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第1節 海洋とその運動

 

 

海水の塩分

風によって生じる海水の大循環

日本近海の海流

 

 

海水の塩分

 

 海水1kg中に溶けているすべての塩類の重さは35gである。これを塩分といい,35‰(パーミル)と表す。海水には60種類もの異なった成分が含まれている。しかし,上表に示すように,海水の塩分のほとんどはわずか数種類のイオンで占められている。

 海洋全体についていえば,塩分3435‰の海域が世界の海の75%を占めている。北大西洋は平均35.5‰,南大西洋や南太平洋では34.5‰で,最も塩分の小さい大洋は北太平洋で,34.2‰である。蒸発量・降水量と海水の塩分の関係はよい相関を示している。海水の塩分の濃淡は,海面からの水の蒸発量から降水量を差し引いた差におよそ比例する。蒸発は,風の強さと大気の湿度に関係し,暖かい乾いた風がいつも吹いている貿易風域で著しく,1年に1.21.3mの厚さの水の層が蒸発している。地球的規模でみると,塩分が高い海域は緯度1030°の貿易風の影響を受けている地域であり,塩分が低い海域は降雨量の多い寒帯前線付近,および熱帯収束帯付近である。

 海水の塩分は,局地的にみると日射による大気および海の温度上昇にも影響される。地中海や死海は塩分の特に高い例で,それぞれ39‰,41‰の塩分がある。また,大きな河川の河口付近や,夏季に氷が融解する極地方の表層の塩分は小さくなる。東京湾や瀬戸内海などでは,河川などの陸水の影響で塩分は33‰と低い。

 

風によって生じる海水の大循環

[貿易風・偏西風による海水の輸送]  無限に広い海の表面に一様な風が吹いていると,海面の水は風の応力によってひきずられ,その下層の水もまた海面の水によってひきずられて流れはじめる。地球が回転しているため転向力がはたらき,風の方向と流れの方向とは一致しない。風が吹きはじめてから十分時間がたったとき,どのような流れになるかを示したのが図Tである。

海面では風に対して北半球では風下から右方向(南半球では左方向)45°ずれて流れ,深さに比例して流速が減ると同時に流向が変わる。この流れをエクマン流(エクマンのらせん)という。エクマン流の層の厚さは10m程度で,この層はエクマン境界層とよばれている。

 

 エクマン境界層の流れを合計すると,流れの総量は風向と直角の方向(北半球では右に90°,南半球では左に90°)である。海面に,中緯度で西風(偏西風),低緯度で東風(貿易風)が吹きはじめたとすると,やがてエクマン境界層が形成され,流れの総量は風向と直角であるから,偏西風と貿易風にはさまれた中央部に海水が集まる(図U(b))。

 

[地衡流による流れ]  2つの風系の中央に海水が集められると,海面に高低ができ,中央部の圧力は高くなる(図U(c))。これは大気の場合の高気圧に相当する。大気の場合,気圧こう配(気圧傾度)があると,転向力によって,等圧線に平行な風が吹き,これを地衡風とよんでいる。これと同様に,海水の圧力こう配によって,等圧線(海面の等高線)に平行な流れが生じる。海洋では地衡風に対して,地衡流とよばれる。

 2つの風系の中央部の海面の盛り上がりによって生じる地衡流は,東向きの流れと西向きの流れである(図U(d))。そして,太平洋のように東側と西側とを陸地によっ

て妨げられている海域では,東西流にともなう水の不足を補うため,南北流が生じ,全体として時計回りの環流となる(図V(a))。

 

[西岸強化]  運動が地球規模になってくると,転向力

  Fc2mυΩsinψ (ψは緯度,Ωは地球の自転の角速度)

の緯度変化が無視できなくなる。コリオリ因子(f2Ωsinψ)の緯度変化による効果は,β(ベータ)効果とよばれる。黒潮の原因となる北太平洋環流の西岸強化は,β効果によるものである。

図V 海流の西海岸強化(模型)

 

 

 [渦度という概念] 渦といえば,台風などのように「回転」という概念と直接結びっいている。図Wのように,速度の違う平行な流れは直線的ではあるが渦をもっている。渦の強さの程度を定量的に表すのが渦度であり,図Wの場合にはx軸方向の流れ(u)の,y軸方向の違い(u/y)が渦度である。一般には∂υ/x−∂u/yが渦度である。これをζとかく。

 大気や海洋のように,固体地球といっしょに回転している流体では,渦度の保存の法則は

   ζ+f=一定

とかける。大気や海洋に渦がないとき(ζ=0)でも,静止系から見れば,地球の自転のため,そこでの鉛直軸のまわりに渦度fで回転しているからである。つまり,地球の自転にともなう渦度と大気・海洋のもつ渦度の環が全体として一定に保たれる。fは惑星渦度,ζ+fは絶対渦度とよばれる。

 図Xにおいて,点Aで北上する大気・海洋の運動は,f(コリオリの効果)が増加する方向に向かうのでζは減少する。逆に点Bでは,南下するにつれてfが減少するのでζは増加する。このため,ABの中心Cは,図X(a)から図X(b)のように,Bの方向に移動する。すなわち,コリオリの因子の緯度変化を感じるような地球規模での渦運動は,西向きにドリフトする性質をもっていることになる。渦運動が反時計回りであっても時計回りであっても,また,渦が北半球にあるときでも南半球にあるときでも,この西向きのドリフトは変わらない。

(「グローバル気象学」広田 勇 著,p.5961,渦度とロスビー波)

 

日本近海の海流

 日本近海の表面海流の代表的なものは黒潮と親潮であり,それらの特徴は表のとおりである。

 

[黒潮の蛇行]  大蛇行の生成機構については定説がなく,黒潮の流量の増減に応じて蛇行ができたり消えたりするといわれているが,流量が増えたとき蛇行が始まるのか,減ったとき蛇行が始まるのかまだよく知られていない。黒潮の厚みが増えて,流れが海底までとどけば,陸棚斜面の等深線に沿って流れる傾向が強まるが,海底までとどかなくなると等深線からはずれて,大蛇行が発生するという理論もある。

黒潮の蛇行は,普通2〜10年間大蛇行の期間が続くと,後に蛇行しないで直進する期間が続く。19351944年,19531955年,19591962年,1975年〜1980年,19811984年,19861988年,19891990年,20042005年は大蛇行の期間である。過去40年の間で蛇行していた期間は合計1112年であるから,蛇行しているのが異常であるというわけでもない。

 

黒潮と親潮の比較

 

[黒潮と親潮の混合域]  東北海区には海面下に著しい2すじの水温前線がある。南部のものは黒潮前線,北部のものは親潮前線とよばれる。黒潮前線は黒潮続流の海面での流軸にあたる。また,親潮前線に沿っては弱い東向流動が時おり見られる。この2前線により東北海区は,黒潮水域,混合域,親潮水域の3水域に区分できる。黒潮水域の北限や親潮水域の南限は明らかではない。混合域には,数多くの渦と水温前線が不規則に分布し,きわめて複維な水平構造・鉛直構造を呈している。本州南岸大型冷水塊は,生成と消滅の時期以外には,わずかに移動するにすぎない。しかし,東北海区の渦は広域にわたって迷い動くことから,観測時期が離れると渦の同定がむずかしい。この海区の渦は,たとえば北海道沖暖水塊(釧路沖暖水塊ともよばれる)や房総沖冷水塊などの名前でよばれているが,上のような事情により,渦が占めている地理的または海況的位置によって命名することはあまり意味がない。黒潮海流系の他の海域では決して見られないような,直径100海里以上にも及ぶ大型暖水塊が,ときたま分離生成されることは混合域の特色の1つである。これは黒潮前線から,その北方の大陸棚までのスペースが大きいためである。九州南西の東シナ海でも同様な渦が見られるが,直径も厚さもはるかに小さい。

 

 

 

 








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