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第1節 地球の熱収支

 

 

太陽放射

地球放射

地球の熱収支

熱収支の緯度分布

 

 

太陽放射

 図TのグラフAは人工衛星によって直接太陽からの放射を測定したものであり,6000Kの物体の理論的な放射エネルギーのグラフBとよく合っている。しかし,紫外線の部分では実際の放射は弱く,約5000K程度である。

 太陽からの放射は,地球大気に入ってから地表面に達するまでに,吸収されたり散乱したりする。そのため,図TのグラフCのようになり,グラフAとくらべると大きく減退しているのがよくわかる。また,このグラフの中で谷状に下がっている部分は,H200203CO2などによってエネルギーが吸収されて生じたものである。

図T 太陽放射エネルギーの波長と強さ

 

 リスト(R.J.List)は大気の影響を無視した入射放射量の分布を計算し,図Uのような結果を得た。北極付近で6〜7月頃,南極付近で12〜1月頃最大量を示しているのはいわゆる白夜の現象で,日照時間が長いことに関係している。

 

地球放射

 地球が受ける太陽放射と,それによって暖められた地球が行う放射とが平衡の状態にあると考えると,シュテファン・ボルツマンの法則から

  (1A)πa2I04πa2σT4

 ただし,Aはアルベド(反射能),aは地球半径,I0は太陽定数,σはシュテファンの定数,Tは地球の温度である。これから

が得られ,A0.34I01.94 1y/min1ycal/cm2)とすると,T250K(−23℃)

になる。これが地球全体の平均温度である。地球大気の実際の温度は,200300Kの範囲にある。黒体放射に関するプランクの法則によると,T200Kでは4120μmの間にほとんどのエネルギーが含まれ,15μmのところに極大波長があり,T300Kでは380μmの間にエネルギーの大半が含まれ,10μmのところに極大波長がある。T6000Kの太陽放射が0.5μm付近に極大をもつのにくらべて,地球が行う放射は,波長の長い放射(赤外線での放射)であるので長波放射(赤外放射)ともよばれる。

 

 太陽放射(6000K)にくらべて,地球放射(288K)は,ずっと長い波長帯にずれているから,赤道のような平均地表温度より高温と考えられるところでは,放射の波長帯は平均地球温度に対する放射の波長帯より短い波長の側にずれ,反対に,高緯度や高空のような平均地表温度より低温と考えられるところでは,放射の波長帯は平均地表温度に対する放射の波長帯より長い波長の側にずれると考えられる。

 

地球の熱収支

 下図は入射太陽放射を100としたエネルギー収支を考えたものである(IPCCIntergovemental Panel on Climate Change1996年による)。このうち,地面に吸収される49単位の内訳は,地表への直達日射量(一部は反射によって宇宙空間へ逃脱)と,空気分子や浮遊粒子状物質や雲による散乱によるもの(一部は宇宙空間へ逃脱)である。空気分子による散乱はレーリー散乱とよばれるものである。散乱光は昼間の白昼現象を形成する。この現象では短波長の光が長波長の光よりも多量に散乱されるために青色が卓越している。

地面に吸収された太陽放射エネルギーは,長波(赤外)放射や熱流量(水蒸気の蒸発による潜熱流量と乱流伝導)によって地表面から正味出ていくものとつり合っている。長波放射で地面から放射されるものは114単位と見積もられている。これは,288Kの温度での黒体放射に対応するものとして推定される量である。このうち12単位は大気の窓を通して直接宇宙空間へ逃脱するが,残りの102単位は大気中の水蒸気,二酸化炭素や雲によって吸収される。大気自身もその中の水蒸気,二酸化炭素や雲から長波放射を放出している。すなわち,57単位は宇宙空間へ,95単位は地表に向かい地面で吸収される。地面からの正味喪失量は11423+7−9549単位となり,地面が短波放射で獲得した49単位とつり合っている。地面からの長波放射の得失による正味の喪失量は1149519単位である。19単位のうち12単位は直接宇宙空間へ逃脱するものであるから,残りの7単位が正味大気による長波放射の吸収量である。長波放射による宇宙空間への逃脱部分の57単位は,大気中での短波放射の吸収,すなわち成層圏のオゾンや対流圏の水蒸気,塵挨や微細な浮遊粒子状物質が吸収した20単位と,長波部分での大気の正味獲得量723737単位の和からなるものである。

 

[大気の温室効果]  地球の温度がしだいに上昇することによって,赤外放射の最大強度の部分を地球放射の窓の波長帯に一致させるようにするのが大気の温室効果であり,これは温度調節器の役目を果たしている。たとえば,温室の窓ガラスは,太陽放射の可視光線の部分はよく通すが,赤外線のうちで波長の長いものほど通しにくい。温室では太陽放射はガラスを通って内部の物体に吸収され,物体の温度は上昇する。ところが暖まった物体の出す放射は,赤外線のうちでも主に波長の長い部分のものであって,ガラスで有効に断たれる。そのために,温室内に熱が蓄積されて温室内の温度が上昇する。温度の上昇とともに温室内からの放射が短い波長の赤外線をより多く含むようになり,それとともにガラスを通して外へ逃げるエネルギーも増加する。この逃げるエネルギーの量が,可視光線として入ってくるエネルギーの量とちょうど等しくなったときに温室内の温度は一定になる。

 

熱収支の緯度分布

 下図は,大気の大循環のもとになるたいせつな結果である。地球において,正味の太陽入射が年間を通じて各緯度にどれだけ与えられているかは,人工衛星からの測定から知ることができる。また,地表および大気の温度に対応して上空に向かって放射される長波放射量も各緯度ごとに観測値として与えられる。

図を見てわかるように,緯度40°あたりを境にして,低緯度では短波入射による加熱が長波放射による冷却を上まわり,逆に高緯度側では長波放射冷却が大きく,緯度ごとに独立に平衡はなりたっていない。地球全体では熱の出入りのバランスが保たれているから,2つの曲線の下側の面積は互いに相等しく,緯度40°を境とする熱の過不足は相等しい。

赤道側と極側の熱の過不足をどう解釈するかが,大循環の議論の本質である。もし,大気の運動による熱の南北のやりとりがないと仮定したとき,緯度別の熱の過不足はどうなるだろうか。短波入射は基本的に太陽定数と地球の幾何学的な形で決まる。したがって極側の気温が下がり,赤道側の気温が上昇しなければならない。図の2本の線が一致するような温度分布を計算してみると,長波放射の曲線に示される現実の大気の温度にくらべ,極で30度低く,赤道で約30度高い分布となる。つまり,現実の地球での極と赤道での温度差は約40度であるのに対して,南北の熱の交換のない地球での南北の温度差は約100度という大きな温度差となる。

 多くのテキストは現実の地球での温度分布を出発点とし,低緯度側と高緯度側との熱の過不足を解消するために(あるいは解消するような)大規模な運動が生じるとの見方で大循環を論じようとしている。その方法は必ずしも間違いではないが,それだけでは完全ではない。大循環がある結果として現実の温度分布が存在しているからである。観測される長波放射分布は「出発点」ではなくて,「到着点」なのである。

 

短波放射と長波放射がちょうどつり合うような,南北の温度差が100度の大気を考える。地球の自転と重力の作用のもとで,このような温度差をもつ大気は力学的に安定でない。南北方向の運動が生じると,その運動は赤道から極へ熱を運ぶから,短波放射と長波放射との間にずれを生じる。運動が原因で生じた熱の過不足の大きさが,運ばれてくる熱量とつり合ったところで南北温度差の解消が止まる。この状態が上の図なのである(詳細は,広田 勇「グローバル気象学」東京大学出版会,参照)。

 

 

 

 

 








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