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第2節 銀河と宇宙

 

銀河の分布

クェーサー

宇宙膨張の観測

膨張宇宙のモデル

宇宙の年齢

3K黒体放射

ビッグバンモデル

火の玉宇宙

 

 

銀河の分布

 一般に銀河は単独で存在するものは少なく,数個から数千個の集団をなして存在していることが多い。そこで,集団の中の銀河の数によって銀河群,銀河団という階層が定義されている。

 われわれの銀河(銀河系)やアンドロメダ銀河などは,他のいくつかの銀河とともに局部銀河群をつくっている。表は,局部銀河群に属する銀河についての諸量である。銀河が50個以上集まったものが1000万光年程度の領域に密集している集団を銀河団という。たとえば,5900万光年離れたところには約2000個の銀河からなるおとめ座の銀河団が存在する。2000個の銀河が約1000万光年の直径の範囲にあるが,その90%は矮小楕円銀河である。この銀河団の中心にあるのがM87である。われわれの銀河はこのおとめ座の銀河団に向かって300km/sで運動している。

 銀河団をこえる大きな集団については,1950年代から一部の天文学者がその存在を主張してきた。しかし,その存在はすべての研究者の賛同を得るものには至っていなかった。ところが,1980年代になると,多数の銀河の3次元的な分布を調べることによって,広い領域での銀河分布が調べられるようになった。

 

局部銀河群に所属する銀河の諸量

 

クェーサー

 1960年から1963年にかけて,未知の電波源が新たに発見された。そのときに見いだされた電波源について可視光線による観測がなされた。その結果わかったことは,電波源の位置にある天体は恒星と同じように点状であること,およびそのスペクトル中には輝線がありその輝線が地上で測定される元素のどれとも一致しなかったことである。恒星のように見えたことから,この天体は恒星状天体(quasi-stellarobject)とよばれ,略してクェーサーといわれるようになった。

 第2番目の観測事実は地上にない元素の存在を意味しているようでもあり,この天体を観測した研究者を悩ませた。しかし,スペクトルの輝線の分布の様子が地上の元素による線スペクトルの分布と非常に似ていることが解明の糸口となった。地上で測定される線スペクトルが長い波長の方向へ系統的に偏移していると見なすことによって対応がつくのである。スペクトル線の偏移の原因にはいくつかの可能性があるが,一番考えやすいのは天体が地球から遠ざかる運動をしていることによるドップラー効果である。

 ところが,クェーサーのスペクトル線の偏移はそれまでに知られていたどの天体の偏移にくらべても大変大きく,その偏移からでてくる後退速度は光速度の数パーセントにも達する。ハッブルの法則を使うと,光速度の数パーセントというような高速で後退する天体はきわめて遠方にあることになる。遠方にある天体から観測するのに十分なエネルギーが地球まで到達するということは,その天体の放出しているエネルギーがばく大なものであることを意味する。実際,この天体が遠方にあるとしてそのエネルギーを推定してみると,1秒あたりおよそ1039Jという値となる。この値がいかに大量であるかは,太陽が1秒に出しているのが約1026Jであることとくらべるとわかる。もちろん,この1秒間に1039Jという値は,銀河から放出されているエネルギーが1秒間あたり10371038Jであるのとくらべると,宇宙にありえない値ではない。

 ただ考えなくてはならないのは,そのばく大なエネルギーを放出している領域の大きさである。クェーサーの大きさは数光週から1光年程度である。これは銀河が10万光年の大きさをもっていることと比較するときわめて小さい。このようにきわめて小さい領域から,銀河全体と同程度かそれよりも大きいエネルギーを出していることが問題となる。

 このクェーサーの大きさは,クェーサーの明るさの時間変動から推定した値である。クェーサーの明るさは数週間から1年程度の変動を示している。このような変動が起こるためには,光の変動領域が光が数週間から1年程度以内で到達できる範囲より小さな領域でなくてはならない。それは,情報の伝達の速度は光速度以上になり得ないという制限があるからである。したがって,変動の時間内にその変動の情報を光で伝達できる距離内のみが相互に関連をもつことができる。情報伝達がなされない領域では,変動が起っているという情報が伝わってきていないのであるから,その変動と関連するような状況になっていない。こうして,変動している時間からその領域の大きさの上限を推定できるのである。

クェーサーはその後もたくさん(強い電波を出している電波銀河と合わせて4000個以上)発見されている。このクェーサーが何であるかについての最終的な結論は得られていない。しかし,最近の観測からすると,銀河には中心領域に非常に重いブラックホールが存在する可能性がきわめて高い。クェーサーの場合も,そのようなブラックホールが中心に存在し,周辺のガスとの相互作用が大変に激しい状況にあるのではないかと考えられるようになってきている。

 

宇宙膨張の観測

 現代の宇宙論を考える際に最も重要な観測は1929年にハッブルによってなされた。ハッブルの観測で重要なことは,赤方偏移が銀河までの距離に比例しているという定量的な発見であった。ハッブルの赤方偏移−距離関係とドップラー効果による赤方偏移−速度関係を合わせて考えると,銀河の速度は距離に比例しているというハッブルの法則が求められる。

 ハッブルの法則は,銀河が距離に比例した速度でわれわれから遠ざかっていることを意味する。宇宙の一様性からすると,宇宙の構成要素である銀河と銀河の間隔が,宇宙のどこでも時間とともに広がっていることになり,別のことばでいえば宇宙が膨張しているといえる。ハッブルは宇宙が膨張していることを発見したのである。ハッブルが実際に測定した銀河の数は数十でその距離も200万パーセク程度の領域のものであった。

 地球上で観測して遠方のすべての銀河がわれわれから遠ざかっていくことは,一見するとわれわれが宇宙の中心にいるような感じをいだかせるかも知れない。しかし,遠方の銀河の後退は地球が宇宙の中心に位置することを意味しない。宇宙が一様であることを仮定して,どの銀河も同じ立場であるとすると,ある銀河から観測したとき,太陽系の属しているわれわれの銀河はその銀河から遠ざかっていることになるし,他の銀河も遠ざかっているのである。

もう1つ注意が必要なことは,宇宙の膨張は遠方の銀河との間隔が開いていくということであって,近くの銀河との距離とか銀河の中の物質間の距離は広がっていくわけではないことである。宇宙が膨張しているのは,宇宙の初期条件が宇宙空間を広げるというものであったことに由来しており,その膨張は宇宙の中の物質の重力によって減速されている。ところで,宇宙全体としてみたとき,宇宙にある力は宇宙の中の物質全体からの重力なのであるが,その力は宇宙初期の膨張速度を徐々に小さくする程度のものでしかないのである。いいかえると,“弱い”重力しか作用していないため,宇宙膨張の初期の速度による運動が観測されているのである。しかし,この宇宙全体からの重力は銀河や恒星をまとめている重力や物質を形成する力にくらべて格段に小さく,したがって銀河そのもの,恒星そのもの,物質そのものなどを考える際には“膨張”の効果はなくなってしまっていて,宇宙膨張からは切り離されてしまっていることになる。

 

膨張宇宙のモデル

 

観測的に得られたさまざまなデータを理解するためには,理論的な宇宙モデルをつくることが役にたつ。宇宙には大量の物質があると考えられるので,宇宙全体を考える際には物質間にはたらく引力である重力を考慮してモデルをつくらなくてはならない。強い重力を扱うためには,ニュートンの発見したニュートン重力では不十分で,アインシュタインの一般相対論を使う必要がある。一般相対論では,物質の存在が時間と空間に影響を及ぼすことになる。

一般相対論を使った動的な宇宙モデルは,1922年に旧ソ連のフリードマン(A.Friedman)によって求められた。フリードマンは宇宙が一様で等方であると仮定し一般相対論の方程式を解いた。動的な宇宙論において,膨張や収縮を表すのに特別の方法を使う。膨張や収縮は2つの銀河間の距離の変化によって表現できる。しかし,たくさんの銀河があって,お互いに距離を広げていく場合には,どの銀河の距離を使うべきかがわからなくなる。そこで,時刻tと時刻Tで何倍に変化したかを考えることにすると,宇宙原理によって一様性を仮定するから,その値は選んだ銀河によらない。この“何倍になるかのファクター”をスケールファクターといい,at)と表す。ここでスケールファクターの値は時間とともに変化するので,時間の関数として書いてある。一般に,フリードマンモデルは宇宙原理を仮定しているので,すべての量が場所の依存性をもたないで時間のみの関数となる。

フリードマンが求めた解は3種類に分類される。実際には時間と空間を合わせた4次元の世界なのであるが,4次元的なゆがみを想像することや視覚化することは不可能であるので,ここではゆがみ方を2次元の面のゆがみで考えてみる。面が2次元であるので,そのゆがみ方は3次元的な空間の中でみるとわかりやすい。面のゆがみには,球面のようにどの方向をとってみても同じようにゆがんでいる場合がある。もう少し正確にいうと,球面のある1点を考え,その点で球面に接する平面を考えたとき,球面はその平面の片側に存在するので,ゆがみ方が同じなのである。このような面を曲率が正の曲面という。それに対して,馬の鞍のような面を考え,ある点で接する平面を考えたとき,馬の鞍の曲面はその平面の両側に出てくる。これは馬の鞍を馬にのせたとき,曲がり方が上に凸なところと下に凸なところがあるためであり,このような面の曲率は負であるという。曲面の種類をこのような曲率という概念で分類すると,もう1つが曲率のない面,いいかえると平面あるいは平たんな面というものがある。フリードマンの3つのモデルはちょうどこの3つの分類に対応していて,普通はk=+1k0k=−1なるパラメータで表現される。このkの値の正,0,負がそれぞれ時空の曲率の正,0,負に対応する。この3つのフリードマンのモデルでは,そのスケールファクターのふるまいが異なる。k=−1k0のモデルでは,スケールファクターは時間とともに増大する一方である。ところが,k=+1のモデルでは,増大と収縮をくり返す振動的なふるまいをする。kの違いはこのように,時空のゆがみ方の違いと,スケールファクターの時間的変動の違いを表している。さらに,k=+1のモデルは,球面のようなものなので有限の大きさあるいは体積をもっている。そのため閉じた宇宙といういい方をすることもある。それに対し,k=−1k0のモデルでは,宇宙は無限であるので開いた宇宙という。

 

宇宙の年齢

 宇宙が膨張していることは,過去にさかのぼると,宇宙が1点から始まった時期にたどり着く。その間にハッブル定数が一定で,現在の値と同じであると仮定すると宇宙の年齢を推定することができる。ハッブルの法則は

  υ=Hr

であるので,宇宙の年齢t

 

である。1光年=9.46×1012km,1年=3.156×107秒であるから,

 

したがって,宇宙の年齢は約150億年となる。しかしこの値はハッブル定数の値に幅があること,またハッブル定数は時間とともに変化することから,宇宙の年齢の目安と考える必要がある。

スケールファクターと地平線の時間変化

 

[宇宙の地平線]  宇宙の年齢というものが定義され,また有限の値が与えられると,宇宙の大きさにも特徴的な長さが存在することが明らかとなる。それは,情報の伝達の速度の最大のものが光速度であることを使う。宇宙の中に光速度をこえる速度がなく,また宇宙の年齢が150億年程度であると,光を使って観測できる原理的な限界は“光速度×宇宙年齢”程度の半径の内部に限られる。この領域の外側とこの領域の境界を宇宙の地平線という。その外側は原理的に観測不可能であるからである。もちろん,この地平線までの距離は宇宙年齢に比例しているから,時間に比例して増大していくものである。正確には,地平線の半径RH,宇宙年齢をtHとすると

  RH2ctH                   

となっている。

宇宙の地平線に関して注意が必要なのは,宇宙膨張との関係である。図のように宇宙膨張はスケールファクターのふるまいで決まり,地平線の大きさは時間に比例して大きくなる。ある時点での“宇宙の大きさ”は,そのときの宇宙の地平線の大きさである。宇宙の地平線のところでの宇宙の膨張速度は光速になっているわけではない。したがって,ハッブルの法則を適用限界をこえて適用して,後退速度が光速度になるところが宇宙の地平線であるという解釈は間違っている。その時点で宇宙の膨張速度が光速をこえるところは地平線の外側にあるのである。

 

3K黒体放射

アメリカのペンジアス(A.Penzias)とウィルソン(R.Wilson)は,われわれの銀河からの21cmの電波による精密な観測を最終目的として,電波アンテナや測定装置を改良し雑音をできるかぎり押える努力をした。その際に,彼らは7cmの波長で測定することによって改良した装置やアンテナからの雑音がどの程度あるかを調べた。7cmの波長の電波は天体からはほとんど出ていないと予想された。したがって,空に向けられたアンテナには,地球大気からの“雑音”のみが受信されると考えたのである。確かにその波長での観測によって雑音が測定できたが,その大きさはアンテナの方向によらないでほぼ一定であった。雑音源が地球の大気ならば,アンテナの方向を変えることで大気の厚みが変化し,電波の強さも変化するはずであった。しかし,観測結果はその依存性を示していないのである。

 電波の観測で得られた強さを表現するのに温度を使うことがある。その温度の1つの定義は,その電波が黒体放射であると仮定したときに何度の黒体こ相当するかで定義される。彼らの測定した電波から得られた温度は絶対温度で3度であった。

 現在の宇宙がある温度の黒体放射で満ちているということは,1940年代にガモウ(G.Gamow)が予想していた。ガモウは宇宙の中のさまざまな元素が存在することを説明する理論を考えた。宇宙の初期には単純な元素のみが存在し,そのときには高温高密状態であったと仮定すると,核反応によって次々と重い元素が形成されるという理論である。最初に中性子の存在ときわめて高温を仮定すると,まず陽子そしてヘリウムが形成される。くわしく検討してみると,ヘリウムより重い元素はほとんど形成されないことがわかった。したがって,ガモウの理論は宇宙の元素の起源をすべて解明するものではなく不十分なものであったが,ヘリウムは宇宙初期につくり出しておかなければ,観測量を十分に説明できないのも事実であり,その意味ではガモウの理論は宇宙におけるヘリウム形成の理論として生き残っている。

宇宙初期に高温度を仮定することで元素合成ができることを示そうというのがガモウの理論の主目的であったが,副産物として初期の高温状態のなごりが7Kの黒体放射として存在することも予言していた。宇宙が断熱膨張しているために,最初の高温状態からしだいに温度が低下していくというのである。したがって,ペンジアスとウィルソンの測定した3Kに相当する電波は,ガモウの考えたように宇宙初期の高温状態の存在を示す証拠となり得るもので重要な意味をもつ。ただ,このことが事実であるためには,7cmの電波だけでなく,その放射が黒体放射のスペクトルをもつことを観測する必要がある。その観測はいろいろな手段でなされていたが,1989年末に打ち上げられた観測衛星(COBECosmic Background Explorer)によって,すべての波長にわたって2.7Kの黒体放射に一致することが最終的に確認された。この放射のことを3K宇宙背景放射という。

宇宙の等方性は3K黒体放射の観測からきわめて精度よく示されている。この電波は発見当初からどの方向からもほぼ同じ強度でやってくることがわかっていたが,さらに1992年になって,この3K黒体放射の非等方性は10万分の1程度であることが見いだされた。この観測もCOBEによるものである。10万分の1の違いというのは,富士山の高さが3cm高いか低いかを問題とするレベルの精度である。したがって,非等方性は0ではないがきわめてよい精度で等方であるというべきである。つまり,宇宙の中の黒体放射から宇宙の等方性が観測的に示されているのである。

 ところで,3K黒体放射は何から出てくる放射なのであろうか。ヘリウム量の観測から宇宙初期は非常な高温高密状態であることがわかっている。高温状態では放射が重要な役割を果たす。宇宙初期は光の支配する宇宙であったと考えてよい。宇宙の断熱的な膨張とともに温度が低下してくると,しだいに物質の役割が重要となってくる。高温状態で存在する物質は,物質どうしや光との相互作用によって,最初は中性子や陽子や電子といった素粒子の状態であるものが,温度が低下して109K程度になると,ヘリウムの原子核をつくる。さらに温度が低下して数千度になると,電子と陽子が原子の状態である中性の水素に結合する。ここで重要なことは光と物質の相互作用の強さは,自由な電子の存在する場合と中性の水素になってしまった場合とではまったく異なってしまうことである。光と自由電子との相互作用は大きく,光は自由な電子によって散乱されて方向を絶えず変え続ける。たとえば,太陽中心部では光は数cmしか直進できない。数cm進むごとに電子と衝突して方向が変わるからである。ところが,電子が陽子にとらえられて中性の水素原子になってしまうと,光との相互作用はきわめて小さくなって,光は散乱されることなく直進ができるようになる。いったん直進できるようになった光は宇宙の中を進み続ける。宇宙膨張の中で水素原子が形成される(水素の中性化)のは数千度の温度になったときで,このときに宇宙の中の光が以前の不透明な状態から直進を始め,宇宙は透明になって“晴れ上がる”。3Kの黒体放射はこの晴れ上がりの時点で放出された光が現在観測されたものである。つまり,数千度の不透明な光と物質のかたまりからもれはじめた黒体放射である。

 さて,黒体放射というのは,熱した物体から出てくる光で,温度のみですべてが決まってしまう。たとえば,黒体放射のスペクトルでの最大の強さをもつ波長は温度に反比例している。膨張宇宙で波の波長がのびていくと,黒体放射での最大強度をもった波長ものびていく。黒体放射での最大強度の波長は温度に反比例していたから,温度が低下していくことになり,しかもそれはスケールファクターに反比例することになる。こうして黒体放射の温度は,膨張宇宙の中では「温度×スケールファクター=一定」という関係を満たしながら変化するために,宇宙初期の高温状態が現在では低温として観測されることになる。

3K黒体放射は宇宙のきわめて初期の状態が観測されているものではない。宇宙は“晴れ上がる”以前は不透明であって,そこからの光は現在のわれわれに到達することはない。宇宙が晴れ上がって光が直進できるようになって初めて,その光が現在のわれわれのところまでやってくることが可能になったのである。3K黒体放射は宇宙が30004000K程度の温度に低下したときに発せられた光を見ていることになる。このことは温度が1000倍程度であるので,宇宙のスケールファクターが現在の1000分の1の頃の光であることを意味する。スケールファクターの時間依存性を調べると,これは宇宙膨張の開始から数十万年後であることになる。

 

ビッグバンモデル

 宇宙の過去を考えるときにはフリードマンモデルに現れた3つのモデルはほとんど同じふるまいをしているので,いろいろなことがわかる。宇宙が膨張していることを考えると,現在の銀河間の距離とその膨張速度から何年前に膨張が始まったかを推定できる。距離を速度で割れば,膨張を始めたときから何年たったかが求められる。

 特に,ハッブルの法則を使うと,速度は距離とハッブル定数の積で表されることから,宇宙の膨張の時間はハッブル定数の逆数になることがわかる。この値が宇宙の膨張開始からの時間のおおざっぱな値で,宇宙年齢といわれる。この年齢は,ハッブル定数が71km/s/MpcMpcはメガパーセク)であることを使うと,およそ137億年となる。宇宙はいまから137億年前に大爆発によって膨張を開始したのである。そこで,このモデルをビッグバンモデルという。

 

火の玉宇宙

 宇宙初期に高温高密状態を仮定して元素の形成を考えようとしたのが,ガモウであった。ガモウ自身の最初のもくろみは宇宙のすべての元素を宇宙初期につくり出すことであったが,ベリリウムやホウ素が形成されてもすぐに壊れてしまうために,炭素や酸素といった重い元素をつくり出すことはできなかった。しかし,この考えによればヘリウムは必ず形成されるので,理論的な値と観測値とを比較することで,高温高密状態が存在したか否かの別の証拠とすることができる。観測的にはヘリウムは宇宙の物質の重さのうち約25%を占めているということが,種々の天体の観測からわかっている。

 理論的にどれくらいのヘリウムが形成可能かを考えてみる。最初に中性子のみがあったと考える。中性子は単独で放置しておくと15分程度で陽子と電子およびニュートリノに崩壊する。もちろん高温高密状態では陽子と電子やニュートリノとの衝突によって,中性子の形成という崩壊の逆反応も起こる。宇宙の初期にたくさんの中性子があったとすると,宇宙が膨張して温度が低下した際に,中性子の崩壊と形成の過程のうちで,崩壊のほうがまさってきてしだいに陽子の数が増えてくる。どれくらい増えるかは温度が何度になるかで決まる。

その温度を考えるには,ヘリウムの形成の詳細を考えなくてはならない。ヘリウムは陽子が2個と中性子が2個からなる原子核である。原子核の反応では2個の陽子と2個の中性子のように4個の粒子が1か所で衝突してヘリウムを形成することは大変にむずしい。 

実際には,1個の中性子と1個の陽子が反応して重水素という水素の一種を形成する。こうして形成された重水素がもう1個の重水素と反応して3重水素や中性子を1個のみ含むヘリウムを形成する。この重水素の反応が起きるためには,十分な重水素が形成されている必要がある。重水素ができるためには中性子が崩壊してしまっていては困るので,中性子が崩壊しないうちに,しかも衝突の反応が十分起きるだけ多くの重水素ができるということを考えると,温度が約10億(109K程度であることが必要となる。温度がこれよりも高すぎると,重水素が十分に形成されないし,温度が低くなる時点では中性子が崩壊してなくなってしまっているからである。

最初中性子のみであったとしたとき,約10K程度の温度では,陽子が中性子の約7倍程度の個数になることが導かれる。このことを使うと,形成されるヘリウムの量を計算することが可能となる。中性子と陽子の質量はほぼ等しいのでこれをmとすると,ヘリウムの質量は4mとなる。形成されるヘリウムはその時点で存在した中性子の数の半分である。なぜなら,陽子のほうが多いので少ない中性子がすべて使われたところで反応が終了し,中性子2個からヘリウム1個の割合で形成されるからである。したがって,中性子の数をNとしてみると,陽子の数は7Nであり,形成されるヘリウムの数はN/2個となる。このことから,形成されるヘリウムの重さは4mN/2)=2mNであり,宇宙の全質量はmN7N8mNとなっている。したがって,その比は2mN/8mN0.25となり,宇宙の全体の約25%がヘリウムであることがいえる。この値は観測的にわかっている値とほぼ同じであるので,宇宙初期の高温状態の存在を強く支持する根拠と考えられる。こうした高温状態の宇宙を火の玉宇宙という。

 

 

 

 

 








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