トップ地学I 改訂版>第1部 固体地球とその変動>第3章 造山運動>第1節 地殻変動と地質構造の形成

第1節 地殻変動と地質構造の形成

 

 

急激な地殻変動

測量でわかる地殻の変動

河岸段丘

地殻変動でできた地形

褶曲

断層

 

 

 地殻の動きには,地震動のように主に数秒以下の周期で振動的に動くものもあるし,潮汐や季節の変化に応じて数時間〜年の周期で変化する動きもある。さらに,数十年〜数千年ごとに大地震をともなって間欠的に起こる運動や,地質学的な長い期間にゆっりと進行していく連続的な変動もある。このように地殻変動の実体は多様なものである。多様な運動を知るには,いろいろな時間のスケールで運動をとらえてみることが必要である。それにはいろいろの手段が用いられている()

 

 

短時間でとらえられる地殻の運動には振動的なもの,すなわち観測を続けるとほぼもとにもどってしまうものが多い。しかしそのようなものでも,さらに長い期間たつと積もり積もって大きな変動量に達するものがあるし( (c)),まれに起こる大地震のときに,そのときまでゆっくり動いていた運動とは反対の向きに土地が大きく動き,結局,長い間に地震のときの運動が積み重なっていくものもある( (d))。地形や地層を用いてわかる地殻の運動は,そのような大地震のときの変動や平常の緩慢な運動(大地震のないところ)の累積したものである。図はこのような各種の地殻運動の相互関係を示したものである。

 

急激な地殻変動

地殻変動には地震をともなわないでゆっくり動く慢性的な運動と,地震を起こしながら動く急激な運動とがある。赤石山地が隆起したり関東盆地が沈降するような運動は前者の例である。地震をともなう急激な地殻運動の例としては,図Tにあるような大地震のときにしばしば観察される断層運動や,海岸の隆起現象などがある。なお,地震が起こらないほどゆっくり動く断層運動もあるがきわめてまれである。その確かな例は世界中でカリフォルニアのサンアンドレアス断層沿いの一部で知られているだけといってもよい(このほかトルコでも1か所知られている)。日本でいままでにわかっている断層はすべて急激に動いて,地震を発生するタイプである。

 

 [地震断層] 大地震をともなって地下の断層が動く(岩盤がくい違う)と,それが地表にまで達して地表面に上下あるいは左右のくい違いができる。一般に,地震のときに地表に現れた断層を地表地震断層または地震断層という。このような地震断層は日本列島各地に現れている。1891(明治24)の濃尾地震が,これまで日本の内陸で知られている地震断層の中で最大である。その長さは約80km,くい違い量(変位量)は最大8mであった。

 このような地震断層は世界各地から100例以上知られているが,内陸の大地震の場合,最大規模のものでも長さ約400km以内,断層沿いの土地のくい違い量はおよそ12m以内である。あまり小さな地震では地震断層は地表に現れない。日本で地震断層が見いだされるのは普通,マグニチュード7前後かそれ以上の規模をもち,震源の深さは20kmよりも浅い場合である。

 

[断層周辺の変動] 地震断層に沿って土地にくい違いができると,それにともなってその周辺にも変動が現れる。丹後地震のとき(1927年)の郷村断層周辺の三角点の移動量が,地震断層に近づくほど大きくなっていることがわかる。このような地殻変動が海岸付近で生じると,海水面の高さは地震後も不変だから土地の上下の変化が容易にわかる。

 西南日本の沖合いでは南海地震などの大地震が起こり,震源の断層(南海トラフに沿うフィリピン海プレートの沈み込みにともなう逆断層)が動いて四国の室戸岬や紀伊の潮岬などが隆起する。相模トラフ沿いの大地震では房総半島・三浦半島などが隆起する。

 図Uは,1923年の関東大地震にともなった相模湾沿岸地域の隆起・沈降(細い実線と点線)と水平移動量(矢印の長さ)を示したものである。図中の矩形は,このような地表の変動から地下に推定された震源の断層面(矩形の南西縁のほぼ海底から地下へ約30°の傾斜で北東へ傾いている断層面)の位置と大きさの概略を示したものである。この面に沿って,上盤側(北東側)の岩盤が7mほど斜め上方へ移動したと推定されている。

 

測量でわかる地殻の変動

[水準測量(高さの決定)] 平均海水面を基準とした高さを,標尺とレベルによって行う測量。日本各地には,次の図Tに見るような1等水準路線が設けられていて,最近は地震予知の目的で5年ごとにくり返し測量が行われているが,場所によってはもっとひんぱんに改測をしているところもある。(御前岬周辺など)。水準路線の設定は1883年(明治16年)に陸地測量部によって開始され,1913年(大正2年)に終わった。測量のための水準点は国道に沿ってほぼ2km間隔(最近では1km間隔)で設けられた。1923年(大正12年)の関東大地震を契機にして水準点の改測(第2回測量)が始まり,1945年までに北海道を除く全国土の改測が終わり第1回の測量以後の変動が明らかにされた。第3回目の水準測量は南海地震(1946年)後の1947年に開始され,1961年に北海道も含めて完了した。

図T 1等水準路線図

 

図Uは,測量結果を整理して,上下変動の速さで表現したものである(檀原,1974年による)。概して北海道・東北地方の海岸は沈降が著しい(北海道東部で平均−8mm年)。房総半島以西の西日本の太平洋に面した地域は概して隆起している。特に房総半島・潮岬・室戸岬では平均2mm/年をこえているが,これは主に関東大地震(1923)や東南海地震(1944),南海地震(1946年)のときの急激な土地の隆起によるものである。年平均2mm以上の隆起は内陸では東北地方南部から中部地方の赤石山地にいたる山岳地帯や西南日本の中央構造線の南側の山地にある。特に赤石山地では平均4mm/年をこえている。内陸で2mm/年以上の速さで沈降するところも各所にあるが,その場所の多くは平野や盆地である。このように山地は概して隆起,低地は概して沈降という傾向があり,そのような地形をつくる運動がいまでも継続していることを示唆している。

 

図U

 

 

                                                          

 

1948年にその第1回の改測が国土地理院によって開始され1967年に終了した。図Wは,この期間に生じた三角点の移動から求めた土地のゆがみである(中根勝見,1973年)。矢印の方向が最も短縮した方向であり,矢印の長さがゆがみの程度を表す(最大剪断歪速度に比例させてある)。大地震が起こると,地殻のゆがみは概してもとにもどる。この図ではそのような大地震のときの動きを除外して,“平常時”の変形だけが示されている。それでも,南関東・東海・四国南東部などでは地殻の変形が著しいことがわかる。特に東海地震が予想されている東海地方の著しい変形が注目される。

 図Wの矢印の向きの様子から,日本列島がほぼ東西ないし北西〜南東方向に短縮していることがわかる。その方向はほぼ太平洋プレートやフィリピン海プレートの進行方向なので,日本列島はこの方向に最も強く圧縮力を受けていると考えられる。図Wの細い実線は,このことやその他のことから推定された日本列島にかかっている現在を含む第四紀の圧縮力の方向を示したものである。なお,土地がゆがむ速さは,中部日本その他で年あたり1/107の桁に達している。

 図Vは,中部・近畿地方に見られる第四紀の主な断層である。矢印がついている断層は,そのような向きの横ずれ断層である。図中に示したように,北東−南西の走向をもつ断層は右ずれ,北西−南東走向の断層は左ずれの断層であるから,この地方は第四紀にほぼ東西に圧縮されていることがわかる。

図Y

 

河岸段丘

 河床が侵食(下刻)を受け,もとの河床が現在の河床よりも高位に段状になって残存したものが河岸段丘である。その平たん面を段丘面,段丘面を境する崖を段丘崖という。段丘面が何段も発達している場合,一般に高位のものほどできた時代が古い。河岸段丘は,その地域の地形発達史・地殻変動の様子などをさぐる上で.重要な資料となる。

 

地殻変動でできた地形

 四国の室戸岬は,南海地震が起こるたびに隆起し,地震後はゆっくり沈降する。そして,結局は差し引き隆起分が残り,それが累積して過去十数万年の間に200m近くにも達している。そのことは当時の海岸線の高さ(いまより数m高かった可能性がある)付近にできた海食台が,現在は海抜200m近くの高さになっていることからもわかる。行当岬は,室戸岬突端の西北約10kmにある。

 高知県行当岬の海岸段丘地形も,地震時の隆起がつくったものである(地震と地震の間の時期には海の作用によって平たん面ができ,それが,まれに起こる地震のときに急に隆起して海岸段丘になる)

 

褶曲

 力を受けた岩石や地層は切断される(断層ができる)こともあるが,次のような場合には曲がる(褶曲する)ことが多い。

1)その場所が深く,まわりの圧力が高い     (2)温度が高い

3)力が非常に長い間ゆっくり作用しつづける

 褶曲は,(1)(3)のいずれかの条件が満たされたときにできる。そうでない場合には岩石はある限度をこえると急激に破壊し断層ができる。地殻内部の水平方向での圧縮またはひっぱりの力を考えた場合,それらと図上に示される断層線の走向や褶曲軸の方向との間には次のような関係がある。

1)水平圧縮力の方向と逆断層の走向は地質図上で直交する。褶曲軸でも同様。

2)水平ひっぱり力の方向と正断層の走向は地質図上で直交する。

3)横ずれ断層の走向は,水平圧縮の力にも水平ひっぱりの力にも斜交する。

 

[スランプ構造]  褶曲は地殻に長い間作用する力によって起こることが多いが,堆積したばかりのやわらかい地層が,重力の作用によって,水底で地すべりを起こし,複雑に曲がったり切れたりすることもある。そのようにしてできた乱雑な構造をスランプ構造という。

 

断層 

断層面が傾斜している場合,面の上側にあたる部分を上盤,下側を下盤といい,その相対的な移動のしかたによって断層の分類が行われている。

 (a)  正断層;上盤が下盤に対して下方に移動している。斜め下方の場合もある。

  正断層は,主として地殻が伸長するような場所に生じる。

 (b)  逆断層;上盤が下盤に対して上方に移動している。逆断層は,主として地殻が圧縮されるような場所に生じる。断層面の傾斜が比較的小さいものは,衝上断層とよばれることもある。また,傾斜が水平に近い場合は押しかぶせ断層ともいう。

 (c)  横ずれ断層;主に水平方向に移動している。断層の前に立って相手側の地盤を見た場合に,相手側が右方向へずれているものを右横ずれ断層といい,左方向へずれているものを左横ずれ断層という。下に,左横ずれ断層と右横ずれ断層を対比させてある(図T)。

 断層は末端に近づくとしだいに変位量を減じて消滅してしまう。ときには,その延長が褶曲(撓曲)に変わることもある(図U)

 

図T 横ずれ断層

 

図U 断層から褶曲(撓曲)への移り変わり

 

 

 [断層破壊帯]  断層は両側の地塊がすべり合った面であるため,その面の上にすべりの向きを示す条線(断層条線)が見られることがある。一般にすべりのためにみがかれた断層面を鏡肌という。また,断層面の両側には岩石が砕かれてできた断層角礫帯や,すりつぶされた岩粉が粘土になった断層粘土帯が見られる。断層角礫帯や断層粘土帯を断層破砕帯という。大きな断層には,その付近にほぼ平行する小断層群ができていることが多い。

 

 [活断層] 中央構造線は,特に四国で活発に(1000年につき78mの割合で)活動している横ずれ(右ずれ)活断層である。しかし,それには上下の変位成分もともなっているので,それが累積して,このように中央構造線の南側の土地を第四紀後期に2000mも隆起させ,石鎚山脈ができた。したがって,石鎚山脈の北斜面は,全体が断層崖であるといえる。特に斜面下部には,中央構造線の通過線を底辺とする三角末端面がいくつもならんでいるのが見える(この例を含めて,活断層がつくった地形については,松田時彦「動く大地を読む」岩波書店,など参照)。

現在までに全国陸上部で2000以上の活断層の位置(約20万分の1地形図で)と関連する資料がとりまとめられている(活断層研究会編「新編日本の活断層−分布図と資料」東京大学出版会,1991年)。北海道と東北地方の活断層はほとんどすべて逆断層である。中部近畿では特に横ずれ断層が多い。九州中部の火山地域には正断層が多い。

図V 地震諸現象の変動速度の概観(貝塚爽平,1969年による)

 

 

なお,活断層はふだんは動いていないが,まれに大地震を起こして動くので,防災上,注意が払われている。活断層の「活」は,このように必ずしも現実に動き続けているという意味ではなくて,今後も動く可能性がある,死んではいない断層という意味である。

活断層でも活褶曲でも,活発なものは第四紀後期に平均して年間数mmの割合で動いている。活断層の場合,その平均値が年あたりミリメートルに達するものをA級の活断層とよんでいる。したがって,A級の活断層が大地震を起こして数mも動くのは,1000年に1回くらいの割合になる。それより1桁も2桁も平均速度の小さい活断層も多数知られている。図Vに,地表で見られる諸現象の変動速度を示した。

 

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.