トップ新編化学I 改訂版>第4部 有機化合物>第2章 酸素を含む脂肪族化合物D 油脂とセッケン

D 油脂とセッケン

 

油脂

 脂肪酸とグリセリンのエステル,即ちトリグリセリドの構造をもつ物質で,天然の生物界に広く存在し,生物の主要成分となっている。天然油脂は,その出所から植物油脂と動物油脂に,室温での状態から液体のものを脂肪油(または脂油),固体のものを脂肪と分類される。

 天然油脂中に存在する脂肪酸には,炭素数4個の酪酸から,24個のリグノセリン酸に至る飽和脂肪酸と,各種の不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸では,C16のパルミチン酸とC18のステアリン酸が大部分を占めている。不飽和脂肪酸にはC18のものが多く,オレイン酸C17H33COOHリノール酸C17H31COOH,リノレン酸C17H29COOH等がある。その他の不飽和脂肪酸では,魚油中のイワシ酸C21H33COOH,ひまし油中のリシノール酸C17H33OCOOH,きり油中のエレオステアリン酸C17H29COOH等がある

オレイン酸

リノール酸

リノレン酸

イワシ酸

リシノール酸

エレオステアリン酸

CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2)4CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2CH=CH)3(CH2)7COOH

CH3CH2(CH2CH=CH)3{(CH2)2CH=CH}2(CH2)2COOH

CH3(CH2)5CH(OH)CH2CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7COOH

 天然油脂には,グリセリドの他,少量の遊離脂肪酸,複合脂質,ステリン類,ビタミン類,炭化水素,色素等が含まれている。

 

参考 油脂の代謝

 油脂のトリグリセリドは,小腸内で酵素リパーゼによって脂肪酸とグリセリンに加水分解される。そして,胆汁酸塩,脂肪酸,ジグリセリド,モノグリセリド等の混合物ができ,これらが未分解の油脂の乳化促進剤として働き,乳化された油脂は腸壁から吸収される。

 体内の脂肪の代謝では,まず脂肪酸とグリセリンに加水分解される。グリセリンは,トリオースリン酸(ホスホジヒドロキシアセトン,3-ホスホグリセリンアルデヒド)を経てピルビン酸になり,TCA回路(クエン酸回路)に入っていく。

 脂肪酸は,β酸化によって,-COOH基に対してβの位置の炭素原子のところが切れ,アセチル補酵素(CH3CO-CoA)が順次に生じ,TCA回路に入って代謝され,最後には二酸化炭素と水になる。炭水化物,脂肪,アミノ酸の相互移行も,TCA回路が仲立ちとなって行われる。

 

硬化油

 不飽和脂肪酸の脂肪油に,還元ニッケル等を触媒として,水素を反応させ,固体状の脂肪に変えたものをいう。その主成分は硬化度によって異なるが,普通,飽和脂肪酸やイソオレイン酸のグリセリドである。硬化油の融点は,その不飽和度に関係する。これらは食品,セッケン等に用いられる。また,硬化条件により選択的に水素と反応させると,イソオレイン酸に富む半硬化油が得られ,特に大豆油,綿実油,落花生油のそれはマーガリン原料として優れている。

 

乾性油と不乾性油

 植物油は,その乾燥性の強弱により,一般に乾性油,半乾性油,不乾性油に分けられる。乾燥性は,油脂の脂肪酸中に二重結合を多く含む程強くなる。

(1) 乾性油 ヨウ素価130以上の植物油をいう。薄膜にして空気中に放置すると,比較的短時間に固化乾燥する。塗料として利用され,あまに油やえの油,きり油等がこれに含まれる。

(2) 半乾性油 ヨウ素価100130の植物油をいう。やや乾燥性がある。食用やセッケン製造等に用いられ,ごま油やなたね油,綿実油,大豆油等がこれに含まれる。

(3) 不乾性油 ヨウ素価100以下の植物油をいう。乾燥性が弱く,固化しない。食用,セッケン,化粧品等の製造に用いられる。つばき油やオリブ油,ひまし油等がこれに含まれる。

 

セッケンの製造

 セッケンは,広義には脂肪酸の金属塩の総称であるが,普通,ナトリウムやカリウムのアルカリ金属塩を指し,その他のものは金属セッケンと呼んで区別されている。また,アルカリセッケンは,硬セッケンと軟セッケンに区別される。

 硬セッケンの製造は,大別すれば次の2種がある。

(1) 油脂に水酸化ナトリウム溶液を加え,けん化釜で長時間熱してけん化させ,食塩水で塩析する。

(2) 油脂を過熱水蒸気で加水分解して脂肪酸とグリセリンに分離し,脂肪酸に水酸化ナトリウム溶液を加えて中和する。

得られたセッケンは,乾燥後,香料や着色料,ビルダー等と混合され,成型,型打ちされて製品となる。

 

 

乳化

 極性のある水分子と無極性の油分子とは混じり合わないが,これらも分子中に親水性の基と疎水性の基とを合わせもつ物質,即ち両親媒性の物質を加えることによって,混合させることができる。この物質を乳化剤という。

 例えば,極性の強い親水性のカルボキシル基-COOHと無極性の疎水性のアルキル基-CnH2n1を分子中にもつセッケンCnH2n1COONaがその例である。

 水と油とを入れた容器にセッケン水を加えて激しく振ると,セッケン分子何個かが油の小滴を中心に,疎水性の基を内側,親水性の基を外側にして球状に集合し,コロイド粒子(球状ミセル)となり,この粒子が水の中に分散する。この現象が乳化である。

硬水

 マグネシウム等の塩類や石灰質が比較的多く溶けている水を硬水といい,選択には不向きである。

 

合成洗剤

 セッケン以外の洗剤を合成洗剤という。合成洗剤には主に陰イオン界面活性剤が用いられ,これにビルダーや蛍光増白剤の添加剤が配合されている。ビルダーは,洗剤の性能を著しく向上させる作用をもつ物質で,かつてはトリポリリン酸ナトリウムが用いられていた。しかし,ビルダーのリン酸化合物は,湖沼の富栄養化を促進するので,その配合率が次第に低下し,ゼオライトが用いられるようになった。

 合成洗剤に用いられる界面活性剤には,アルカリベンゼンスルホン酸塩,アルカンスルホン酸塩,aオレフィンスルホン酸塩,硫酸アルキル(ポリオキシエチレン)塩,アルキルポリオキシエチレンエーテル等がある。

 界面活性剤生産量の多くが家庭用合成洗剤に用いられている。1960年代以後,合成洗剤による水質汚濁が問題となり,特に多量に用いられていたアルキルベンゼンスルホン酸(ABS)が問題となった。ABS0.01ppmで藻類や硝化菌,15ppmで大腸菌を死滅させることもある有毒な物質で,安定で分解し難く,510ppmで飲み水に異様な味臭を与える。ABSの微生物分解が多く研究され,従来の枝のあるアルキル基(ハード型)に対して,分解がより容易である直鎖型(ソフト型)ABS(LAS)が,その後用いられるようになった。

 

参考 界面活性剤

 2相間の界面張力が,少量の物質の溶解で大きく低下することを界面活性といい,界面活性を示す物質を界面活性剤という。界面活性剤は,その構造により次の様に分類される。水に溶けて電離するものをイオン活性剤といい,セッケンと同様の仕組みで働く。水に溶けて電離しないものを非イオン活性剤といい,-OH基等が親水基として働く。非イオン活性剤は,他の活性剤と混合して使用でき,疎水基の変化に応じて親水基の強弱を自由に変えることができるので,利用範囲も広い。

(1) アニオン活性剤

@ セッケン類 RCOO-M   ()アルカリセッケン,金属セッケン

 A 硫酸化物  ROSO3-M   ()ロート油,高級アルコールの硫酸エステル

 B スルホン化物 RSO3-M ()脂肪族スルホン化物,アルキルアリルスルホン化物,芳香族スルホン化物

(2) カチオン活性剤

() 高級脂肪族アミン,ジアミン誘導体,第四級アンモニウム塩

(3) 非イオン活性剤

 @ エステル型 CH2(OH)CH(OH)CH2OOCR

 A エーテル型 RCH2O(CH2CH2O)nH

 また,界面活性剤の用途としては,(1) 洗浄剤,(2) 湿潤剤,浸透剤,(3) 分散剤,凝集剤,(4) 乳化剤,乳化破壊剤,(5) 可溶化剤,(6) 起泡剤,消泡剤,(7) 平滑剤,減摩剤,柔軟剤,帯電防止剤,撥水剤,(8) 殺菌剤,(9) 防錆剤,等がある。

 

メントール

 テルペンアルコールともいい,ハッカの葉を水蒸気と共に蒸留すると得られる無色針状結晶で,爽快な香りをもち,菓子類や飲料,化粧品の香料や医薬品,鎮痛剤の製造に用いられる。

 

 

 








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