トップ新編化学I 改訂版>第4部 有機化合物>第2章 酸素を含む脂肪族化合物C カルボン酸とエステル

C カルボン酸とエステル

 

カルボン酸

 カルボキシル基-COOHをもつ有機化合物をカルボン酸といい,一般式R-COOHで表す。分子中のカルボキシル基の数が1個,2個,3個のものを,それぞれモノカルボン酸,ジカルボン酸,トリカルボン酸という。また,鎖状構造のみのモノカルボン酸は,特に脂肪酸と呼ばれる。

 遊離酸,または塩やエステルの形で生物界に広く存在する。脂肪やろうにはエステルの形で含まれている。

 炭素原子数の少ない脂肪酸は無色の液体だが,炭素原子数が多いものやジカルボン酸,芳香族カルボン酸は全て固体である。炭素原子数3以下は水に溶ける5以上は殆ど水に溶けない。アルコールやエーテルにはよく溶ける。

カルボン酸の沸点や融点は,分子量にほぼ等しいアルコールよりも高いが,これはカルボン酸が水素結合で二量体になっているためである。

カルボキシル基中のOは電気陰性度が大きいため,水素原子から電子が移動し,水素原子がHとして離れ易くなるので,カルボン酸は酸性を示す。但し,その酸性は弱い。

カルボン酸は酸としての性質を示す他,アルコールと反応してエステルを生じる。ソーダ石灰と熱すると二酸化炭素を放出して炭化水素になる。脱水すると酸無水物になる。酸化剤や還元剤には比較的安定で反応し難い。

 

ギ酸(蟻酸)
 メタン酸ともいう。無色の刺激臭のある液体で,酢酸より強い酸である。水素結合で二量体になるので沸点・融点が高い。アリの体中に含まれている。融点8.4°C,沸点100.08°C,密度1.2202g/cm3(20°C)で,水やエタノール,エーテルに可溶である。アルデヒド基をもつので還元性を示す。

酢酸
 エタン酸ともいう。食酢の主成分で35%含まれている。無色で,刺激性の強い臭気と酸味のある液体で,ほぼ純粋なものは氷酢酸という。合成繊維,医薬品の原料や,食品調味料に用いられる。融点16.635°C,沸点117.8°C,密度1.0492g/cm3(20°C),水やアルコール,エーテルに溶ける。
 工業的には,Mn(CH3COO)2Co(CH3COO)2を触媒として,アセトアルデヒドを酸素で液相酸化して合成する。
   CH3CHOO2 ―→ CH3COOOH
   CH3CHOCH3COOOH ―→ 2CH3COOH

 また,ロジウム系触媒を用い,ヨウ化メチルを活性剤として,メタノールと一酸化炭素を反応させて合成する。
   CH3OHCO ―→ CH3COOH

その他,LPG,ナフサ等を種々の触媒を用いて空気で酸化して合成する方法もあるが,この場合はギ酸,プロピオン酸等も同時に生じる。

 

アジピン酸

 1,4-ブタンジカルボン酸,ヘキサン二酸ともいう単斜柱状晶。水に少し溶け,エタノールやアセトンには溶けるが,エーテルには殆ど溶けない。

 ナイロンやアルキド樹脂,ポリエステル樹脂の原料に用いられる。

 

ナイロン

 ナイロンは,ポリアミド系合成繊維を総称する語として今日用いられている。アジピン酸とヘキサメチレンジアミンからつくられる6,6-ナイロンの他に,ε-カプロラクタムから得られる6-ナイロンや,その他6,10-ナイロン,11-ナイロン,9-ナイロン,4-ナイロン等がある。

 ナイロンの命名は,H2N(CH2)mNH2HOOC(CH2)n2COOHから合成されるものをm,n-ナイロンH2N(CH2)n1COOHまたは

 

 

HN(CH2)n1CO

から合成されるものをn-ナイロンと呼んでいる。

 ナイロンは摩擦に対する耐久性が大きく,希酸や塩基等の薬品にも侵され難いので,靴下・衣服・漁網・化学工業のろ布等広く使われている。

 6,6-ナイロンを初めて合成したのは,アメリカのカロザースで(1936),その後ドイツでは1940年に6-ナイロン(パーロンL)と,6,6-ナイロン(パーロンT)を出し,日本では1941年に6-ナイロン(アラミン)を出している。

 6,6ナイロンの合成では,同じ物質量のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を同じ物質量の水に入れて混合し,生じた溶液に酢酸を少量加える。これを釜に仕込み不活性ガスを満たして熱する。生じた水蒸気は圧力を調節しながら逃がし,280°Cで重合させる。冷却後,ポリマーをペレットとする。6,6-ナイロンは265°Cで溶融するので,溶融紡糸で繊維とする。

 6-ナイロンの合成では,ε-カプロラクタムを溶融し,これに少量の水等を加えて熱し,重合させる。6-ナイロンの融点は220230°Cで,溶融紡糸で繊維とする。

 

アミド

 アンモニアの水素原子をアシル基で置換した化合物をアミドまたは酸アミドといい,通常第一級アミドRCONH2をいう。第二級アミド(RCO)2NHはイミドという。一般に無色の固体で,低級なものは水に溶ける。アルコールやエーテルに溶ける。

 

無水酢酸
 融点86°C,沸点140.0°C,密度1.0871g/cm3(15°C)の無色の液体。活性水素を有する化合物とは比較的容易に反応して,アセチル化物と酢酸を生じる。また,アミンと反応して酢酸アミドを生じる。用途としては,酢酸セルロース,アスピリン,酢酸エステル,染料等の合成がある。

工業的には,アセトアルデヒドから酢酸を製造する際,反応条件を変えて無水酢酸を得るか,酢酸を熱分解してケテンとし,ケテンを酢酸に吸収させて製造している。

 

CH3COOH ―→

CH2=COH2O

 

ケテン

CH2=COCH3COOH ―→

(CH3CO) 2O

 

酸無水物
 カルボン酸2分子が水1分子を失って縮合した化合物で,一般式(RCO)2Oで表される。ジカルボン酸では,分子内から水分子が失われて環状の酸無水物をつくることもある。低級脂肪酸の酸無水物は刺激臭のある液体で,高級なものは無臭の固体である。ジカルボン酸や芳香族カルボン酸の酸無水物は,一般に無色の固体である。

 

名   称

融点〔°C

沸点〔°C

水溶性

無水酢酸

86

 140.0

無水プロピオン酸

45

167

無水安息香酸

4243

360

無水コハク酸

120

261

無水マレイン酸

 52.6

202

無水フタル酸

131.8

285

 

マレイン酸,フマル酸
 マレイン酸(シス形)を熱していくと,133134°Cで融解し,160°Cで水を失って無水マレイン酸になる。

フマル酸(トランス形)は,封管中で300°Cで融解し,空気中では160°Cに熱しても無水物を生じず,200°Cで昇華し始める。230°Cで無水物をつくるが,生成物は無水マレイン酸である。

無水マレイン酸C4H2O3は,融点52.6°C,沸点202°C,比重1.5の白色昇華性固体である。水と反応するとマレイン酸となり,眼や粘膜を刺激する。主に飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられている。無水マレイン酸は,ベンゼンを空気酸化して製造されている(触媒はVMoの複合酸化物)

 

   2C6H69O2 ―→ 2C4H2O34CO24H2O3679kJ

 

乳酸

 多くの動物の器官の中に存在し,疲労した筋肉中に蓄積される。また,酸敗した殆どの物質中に含まれている。

 

光学異性体

 光学異性体については,4部第1A参照。

 

エステル

 酸とアルコールから水分子が取れて縮合したような構造をもつ物質をエステルといい,普通カルボン酸エステル(一般式RCOOR)を指すことが多い。アルコールの代わりにフェノール類を用いたものもー種のエステルだが,フェノールエステルの名称をつけて区別する。分子内エステルをつくり環状のものは,ラクトンという。

 中性エステルは,一般に芳香のある揮発性の液体で,水に溶け難く,有機溶媒によく溶ける。比較的低級な脂肪酸とアルコールのエステルは,天然に植物精油中に含まれており,果実の芳香があるので人工果実エッセンスとして食品の香料に使われる。高級な脂肪酸とアルコールのエステルはろうとして存在する。高級な脂肪酸とグリセリンのエステルは油脂の成分である。

 エステルは,無機物を触媒として,酸とアルコールを混合して熱すると得られる。この反応は可逆反応であり,エステルに水を加えて熱すると逆に加水分解反応が起こり,酸とアルコールが得られる。
   RCOOHHORRCOORH2O (触媒は酸)
 エステルにアルカリを作用させる反応はけん化といわれ,酸の塩とアルコールが得られる。

   RCOORMOH ―→ RCOOMROH
 

 

エステル化

 エステルを生成する反応をエステル化といい,カルボン酸とアルコールによるエステル化は次の機構で進むと考えられている。

 これらの反応は全て平衡反応であり,酸性触媒によるエステルの加水分解反応は,これらの反応の逆反応になる。

 

酢酸エチル

 酢酸とエタノールから得られるエステル。強い果実様の香気をもつ無色の液体。融点−83.6°C,沸点76.82°C,密度0.907g/cm3(15°C)で,水にあまり溶けない。天然にはパイナップル等の果実油や,ワイン,日本酒にも含まれる。香料として飲料・菓子等に用いられる。

 

加水分解

 水による化合物の分解反応をいう。狭義には塩が水溶液中で他のイオンや分子に変わることをいう。有機化合物では,エステル,酸無水物,糖類,タンパク質等,多くの加水分解を受ける化合物が知られている。これらの加水分解反応のうち,エステルはけん化,スクロースは転化,デンプンやセルロースでは糖化と,特別の用語で呼ばれることがある。

 

けん化

 元は,油脂やろうからセッケンをつくる反応を指していた。即ち,油脂やろうを水酸化アルカリと処理すると,セッケンとグリセリンまたは高級アルコールとを生じる。しかし,少し広く,油脂を加水分解してグリセリンと脂肪酸を得る反応,あるいは脂肪酸を炭酸アルカリ等で中和してセッケンをつくる反応も含めて,けん化というようになった。

 更に意味が広くなって,一般にエステル類が水によって分解し,カルボン酸とアルコールを生じる加水分解反応をけん化というようになった。

   RCOORH2O ―→ RCOOHROH

 この場合,通常水だけでは反応が遅いので,酸またはアルカリを触媒として用いる。酵素もまた触媒の中に含まれる。アルカリによるけん化の促進作用は,一般に非常に大きいので,アルカリ性けん化がよく用いられる。

 

 

 








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