も行われている。特に酸素および二酸化炭

素の出入りは,海洋生物の代謝と密接な関係がある。たとえば,動物の呼吸によって海水

中の酸素が消費されると,大気中から酸素が供給される。一方,海水中の植物の炭酸同

化作用によって生じた酸素が,海水面から大気中に放出されることもある。このようなしく

みによって,表面水は通常は酸素で飽和されることになる。しかし,海洋と大気との境界に

おけるこのような酸素の移動は,季節や地理的条件にも大きく左右される。

 

◆気候変動の原因

[自然的要因]  (1)偏西風波動の変化  ブロッキング現象の生じたときには異常

気象が発生しやすくなるが,長期の気候変動に関わることはない。

 (2)海洋の変化   海洋は,全体として非常に大きな熱容量をもち,大気との熱や

水蒸気の交換を通して,大気の運動に大きな影響を及ぼしている。このため,一般

に海水温や海流の変動は,異常気象や気候変動の要因の1つにあげられる。

近年,世界の異常気象の発生と関連して注目されているのがエル・ニーニヨ現象

である。エル・ニーニョは,赤道東部太平洋において数年に1回海面水温が平年よ

り著しく高くなる現象である。この海面水温の上昇は,低緯度だけでなく,遠く離

れた中・高緯度の天候にも影響を及ぼすことが知られている。

 (3)雪氷面積の変化  積雪や氷床,海氷・氷河などを含む雪氷圏は,地球表面に

おける日射の反射量や大気との熱交換,水の循環などに影響を与え,気候の形成に

大きな役割を果している。したがって,雪氷面積の変化は,異常気象や気候変動の

要因の1つになる。たとえば,もし雪氷面積が小さくなると日射の反射量が減少し,

大気の昇温が進む。その結果,さらに雪氷面積が狭くなり,このくり返しによって

気候が変わることが考えられる。

 (4)火山噴火 火山噴火によって成層圏まで吹き上げられた微粒子が滞留すると,

太陽から地上に達する日射をさえぎり(日傘効果),気温を低下させることが考えら

れる。一般に,1つの火山噴火によって放出される物質の大気中の滞留時間や近年

の例からみて,噴火後12年の間気温低下をひき起こすという指摘があり,火山

噴火は異常気象の要因の1つと考えられる。また,長期間にわたり頻繁に噴火が起

きた場合には,気候が寒冷化することも考えられる。

 (5)太陽活動 地球が太陽から受ける放射エネルギー(太陽定数)は,基本的には

ての大気現象の原動力であり,太陽定数が変化すれば気候変動をもたらすことが

えられる。近年,人工衛星によって,太陽定数の正確な観測が可能になった。1980

年〜1987年のSMM(Solar Maximum Mission)衛星による観測によれば,この期間の太

陽定数は,太陽黒点と同様に約11年周期で変動しているとみなすことができ,そ

の振幅は全体の約0.039%程度とされている。この程度の変動では気候への影響は

少ないとみられているが,観測の歴史はまだ浅く,今後さらに長期にわたる観測が

必要である。                           

一方,太陽定数の変化が太陽黒点に比例するという仮定のもとに,太陽黒点数とい

くつかの気候要素との関係が調べられている。たとえば,太陽黒点数と 地球全域

の平均海面水温との間に高い相関関係があることから,太陽定数の変化が気候に影

響を及ぼしている可能性が指摘されている。

また,太陽からの紫外線や高エネルギー粒子の増減により,上層の大気組成の変

化などを通して,気候への影響があることも示唆されている。

[人為的要因]  (1)温室効果気体の増加

 (2)森林破壊・砂漠化  森林の破壊や砂漠の拡大など,地表面の状態変化は地面

の日射の反射能(アルベド),土壌水分量を変化させ,熱収支・水循環を通して大気

に影響を与える。

1950年に世界の陸地の4分の1であった森林面積は,現在は5分の1に減少して

おり,2000年には6分の1になるとみられている。さらに,アフリカのサヘルにみ

られるように,砂漠の拡大も進んでいる。これら地表面の変化は,人口の爆発的な

増大にともなう過剰放牧,焼畑,薪炭用木材の伐採など,人間活動によるところが

大きいといわれている。

地表面の変化による影響はその場所だけにとどまらず,周辺地域からさらには遠

く離れた地域にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 

◆気候モデル

 大気中の二酸化炭素などの気候への影響,森林伐採・砂漠化の気候への影響,海

面水温の異常と異常気象との関係,火山噴火や太陽活動の気候への影響,これらの

問題に答えを出すには複雑な気候メカニズムを解明し,気候系を精密に再現できる

気候の数値モデルが必要となる。

[大気大循環モデル]  長期予報,気候変動予測のための大気大循環モデルは,主

として気候系の大気部分を数値モデル化したものであり,気象研究所のモデルには

XXVIIIに示した物理過程のほか,ヒマラヤ,ロッキーなどの大規模山岳,植生

分布の違いによる反射能(アルベド)の違いなどもとり入れられている。

 しかし,雲と放射,地表面の扱いなどはまだ簡単なものになっており,また,海

面水温・二酸化炭素分布などは気候値が用いられている。これらの物理過程がどれ

だけ正確に自然を反映しているかについてはよくわかっていない。それは,物理過

程の解明を行うにも,モデルの検証を行うにも観測資料が不十分だからである。

 

[大気・海洋結合モデル]  温室効果による地球の温度上昇を予測するために,二

酸化炭素の増加の影響を評価する実験が,大気大循環モデルで行われている。しか

し,この種の実験は,気候系のエネルギーの収支の変化が問題となるので,大気大

循環モデルで気候値などを用いている海面水温や海水分布なども,モデル内部で決

定することが必要になる。

 二酸化炭素の増加が気候に及ぼす影響を調べるために使用されているモデルは,

大気大循環モデルと海面下数十mの温度がほぼ一様な海洋混合層とを結合した大

気・海洋混合層モデルといわれているものである。これをさらに進めて,大気大循

環モデルと海洋大循環モデルとの結合が実現されると,主要な気候系構成要素の変

動の分布をすべてモデルで決定することになり,総合気候モデルの体裁が整うこと

になる。このモデルを大気・海洋結合モデルとよぶ。

 このモデルの開発・改良は,気象庁気象研究所など,世界でもごく限られた研究

所などでしか行われておらず,最近やっと成果が出はじめたところである。

 

◆風浪

 風の吹いている場所で,その風によって直接起こされた波が風浪である。風浪は発生

域の外に伝搬してうねりとなる。風が波の山を通るときには,空気の流れがせばめられ,流

れの速度が増し,空気の圧力が低下する。波の谷の部分では,逆に流れの速度が遅くな

って,空気の圧力が上昇する。この現象は,ベルヌイの定理とよばれる。この法則により,

海面を吹く風は,気圧の低い波の山の部分を高くし,気圧の高い波の谷の部分を低くす

(XXX)

 

 また,風は波の斜面を押すことによって波高を高くし,風が波の山をこえるときに生じる

渦によって波の前縁を吹き上げる(XXX)。そのため,波の高さは海面を吹く風の速さ

と,風の吹く距離,吹いている時間によって決まる。

 これまでに観測された最高の波は34mである。波高は,風速6.7/sまでは風速に比例

して成長するが,それ以上になると波頭が波の本体を追いこし,荒れ狂う白い波頭となる。

 [砕ける波]  海岸に近づくと波の前面はしだいに切り立ってきて,砕ける。これは,波

の高さにくらべて,水深が浅いためである。図XXXIのように,波の尾根の部分と,谷の部

分とでは,波からみた海の深さが違うので,その進む速さが違ってくる。尾根Aでは,その

速度vAは,       

   

であり,谷Bでの速度vBは,

である。hAhBであれば,尾根の進む速度が,谷の進む速度よりも大きくなり,波の前面

がしだいに切り立ってくる。

 

教図36 波と水の運動

海の波は一見,水が打ち寄せてくるように見えるが,深い海の海水の粒子は同じ場所を中心とする

円運動をしていて,打ち寄せてくるのは表面の形だけである。海水粒子の円運動は深さとともに小さく

なり,10mの深さでは表面の1/101/100ほどになる。そのため,表面に大きな波があっても,海水は静

穏なことが多い。

 

[深さによる重力波の減衰]  角周波数をω,周期をTとすると,ω2π/Tである。また

波数k,海の深さH,波の速度C,速度ポテンシャルφとすると,浅い海(kH1)では

ω2gk

Cg/ω(g/k) 

φg (η0/ω)[1+k2(z+H)2/2]cos(kx-ωt)

深い海(kH1)では,                  

ω2gk 2H        

C(gH) 

ωg (η0/ω)e kzcos(kx-ωt)

いま,波長を60(2π×10)mとすると,海の深さ

と重力波の減衰の関係は表VIIIのようになる。

 

【参考】深い海ほど,静かである


南洋諸島から帰って10日目にまた潜水艦に便乗するために出張することになった。南

洋諸島へ出かけたのは,8月始めであって,知人からはこの暑いのに熱帯かといわれた

が,自分はなに熱帯への避暑旅行さと答えたのである。実際に南洋諸島の気温は最高

31度くらいで,京都あたりの夏よりはるかにしのぎよい。今度の潜水艦便乗は10月の好季

節ではあるが,なにぷん半月にわたる航海であるから,ときには荒天に遭遇することも予

想せねばならず,そのとき何ほどまで我慢ができるかという心配があったのである。

 南洋旅行の目的の1つは,太平洋に散在する孤島で重力を測ることであった。海洋の

重力分布を知るために海洋中の孤島での重力を知ることが非常にたいせつな参考となる

からである。今度の潜水艦便乗は実際に海洋面での重力を測定するためである。海上で

は動揺のため重力測定ができないが,潜水艦で海面下2530メートルも潜航すればほと

んど動揺がなくなるから,これを利用して重力測定を行い得るのである。

(松山基範,昭和911912日,大阪朝日新聞より)


 

◆降水のしくみ

 雲粒の直径は0.0010.01mmぐらいである。空気の抵抗のため,これらの小さな水滴の

落下速度はわずか毎秒数cm程度であり,ほとんど空中に浮かんでいるように見える。実

際には,これらは雲底から落下するとまもなく蒸発してしまい,一方,雲のあるところには普

通,上昇気流があるので,新しい水滴が次々につくられている。その核となる凝結核の数

13あたり10億個にも達するといわれる。その大きさは半径10μmから0.001μmの範囲

にある。

 ごく小さい水滴は,温度が0℃以下になってもなかなか凍らない。そのような状態にある

水滴を過冷却の水滴という。雲粒は−40以下まで冷却されると全部凍る。一方,0

12℃との間ではほとんどの雲粒は水滴のままである。−12℃と−40℃の間の温度で

は,たまたま氷晶の核として有効にはたらく微粒子を含んでいる場合にはそれを核として

凍って氷の粒が生じる。そのほかは,氷の微粒にぶつかった雲粒だけは凍るが残りのもの

は水滴のままである。氷晶の核として有効にはたらく微粒子を氷晶核といい,凝結核にくら

べるとその数はずっと少ない。微粒な火山灰や地表面から舞い上がった粘土粒子など

は,氷晶核になる。

 雲粒の大きさは冷却の速さと核の存在量とに関係する。もし冷却が急激に,たとえば1

秒につき0.1℃ぐらいの割合で起こるとすれば,空気中に存在する大部分の核に水滴が

できる。このようなときに生じた雲は非常に濃密で日光に白く輝く。上に仮定した冷却の速

さは,秒速15mぐらいの上昇速度をもった空気の断熱冷却の速さにあたる。冷却の速さが

上の値の1/100,またはそれ以下だと凝結は数少ない大きい核に凝結するので,雲の濃さ

はやや薄く,外見は灰色がかって見える。

[冷たい雨]  地上で観測される雨粒は雲の水滴よりずっと大きく,霧雨の場合には直

径が0.010.1mm程度,雷雨の場合には15mm程度である。これより大きい水滴は落

下の途中で小さい水滴に分裂してしまう。夏の雷雨などでは,雲が発生してから数時間の

後に大粒の雨が降る。強い雨を降らせる雲は,(教科書.49(a))のように上部は氷晶か

らできていて,中ほどに過冷却の水滴の層があるのが普通である。氷晶が落下してきて,

過冷却水滴の層の中に入ると急速に成長する。雲の温度が低く,成長した氷晶がとけず

に地上まで落下すると雪になる。途中に温度の高い層があると,雪はとけて雨粒となる。こ

の雨粒は,水滴からできている雲の層を通過する間に,併合作用によってますます成長

する。このようにして降る雨を冷たい雨(氷晶雨)という。

[暖かい雨]  熱帯地方や夏の中緯度地方では,温度が0℃よりも高くて氷晶を含まない

雲からでもかなりの雨が降ることがある。この場合は,直径0.0010.01mm程度の特に大

きな海塩の粒子が凝結核となって初めから大きな水滴ができ,併合作用で成長したので

ある。このようにして降る雨を暖かい雨という(教科書.49(b))

 

 

 








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