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1節 水惑星・地球

 

水の特異な性質

 地球は水惑星とよばれることがある。地球はその生成の過程において,地表には

ばく大な量の水が存在するようになったことがほかの惑星と異なる特色である。地

表の温度は氷がとけたり水が凍ったりする温度に近いが,この温度でとけたり凍っ

たりするのは,水の特殊な性質によるものである。物質としての水の特殊な性質を

Iに示す。

◆原始大気の形成

 隕石にはH2Oなどの揮発性物質が含まれている。微惑星が隕石物質と同じ組成

だと考えると,これらの揮発成分は,原始地球への衝突によってガスとして解放される。こ

の過程を衝突脱ガスとよぶ。たとえば,衝突速度が2km/s以上になるとH2Oの脱ガスが始

まり,4km/s以上では完全に脱ガスしてしまう。微惑星中にはこのような揮発成分は0.1

以上含まれていたと考えられているので, 脱ガスによってできる原始大気はかなり多い。

原始地球が現在の直径の5分の1くらいになると脱ガスが起こりはじめる。

 

◆マグマオーシャン

 微惑星の衝突によって,微惑星のもつ重力の位置エネルギーが解放されて地球は高温

になり(次ページの参考参照),大気中のH2Oの温室効果のため,この熱が宇宙空間に放

出されず,原始地球の表面の温度はしだいに上昇する。一説によると,原始地球の大きさ

が現在の直径の2分の1程度になると原始地球の表面がとけはじめ,マグマの海(マグマ

オーシャン)が形成される。

マグマオーシャンの深さは衝突する微惑星中のH2Oの量によって決まる。H2Oが多い

と,原始大気中のH2Oも多くなり保温効果は強くなる。図Tは,微惑星中のH2Oの量と地

表温度の変化を表している。微惑星中のH2O0.1%であれば,マグマオーシャンの深さ

は数十kmであるが,2%あれば1000km以上にもなる。

[コアとマントルの分離]  マグマオーシャンの形成は,未分化原始地球に大きな変

化を与える。たとえば,金属鉄とケイ酸塩の密度差による分離が始まる。マグマオーシャン

の底には金属鉄の層が形成されるが,それより下部の未分化物質とくらべると密度が大き

く,安定になり,鉄の層と内部の未分化層がしだいに入れかわってコアが形成されていく。

このようなコア形成によって解放される位置エネルギーはさらに地球内部の温度を上昇さ

せ,マグマオーシャンは深さ1000km以上にもなったと考えられている。コアとマントルの分

離と同時にマグマオーシャンが部分融解の状態であれば,固体のケイ酸塩と液体のケイ

酸塩の密度差によって原始マントルの分化も進むと考えられる。

 一説によると,コアとマントルの分離の時期に火星と同じくらいの大きさの原始惑星が地

球に衝突し,マグマオーシャンの一部をはがして月が形成された。これが正しいとすると,

この衝突によって一時期原始地球は,ほぼ全体が溶融するほどの深いマグマオーシャン

ができたと思われ,原始地球の分化も急速に行われただろう。

 また一方では,マグマオーシャンは存在しなかったと考える科学者もある。

 

参考地球の形成以来現在までに発生または消費したエネルギーの見積もり

1)重力の位置のエネルギー

 現在の地球の密度分布が,現在の重力場でもつ位置のエネルギーE

   

 

 (G;万有引力の定数,R;地球の半径,M(r);半径rの球の質量)

である。太陽系星雲中に散らばった粒子や隕石様物質から地球が凝縮したとすれば,現

在の層構造ができるまでにこれだけのエネルギーが発生したわけである。

 一方,地球成長の過程において,粒子が捕獲されるためには,成長過程の地球の半径

r,粒子の速度をvとすると,単位質量あたり

 

であれば捕獲されることになる。左辺は粒子の運動エネルギーを,右辺は成長過程の地

球の位置のエネルギーを表す。したがって,地球が成長するとともに捕獲される粒子(

惑星)は増加する。この粒子(微惑星)の運動エネルギーが熱になるとすると,現在の地球

がもつ位置のエネルギーと同程度のエネルギーが熱になったに違いない。かりに,式(1)

のエネルギーと同程度のエネルギーが物質の内部エネルギー()Uになったとすると,U

UcMΔT

(c;比熱,M;地球の質量,ΔT;温度上昇)

で表されるので,比熱を0.25cal/gKとすると,温度上昇は4.2×10 4K(4K)になる。こ

の推定は地球が断熱状態を続けていた場合であり,表面からの熱の発散があるので温度

上昇はもっと小さい。しかし,46億年間の間こ現在の温度まで冷えるのはむずかしい。お

そらく凝集のプロセスの間に表面に落下した粒子から発生したエネルギーは放射の形で

空間にもどってしまったに違いないが,上の見積もりから,初期の地球がかなり高温であっ

たことは推測できる。

2)マントルとコアの分離による熱

 マントルとコアの分離が閉じた系の中で起こったこととすれば,それによって生じた重力

のエネルギーは地球内部に蓄えられる。EfGM2/rM;地球の全質量,f;地球の内部構造を表すパ

ラメーター)と書くと,一様均質の球の場合には,式(1)を積分して

f3/50.600

が得られる。現在の地球についてfの値を計算してみると,

f0.668

になる。この差Δf0.068はマントルとコアが分離したときの効果を示している(地殻は質量

が小さいので,その分離による効果は無視できる)Δf0.068によって,どのくらい位置の

エネルギーが変化するかを計算してみると,

ΔE=−2.5×1032J

 

となる。これによる断熱的な温度上昇は4.2×103Kになる。実際の温度上昇はコアの形成

の速度と熱輸送の速度のかねあいで決まる。


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原始海洋と地殻の形成

[原始海洋の誕生]  原始地球の直径が現在の0.9倍くらいになる頃になると地球成長

の速度が遅くなり,微惑星の衝突によって解放される位置エネルギーが少なくなる。この

エネルギーが160/2以下くらいになると,地表温度は急に下がり,原始大気中のH2O

が凝結し,原始海洋が形成される。原始海洋の形成に要する時間は非常に短く,1000

以内ともいわれている。そのときの海水温も100℃に近いところまで下がる。これは約40

年前と考えられている。

[地殻の形成]  原始海洋の形成によって,大気中のH2Oが減少するだけでなく,CO2

水に溶けて減少する。このため地表の温度は急速に低下し,マグマオーシャン上部の密

度の小さいケイ酸塩が固化する。現在,最古の岩石はカナダ北部で発見された約40

年前の片麻岩である。また,西オーストラリアでは約42億年前のジルコンが発見されてい

る。ジルコンは酸性マグマ中でつくられるので,42億年前には花こう岩質マグマが存在し

ていたことになる。

 原始海洋や地殻の形成によって,プレートの運動がはじまったと思われる。地表の玄武

岩質岩石は水との反応により含水鉱物をつくり,それがプレートの動きで移動し,海溝に

沈み込むとマグマが発生し,火山活動によって陸地を形成する。このようにプレートテクト

ニクスの機構がしだいに現在のような大陸と海洋からなる地表へと変化させていったと考

えられている。

 

◆ストロマトライト 

層状を示す石灰質の堆積物であり,これは次のような過程で形成されると考えられてい

る。

@ 藻類が堆積物粒子をとらえながら成長する。

A 次いで,藻類細胞からの分泌粘液が堆積物粒子を固着させて石灰質の皮膜をつく

る。

B この皮膜の表面に再び藻類が成長して,次の薄膜をつくる。

 ストロマトライトの層状構造はこのような過程をくり返してしだいに発達したもので,最終的

には直径数mもある巨大な構造をつくることもある。

 ストロマトライトは,先カンブリア時代中期以降現在まで,すべての地質時代にわたって

その産出が知られている。特に先カンブリア時代には,広い範囲に発達していたらしい。

この先カンブリア時代のストロマトライトを形成したのは,主としてラン細菌 (特に,糸状ラン

細菌)であったらしい。ストロマトライトが先カンブリア時代の中〜後期において広範囲に形

成されたという事実は,当時ラン細菌が大発展をとげたことを示している。古生代が“サン

ヨウチュウの時代”,中生代が“恐龍の時代”,新生代が“哺乳類の時代”とよばれるよう

に,先カンブリア時代の中〜後期は“ラン細菌の時代”とよんでもよいだろう。ラン細菌は

大気における酸素の登場に大きな役割を演じている。

 

◆大気組成の変化と地球環境  

水蒸気や二酸化炭素を主成分とした原始大気は,地表の温度低下にともなって,原始

海洋の形成,そして,海水への二酸化炭素の溶け込みによってしだいに変化していった。

そのため地表の温度はいっそう低下し,約22億年前には氷河が出現している。それ以

後,氷河は主に極地方に周期的に現れるようになった。これは,海水中に溶けた二酸化

炭素が石灰岩として固定され,プレートテクトニクスのはたらきで,大陸に運ばれ,大気中

の二酸化炭素の海水への溶け込みを促進したためと考えられている。

 一方,大気中の酸素の存在を示すのは縞状鉄鉱層である。世界の鉄鉱層の大部分を

占めるこの鉱層は先カンブリア時代にだけ知られていて,25億年〜20億年前に集中して

現れる。鉄にはFE2+FE3+とがあり,岩石中にはFE2+として存在し,風化して酸素にふれる

FE3+に変わる。FE3+は水に溶けにくく,水中ではFE(OH)3などの水酸化鉄になり沈殿す

る。FE2+は水に溶けやすいが,現在のように遊離酸素が多い環境では水中に存在する量

は少ない。

 縞状鉄鉱層の存在は,大気中には遊離酸素が少なく,海水中には十分な酸素とFE2+

存在したことを示している。初期の地球では大気中に酸素がないため,FE2+が風化によっ

FE3+に変わることがなく,多量のFE 2+が海水中に溶けていたと思われる。一方,酸素を

つくる反応として考えられるのは,大気中のH2OCO2の紫外線による分解(光分解)と生物

による光合成である。縞状鉄鉱層  が25億年〜20億年前に集中していることは,この時

代に酸素が急増したことを意味する。

原生代の初期は,プレートの運動によって大陸ができはじめた時代で,ラン細菌などが

生活しやすい浅海が広がり,光合成を行う生物が大発生したと考えられ,それによって海

水中のFE 2+が酸化し沈殿したと考えられている。この後,大気中の酸素が増加しはじめ,

20億年前には赤鉄鉱を含む酸化された陸成層である赤色岩層が現れている。そしてオ

ゾン層の形成,生物の増加など,地球環境はしだいに現在に近いものへ変化してきた。

 

 

◆オゾン層

 成層圏の中にオゾン量の多い領域があることは,1880年から1882年にかけて,M.J.シャ

ビュイ(フランス)W.N.ハートリー(アイルランド)により独立に発見された。この層は高度

20kmないし25kmを中心に,厚さ約20kmにわたり分布する。中心付近の密度はおよそ5

×1012分子・cm-3で,全体の量は平均8×1018分子・cm-3で,0℃,1気圧において,0.3cm

の厚みに相当する。

 オゾンは波長200300nmの紫外線を強く吸収するので,生物細胞中の核酸を破壊す

る太陽紫外線が地上に侵入するのを防いでくれる。オゾン層は地上生物の生存にとって

不可欠な存在である。オゾン層の紫外線遮蔽効果は300nm付近から長波長側では不完

全となり,太陽紫外線(波長域305±10nm)がわずかに地上にもれだしてくる。この紫外線

UV-Bとよばれ,生物機能に損害を与えるが,これに対して地上生物は進化の過程で

種々な防御機能を獲得している。UV-Bの地上照射量はオゾン量の変動に敏感であるか

(変化率にして約2倍の増幅度がある),オゾン量の長期変動は地上生物にとって重要な

環境パラメータである。

 大気中のオゾンO3は酸素原子Oが酸素分子O2と結びついてできる。酸素原子は太陽

紫外線(波長242nm以下のエネルギーの高い部分)の解離作用によって,大気の主成分

である酸素分子からつくられる。地球大気の酸素分子は光合成を行う生物によってもたら

されたものであるから,オゾン層は生物自身がつくり出したものだといえる。オゾン層が貧

弱で紫外線遮蔽効果の弱かった初期段階では,生物は水中でのみ生存可能であった。

水中で光合成を行う生物が現れ,大気中の酸素分子濃度をしだいに増やしていった。こ

うして古生代の中頃(4億年前)には,大気中の酸素濃度は現在の100分の1程度にな

った結果,現在と同程度の紫外線遮蔽効果をもつオゾン層ができ上がり,陸上に生物が

すめるようになったと考えられている。こうしたオゾン層は他の惑星にはない,地球大気に

特有の存在であると推定されている。

 オゾンは太陽の紫外線により速やかに分解されるが,この際生じた酸素原子がオゾンを

再生するので,この分解過程では正味のオゾン消失はない。オゾンの消失につながる反

応としては,オゾンと酸素原子との反応がある。また,大気中に微量に存在する水素酸化

物,窒素酸化物,塩素酸化物などの気体が触媒反応サイクルを形成しており,これによっ

て効率よくオゾンを壊す。オゾンの生成反応は,最終的にはこれらの消失反応とつり合い

を保ち,安定したオゾン層が保持されている。しかし近年,超音速航空機の排出する窒素

酸化物,スプレー缶や冷凍機などに使われ大気中に棄却されたクロロフルオロカーボン

などの塩化炭素(別称フロン)などがオゾンの消失反応を高め,その結果オゾン層が侵食

されるのではないかと懸念されている。オゾン層のレベルが長期的に低下した場合,

UV-B 地上照射量の増加により皮膚癌の発生率を高める。また作物収量減などに加え

て生態系に種々な影響を与えるものと予測されている。

 オゾン層は,日により季節により変化する。この変化のしかたは地球上の場所によって

異なっており,とりわけ緯度・季節変化に際だった特徴がある。太陽直下の低緯度上空で

多量につくられたオゾンは,成層圏大気の動きによって高緯度上空に運ばれる。このた

めオゾン量は,低緯度よりも高緯度で多く,また季節では春に極大,秋に極小となる。こう

した変動は,大気の大規模な運動に原因がある。

 一方,オゾン層の吸収する太陽紫外線のエネルギーは大気を暖める熱源として,成層

圏形成の主要因ともなっているが,同時に大気の大規模運動もひき起こすので,オゾン層

は上空における大気の運動と密接な関係にある。大気の大規模な運動は地球全体の気

候と深いつながりがある。また,オゾンは赤外線を強く吸収・放出するので,大気の熱放射

にも影響を与える。これらの点からオゾン層は気候を左右する因子として重要である。

 

 

 








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