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第1節 大気圏

 

大気の組成

気圧の単位

大気圏の層構造

オゾン層

電離層

 

 

大気の組成

 地球をとり巻く大気の様子は,電波などによる地上からの観測のほか,気球や人工衛星からの直接的な観測によっても知られる。

 気球に温度計をつけて飛ばすことによって成層圏の存在が見いだされたのは20世紀初頭のことである。高度約30km(気圧約10hPa)までの気球観測が地球規模で組織的に整備されたのは19571958年のIGY(国際地球観測年)からである。同じ頃,小型ロケットを打ち上げ,観測機械を積んだパラシュートを落下させて気温・気圧・風向風速の高度分布の観測が始められた。この気象ロケットは,普通は高度6070kmまでの観測を行うが,90100kmまで観測できるものもあった。1970年代に入ってからは,人工衛星によるリモートセンシングでの地球規模の観測が始められた。

 天気予報に用いられている「ひまわり」は,静止衛星で,赤道上高度約36000km

可視光線および赤外線を利用した雲の画像をつくることが主な仕事である。中層の大気観測に用いられる衛星は,高度約1000kmの極軌道を周期約100分で,太陽について回る。高度が低いので,いろいろな波長での分光測定ができる。特に,赤外線の15nm付近でのCO2吸収帯の分光測定結果から,大気温度の鉛直分布を求めることができる。

 近年は,地上からVHF電波を発射する大型レーダを用いて,衛星観測では不可能である大気の時間変化,高度による変化が測定されている。

 地表から80km付近の高度までは均質圏とよばれ,大気を構成する分子がよく混合していて,太陽光の散乱を生じている。80kmから600km付近までは,非均質圏で,酸素が解離し,気体分子特有の性質が失われている。

大気は混合気体で,いろいろな気体が含まれているが,高度約80kmまでの下層の大気について水蒸気を除いた乾燥大気でみると,最も多いのは窒素で全体の約78%(体積%),ついで酸素の約21%であり,これら2つの気体だけで大気の99%を占めている。残りの1%の中にアルゴン・二酸化炭素・オゾン・ネオン・ヘリウム・クリプトン・キセノン・アンモニア・過酸化水素・ヨウ素などが含まれている。これらのうち,大気の性質に重要な役割を果たしているのは,容積比の小さい二酸化炭素・水蒸気・オゾンなどの気体である。

 

気圧の単位

 ヘクトパスカル(hecto Pascal)のhecto100の意味。パスカルはフランスの哲学者・科学者であるBlaise Pascal16231662年)にちなんでつけられた名。パスカルの原理は,液体内の圧力に関する著名な法則である。世界気象機関(WMO)は,1984年7月1日以後,Pa(パスカル)を気圧表示の単位として用いることを決めた。

 気圧は圧力であるから,単位としては圧力の単位が使用される。気象学では以前はmbを使ってきた。1mb=1/1000barで,1bar12あたり105N(1cm2あたり106dyne)の力が及ぼす圧力をいう。1Paは1m2あたり1Nの力が及ぼす圧力である。したがって,1bar105Paであり,1bar103mb103hPa105Paとなるので,mbhPaに変えても数値は変わらない。

 水銀柱ミリメートルは,標準重力加速度9.80665/s,標準温度0℃のもとで,密度が13.5951×103kg/3の水銀柱1mmが底面に及ぼす圧力と定められている。すなわち,1mmHg1.333224hPaである。水銀柱が0.760mの高さに相当する気圧を標準気圧といい,これを1気圧と定めている。これらの諸単位の関係は次式のとおりである。

  1気圧=760mmHg1013.25mb1013.25hPa

 

大気圏の層構造

 大気の高度領域を温度構造に着目して区分したのが,対流圏・成層圏・中間圏である。温度構造以外,大気組成・運動の形態・電離度などによっても大気を区分けすることができる。中間層の上端(高度約80km)は,電離層の始まる高さで,温度分布から決めた熱圏と重なっている。

 最近では,大気中のさまざまな物理過程を総合的にとらえて,その特色によって,大気の高度領域を3つにわけて,下層大気・中層大気・上層大気とよばれるようになってきた。下層大気は対流圏,中層大気は成層圏・中間圏と熱圏下部に相当する。

 

[大気圏の温度分布]  1月の大気の高さ方向の温度分布を経度方向に帯状に平均したのが下図である。

1月における帯状平均温度の緯度高度分布

数値の単位はK(CIRA 1986年による)

 

1)緯度にかかわりなく,温度の高度分布をみれば,地上約11km(赤道域では約16km)まで気温は高度とともに減少している。その割合は,5060K/10km程度である。それより上では,高度とともに気温が上昇し50km付近で最大となる。それより高いところでは,再び減少し,8090kmに低温の層が見られる。このような気温の高度分布を基準に大気を区分したのが,対流圏・成層圏・中間圏という区分である。 

2) 高度11km以下の下層大気では,赤道域が高温で,南北両極が低温で,ほぼ同じような温度傾度をもっている。赤道と両極の温度差は約40Kである。夏半球と冬半球との間に定性的な差はない。

3) 高度2060kmの領域では,夏極が高温,冬極が低温で,その差は両極間で約50K70kmより高いところでは逆に夏極が低温で,冬極が高温で,その差はやはり約50Kである。

 2)3)は次のことを示している。地軸と公転面との傾きによって生じる季節が,気温という形ではっきりと見えるのは高度が20km以上の領域(成層圏・中間層)であり,それにくらべると,対流圏の夏冬の差は無視できるほどに少ない。「対流圏には季節がない」ということは,四季の変化に富む地表に住むわれわれの感覚からは,異常にみえるけれども,地球規模で,気温という観点からみるとこのようになっている。

 季節の現れ方が,対流圏と成層圏・中間圏とでこのように違うことは,太陽から受けとる放射エネルギーを受け入れた結果として気温の分布が決まるメカニズムが,下層と上層では異なっていることを示すものである。

 

オゾン層

 成層圏の中にオゾン量の多い領域があることは,1880年から1882年にかけて,M.J.シャビュイ(フランス)とW.N.ハートリー(アイルランド)により独立に発見された。この層は高度20kmないし25kmを中心に,厚さ約20kmにわたり分布する。中心付近の密度はおよそ5×1012分子・cm-3で,全体の量は平均8×1018分子・cm-3で,0℃,1気圧において,0.3cmの厚みに相当する。

 オゾンは波長200300nmの紫外線を強く吸収するので,生物細胞中の核酸を破壊する太陽紫外線が地上に侵入するのを防いでくれる。オゾン層は地上生物の生存にとって不可欠な存在である。オゾン層の紫外線遮蔽効果は300nm付近から長波長側では不完全となり,太陽紫外線(波長域305±10nm)がわずかに地上にもれだしてくる。この紫外線はUV-Bとよばれ,生物機能に損害を与えるが,これに対して地上生物は進化の過程で種々な防御機能を獲得している。UV-Bの地上照射量はオゾン量の変動に敏感であるから(変化率にして約2倍の増幅度がある),オゾン量の長期変動は地上生物にとって重要な環境パラメータである。

大気中のオゾンO3は酸素原子Oが酸素分子O2と結びついてできる。酸素原子は太陽紫外線(波長242nm以下のエネルギーの高い部分)の解離作用によって,大気の主成分である酸素分子からつくられる。地球大気の酸素分子は光合成を行う生物によってもたらされたものであるから,オゾン層は生物自身がつくり出したものだといえる。オゾン層が貧弱で紫外線遮蔽効果の弱かった初期段階では,生物は水中でのみ生存可能であった。水中で光合成を行う生物が現れ,大気中の酸素分子濃度をしだいに増やしていった。こうして古生代の中頃(約4億年前)には,大気中の酸素濃度が現在の濃度になった結果,現在と同程度の紫外線遮蔽効果をもつオゾン層ができ上がり,陸上に生物がすめるようになったと推測されている。こうしたことから,オゾン層は他の惑星にはない,地球大気に特有の存在であることが理解できる。

 オゾンは太陽の紫外線により速やかに分解されるが,この際生じた酸素原子がオゾンを再生するので,この分解過程では正味のオゾン消失はない。オゾンの消失につながる反応としては,オゾンと酸素原子との反応がある。また,大気中に微量に存在する水素酸化物,窒素酸化物,塩素酸化物などの気体が触媒反応サイクルを形成しており,これによって効率よくオゾンを壊す。オゾンの生成反応は,最終的にはこれらの消失反応とつり合いを保ち,安定したオゾン層が保持されている。しかし近年,超音速航空機の排出する窒素酸化物,スプレー缶や冷凍機などに使われ大気中に棄却されたクロロフルオロカーボンなどの塩化炭素(別称フロン)などがオゾンの消失反応を高め,その結果オゾン層が侵食されるのではないかと懸念されている。オゾン層のレベルが長期的に低下した場合,UV-B地上照射量の増加により皮膚癌の発生率を高める。また作物収量減などに加えて生態系に種々な影響を与えるものと予測されている。

 オゾン層は,日により季節により変化する。この変化のしかたは地球上の場所によって異なっており,とりわけ緯度・季節変化に際だった特徴がある。太陽直下の低緯度上空で多量につくられたオゾンは,成層圏大気の動きによって高緯度上空に運ばれる。このためオゾン量は,低緯度よりも高緯度で多く,また季節では春に極大,秋に極小となる。こうした変動は,大気の大規模な運動に原因がある。

 一方,オゾン層の吸収する太陽紫外線のエネルギーは大気を暖める熱源として,成層圏形成の主要因ともなっているが,同時に大気の大規模運動もひき起こすので,オゾン層は上空における大気の運動と密接な関係にある。大気の大規模な運動は地球全体の気候と深いつながりがある。また,オゾンは赤外線を強く吸収・放出するので,大気の熱放射にも影響を与える。これらの点からオゾン層は気候を左右する因子として重要である。

 

電離層

 地球の高層大気中では,大気の分子・原子が太陽のX線や紫外線あるいは高エネルギー粒子の照射を受けて電離するため,イオンおよび電子(自由電子)が大気の分子・原子に混じって多量に存在している。特に,電波の伝わり方に影響を及ぼす電子は高度60km以上に比較的高い密度で存在している。この領域を電離圏という。電離圏のイオンや電子は地球をとり巻くいくつかの層状の濃淡分布を示しており,それらの層を電離層(ionospheric layers)とよぶ。しばしば慣例により電離層の語を電離圏と同じ意味に使うことがある。

電離層の存在が示唆されたのは,1902A.E.ケネリーとO.ヘビサイドによってである。1901G.マルコニーが大西洋を隔てて無線電信用の電波を受信することに成功したことが契機となり,そのときの電波の伝わり方を説明するため,彼らは地球の上層大気中に電波を反射する電気伝導層,すなわち電離層が太陽の紫外線により生成されているという説を立てた。これにより電離層はケネリー・ヘビサイド層とよばれていた。

 一方,1878年にB.スチュアートは,地球磁場の日変化の原因が上層大気中にある電気伝導領域を流れる電流であるという仮説を立てていた。1925年になって,E.V.アップルトンとM.A.F.バーネットおよびG.ブライトとアメリカの2つのチームによって独立に最初の電波反射実験が行われ,電離層の存在が確認された。以来,実用面では電離層による電波反射を利用した遠距離無線通信が発達し,学術面では地球の超高層大気および太陽・地球関連現象の研究が発達した。ロケット,人工衛星の技術開発により,地球の電離圏を直接観測したり,惑星(金星・火星・土星・木星など)の電離圏も観測されるようになった。

 オーロラは高さ80300kmの電離層で起こる。これは,荷電粒子が地球磁場の磁力線に沿って大気圏に侵入して生じる発光現象である。地磁気座標で北緯6570°付近で最もよく見られるが,日本でも北海道の北端で10年に1回ぐらいの割合で見られる。太陽活動が盛んになるとオーロラ帯も低い緯度へ広がっていく。

 

[電離層の構造と成因] 地球大気の分子・原子の電離によって正電荷のイオン(正イオン)と負電荷の電子が生成されるが,高度約60km以下では大気密度が高いために,電子は直ちに大気分子に付着して負電荷のイオン(負イオン)に変わる。これらの電荷粒子は大気分子・原子との化学反応を経て最終的には正イオンと負イオン,あるいは正イオンと電子が再結合することによって中性の大気分子・原子にもどり,荷電粒子は消滅する。

 荷電粒子の密度分布は,電離による生成の強さ,再結合による消滅の速さ,および生成から消滅までの寿命期間中に粒子が移動して集積や発散を行うことによる再分布の効果によって決まる。

 高度約60km以下では,電子は極端に少なく,正・負のイオンが等しい密度で存在する。この領域における大気の電離の源(電離源)は1次宇宙線が主である。高度約60km以上では電子の存在が重要となり,約80km以上では,負イオンは極端に少なく,正イオンと電子が等しい密度で存在する。

 電離圏は,高度によっていくつかの領域に分けられている。高度約6090kmをD領域とよび,主な電離源は太陽のX線(波長10nm以下)と紫外線(1216nm)である。D領域はフレアにともなう異常電離(デリンジャー現象)および太陽宇宙線やオーロラ粒子による異常電離(電離層嵐)の影響を強く受ける。

 高度90130kmをE領域とよび,主な電離源は太陽のX線(10010nm)と紫外線(1027800nm)である。高度100km付近に電子密度のピークをもつE層にはスポラディックE層(Es)とよぶ層が突発的に現れることがある。

高度1301000kmをF領域とよび,太陽の紫外線(800100nm)が主な電離源である。昼間のF領域には,高度170km付近と300km付近にそれぞれ電子密度のピークをもつF1層とF2の2層が形成される。F1層は夜間消滅するが,F2層は昼夜を通して存在し,電離層の中で電子密度が最大の層である。

 E層とF1層は太陽放射による電離生成と再結合による消滅がつり合って形成されるが,F2層の形成には生成と消滅に加えて荷電粒子の再分布が重要なはたらきをしている。F2層のピーク高度を境にして上下を区別し,下側電離圏および上側電離圏とよぶ。上側電離圏で生成されたイオン(主に水素イオン)と電子からなる気体は地球磁力線に沿って赤道上空3万kmの高度にまで広がっており,この領域をプラズマ圏とよぶ。

 

[太陽・地球環境と電離層]  電離圏が太陽活動に敏感に反応すること,および電離圏が地上からの電波探査により観測可能であることのために,太陽−地球間現象の重要な対象として,電離層の研究が早くから進められてきた。太陽黒点極大期の19571958年に実施された国際地球観測年(IGY)事業において,電離層の観測研究が主要テーマの1つとして行われた。IGYを契機に技術発展を遂げたロケット,人工衛星により,電離圏を初め,太陽放射,地球高層大気,電離層の外側に広がる磁気圏,太陽風などの観測研究が発展した。

 

 

 

 

 








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