トップ地学II>第1部 地球環境の構成>第2章 大気と海洋>第2節 海洋とそのはたらき

2節 海洋とそのはたらき

 

人工衛星による海洋観測

 海洋の表面温度は,人工衛星に塔載した赤外線センサーによって観測される。図XIII

には人工衛星の読みとった赤外線や極超短波の放射量をもとに描かれた平均海表面温

度および陸表面温度の分布を示した。このような海洋表面の温度分布から,表層の流れ

を知り,重要な場所に流速計などを海底に設置し,海洋の立体構造をさぐることができる。

 

海面の凹凸は,人工衛星に電波高度計を塔載し,人工衛星とその直下の海面との距離

を測定することによって求められる。現在では数cmの精度で海面の高さを知ることがで

き,黒潮の流軸の変化など大規模な流れの変化がわかる。黒潮の場合,その流軸は,約

1mくらい海面が盛り上がっているためである。さらに合成開合レーダーという新しい技術に

より,海面の細かな凹凸の模様も,うねりがどのように分布しているかも知ることができ,うね

りの進行方向から海面上の風の分布とその様子もさぐられている。

 

◆エル・ニーニョと南方振動

 

 19世紀の末頃から,南米のブエノスアイレスとオーストラリアの地上気圧が,数年の周期

で逆相関を示すことが知られていた。1889年の不順なモンスーンと,それにともなうインド

の飢餓に関心をもったインド気象庁長官のウォーカーは,モンスーンの強弱の予報を試み

る過程で,南米とインドネシアを中心とする「海大陸」の地上気象が数年周期でシーソー現

象を示すことを発見し,この現象を南方振動と名づけた。

 図XIVはオーストラリアのダーウィンと世界各地の年平均地上気圧との相関を示したもの

である。図からわかるように,「海大陸」付近と南東部熱帯太平洋との間には大きな逆の相

関関係がある。

南方振動は単に赤道域の気圧変動に現れるだけでなく,図XVに示すように赤道太平

洋の海面水温や降雨量,インドやアフリカ南東部の降雨量,中緯度地方の降雨量とも関

係している。特に,ダーウィンとタヒチとの地上気圧差は南方振動の指数として使われる

が,この指数の時間変化と中央部赤道太平洋の降雨量や海面水温の経年変化との対応

は驚くほどよい。平常時にはインドネシアを中心とする「海大陸」付近の海面水温はきわめ

て高く(29℃程度),この上の下部対流圏に低気圧場の大きな中心があって雨も多いが,異

常時には,この高い海面水温が中央部赤道太平洋に移動するにともなって低気圧場も移

動する(VI)

 

 平常時には「海大陸」の収束域に向けて下部対流圏では,東風が卓越しているが,異常

時には西太平洋で,この東風が弱まるばかりでなく西風に逆転することもある。

エル・ニーニョ現象は,南方振動と深く関係している。図XVIIはペルーのプエル

ト・チカマの海面水温と南方振動指数の時間変化を示したものであり,両者がよい

相関関係にあることがわかる。この2つの現象は,活発に作用する大気と海洋との

相互作用という現象を,異なった側面で見た現象である。

 

◆海流

[海流を起こす原因]  海流を起こす原因となる主なものは,風(偏西風と貿易風)と,海

水の密度差である。普通に見られる海流は風が直接の原因である。海水の密度差による

流れは,約1000年で上下の海水が入れかわるようなゆっくりとした流れである。

 

◆風によって生じる海水の大循環

[貿易風・偏西風による海水の輸送]  無限に広い海の表面に一様な風が吹いている

と,海面の水は風の応力によってひきずられ,その下層の水もまた海面の水によってひき

ずられて流れはじめる。地球が回転しているため転向力がはたらき,風の方向と流れの方

向とは一致しない。風が吹きはじめてから十分時間がたったとき,どのような流れになるか

を示したのが図XVIIIである。

 

 海面では風に対して北半球では風下から右方向(南半球では左方向)45°ずれて流

れ,深さに比例して流速が減ると同時に流向が変わる。この流れをエクマン流(エクマンの

らせん)という。エクマン流の層の厚さは10m程度で,この層はエクマン境界層とよばれて

いる。

 エクマン境界層の流れを合計すると,流れの総量は風向と直角の方向(北半球では右に

90°,南半球では左に90°)である。海面に,中緯度で西風(偏西風),低緯度で東風(貿易

)が吹きはじめたとすると,やがてエクマン境界層が形成され,流れの総量は風向と直角

であるから,偏西風と貿易風にはさまれた中央部に海水が集まる(XIX (b))

 [地衡流による流れ]  2つの風系の中央に海水が集められると,海面に高低ができ,

中央部の圧力は高くなる(XIX(c))。これは大気の場合の高気圧に相当する。大気の場

合,気圧こう配(気圧傾度)があると,転向力によって,等圧線に平行な風が吹き,これを地

衡風とよんでいる。これと同様に,海水の圧力こう配によって,等圧線(海面の等高線)に平

行な流れが生じる。海洋では地衡風に対して,地衡流とよばれる。

 2つの風系の中央部の海面の盛り上がりによって生じる地衡流は,東向きの流れと西向

きの流れである(XIX (d))。そして,太平洋のように東側と西側とを陸地によって妨げられ

ている海域では,東西流にともなう水の不足を補うため,南北流が生じ,全体として時計回

りの環流となる(XIX (a))

 

[西岸強化]    運動が地球規模になってくると,転向力

   Fc2mvΩsinψ    (ψは緯度,Ωは地球の自転の角速度)

の緯度変化が無視できなくなる。コリオリ因子(f2Ωsinψ)の緯度変化による効果は,β(

ータ)効果とよばれる。黒潮の原因となる北太平洋環流の西岸強化は,β効果によるもので

ある。

 

 [渦度という概念] 渦といえば,台風などのように「回転」という概念と直接結びついて

いる。図XXIのように,速度の違う平行な流れは直線的ではあるが渦をもっている。渦の

強さの程度を定量的に表すのが渦度であり,図XXIの場合にはx軸方向の流れ(u)の,y

軸方向の違い(∂u/∂y)が渦度である。一般にはv/∂x∂u/∂yが渦度である。これをζとかく。

 大気や海洋のように,固体地球といっしょに回転している流体では,渦度の保存法則は

ζf=一定

とかける。大気や海洋に渦がないとき(ζ0)でも,静止系から見れば,地球の自転のため,

そこでの鉛直軸のまわりに渦度fで回転しているからである。つまり,地球の自転にともなう

渦度と大気・海洋のもつ渦度の環が全体として一定に保たれる。fは惑星渦度,ζfは絶

対渦度とよばれる。

 

XXIIにおいて,点Aで北上する大気・海洋の運動は,f(コリオリの効果)が増加する

方向に向かうのでζは減少する。逆に点Bでは,南下するにつれてfが減少するのでζ

は増加する。このため,ABの中心Cは,図XXII (a)から図XXII (b)のように,Bの方向に

移動する。すなわち,コリオリの因子の緯度変化を感じるような地球規模での渦運動は,

西向きにドリフトする性質をもっていることになる。渦運動が反時計回りであっても時計回り

であっても,また,渦が北半球にあるときでも南半球にあるときでも,この西向きのドリフトは

変わらない。

               (「グローバル気象学」広田 勇 著,p5961,渦度とロスピー波)

 

◆密度差による海水の大循環

 

海洋表層の大循環は風によって説明できるが,深層の流れを含めた海水の流れを理

解するためには,海水の鉛直方向の運動を考えなければならない。この場合,重要なの

は海水の密度の分布とその変化である。ブロッカー(W.S.Broecker)のコンベア・ベルトとよ

ばれるものがあり,南北両極でつくられる低温・高塩分の海水がどのように流れるかを模式

的に示したものである。流れの原動力は密度差であるが,深海底の流れは海底地形によ

っても大きく影響される。

 核実験が盛んに行われた時代がある。図XXIIIは,核実験によってできた放射性同位

3H (トリチウム)を調べることによって,極の冷たい海水が時間とともに,どのように運動し

ていくかを示したものである。

 

◆日本近海の海流

 日本近海の表面海流のなかで,その代表的なものは黒潮と親潮であり,それらの特徴は

Vのとおりである。

 [黒潮の蛇行]  大蛇行の生成機構については定説がなく,黒潮の流量の増減に応じ

て蛇行ができたり消えたりするといわれているが,流量が増えたとき蛇行が始まるのか,減

ったとき蛇行が始まるのかまだよく知られていない。黒潮の厚みが増えて,流れが海底まで

とどけば,陸棚斜面の等深線に沿って流れる傾向が強まるが,海底までとどかなくなると等

深線からはずれて,大蛇行が発生するという理論もある。

 黒潮の蛇行は,普通210年間大蛇行の期間が続くと,後に蛇行しないで直進する期

間が続く。19351944年,19531955年,19591962年,1975年〜は大蛇行の期間で

ある。1975年の春に,九州南の都井岬に黒潮蛇行の芽が発生してから,途中に蛇行の道

すじが大きく崩れた時期はあったが現在に続いている。過去40年の間で蛇行していた期

間は合計1718年であるから,その割合はほぼ同じで,蛇行しているのが異常であるとい

うわけでもない。

 [黒潮と親潮の混合域]  東北海区には海面下に著しい2すじの水温前線がある。南

部のものは黒潮前線,北部のものは親潮前線とよばれる。黒潮前線は黒潮続流の海面で

の流軸にあたる。また,親潮前線に沿っては弱い東向流動が時おり見られる。この2前線

により東北海区は,黒潮水域,混合域,親潮水域の3水域に区分できる。黒潮水域の北

限や親潮水域の南限は明らかではない。混合域には,数多くの渦と水温前線が不規則に

分布し,きわめて複雑な水平構造・鉛直構造を呈している。本州南岸大型冷水塊は,生成

と消滅の時期以外には,わずかに移動するにすぎない。しかし,東北海区の渦は広域に

わたって迷い動くことから,観測時期が離れると渦の同定がむずかしい。この海区の渦は,

たとえば北海道沖暖水塊(釧路沖暖水塊ともよばれる)や房総沖冷水塊などの名前でよば

れているが,上のような事情により,渦が占めている地理的または海況的位置によって命

名することはあまり意味がない。黒潮海流系の他の海域では決して見られないような,直径

100海里以上にも及ぶ大型暖水塊が,ときたま分離生成されることは混合域の特色の1

である。これは黒潮前線から,その北方の大陸棚までのスペースが大きいためである。九

州南西の東シナ海でも同様な渦が見られるが,直径も厚さもはるかに小さい。

 

◆潮汐

 ある場所に起潮力がはたらいて潮位が上がるためには,他の場所から海水が流れてこな

ければならない。起潮力による海水の流動は海底にまで及ぶため,海水と海底との間に

摩擦力がはたらき,海岸・海底とも複雑な地形であることと相まって,満潮は月の南中より

遅れる。広島では月が南中してから満潮になるまでの時間は平均9.5時間である。各地の

例を表VIに掲げる。なお,次ページの図XXIV(a)に示すように,月が赤道面上にあるとき

は,12回の満潮の高さははば等しいが,(b)のように,月が赤道面上にないときは,2

の満潮の高さは異なり,月に向かったときのほうが高くなる。このように2回の満潮が異なる

ことを日潮不等という。

                                           大潮と小潮が生じるのは,月による起潮力と太陽による起潮力とが互いに相加わる

か相減じるかによる。すなわち,新月・満月には太陽と月の両者の作用が相加わっ

て大潮となり,上弦・下弦のときには,月と太陽とが地球に対して直角の位置とな

るため,両者の作用が相減じて小潮となる。そして,その割合は

大潮時の起潮力/小潮時の起潮力=(2.21)/(2.21)2.7

となるはずである。表VIを見ると,この比は実際でも23となっている。このような理由で

約半月の間隔で大潮と小潮とが現れるのである。

 

 

春秋の彼岸の頃には太陽が赤道面に近い位置にあるので,太陽・月・地球がほぼ一直

線上に並ぶことが可能で,太陽・月のそれぞれによって生じる満潮が重なり合うため顕著

な大潮が現れる。しかもこの2天体がともに赤道面に近い位置にあるときは日潮不等が極

小となるため,潮汐は1日に2回ずつ規測正しい水位の昇降を呈し,潮差の最大が現れ

る。半月ぐらいを隔てた日の月の位置は,ちょうど地球中心軸に対する現在位置の対称点

にあるので潮汐はほぼ同じ状態になる。また半年ぐらいたった日の潮汐は,地球自転軸と

公転軸とのなす角が23.4°であることから図XXVのようになるので,太陽潮は午前と午後と

で反対になる。したがって月齢が同じであれば太陰潮は同じであるから,潮汐はちょうど午

前と午後とが入れかわることになる。

 表VIには,各地における大潮時および小潮時における潮差の平均値も示した。東京湾

や地形の複雑な瀬戸内海では潮差が大きい。韓国の仁川における高い潮差は有名であ

る。日本海では,新潟の0.1mが示すように潮差が非常に小さい。

 [潮汐の調和分解]  月や太陽の起潮力は,それらの天空における位置や,地球から

の距離などが絶えず変化しており,また月と地球,太陽と地球の系もそれぞれの共通重心

のまわりに楕円軌道を描いて運動しているため,周期的に変化している。すなわち,起潮

力の変化は非常に複雑ではあるが,数多くの規測的な周期的変化の重なったものであ

る。周期的にくり返される連続変化は,数学的には数多くの単振動に分解することができ

る。これを潮汐の調和分解という。各地における長時間の潮汐の記録があると,それを調

和分解して個々の簡単な振動に分け,それらを将来に向かって延長したものを合成するこ

とによって,潮汐の予報をすることができる。潮位表および潮汐表の名で公表されているも

のはこの方法でつくったもので,それによる推算値は,擾乱の少ないときにはかなり正確

に実際と合う。

[起潮力]  地球がいまよりもずっと小さく,月がいまよりもずっと大きく,ほとんど同じ質量

をもっている場合を考えてみる。このような小さい地球Aと大きな月Bとが,お互いのもつ

引力のために衝突しないためには,2つの天体の共通重心Oのまわりを回転するために

生じる遠心力と引力とが等しくなるようにOのまわりに回転していればよい(XXVI (a))。こ

のように,安定した運動をしている小さい地球Aの表面上の点xと,点yとにおける力を考

えてみる(XXVI (b))

 点xは,点Aよりも「おおきな月」に近いため,x点にはたらく引力は,Aにはたらく引力

よりも大きい。一方,点xA点よりも回転の中心からの距離が小さいため,x点での遠心

力は,A点の遠心力よりも小さい。したがって,x点では回転の中心方向の力がはたらく。

 点xと反対側の点yは点Aよりも「おおきな月」に遠いため,y点にはたらく引力は,A

にはたらく引力よりも小さい。一方,点yA点よりも回転の中心からの距離が大きいた

め,y点での遠心力は,A点の遠心力よりも大きい。したがって,y点では回転の中心方向

と反対向きの力がはたらく。こうして,「小さな地球」が弾性体であれば,「大きな月」のある

ほうと,その反対側とがふくらむことになる。

 月と地球との距離は約38.4km,月の質量は地球の約0.0123倍である。この月との間

にはたらく引力が,地球にはたらく起潮力の最大の要因である。図XXVIで月の質量をM

とすると,地球の中心Oでの,質量mの物体にはたらく引力(fO)

fOGMm/R 2      (Gは万有引力定数)

月に面したA点での,月による引力(fA)

fAGMm/(Rr)2

A点と反対側のB点での,月による引力(fB)

      fBGMm/(Rr)2

したがって,ABCDO点での,月による引力の大きさは

fAfOfCfDfB

となる。地球と月の間にこの引力だけがはたらいているとすると,地球と月は互いに引き合

い,すでに1つになっているはずであるが,地球と月は誕生以来一定の距離を保ってい

る。ということは,上記引力につり合う逆向きの力もはたらいていなければならない。その力

は,地球と月が互いの共通重心のまわりを回転し合うことによって生じる遠心力である。す

なわち地球と月とを結ぶ線上,それぞれの質量に反比例する位置に共通重(H)求め

られ,それは地球中(O)らほぼ4800km月の側に寄った位置となる。地球も月も重

(H)中心とした円軌道を描いているため,地球・月それぞれに遠心力が生じる。この遠心

力は月による引力と等しい強さで逆向きにはたらき,つり合いが保たれていると考えてよ

い。ということは地球中(O)おける遠心(FO)(fO)等しい。しかし,遠心力は地球

のどの部分をとっても同じ方向に同じ大きさではたらく。したがって,

    FOFAFBFCFD

となる。そこで,A点およびB点での引力と遠心力との差は,それぞれ

     fAFAGMm/(Rr) 2GMm/R 2GMm(2 Rrr 2)/R 2(Rr) 2      (1)

     fBFBGMm/(Rr) 2GMm/R 2=−GMm(2 Rrr 2)/R 2(Rr) 2     (2)

となるが,rRにくらべてきわめて小さいため,(1)(2)はそれぞれ  

 fAFA2 GMmr/R 3 (1′)    fBFB=−2 GMmrR 3 (2′)

となり,A点およびB点における起潮力が導かれる。CDでは引力と遠心力の方向が少し

ずつ変わるのでその合力を求めればよい。図XXVはその結果を示している。AB点では

海水面がふくらんで満潮となり,CD点では干潮となることが理解できる。(2′)式から,起潮

力は天体間の距離の3乗に反比例することがわかる。太陽は月にくらべてはるかに大きな

質量をもつが,地球との距離が1.5×10 8kmと遠いため,起潮力は月の半分となる。

 

 

 








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