トップ新編化学I 改訂版>第4部 有機化合物>第1章 有機化合物の特徴と分類C 脂肪族飽和炭化水素

C 脂肪族飽和炭化水素

 

アルカン
 炭素と水素からなる脂肪族飽和炭化水素のことで,骨格は鎖状構造であり環状構造は含まない。炭素原子間の結合は全て単結合で,炭素原子の残りの原子価は全て水素原子で飽和されている。全ての脂肪族化合物の母体となる化合物で,一般式CnH2n2で表される。アルキル基-CnH2n1と水素原子との化合物とみなされるので,アルカンと呼ばれている。また,最も簡単な構造のアルカンはメタンなのでメタン系(メタン列)炭化水素と呼ばれたり,非常に反応性の小さい化合物で多くの試薬に対して親和力を示さないのでパラフィンと呼ばれたりする。
 アルカンの名称は,炭素原子数を示すギリシア語の数詞に,語尾アン(英語-ane)を付けて命名する。但し,C1C4のみに慣用名が用いられる。
 沸点曲線で,炭素数の増加に伴い沸点が高くなっているのは,ファンデルワールス力が分子量の増加に伴い大きくなる為である。また,融点曲線では,炭素数が偶数のとき比較的高くなっており,これは結晶形成と分子の対称性との関係によるものと考えられている。

アルカンの異性体

理論上考えられるアルカンの異性体の数を表に示した。これらの数だけ異性体が全て知られているわけではないが,炭素原子数の少ないものについては,理論と同数の異性体が実際に知られている。

 

 

アルカンの異性体数とその例

 

名  称

分子式

炭素原子数

異性体の数

メタン

CH4

1

エタン

C2H6

2

プロパン

C3H8

3

ブタン

C4H10

4

2

ペンタン

C5H12

5

3

ヘキサン

C6H14

6

5

へプタン

C7H16

7

9

オクタン

C8H18

8

18

ノナン

C9H20

9

35

デカン

C10H22

10

75

ウンデカン

C11H24

11

159

ドデカン

C12H26

12

355

トリデカン

C13H28

13

802

 

アルカンの立体構造

 アルカンの炭素原子の結合が正四面体の中心から頂点に向かう方向にあることは実験的事実である。また原子間の共有結合は,それぞれの原子の不対電子の軌道がよく重なり合う程結合が強い。このことから,アルカン中の炭素原子には,不対電子が4個あり,その方向は正四面体の中心から頂点に向かう線を軸とするものであることが判る。

炭素原子の電子配置は,基底状態では2価で1s22s22p2だが,結合時には励起されて1s22s12p3となり,2s2pの軌道が混成して同等の4つのsp3混成軌道になると考えると,これらが上手く説明できる。このことは,量子化学的計算からも証明される。sp3混成軌道はエネルギー的には基底状態より高いが,化合物ができるときには,結合が2つより4つの方が安定になるので,結果としてこのような混成が起こる。
   

 CH4C3H8の構造定数は次の通りである。

 

CH4C-H 0.10870nmHCH 109.47°(正四面体)

C2H6C-C 0.15351 nmC-H 0.10940 nmCCH 111.17°(ねじれ形)

C3H8C-C 0.1532 nmC-H 0.1107 nmCCC112°HCH 107°

 

シクロアルカン

環状飽和炭化水素の総称で,炭素原子間の結合は全て単結合である。“シクロ”は“環状”の意味で,性質がアルカンと似ているのでシクロアルカンと呼ばれる。シクロパラフィン,ポリメチレン,ナフテン等とも呼ばれる。一般式はCnH2nで表され,アルケンと異性体の関係にある。炭素原子数3以上のものが存在可能だが普通炭素原子数38のものが知られている。原油中に含まれるシクロアルカンは,殆どが炭素原子数5および6のものである。

シクロアルカンのうちシクロプロパンは反応性が大きく,環をつくる炭素原子間の結合が切れて,アルケンに似た性質を示す。

 

シクロアルカンの構造と性質

名   称

分子式

分子量

融点〔

沸点〔

分子構造(長さの単位nm)

シクロプロパン

C3H6

42.1

127.53

32.7

C-C 0.150正三角形

シクロブタン

C4H8

56.1

<−80

12

C-C 0.1552

シクロペンタン

C5Hl0

70.1

94.56

49.26

C-C 0.1546ほぼ正五角形

シクロヘキサン

C6H12

84.2

6.47

80.74

C-C 0.1534CCC111.3°

シクロヘプタン

C7H14

98.2

11.6

118.1

 

シクロヘキサン

シクロヘキサンが炭素原子間の結合角を109.5°に保って環を形成する場合に,いす形と舟形の2種類の立体構造が考えられ,実際に存在するが,室温では殆ど全部がいす形である。舟形も皆無ではないが,いす形よりも23kJ/molだけ不安定である。このように室温では,殆どいす形として存在するが,気体では一部舟形になり,その割合は温度が高くなるにつれて増加する。
 舟形が不安定になるのは,次のような理由によると考えられている。即ち,次図の2の炭素原子(C2)に結合している水素原子2個と,3の炭素原子(C3)に結合している水素原子2個とは空間で同じ向きに配置している(この配置を重なり形という)。またC5C6の炭素原子についても,結合している水素原子の配置は重なり形をとっている。このように舟形構造ではC-C結合の重なり形の部分が2箇所もあり,これらの隣り合った炭素原子に結合している水素原子間の反発力が不安定の原因になっている。

 

シクロアルカン置換体の異性体

シクロアルカンのH原子2個を置換した化合物では,環がつくる面の両側に置換基がつく場合と同じ側に置換基がつく場合があり,シス-トランス異性体が存在する。

   

 

 

 

アルカンとハロゲンの反応
 ハロゲン原子をX·ハロゲン分子をX2アルカン分子をRHアルキル遊離基をR·で表すと,アルカンとハロゲンは,次のような過程を経て反応する。

 

 

X2 ―→ 2X·

・・・(1)

 

連鎖反応開始

X·RH ―→ HXR·

・・・(2)

連鎖反応成長

R·X2 ―→ RXX·

・・・(3)

(1)(2)(2)(3)・・・・・・の反応が連鎖反応終了まで続く。即ち,ハロゲン原子がアルカンから水素を引き抜き,アルキル遊離基を生じ,これがハロゲン分子からハロゲン原子を引き抜いて,ハロゲン化アルキルになる。
 例えば,メタンと塩素の反応では,光によりCl2分子内の結合が切れて塩素ラジカルCl·が生じ,これが連鎖反応を起こして順次置換反応が起こり,CH3ClCH2Cl2CHCl3CCl4と塩化水素を生じる。

Cl2  ―→ 2Cl·243kJ

(1)

CH4Cl· ―→ HClCH3·6.8kJ

(2)

CH3·Cl2  ―→ CH3ClCl·108kJ

(3)

また,どのようなハロゲン化アルキルが生じるかは,用いたアルカンからどのようなアルキル遊離基が生じやすいかで決まる。例えば,プロパンからはn-プロピル基とイソプロピル基が生じるので,ハロゲン化n-プロピルとハロゲン化イソプロピルが生じる。

 

ハロゲン化アルキルの律速段階は,アルキル遊離基の生成反応である。プロパンと塩素の反応では,プロパン分子中の端にある炭素原子に結合する水素原子は6個で,真中にある炭素原子に結合する水素原子は2個である。したがって,単純に考えれば,塩化イソプロピルと塩化n-プロピルの生成比は13になると考えられる。しかし実際には,5545でほぼ等量に生じる。これは,プロパンの真中の炭素原子に結合する水素原子が,他の水素原子より3倍反応し易いことを示している。即ち,イソプロピル基生成の活性化エネルギーが,n-プロピル基生成反応の活性化エネルギーより小さいことを意味する。

置換反応

ある化合物の原子または原子団を,他の原子または原子団で置き換える反応を,置換反応または単に置換という。
 置換反応は,反応の仕方によりいくつかの型式に分類される。置換を受ける化合物が正電荷
(Cd+)を帯び,反応試薬が負電荷を帯びる場合を求核置換反応といい,脂肪族化合物に主としてみられる。この逆の反応は求電子置換反応といわれ,芳香族化合物に主としてみられる。その他,遊離基により進むラジカル反応がある。

 

 

 








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