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第2節 水蒸気と雲

 

 

水の特異な性質

地球表層の水の量の見積もり

水の相変化(三態変化)

断熱変化

雷雨(大気電気発生のメカニズム

 

 

水の特異な性質

 地球は水惑星とよばれることがある。地球はその生成の過程において,地表にばく大な量の水が存在するようになったことがほかの惑星と異なる特色である。地表の温度はちょうど氷がとけたり水が凍ったりする温度であるが,この温度でとけたり凍ったりするのは,水の特殊な性質によるものである。物質としての水の特殊な性質を次の表に示す。

 

水の特殊な性質

 

地球表層の水の量の見積もり

 地球上の水は大まかに塩水と淡水に分けられるが,これをさらに,塩水は海水と湖沼中の塩水に,淡水は地下水・湖沼水・土壌水・河川水などに分けることができる。このほかに,氷や雪(固体の水),および大気中の水蒸気(気体の水)もある。

 

[大気中の水]  大気中の水蒸気が雨として地球の表面に一様に降ったとすると,その高さは約25mmである。これを,水の総量に換算すると,約12600km3になる。

 地球上の年降水量は約1000mmであり,大気中の可降水量は約25mmであることから,年降水量の約40分の1が大気中に水蒸気として留まっていることになる。

 

[河川の水]  河川の水の量は,河川の幅,水深が複雑であり,また季節によっても変化するので,その総量を直接知ることはむずかしい。年間の降水量を720mm,年蒸発量を410mmとし,その差が河川を通じて流出するものと仮定すれば,河川によって一年間に流出する水の量を求めることができる。

 (720mm410mm)×(陸地の面積)=310mm×148.890×106km2

 大気中に留まっている水蒸気の場合と同じように,河川の総流量のうち,その1/40が河川の水として存在するものと仮定すれば

310×10-6km×1/40×148.890×106km21200km31.2×103km3

が,河川水として存在する水の総量となる。

 

[湖沼水の総量]  湖沼水は,その体積が河川ほど複雑には変動しないので,湖沼の底の地形を調べることによって,その水量を推定することができる。

 

[海水の総量]  全海洋の面積,その平均の水深から,1.35×109km3と求められている。

 

参考】古代人は水の循環を知らなかった

現在ではだれもが,水が循環していることを知っている。古代の人は,雨や雪の量と湖水や川の水との関係がわからなかったので,水の分布が均等でないことがなぞであった。砂漠のように乾いたナイル川周辺に住む人々にとって,毎年起こる洪水が,何千kmも離れた山に降る雨や雪のためであるとは,とうてい考えられなかった。

水は,海や陸から蒸発して大気にもち込まれ,雨や雪となって降り,川の流れとなって,再び海にもどるという水の循環論は,一部の研究者に注目され,支持されていたが,それを証明することがむずかしかったので,一般には受け入れられていなかった。

17世紀の中頃,フランスの科学者が,川の流域の降雨量と,一定の期間に海に注

ぐ水量を測定し,川の流れが降雨によって生じることを示した。

 この後,イギリスのハレーは,実験によって得た水の蒸発率を地中海の推定水量にあてはめて,地中海からどのくらいの水が蒸発するかを正確に求めた。その結果,蒸発量は各地の川から地中海に注ぎ込まれる水量にほぼ等しいという答えを得た。水が循環するという考えは,こうして一般にも認められるようになった。

 

水の相変化(三態変化)

 物質の相変化(三態変化)には,熱の出入りがともなう。液体の物質が気体になるときに必要な熱を蒸発熱という。たとえば,100℃,1気圧で,水1モル(18g)が水蒸気になるときには, 2.3×106J/kgの熱量が必要である。蒸発熱は,1モル,すなわち6.02×1023個の液体分子を,分子間の引力にうち勝って遠くに引き離すのに必要なエネルギーである。固体の物質がその融点で,液体になるときに必要な熱量を融解熱という。たとえば,0℃で,氷が水になるとき,水1モルについて,3.3×105J/kgの熱量が必要である。

 これらの状態変化と熱の出入りの関係は,下図のように,一定量の物質がもっているエネルギーに一定の差があると考えれば説明ができる。蒸発熱や融解熱が物質や種類によって大きな差があるのは,物質の粒子間にはたらく力に大きな差があるためである。

1molの水のエネルギーの変化

 

断熱変化

 熱の出入りなしに行われる状態変化。通常,物体を断熱的に圧縮すると温度が上昇し,逆に断熱的に膨張させると温度は下がる。空気塊が鉛直方向に運動するとき,気圧の変化にともない圧縮や膨張が起こる。空気塊は周囲の空気と混じり合うなどして熱のやりとりを行うが,多くの場合,熱の出入りによる影響よりも圧縮や膨張による影響を強く受けるため,断熱変化とみなすことができる。大半の雲は,空気塊が上昇するため冷却され,水蒸気が凝結したものであるが,これは断熱変化が気象の変化に重要な役割を果たすことのよい例である。初期状態の気温(絶対温度)をT,気圧をp,最終状態の気温をT0,気圧をp0とすれば,

    T0/T=(p0/p(r1)/r

の関係式がある。p01000hPaとしたときの温度T0を温位(ポテンシャル温度)とよび,断熱変化に対して変化しないから,上層の気温と下層の気温とを比較する場合などに使われる。乾燥空気の場合,(r1/rは約0.286である。

 

 [乾燥断熱減率] 不飽和空気塊が大気中を上昇する場合,断熱膨張によって100mにつき約1℃ずつ温度が下がる。これを乾燥断熱減率という。乾燥断熱減率は空気塊が理想気体であるとすると,熱の仕事当量(1/J),重力加速度および空気の定圧比熱だけで決まる値で,温度や空気の密度には直接関係のない値である。大気中の水蒸気が飽和するまでは,水蒸気が含まれていても,比熱の変化が少ないことや潜熱の出入りが少ないことなどから,その温度変化はほぼ乾燥断熱減率に従うものと考えてよい。

 

[湿潤断熱減率]  飽和した空気塊が大気中で断熱的に上昇するときの冷却率を湿潤断熱減率という。この場合は水蒸気の凝結によって気化熱を放出し,これが空気を暖めるので湿潤断熱減率は乾燥断熱減率より小さい。また,乾燥断熱減率のように定数ではなく気温と気圧に関係する。温度が高いときは多量の気化熱を放出するので温度減率は小さく,温度が低くなると水蒸気の含有量は少なくなり,水蒸気の凝結による影響は小さくなるので乾燥断熱減率に近づく。また,湿潤断熱減率は気圧の減少とともにわずかながら減少する。その値は表に示すとおりである。

 

湿潤断熱減率〔℃/100m

 

 

[フェーン現象]  本来は局地風の一種で,アルプス地方の北斜面を吹き下りる温暖な降下風をいうが,一般には,低気圧の通過などに際して海洋上にあった湿潤な空気が山をこえて反対側に吹き込んだとき,風が吹き下りる側の山麓で異常乾燥・異常高温の風が吹く現象をいう。アルプス北側のスイスの谷間とかアメリカのロッキー山脈の東側山麓(これはチヌークとよばれている)などで顕著にみられる。

 日本では温帯低気圧や台風が日本海を通過するときなどに日本海沿岸でフェーン現象が起こり大火の一因となっている。1933年7月25日,山形市では,気温40.6℃,湿度26%を記録した。フェーン現象にともなう大火としては,1955年の新潟の大火,1966年の三沢市の大火,1976年の酒田市の大火などがある。

 

[凝結高度]  水蒸気を含んだ不飽和の空気塊が上昇すると,断熱膨張によって乾燥断熱減率,すなわち100mにつき1℃の割合で冷却していく。このため湿度はしだいに増加し,ある高さに達すると飽和する。この高さを凝結高度という。凝結高度以上では水蒸気が凝結して湿潤断熱的に冷却していくが,実際には,飽和の状態に達したとき直ちに凝結が起こるとは限らない。空気中の塵挨(凝結核)がない場合は,過飽和の状態になるのが普通である。しかし,大気中では通常十分な凝結核があるので,あまり大きくない過飽和状態で凝結が起こると考えてよい。

 空気塊を一定圧力のもとで冷やしていき,水蒸気が飽和に達するときの温度を露点という。したがって,露点温度は水蒸気の出入りがないかぎり,一定圧の下での気温変化に対して,その空気塊に固有の量であって変わらない。ところが大気中で空気塊が断熱的に上昇する場合は,上昇とともに気圧が減少するので,空気塊の露点も変わっていく。空気が上昇すると体積が膨張し,その水蒸気圧は小さくなる。したがって,露点は低下するはずである。計算によれば100m上昇するごとに露点はほぼ0.17℃ずつ低下する。上昇気塊中で水蒸気の凝結が起こらない間は,その温度は100m上昇するごとに0.97℃ずつ低下する。そのために,温度と露点との差(ttd)は,100mにつき0.970.170.8℃ずつ減少するわけである。そこで,この差が0になる高さ,すなわち上昇気塊中で凝結の始まる高さh〔m〕は,

   

で表される。なお,露点温度が空気塊の上昇によって変化しないと仮定すると,この式の右辺の係数は100になる。

 

雷雨(大気電気発生のメカニズム

 雷雨現象においては,大気の安定・不安定,降雨のメカニズムが,1〜2時間の短時間のうちに実現される。雷雨にともなう稲妻は,遠い昔,生物の根源物質であるタンパク質の合成にもたいせつな役割を果たしたであろうし,現在は大気の電位こう配をつくるもとになる発電機の役割を果たしている。もし暖かい湿った空気があって(湿っていることが重要である),何らかのはずみで上昇を始めると,そのまわりの空気よりいつも軽くて温かいので,非常に高い高さまで上昇する。これが空気が上昇するメカニズムである。

対流が始まり,やがて成熟した雷雲となると,その断面は図Tのようになる。100km/時の速い上昇流があって,10000mから15000m,ときにはもっと高くまで上昇する。水蒸気が上昇して凝結すると,小さい滴になるが,すぐに冷却され氷点下の温度になる。そこで凍るはずであるが,すぐには凍らずに過冷却される。結晶化を起こす核がないと,水などの液体は融点以下になっても結晶しないのが普通である。NaClの小結晶のような小さい物質片があるときだけ,水滴は凍って氷片となる。そうすると,氷片と水滴が共存する状態では,水滴が蒸発して氷晶が成長することになる。このようになると水が急速に減り氷が成長する。また,水滴と氷の衝突が起こる。この衝突で過冷却された水は氷晶に付着して結晶化する。そして,大きな氷の粒子がたまってくる。

 氷の粒子が十分重いと,上昇気流で支えられなくなり落下しはじめる。落下するとき,空気をわずかにひきつけ,下降気流ができる。この気流も不安定であり,いったん降下するとひとりでに降下する。

図T 成長した雷雲セル(アメリカ商業気象局報告,19496)

 

図U 後期の雷雲セル(アメリカ商業気象局報告,19496)

 

空気が降下すると,雷雲の底から雨が落ちはじめる。また,下降気流は地面に達すると,比較的冷たい空気が広がる。雨の前ぶれの冷たい風で嵐の前ぶれである。雨が降り出すときは,大きな下降気流が始まるときと同じで,同時に電気現象が始まる。30分か1時間たつと,1つの雷雲は図Uのようになる。

十分な温かい空気がなくなって後押しがなくなり,上昇気流が止まる。降雨はしばらく続き,やがて1つの雷雨活動は終わる。小さな氷の結晶は上空に浮いたままである。非常に上空には別の風が吹いているので,雲の頂上はカナトコ型に広がって見えるのが普通である。

 

 

 








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