トップ地学I 改訂版>第3部 大気・海洋と気象>第4章 海洋と気候>第2節 海洋と気候

第2節 海洋と気候

 

 

密度差による海水の大循環

エルニーニョと南方振動

気候変動

異常気象と気候変動

気候変動の原因

気候モデル

日本上空のオゾン層

オゾンホールの形成

酸性雨

 

 

密度差による海水の大循環

図T 地球をめぐる海水の大規模な循環モデル 北極や南極周辺で冷やされ沈み込んだ海水はインド洋や太平洋に上昇してくる。

 

海洋表層の大循環は風によって説明できるが,深層の流れを含めた海水の流れを理解するためには,海水の鉛直方向の運動を考えなければならない。この場合,重要なのは海水の密度の分布とその変化である。図Tはブロッカー(W.S.Broecker)のコンベア・ベルトとよばれるもので,南北両極でつくられる低温・高塩分の海水がどのように流れるかを模式的に示したものである。流れの原動力は密度差であるが,深海底の流れは海底地形によっても大きく影響される。

 

核実験が盛んに行われた時代がある。図Uは,核実験によってできた放射性同位体3H(トリチウム)を調べることによって,極の冷たい海水が時間とともに,どのように運動してゆくかを示したものである。

 

エルニーニョと南方振動

 

 19世紀の末頃から,南米のブエノスアイレスとオーストラリアの地上気圧が,数年の周期で逆相関を示すことが知られていた。1889年の不順なモンスーンと,それにともなうインドの飢餓に関心をもったインド気象庁長官のウォーカーは,モンスーンの強弱の予報を試みる過程で,南米とインドネシアを中心とする「海大陸」の地上気圧が数年周期でシーソー現象を示すことを発見し,この現象を南方振動と名づけた。

 図Tはオーストラリアのダーウィンと世界各地の年平均地上気圧との相関を示したものである。図からわかるように,「海大陸」付近と南東部熱帯太平洋との間には大きな逆の相関関係がある。

 

 南方振動は単に赤道域の気圧変動に現れるだけでなく,図Uに示すように赤道太平洋の海面水温や降雨量,インドやアフリカ南東部の降雨量,中緯度地方の降雨量とも関係している。特に,ダーウィンとタヒチとの地上気圧差は南方振動の指数として使われるが,この指数の時間変化と中央部赤道太平洋の降雨量や海面水温の経年変化との対応は驚くほどよい。平常時にはインドネシアを中心とする「海大陸」付近の海面水温はきわめて高く(29℃程度),この上の下部対流圏に低気圧場の大きな中心があって雨も多いが,異常時には,この高い海面水温が中央部赤道太平洋に移動するにともなって低気圧場も移動する(図V)。

平常時には「海大陸」の収束域に向けて下部対流圏では,東風が卓越しているが,異常時には西太平洋で,この東風が弱まるばかりでなく西風に逆転することもある。

 

エルニーニョ現象は,南方振動と深く関係している。図Wはペルーのプエルト・チカマの海面水温と南方振動指数の時間変化を示したものであり,両者がよい相関関係にあることがわかる。この2つの現象は,活発に作用する大気と海洋との相互作用という現象を,異なった側面で見た現象である。

 

気候変動

 気候は,大気・海洋・陸地・雪氷・生物圏など,複雑な相互作用をもつシステム(気候系とよぶ)のなかで形成されるものであり,さまざまな時間スケールの変動が重なっている。気温を例にとれば,日本の年平均気温に見られる10年程度の周期の変動をはじめ,氷期のような数万年〜数十万年もの長い周期の変動まで,幅広い時間スケールの変動がある。また気温の変動の起こり方も世界各地で異なっており,さらに全地球や南北両半球の平均気温と各地域の平均気温の変動との間にも異なった変動が見られる。このような時間的・空間的にさまざまなスケールをもつ気候変動は,日常経験する日々の気象の変化と同じく,多くは自然のゆらぎとして生じている。しかし,近年,人間活動に起因する気候変動が心配されている。

 

異常気象と気候変動

過去の平均的な気候状態からの大きな偏りが異常気象である。したがって気候状態に変化がなくても,統計的には,異常気象は自然の変動としてある頻度で発生する。しかし,気候状態に変化が生じた場合,たとえば過去の気候状態にくらべ,対象とする気候要素の変動幅が大きくなった場合,あるいは平均レベルに変化が生じた場合には,異常気象の発生は統計的に期待される発生頻度と異なることになる。

 月平均気温を例にとると,平年値からの年々の変動幅が大きくなれば,異常高温や異常低温の発生数の増加が考えられる。一方,変動幅に変化がなくても,気温の平均レベルが,基準となる平年値より高く(または低く)なることはより,異常高温(または異常低温)が増加することになる。このように,異常気象の発生形態の変化は,対象とする気候要素の分散や平均値の変動,いいかえれば気候の変動にともなって生じることになる。

 人間の活動にともなう二酸化炭素など温室効果気体の濃度の増加により,全地球の平均気温の急激な上昇が心配されている。もし予測どおりの上昇が起これば,平均レベルの上昇により異常高温が増加することが考えられる。しかし,現在のところ・気温の年々の変動幅が大きくなるかあるいは小さくなるかを評価し,異常気象の総数の増減を予想することは困難である。

 

気候変動の原因

[自然的要因]   (1)偏西風波動の変化 ブロッキング現象の生じたときには異常気象が発生しやすくなるが,長期の気候変動に関わることはない。

(2)海洋の変化  海洋は,全体として非常に大きな熱容量をもち,大気との熱や水蒸気の交換を通して,大気の運動に大きな影響を及ぼしている。このため,一般に海水温や海流の変動は,異常気象や気候変動の要因の1つにあげられる。

 近年,世界の異常気象の発生と関連して注目されているのがエルニーニョ現象である。エルニーニョは,赤道東部太平洋において数年に1回海面水温が平年より著しく高くなる現象である。この海面水温の上昇は,低緯度だけでなく,遠く離れた中・高緯度の天候にも影響を及ぼすことが知られている。

(3)雪氷面積の変化  積雪や氷床,海氷・氷河などを含む雪氷圏は,地球表面における日射の反射量や大気との熱交換,水の循環などに影響を与え,気候の形成に多きな役割を果している。したがって,雪氷面積の変化は,異常気象や気候変動の要因の1つになる。たとえば,もし雪氷面積が小さくなると日射の反射量が減少し,大気の昇温が進む。その結果,さらに雪氷面積が狭くなり,このくり返しによって気候が変わることが考えられる。

(4)火山噴火  火山噴火によって成層圏まで吹き上げられた微粒子が滞留すると,太陽から地上に達する日射をさえぎり(日傘効果),気温を低下させることが考えられる。一般に,1つの火山噴火によって放出される物質の大気中の滞留時間や近年の例からみて,噴火後1〜2年の間気温低下をひき起こすという指摘があり,火山噴火は異常気象の要因の1つと考えられる。また,長期間にわたり頻繁に噴火が起きた場合には,気候が寒冷化することも考えられる。

(5)太陽活動   地球が太陽から受ける放射エネルギー(太陽定数)は,基本的にはすべての大気現象の原動力であり,太陽定数が変化すれば気候変動をもたらすことが考えられる。近年,人工衛星によって,太陽定数の正確な観測が可能になった。1980年〜1987年のSMMSolar Maximum Mission)衛星による観測によれば,この期間の太陽定数は,太陽黒点と同様に約11年周期で変動している とみなすことができ,その振幅は全体の約0.039%程度とされている。この程度の変動では気候への影響は少ないとみられているが,観測の歴史はまだ浅く,今後さらに長期にわたる観測が必要である。

 一方,太陽定数の変化が太陽黒点に比例するという仮定のもとに,太陽黒点数といくつかの気候要素との関係が調べられている。たとえば,太陽黒点数と地球全域の平均海面水温との間に高い相関関係があることから,太陽定数の変化が気候に影響を及ぼしている可能性が指摘されている。

 また,太陽からの紫外線や高エネルギー粒子の増減により,上層の大気組成の変化などを通して,気候への影響があることも示唆されている。

 

[人為的要因] (1)温室効果気体の増加

(2)森林破壊・砂漠化  森林の破壊や砂漠の拡大など,地表面の状態変化は,地面の日射の反射能(アルベド),土壌水分量を変化させ,熱収支・水循環を通して大気に影響を与える。

  1950年に世界の陸地の4分の1であった森林面積は減少を続けており,2000年には6分の1になるとみられている。さらに,アフリカのサハラにみられるように,砂漠の拡大も進んでいる。これら地表面の変化は,人口の爆発的な増大にともなう過剰放牧,焼畑,薪炭用木材の伐採など,人間活動によるところが大きいといわれている。

 地表面の変化による影響はその場所だけにとどまらず,周辺地域からさらには遠く離れた地域にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 

気候モデル

 大気中の二酸化炭素などの気候への影響,森林伐採・砂漠化の気候への影響,海面水温の異常と異常気象との関係,火山噴火や太陽活動の気候への影響,これらの問題に答えを出すには複雑な気候メカニズムを解明し,気候系を精密に再現できる気候の数値モデルが必要となる。

 

[大気大循環モデル]  長期予報,気候変動予卿のための大気大循環モデルは,主として気候系の大気部分を数値モデル化したものであり,気象研究所のモデルには図に示した物理過程のほか,ヒマラヤ,ロッキーなどの大規模山岳,植生分布の違いによる反射能(アルベド)の違いなどもとり入れられている。

 しかし,雲と放射,地表面の扱いなどはまだ簡単なものになっており,また,海面水温・二酸化炭素分布などは気候値が用いられている。これらの物理過程がどれだけ正確に自然を反映しているかについてはよくわかっていない。それは,物理過程の解明を行うにも,モデルの検証を行うにも観測資料が不十分だからである。

 

[大気・海洋結合モデル]  温室効果による地球の温度上昇を予測するために,二酸化炭素の増加の影響を評価する実験が,大気大循環モデルで行われている。しかし,この種の実験は,気候系のエネルギーの収支の変化が問題となるので,大気大循環モデルで気候値などを用いている海面水温や海水分布なども,モデル内部で決定することが必要になる。

大気大循環モデルに組み込まれている物理過程の模式図 気象研究所の大気大循環モデルをもとにしたもの

 

 二酸化炭素の増加が気候に及ぼす影響を調べるために使用されているモデルは,大気大循環モデルと海面下数十mの温度がほぼ一様な海洋混合層とを結合した大気・海洋混合層モデルといわれているものである。これをさらに進めて,大気大循環モデルと海洋大循環モデルとの結合が実現されると,主要な気候系構成要素の変動の分布をすべてモデルで決定することになり,総合気候モデルの体裁が整うことになる。このモデルを大気・海洋結合モデルとよぶ。

 このモデルの開発・改良は,気象庁気象研究所など,世界でもごく限られた研究所などでしか行われておらず,最近やっと成果が出はじめたところである。

 

日本上空のオゾン層

 オゾン層は低緯度地域よりも高緯度地域で高い。日本各地のオゾン層の年平均値では,那覇で約260ドブソンであるが,鹿児島では約290ドブソン,つくばでは約310ドブソン,札幌では約350ドブソンである(1990年)。このうち,札幌で最もオゾンの減少が大きく,1960年からの30年間で約20ドプソンの減少になっている。この減少は全地球的なオゾン減少と関連しているものと考えられている。

 

オゾンホールの形成

 オゾンホールが南極上空を中心に形成される過程は,次のようにまとめられている。

1.晩秋から冬にかけて南極成層圏の気温が低下し,極成層圏雲(硫酸液滴・氷粒子・硝酸三水和物結晶粒子からなる)が発生する。

2.極成層圏雲に硝酸ガスが消費される結果,大気中のNOx濃度が減少する。一方,極成層圏雲の粒子表面の化学反応によってCl2が発生する。この塩素の供給源がフロンである。NOxClONO2となってオゾン消失反応を抑制するはたらきをする。

3.春になると太陽放射によってCl2が光分解しCl原子がつくられる。このCl原子がオゾン層崩壊の反応サイクルを形成する。この反応が,NOx濃度減少のために活発に進行し,オゾンホールが出現する。

4.オゾンホールが消えると,南極成層圏のオゾンの少ない大気が中・低緯度へ拡散し,地球規模でのオゾン層の減少をひき起こす。

 

酸性雨

 酸性雨の被害として最も一般的なものは建造物に対するものである。人体への直接的な影響はないと考えられている。酸性雨の生態系への影響としては,湖沼の酸性化と土壌の酸性化とが,主に北欧で指摘されているが,日本では明瞭な影響は認められていない。日本の土壌は酸性雨を中和する能力が大きいためである。

 湖沼に酸が付加され酸性化が進むと,湖底堆積物などから金属イオンの溶出が進み,pHが4以下になるとAlイオンが溶出する。Alイオンは魚類の生殖機能を弱め,湖沼の生態系を破壊する。

土壌の場合も栄養塩類の流出や金属イオンの溶出によって,植物の生育に障害をひき起こす。

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.